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所長代理編 第三話「暗殺騎士〈Lv999の騎士(ナイト)が、非合法職の暗殺者(アサシン)Lv1に強制ジョブチェンジ?!〉」
オマケ:神様志望その③「愛情、恋情、ときどき怨讐」選択肢③〈亀追P&マユコの場合〉
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選ばれたのは、プリンシパリティーだった。フタの裏には③とある。
転生者の男女は数字を見て、納得した。
「③……自分の子供をスターに育て上げる人生、か。まぁ、妥当だな」
「えぇ。実に私達らしいわ。迷うだけ、時間のムダだったようね」
「ところで、このプリンシパリティーというのはなんだネ? パッと見、ただのSNS映えしそうなミルクティーだが」
③のマグカップには黄金色に輝くミルクティーが注がれていた。
権天使=プリンシパリティのラテアートが、ちみつに描かれている。平凡仙人の力作だ。
加えて本物か偽物か、真っ白な羽毛がふんわりと添えられていた。
「半分、正解。プリン風味のミルクティーっす。天使を崇拝する異世界の飲み物で、飲むと羽根が生えるそうです」
「面白そう! もらっていい?」
転生者の女性がプリンシパリティーに手を伸ばす。
「やめといたほうがいいっすよ」と、平凡仙人はマグカップを取り上げた。
「住人は羽根を生やす場所を制御できますが、そうじゃない人間が飲むと、全身羽根だらけになっちまいますんで」
「怖ッ! そんな危ないドリンク、出さないでちょうだい!」
「すいません。あんまり頼む客がいないんで、つい」
「いいじゃん、いいじゃん! 飲んでみなよ、マユちゃん! 番組のネタになるかもヨ?」
「嫌ですぅー」
男性の名は、亀追カネヲ。あるいは、亀追P。小柄で、金歯。
女性の名は、濱雪マユコ。化粧が濃く、派手。
共に、五十代の日本人だ。服装は、平凡仙人が普通の人間として生きていた頃……現代日本のものに近い。
二人は芸能関係の仕事仲間で、不倫関係にあった。亀追がテレビ番組のプロデューサー、マユコがとあるタレントのマネージャーをしていた。
「ちょっとした罪」というのは、そのタレントを「破滅」させてしまったことである。
二人はタレントに対し、かなりの期待を向けていた。その期待がストレスになったのだろう、タレントは薬物に手を出し、逮捕。保釈後、自ら命を絶った。
亀追とマユコも責任を問われ、社会から厳しい制裁を受けた。
来世では夫婦となり、自分達の子供を今度こそスターに育て上げたいと望んでいる。
「行き先も決まったことだし、そろそろ移動しましょうか」
一同が立ち上がったその時、
「待ってください」
マブカが出口の前に立ちふさがった。
帽子で隠れていたが、亀追とマユコに対し、嫌悪の眼差しを向けていた。
「貴方がたは生前、一人の人間の人生を狂わせました。にもかかわらず、もう一度同じ過ちを繰り返そうとしている……なぜですか?」
二人は困った様子で、平凡仙人とヘカテーを振り返る。
「ちょっとちょっと! 質問はもう終わったんじゃないの?!」
「……これ、答えないといけないやつ?」
平凡仙人とヘカテーの意見は、割れた。
「差し支えなければ」
「いいえ。お客様のプライバシーにかかわりますので、お答えいただかずとも構いません。貴方、早くそこを退きなさい」
「僕も、ヘカテー様と同意見かなー」
もう一人の運転手も手を挙げる。
しかしマブカはヘカテーを無視し、動こうとしない。すると、
「仕方ないなぁ。答えたら退くんだよ?」
「話さなくていい派」多数にもかかわらず、亀追とマユコはにこやかに答えた。
「我々は同じ過ちを繰り返す気はないヨ。今度こそ、上手く売り出そうって決めているんだ」
「あの子はね、私の娘だったの。私もあの子を亡くして、とても悲しかったわ。だからもう一度、自分の子を立派に育て上げることで、償いがしたいの」
「……そうですか」
マブカは渋々、道を開ける。
亀追が先に外へ出、もう一人の運転手、そしてマユコと続いた。
ふと、マユコはマブカの前で足を止めた。
「あ、そうそう。私たちが選んだプリンシパリティー、かわりに貴方が飲んでくださる?」
「え?」
「え? じゃないわよ。私たちは答えたくもない質問に答えてあげたんだから、それくらいできるでしょう? 飲み終わるまで待ってあげるから」
マユコはニコッと微笑み、マブカのタクシーへ乗り込む。
彼女から話をきいた亀追は「そりゃあいい!」と手を叩いて喜んでいた。
あまりの仕打ちに、平凡仙人とヘカテーはあぜんとした。
「……とんでもない方々ですね」
「マブカ、飲まなくていいぞ」
「……」
マブカは恐る恐る、マブカップをにぎる。
外にいる亀追とマユコにも見えるように、腰に手を当て、一気に飲み干した。
「マブカ!」
「……ご心配なく。我々コウノトリは、此岸の飲食物の影響は受けませんので」
マブカはマユコが待つタクシーへ乗り込む。
マブカの体に何の変化も見られないので、亀追とマユコは落胆していた。
二台のタクシーは並走し、去っていった。
「こちらの斡旋所にも、あのようなクズ様がいらっしゃるんですね。もうすぐ地獄に落ちるのではないですか?」
「たしかに、あの二人の素行は悪い。だが、やっているのは嫌がらせ程度だ。転生ポイントがマイナスになるほどの犯罪には手を出しちゃいない。きっと来世でも、上手く立ち回るだろうさ」
「地獄の人間よりやっかいですね」
しかし、平凡仙人の見立ては外れた。
亀追とマユコはいろいろあって地獄へ送られ、二度と理想の人生を送ることはなかったのだ。
☆
マユコは銃声で目が覚めた。
並走しているコウノトリタクシーに向かって、マブカが銃をかまえている。どうやら、マユコはまだ転生していないらしい。
見たこともない、毒々しい色合いの拳銃だ。上半分が溶けかけ、苦悶に満ちた人の顔がいくつも浮かび上がっているように見える。
まるで顔ひとつひとつが生きているかのように、時折「オォォォ……」と、うめいた。
窓を見ると、並走しているタクシーの中で、亀追と運転手が倒れていた。眉間に銃撃の痕がある。
タクシーは転生先であるファンタジー系MMORPG〈フリーダムファンタジーキングダム(通称:FFK)〉の上空を飛んでいたが、運転手が倒れているせいで、走行が不安定だった。
「カネヲさん!」
マユコは青ざめ、窓に張りつく。
亀追を乗せたタクシーは大きく蛇行し、大木に激突した。ボンネットが盛大にひしゃげ、タクシーは爆散した。
「そ、そんな……」
「……」
マブカは二人の死を見届けると、今度はマユコの眉間へ銃を向けた。
「ひぃッ!」
「……」
ひどく冷たい目。
プリンシパリティーを飲ませただけでは説明がつかない、深い怒りと憎悪に満ちていた。
「な、なんなのぉ……? 貴方、神の使いでしょう? 私たち人間を、新しい転生先へ安全に運ぶのが仕事なんじゃないのぉ? なのに、なにがどうしてこうなるのよぉ……?」
「……違う」
マブカは頭を振り、帽子を取る。
その顔は、他のコウノトリタクシーの運転手とは、全く違っていた。
可愛らしい顔立ちの、女性。そもそも、性別すら違う。
そしてどことなく、マユコと似ていた。
マブカの素顔を見て、マユコは悲鳴を上げた。
「私は、お前たちを殺しにきた死神だ」
「マユミ?!」
マブカの銃が、マユコの眉間を貫く。
マユコは白目を剥き、ぐったりと動かなくなった。
「さようなら、母さん。もう二度と会うことはないでしょう。貴方はこれから、死よりもつらい地獄を永遠にさまようのだから」
END③「身に覚えのない罰」
転生者の男女は数字を見て、納得した。
「③……自分の子供をスターに育て上げる人生、か。まぁ、妥当だな」
「えぇ。実に私達らしいわ。迷うだけ、時間のムダだったようね」
「ところで、このプリンシパリティーというのはなんだネ? パッと見、ただのSNS映えしそうなミルクティーだが」
③のマグカップには黄金色に輝くミルクティーが注がれていた。
権天使=プリンシパリティのラテアートが、ちみつに描かれている。平凡仙人の力作だ。
加えて本物か偽物か、真っ白な羽毛がふんわりと添えられていた。
「半分、正解。プリン風味のミルクティーっす。天使を崇拝する異世界の飲み物で、飲むと羽根が生えるそうです」
「面白そう! もらっていい?」
転生者の女性がプリンシパリティーに手を伸ばす。
「やめといたほうがいいっすよ」と、平凡仙人はマグカップを取り上げた。
「住人は羽根を生やす場所を制御できますが、そうじゃない人間が飲むと、全身羽根だらけになっちまいますんで」
「怖ッ! そんな危ないドリンク、出さないでちょうだい!」
「すいません。あんまり頼む客がいないんで、つい」
「いいじゃん、いいじゃん! 飲んでみなよ、マユちゃん! 番組のネタになるかもヨ?」
「嫌ですぅー」
男性の名は、亀追カネヲ。あるいは、亀追P。小柄で、金歯。
女性の名は、濱雪マユコ。化粧が濃く、派手。
共に、五十代の日本人だ。服装は、平凡仙人が普通の人間として生きていた頃……現代日本のものに近い。
二人は芸能関係の仕事仲間で、不倫関係にあった。亀追がテレビ番組のプロデューサー、マユコがとあるタレントのマネージャーをしていた。
「ちょっとした罪」というのは、そのタレントを「破滅」させてしまったことである。
二人はタレントに対し、かなりの期待を向けていた。その期待がストレスになったのだろう、タレントは薬物に手を出し、逮捕。保釈後、自ら命を絶った。
亀追とマユコも責任を問われ、社会から厳しい制裁を受けた。
来世では夫婦となり、自分達の子供を今度こそスターに育て上げたいと望んでいる。
「行き先も決まったことだし、そろそろ移動しましょうか」
一同が立ち上がったその時、
「待ってください」
マブカが出口の前に立ちふさがった。
帽子で隠れていたが、亀追とマユコに対し、嫌悪の眼差しを向けていた。
「貴方がたは生前、一人の人間の人生を狂わせました。にもかかわらず、もう一度同じ過ちを繰り返そうとしている……なぜですか?」
二人は困った様子で、平凡仙人とヘカテーを振り返る。
「ちょっとちょっと! 質問はもう終わったんじゃないの?!」
「……これ、答えないといけないやつ?」
平凡仙人とヘカテーの意見は、割れた。
「差し支えなければ」
「いいえ。お客様のプライバシーにかかわりますので、お答えいただかずとも構いません。貴方、早くそこを退きなさい」
「僕も、ヘカテー様と同意見かなー」
もう一人の運転手も手を挙げる。
しかしマブカはヘカテーを無視し、動こうとしない。すると、
「仕方ないなぁ。答えたら退くんだよ?」
「話さなくていい派」多数にもかかわらず、亀追とマユコはにこやかに答えた。
「我々は同じ過ちを繰り返す気はないヨ。今度こそ、上手く売り出そうって決めているんだ」
「あの子はね、私の娘だったの。私もあの子を亡くして、とても悲しかったわ。だからもう一度、自分の子を立派に育て上げることで、償いがしたいの」
「……そうですか」
マブカは渋々、道を開ける。
亀追が先に外へ出、もう一人の運転手、そしてマユコと続いた。
ふと、マユコはマブカの前で足を止めた。
「あ、そうそう。私たちが選んだプリンシパリティー、かわりに貴方が飲んでくださる?」
「え?」
「え? じゃないわよ。私たちは答えたくもない質問に答えてあげたんだから、それくらいできるでしょう? 飲み終わるまで待ってあげるから」
マユコはニコッと微笑み、マブカのタクシーへ乗り込む。
彼女から話をきいた亀追は「そりゃあいい!」と手を叩いて喜んでいた。
あまりの仕打ちに、平凡仙人とヘカテーはあぜんとした。
「……とんでもない方々ですね」
「マブカ、飲まなくていいぞ」
「……」
マブカは恐る恐る、マブカップをにぎる。
外にいる亀追とマユコにも見えるように、腰に手を当て、一気に飲み干した。
「マブカ!」
「……ご心配なく。我々コウノトリは、此岸の飲食物の影響は受けませんので」
マブカはマユコが待つタクシーへ乗り込む。
マブカの体に何の変化も見られないので、亀追とマユコは落胆していた。
二台のタクシーは並走し、去っていった。
「こちらの斡旋所にも、あのようなクズ様がいらっしゃるんですね。もうすぐ地獄に落ちるのではないですか?」
「たしかに、あの二人の素行は悪い。だが、やっているのは嫌がらせ程度だ。転生ポイントがマイナスになるほどの犯罪には手を出しちゃいない。きっと来世でも、上手く立ち回るだろうさ」
「地獄の人間よりやっかいですね」
しかし、平凡仙人の見立ては外れた。
亀追とマユコはいろいろあって地獄へ送られ、二度と理想の人生を送ることはなかったのだ。
☆
マユコは銃声で目が覚めた。
並走しているコウノトリタクシーに向かって、マブカが銃をかまえている。どうやら、マユコはまだ転生していないらしい。
見たこともない、毒々しい色合いの拳銃だ。上半分が溶けかけ、苦悶に満ちた人の顔がいくつも浮かび上がっているように見える。
まるで顔ひとつひとつが生きているかのように、時折「オォォォ……」と、うめいた。
窓を見ると、並走しているタクシーの中で、亀追と運転手が倒れていた。眉間に銃撃の痕がある。
タクシーは転生先であるファンタジー系MMORPG〈フリーダムファンタジーキングダム(通称:FFK)〉の上空を飛んでいたが、運転手が倒れているせいで、走行が不安定だった。
「カネヲさん!」
マユコは青ざめ、窓に張りつく。
亀追を乗せたタクシーは大きく蛇行し、大木に激突した。ボンネットが盛大にひしゃげ、タクシーは爆散した。
「そ、そんな……」
「……」
マブカは二人の死を見届けると、今度はマユコの眉間へ銃を向けた。
「ひぃッ!」
「……」
ひどく冷たい目。
プリンシパリティーを飲ませただけでは説明がつかない、深い怒りと憎悪に満ちていた。
「な、なんなのぉ……? 貴方、神の使いでしょう? 私たち人間を、新しい転生先へ安全に運ぶのが仕事なんじゃないのぉ? なのに、なにがどうしてこうなるのよぉ……?」
「……違う」
マブカは頭を振り、帽子を取る。
その顔は、他のコウノトリタクシーの運転手とは、全く違っていた。
可愛らしい顔立ちの、女性。そもそも、性別すら違う。
そしてどことなく、マユコと似ていた。
マブカの素顔を見て、マユコは悲鳴を上げた。
「私は、お前たちを殺しにきた死神だ」
「マユミ?!」
マブカの銃が、マユコの眉間を貫く。
マユコは白目を剥き、ぐったりと動かなくなった。
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