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第三話「俺達はいつも一緒!」
選択肢②『玲二のプラン』後編
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玲二はなんとか一命を取り留めた。壁にぶつかった衝撃はすさまじく、頭蓋骨や全身の骨を折るという重症だった。
玲二が前にいた世界なら怪我の治療とリハビリでかなりの年数を要するところだが、病院で治癒魔法とリハビリ魔法をかけてもらったお陰で、翌日には会社へ出社できた。
「大変だったな、レージ! プチニールがファフニールに成長するなんてさ!」
「上はプチニールの販売を見送るとよ。災難だったなぁ」
「売れ筋商品になるはずだったのに、残念だったわねぇ」
同僚達は玲二を心配し、同情する。誰も玲二のことを責める人間はいなかった。
ファフニールによって破壊された倉庫も元通りで、プチニールが処分されたこと以外、何も変わっていなかった。従汰の体から吹き出した血も、綺麗に消えていた。
玲二は同僚達の話を聞いているうちに、ふと疑問に思った。誰も従汰のことを話題にしないのだ。
「なぁ……従汰はどうなったんだ?」
玲二は意を決し、尋ねた。何と答えられても大丈夫なよう、覚悟を決めた。
「ジュータか……」
同僚達はお互いに顔を見合わせると、ぷっと吹き出した。
ある者はクスクスと笑い出し、ある者はニヤニヤと下卑た笑みを見せた。
「あいつは最後の最後で、よくやったよ。我が社のエース、レージを守ったんだからな」
「ホント、ホント。体を張って正社員の命を守るなんて、派遣魔法使いの鑑だね」
「これからは派遣魔法使いにボディガードさせましょうよ。危なくなったら、あいつらに身代わりになってもらうの。ねぇ、いい案でしょ?」
オフィスは従汰への嘲笑で満たされ、悪意しかない褒め言葉が飛び交う。従汰の勇姿を讃えようとする者は誰もおらず、ただただ従汰を見下していた。
玲二の彼らが人間ではなく、悪魔に見えた。果てのない闇を瞳に宿し、口角を吊り上げ、嗤う。彼らを見ているうちに、玲二は従汰を無視してまで保ちたかった彼らとの関係が何だったのか分からなくなった。
玲二は怒りで全身から血の気が引いていくのを感じた。それがピークに達した頃、玲二は同僚達に手を向け、唱えた。
「凍結」
次の瞬間、同僚達が嗤ったまま凍りついた。同じ呪文でも、ファフニールに打った時とは比べものにならないほど強い魔力で、オフィスまで凍てつく。
杖を使わずに魔法を放ったせいで、玲二の手も氷に覆われた。
「な、なんだこれは! レージ君、一体何があったのかね?!」
そこへ、玲二の様子を見に来た上司がオフィスを覗き込み、悲鳴を上げた。オフィスごと社員達が氷漬けになっている光景は、どう考えても異常だった。
玲二は虚な目で振り返ると、敢えて答えを伏せ、上司に尋ねた。
「部長、従汰はどうなりましたか?」
「ジュータ?」
上司は顔をぽかんとさせ、目を丸くする。
腕を組み、しばらく考えた後、「あぁ!」と手を打った。
「昨日、君の身代わりになって死んだ、派遣か! いやぁ、彼は素晴らしい派遣だったよ! 命を投げ打ってまで正社員を守るなんて、期待以上の働きをしてくれた! 彼の遺体はファフニールに喰われたせいで原形を保っていなかったが、ご家族は遺体が戻ってきたことを大層喜んでいたよ。泣きながらインサイドウッド君の遺体を抱きしめていたなぁ。私だったらあんなモノ、身内だとしてもすぐ火葬するがねぇ。はっはっは!」
上司は声を上げ、豪快に笑う。
その姿が剛とダブり、玲二は上司に氷に覆われた右手を伸ばした。
「凍結」
呪文を唱えた瞬間、上司は口を大きく開けた状態で凍りつく。
玲二は上司を蹴りつけ、床へ転がすと、オフィスを出て行った。
玲二はそのまま会社から出ると、街の人混みへ紛れた。様々な魔法道具が行き交う魔法使いの世界においても、玲二の腕は珍しく、すれ違う人々の目を引いた。
やがて救急車とパトカーがサイレンをけたたましく鳴らしながら、会社に向かって頭上を飛んでいった。誰かが氷漬けになった遺体を発見し、通報したのだろう。
「……ここも危ないな」
玲二は人目を避け、裏路地へと入る。
いくら玲二が会社のエースだったとはいえ、警察の目は誤魔化せないだろう。そのうち指名手配されるかもしれない。
全てを投げ打ち、友を愚弄した人間達に制裁を加えた代償は大きかった。今まで積み重ねてきた苦労は水の泡と化し、前世以上の苦難を強いられることになってしまった。
しかし、玲二は後悔していなかった。あそこで同僚や上司に迎合していれば、玲二の中の大切な何かが壊れてしまっただろう。玲二は友のため、そして自分のために、全てを壊したのだった。
「俺は……これから、どうしたらいいのだろうか。従汰は死に、職も失った。これが俺の望んでいた人生だというのか?」
玲二は斡旋所で書かされたアンケートにを思い返した。
剛と従汰がアンケートの解答に悩む中、玲二は数分で書き上げ、女神に提出した。
『玲二、早いな! 本当に考えて答えたのか?』
『僕、終わらないかも……』
その後もアンケートの答えに悩む二人を見て「何を悩む必要があるんだろう?」と不思議に思った。彼のアンケートに見本通りの成功者の人生が書かれていた。
(成功者の人生なんて、あらかじめ決まっているじゃないか。裕福な家庭に生まれ、いい学校に入学し、いい会社に就職する……他に何を書く必要がある?)
玲二は斡旋所でアンケートに答えた時のことを思い出し、当時の自分にこう言ってやりたくなった。
お前は大事なものを忘れている。今すぐ、アンケートに付け足せ。
"従汰の努力が身を結び、夢が叶いますように"、と。
END2「幼馴染みだって心は読めない」
玲二が前にいた世界なら怪我の治療とリハビリでかなりの年数を要するところだが、病院で治癒魔法とリハビリ魔法をかけてもらったお陰で、翌日には会社へ出社できた。
「大変だったな、レージ! プチニールがファフニールに成長するなんてさ!」
「上はプチニールの販売を見送るとよ。災難だったなぁ」
「売れ筋商品になるはずだったのに、残念だったわねぇ」
同僚達は玲二を心配し、同情する。誰も玲二のことを責める人間はいなかった。
ファフニールによって破壊された倉庫も元通りで、プチニールが処分されたこと以外、何も変わっていなかった。従汰の体から吹き出した血も、綺麗に消えていた。
玲二は同僚達の話を聞いているうちに、ふと疑問に思った。誰も従汰のことを話題にしないのだ。
「なぁ……従汰はどうなったんだ?」
玲二は意を決し、尋ねた。何と答えられても大丈夫なよう、覚悟を決めた。
「ジュータか……」
同僚達はお互いに顔を見合わせると、ぷっと吹き出した。
ある者はクスクスと笑い出し、ある者はニヤニヤと下卑た笑みを見せた。
「あいつは最後の最後で、よくやったよ。我が社のエース、レージを守ったんだからな」
「ホント、ホント。体を張って正社員の命を守るなんて、派遣魔法使いの鑑だね」
「これからは派遣魔法使いにボディガードさせましょうよ。危なくなったら、あいつらに身代わりになってもらうの。ねぇ、いい案でしょ?」
オフィスは従汰への嘲笑で満たされ、悪意しかない褒め言葉が飛び交う。従汰の勇姿を讃えようとする者は誰もおらず、ただただ従汰を見下していた。
玲二の彼らが人間ではなく、悪魔に見えた。果てのない闇を瞳に宿し、口角を吊り上げ、嗤う。彼らを見ているうちに、玲二は従汰を無視してまで保ちたかった彼らとの関係が何だったのか分からなくなった。
玲二は怒りで全身から血の気が引いていくのを感じた。それがピークに達した頃、玲二は同僚達に手を向け、唱えた。
「凍結」
次の瞬間、同僚達が嗤ったまま凍りついた。同じ呪文でも、ファフニールに打った時とは比べものにならないほど強い魔力で、オフィスまで凍てつく。
杖を使わずに魔法を放ったせいで、玲二の手も氷に覆われた。
「な、なんだこれは! レージ君、一体何があったのかね?!」
そこへ、玲二の様子を見に来た上司がオフィスを覗き込み、悲鳴を上げた。オフィスごと社員達が氷漬けになっている光景は、どう考えても異常だった。
玲二は虚な目で振り返ると、敢えて答えを伏せ、上司に尋ねた。
「部長、従汰はどうなりましたか?」
「ジュータ?」
上司は顔をぽかんとさせ、目を丸くする。
腕を組み、しばらく考えた後、「あぁ!」と手を打った。
「昨日、君の身代わりになって死んだ、派遣か! いやぁ、彼は素晴らしい派遣だったよ! 命を投げ打ってまで正社員を守るなんて、期待以上の働きをしてくれた! 彼の遺体はファフニールに喰われたせいで原形を保っていなかったが、ご家族は遺体が戻ってきたことを大層喜んでいたよ。泣きながらインサイドウッド君の遺体を抱きしめていたなぁ。私だったらあんなモノ、身内だとしてもすぐ火葬するがねぇ。はっはっは!」
上司は声を上げ、豪快に笑う。
その姿が剛とダブり、玲二は上司に氷に覆われた右手を伸ばした。
「凍結」
呪文を唱えた瞬間、上司は口を大きく開けた状態で凍りつく。
玲二は上司を蹴りつけ、床へ転がすと、オフィスを出て行った。
玲二はそのまま会社から出ると、街の人混みへ紛れた。様々な魔法道具が行き交う魔法使いの世界においても、玲二の腕は珍しく、すれ違う人々の目を引いた。
やがて救急車とパトカーがサイレンをけたたましく鳴らしながら、会社に向かって頭上を飛んでいった。誰かが氷漬けになった遺体を発見し、通報したのだろう。
「……ここも危ないな」
玲二は人目を避け、裏路地へと入る。
いくら玲二が会社のエースだったとはいえ、警察の目は誤魔化せないだろう。そのうち指名手配されるかもしれない。
全てを投げ打ち、友を愚弄した人間達に制裁を加えた代償は大きかった。今まで積み重ねてきた苦労は水の泡と化し、前世以上の苦難を強いられることになってしまった。
しかし、玲二は後悔していなかった。あそこで同僚や上司に迎合していれば、玲二の中の大切な何かが壊れてしまっただろう。玲二は友のため、そして自分のために、全てを壊したのだった。
「俺は……これから、どうしたらいいのだろうか。従汰は死に、職も失った。これが俺の望んでいた人生だというのか?」
玲二は斡旋所で書かされたアンケートにを思い返した。
剛と従汰がアンケートの解答に悩む中、玲二は数分で書き上げ、女神に提出した。
『玲二、早いな! 本当に考えて答えたのか?』
『僕、終わらないかも……』
その後もアンケートの答えに悩む二人を見て「何を悩む必要があるんだろう?」と不思議に思った。彼のアンケートに見本通りの成功者の人生が書かれていた。
(成功者の人生なんて、あらかじめ決まっているじゃないか。裕福な家庭に生まれ、いい学校に入学し、いい会社に就職する……他に何を書く必要がある?)
玲二は斡旋所でアンケートに答えた時のことを思い出し、当時の自分にこう言ってやりたくなった。
お前は大事なものを忘れている。今すぐ、アンケートに付け足せ。
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