26 / 77
第24話:お茶無双タイム
しおりを挟む私は現在、ヤテンの畑に一人佇んでいます。いえ、正確には浮いている訳ですが。
ヤテンは、自分の親も同然な存在が消滅することを無念に想い、私に救援を求めてきた立役者。おそらく、今回私がやろうとしている事に関して最も波長を合わせやすいと感じての選択です。
きっと、えっちゃんを助けてくれる重要な役割を全うしてくれることでしょう。
「さぁ、皆さん行きますよ~? 大丈夫な人は手を上げて~!」
私がヤテン達に声をかけると、一陣の風が周囲を薙ぎました。
ヤテンはその風に舞い踊り、花弁を左右に揺らしています。うんうん、やる気一杯ではないですか。
では、私もその心意気に応える為にがんばりますよ~!
「ではでは、たぁんと召し上がれ~!」
頭上に魔力をイメージし、対空させて……まるでシャボン玉のような魔力の塊を作り出します。
少しつつくだけで弾けてしまいそうなシャボン玉に、いっぱいの夢を詰め込む。そんな感じのイメージ。
それを2つに、2つを4つに分裂させて……畑を覆うくらい魔力のシャボン玉を展開させていけば、準備は万端。後は結果を御覧じろってやつです。
『……ほう』
念の為、近くにはゴンさん達が見ててくれています。失敗しそうになったら手助けしてくれる約束ですが、今はそんなことなさそうで良かったです。
むしろ、感心してくれてるのかしらん? だとしたら嬉しいですね~。
さてぇ、畑全体をシャボン玉が覆い尽くす事ができたらば、後はこれを……
「仕上げにちょちょいと……せぇので、パーン!!」
一気に破裂させます!
するとどうでしょう。中に凝縮されていた魔力は、まるでシャワーのようにヤテン達に降り注いでいきます。
んふふふ、魔力をギュンギュン吸収していくヤテン達に、思わずニヤケが止まりません。
そう、私達が考え出した【えっちゃん消滅阻止計画】はズバリ、魔力に満ちたお茶をえっちゃんに飲ませ続けるというものです!
今のえっちゃんは、器すらも誰かに譲渡してほとんど力を無くしてしまった状態だといいます。つまり、その状態で魔力を込めたとしても、許容量限界から漏れた魔力は霧散してしまうらしいです。
ならば、常日頃から魔力を摂取し続けて、元の器まで伸ばしてしまおうって腹なのですね! 毎日この魔力が籠もったヤテン茶を飲めば万事OKってわけですよっ。
私みたいに急ごしらえで作って、結果的に魔力が籠もったお茶ではなく、職人たちが長い年月をかけて育てたヤテンにさらなる魔力ブーストをかけたのです。不味い訳がない!
……なんなら今ココで一杯作ってみようかな?
『ちんくしゃ、もう充分だ。これ以上はヤテンが保たんぞ』
「おぉっ、それはいけません!」
ゴンさんに指摘され、私は慌ててシャボン玉の生成をやめました。
味を悪くしてしまっては本末転倒です。そんなお茶にとっての冒涜を私が侵すことは絶対にしたくないですからね!
「……なんだこれ……ありえねぇ」
「えぇ、そう思うのも致し方ありますまい!」
「ホント、凄いわねぇ。精霊の中でもここまでの魔力を扱える方はそうそういないんじゃないかしら?」
ゴンさんの横では、デノンさんが疲れた顔で畑を見ています。ノーデさんも、腕を腰に当てて満面の笑顔です。
ていうかえっっちゃん、精霊の中にはヤバイのもいるじゃないですか? 私と比べないでいただきたいものですよ。プレッシャーで無い胃がキリキリしそうです。
『ふん、魔力はあれど扱い方を心得ておらねば赤子よりタチが悪いものよ。……まぁ、今回の件を見せてもらうと、多少特訓の成果があったと見えるがな』
「あ~、ゴンさんまた悪口言ってます? そりゃあ死にそうな打撃防ぐ為に必死になって特訓したんですからこのくらいやれるようになりますよ~!」
私がみんなの元に戻ってきて、ゴンさんとお喋りしてる間にも、デノンさんが私を見る目が若干引き気味なのが少し悲しいですっ。
別にヤテンに問題はないと思いますので、ご容赦願いたいのですが……。
「さてさて! では下準備はできたので、後は仕上げに参りましょうか~」
「ま、まだ何かするのか?」
「当然ですよ~。ヤテンに魔力は籠もりましたけど、この子達を摘んだらまた籠めないといけないじゃないですか? そうならないように、魔力を土地に巡らせるスポットを作んないと~」
そのためには、魔力を出すマーカーが必要なんですが、それはもうあたりをつけてます。
私は、ふよふよと保育園に戻っていき、子どもたちに言葉をかけました。
「さぁみんな~! お手伝いしてくれるかな~?」
「「「は~い!!」」」
「クマだぁぁぁぁあ!!」
「よ~し、じゃあですね。あそこにある大きな樹に、「でっかくなぁれ」って魔法をかけましょうね~! みんなの応援が大きければ大きいほど、樹さんはいっぱい頑張れるよ~!」
「「「はぁ~い!!」」」
「クマだぁぁぁぁあ!!」
「それじゃあ行くよ~? 大きくぅ、なぁ~れ!!」
「「「大きくなぁ~れ! 大きくなぁ~れ!!」」」
「クマだぁぁぁぁあ!!」
子どもたちの言葉に乗せて、私は保育園の柱になっている樹に魔力を籠めていきます。
元々、精霊様の祠になっていた程のご神木です。当然のように魔力の巡りは良好ですとも。
子どもたちの純粋な気持ちも、この樹に流れ込んでいきます。やはり純粋なプラスの感情っていうのは、植物にも良い影響を与えているんですね。
「大きく~、なぁ~れ!!」
「「「大きくなぁ~れ!! 大きくなぁ~れ!」」」
「クマだぁぁぁぁあ!!」
樹が大きくなっても、保育園が壊れないように……少し木材さん達にどいて貰って、余裕を作って、でも隙間を無くして……うんうん、全部木で出来てる建物だからラクラクに言うこと聞いてくれます。
ついでに補強もしておきましょうか。
「……おいおいおい……」
『……ぬぅ……やりすぎるなよ、ちんくしゃ……』
後ろで不安そうにしてる人達もいますが、この光中心和、同じ轍は踏まない女でしてよ?
込める魔力は、世間樹程はない感じのイメージで……そうですね、せいぜい、【ご近樹】って感じでしょうか?
「……よし、完成~!」
時間にして、およそ5分間。子どもたちが飽きて来そうなギリギリの時間帯での工事。
その時間内に、工程は全て完了いたしましたとも!
「「「わぁぁぁぁっ」」」
「クマ……保育園だぁぁぁぁ!」
こうして出来上がったのは、先程までよりも幹が1.5倍ほど大きくなり、青々とした葉がいっぱいに茂る大樹でした。
保育園もそれに合わせて拡張! 足りない木材はそのまま伸びていただきました!
これぞ【ご近樹保育園】ってところでしょうか!
「デノンさん、えっちゃん! この樹から魔力が巡ってヤテンに魔力が籠もりますので、大事にしてくださいね?」
「……お、おう」
「すごいわぁココナちゃん! 私感動しちゃった!」
おふぅっ、えっちゃんの胸板、包容力ぅ……!
『……チビ王よ』
「……はい?」
『ちなみに、だが……この事は』
「内密に、でしょ? 言えるわけねぇでしょうが……」
『うむ、わかっておるなら良い』
さぁ、後はこのヤテン茶をみんなで堪能するだけですね!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
212
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる