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第12話:三人だけの晩餐会

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 という訳で、ゴンさん洞窟。
 私はいつものように、エプロン葉っぱを付けてお食事の準備です。
 今日はお客様もいることですし、腕より足をかけて……あれ? 腕により、だっけ? まぁいいか。
 とにかく、頑張って美味しい料理を作ってしまいましょう!

 まず準備するのは、まだまだ余ってるコカトリス肉に、毒抜きしたコカトリスの卵。
 山賊印の調味料。山賊印のお酒。
 それと、実らせた小麦からひいた小麦粉です。麦茶にするのは大麦なので、こうして粉にするためだけに実らせた特注ですよ!

 ついでとばかりに、生姜も少し実らせておきました。ドライアドの能力と現代知識の融合は凄まじいシンパシーですねぇ。

 さて、それでは作っていきましょうか。
 まず、肉の下処理ですね。今回使うのは胸肉です。どどんと一枚分を豪快に使っていきましょう。
 少しだけ包丁を差し込んで、皮を綺麗に剥いていきます。皮は別の料理に使いますので、取っておきますね。

 皮を剥がした身には、ちょんちょんと切れ込みを入れていくのですが……あんまり切り過ぎたらダメなんでしたっけ? まぁそこは目分量ですね。
 これを、とりあえずゴンさんようにたっぷりと、そしてノーデさんように2枚程作っておきます。

 というか、コカトリスの肉って凄いですね~。元が毒まみれだっただけあって、腐食に強いというか……まったく身が傷む気配がありません。
 試しに2日ほど直射日光に当てて痛み具合を試してみましたけど、防腐剤の原液振り掛けてんじゃないかってくらいに傷んでませんでしたよ。
 あ、ちなみにもし腐っても養分にする予定でしたので、食べ物を粗末にする事はしてませんよ?

 ま、それはそれとして、下味を付けなければいけませんね。
 今回は生姜を摩り下ろして、シンプルかつさっぱりした味付けにしましょうかね~。本当はここに醤油もほしいんですけど……心和の知識には、醤油の作り方は無かったんですよねぇ。残念です。
 なんか、アイアンフィストに全力疾走するアイドルの番組で、魚を使った醤油の作り方はやってたので、魚が手に入ればやってみましょうかね~。

 さて、ボウルに肉と、生姜。お酒と塩を加えて、下味を付けていきます。
 コカトリスは臭みこそ特に気にしなくて良いんですけどね、生姜も入れましたし。まぁ柔らかくなるかな~って思いつきでお酒ドンです。
 多分、生姜の香りに塩気が相まって~みたいな感じになるんじゃないですかね……このお酒、果実酒ですし、フルーティーさも追加されてたり?
 ん~……追加でスパイス系の葉っぱ入れときましょう。髪に芽吹かせて……うん、これでしばらく置いておきますか。

 次は、鶏皮ですね。
 鶏皮は単純明快。シンプルに焼いていきます。
 けど、ミソは焼く時間ですね。
 まずはフライパンに油を敷かず、そのまま皮をイン。ジュウジュウと焦がさないように焼いていきます。
 この時、油が出てきますので、一回目はそのまま捨ててしまいます。
 そして次からは、油が出てくる度に別の容器にその油を移し替えていきましょう。

 お分かりかと存じますが、これは鶏油チーユですね。鶏から取れる油は、旨味が強くてとてもいい味を引き出してくれるのです。
 今後の料理に貢献してくれるはずですので、しっかりと抽出しておきましょう。

「お、いい感じですね~」

 鶏油を何度も何度も移し替えている内に、皮はすっかりパリパリになってきています。
 本当だったら、ここに旨味調味料を投入したい所ですが……たしか、サトウキビから砂糖を絞り出した残り滓で作るんでしたっけ? 今度挑戦してみますかね~。
 ま、無いものはないので、今回は塩コショウで味付けとしときましょう。

 そして完成したのがこちら! 【鶏皮のパリパリ焼き】~!
 そのままやんけと思うなかれ。かなり美味しいんですよこれ!
 中までカリカリになった鶏皮は反則的にお箸が進むのです。油もほとんどないのできっとおそらくヘルシーです!
 たくさん食べるであろうゴンさんのためにも、下味がつくまでの間に大量に作っておきましょう~。



    ◆  ◆  ◆




「……さて、そろそろメインですね~」

 パリパリ量産計画も終焉を迎えつつあるので、後は仕上げです。
 ゴンさんが搾ったマンドラツバキの油を鍋に注ぎまして~、火にかけること数分~。
 お箸を差し込み温度確認……うん、いい感じですね。

 溶いた卵に下味をつけたお肉を浸して~、次に小麦粉にドン。
 いい感じにまぶしたら、情け容赦なく油にバーン! です!
 ジュワジュワ~! っと、小気味いい音を立ててお肉が揚がっていきますよ~。

『……おい、まだか』

 おや、ゴンさん。待ちきれないご様子?
 まだまだ一枚目を揚げたばかりなんですがねぇ。

『まったく、たまらん匂いを嗅がせられるこちらの身にもなれ。チビ助もそわそわしておる。疾く作りあげよ』

 ふむふむ、つまり、いい匂いがしてて我慢できないから早くして、と。
 可愛いんだからも~。

『なんだその顔は。……えぇい、要件はそれだけだ! いいか、急げとは言ったが、けして焦心は持つでないぞ。貴様は森に必要な管理者なのだからなっ』

 言いたいこと言ったゴンさんは、そそくさとお食事スペースに引っ込んでいきました。
 ……うぇへへへ、去り際にツンデレ的なコメント残すのは反則だと思います~。
 そう言われたからには、細心の注意を払って急いで作っていきましょうかね~。

 いい感じに肉に火が通ったら、もう完成です。
 これぞ【胸肉の一枚揚げ】! ボリューミーこそ正義と謳う者の味方!
 外はサクサク、中はじゅわっ。これを食べたらもう揚げ物の魅力から抜け出せませんとも!
 ふふふ~、たくさん作って行きますので、待っててくださいね~。



    ◆  ◆  ◆



「おまたせしました~。胸肉の一枚揚げと、鶏皮のパリパリ焼きです~」

『ふん、ようやくか』

「おぉぉ、これはなんと豪勢な!」

 眼の前に並ぶ料理の数々。
 先の二種類とは別に、適当に実らせた野菜のサラダに、その芯を煮込んだスープも追加です。
 スープはあんまり味を濃く出来なかったので、まぁお口の洗い直しみたいな感じですね。
 けど、泉の水使ってますし美味しいんじゃないですかね? 多分。
 ん~、作り方を知ってればパン作ったんですけどね~。そこがちょっと残念です。

『揚げ物か。この前の天ぷらとは違うな』

「今回のは、ちょっと竜田揚げポイですね~」

『たつた? まぁよい。揚げ物は好きだぞ』

「素晴らしい料理の数々ですな! 本当にいただいてもよろしいので? 私、お土産は持ってきていても金子きんすの類は……」

「ふふ、お気になさらず~。さぁどうぞ、召し上がれ~」

 エプロンで手を拭いながら言う私の言葉と共に、2人は顔を輝かせます。

『うむ、いただくぞ』

「で、では遠慮なく!」

 男の子ですねぇ。やはり最初は思い切り肉にかぶりついていきます。
 ノーデさんの一口は小さいですが、口いっぱいに頬張る姿が可愛らしいですねぇ。
 ザクッと音を立てて、モムモムと咀嚼していきます。肉に下味がついているのに気づき、目をパチパチさせて……表情が見ていて飽きません。
 えぇほんと……うぇへへ、見ていて飽きませんわぁ。

『うむ、うむ……これは、美味いな。肉に付いている味がなんとも不可思議だ。混ざり合っておる』

「えぇ、えぇ、このような味は初めてです! くわえてこの食感……揚げ物とはなんとも面白い料理なのですね!」

 ゴンさんの食べ方は相変わらず爽快です。
 あれだけあったお肉が、ゲロンチョゲロンチョと飲み込まれていく姿は圧巻の一言。
 スープなんか水感覚でおかわりしてきます。
 そして、2人が同時にパリパリ焼きに手を伸ばし、かぶりついて、固まります。

「……これは、シンプルながらも奥深い……!」

『うむ、この前食べたチキンステーキよりも味が凝縮されておる気がするな。いや、これは旨味が強いと言うべきか?』

 そうそう、鶏皮は本当に旨味の塊ですからねぇ。
 それを時間かけて焼いたんです。さもありなんと言ったところでしょう。

「うぅむ、自然と手が伸びてしまいますね。止まらない……!」

『良い、良いぞちんくしゃ。我はこれがいたく気に入った』

「恐縮ですよ~」

 サラダも当然、とれたての瑞々しさを感じさせる一品です。
 でもゴンさんいわく、やはり土から育てた野菜には勝てないとのこと。ノーデさんも言外にそれを語っておりました。
 そこは反省……。

「ところでココナ様、これは何の肉なのですか?」

 ふと、ノーデさんが私に質問してきました。
 はて、ノーデさんの事だから、てっきり鑑定していたものと思っていました。

「あぁいえ、人様の善意に対して鑑定を行うことは、その善意を踏みにじる事になります。我々フィルボはそういった授かりものは極力疑わないようにしているのです」

「あぁ、なるほど~」

 良い文化ですねぇ。心象的にもとても高評価です。
 なので、私は正直に教えてあげる事にしました。

「その肉はですね~」

「はいっ」

『あ、馬鹿者――――!』

です」

「…………」

です」

「…………」

『……はぁ……』

 その後。
 遺書を書き上げて号泣するノーデさんに対し、2人で必死に安全性を主張して納得してもらうまで、結構な時間を要したのでありました。
 
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