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第28話:一緒に祝おう

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『新築祝い?』

 そう、新築祝いです。
 案の定というかなんというか、皆で建てた日本家屋の住心地は素晴らしいの一言でした。
 あれから慣らし運転かのごとく雨が降ったりしましたが、まぁ湿気はあれど洞窟ほど寒くもなく、その湿気も対策さえとっていれば不便ではない程に抑えられるものとのことでした。
 恵みの季節は何日も雨が振り続ける事がありますが、この家ならば人類にとっての多少の不便で済むでしょう。

 これで憂いは無し。ならば次に考えるべきは新築祝いです!
 心和の世界ならば、こういう時はマッチョかつファットなちょんまげファイターが餅なる食物を一心不乱にぶん投げるクレイジーな催しが開かれるらしいのですが、生憎とここは異世界。
 ならば、異世界らしく祝い事にはお食事をもって応えようというわけですよ。
 つまり、いつもより豪華なご飯を食べよう! という訳ですね。美味しいお茶に合う食事の探求は大事なのです。

「素晴らしいお考えです、ココナ様!」

『ふむ、まぁ茶を飲めてなおかつ豪勢に食える分には異論などない』

 お二人もこう言っていますし、決まりですね!
 ならば、私も腕によりをかけようではありませんか~。

「え~、つきましてはお料理の準備にノーデさんをお借りしたく存じます~」

「もちろんです! ココナ様だけ働かせるような事など出来るわけがありませんっ」

『待て。チビ助は我に茶を淹れたりせねばならん仕事があろう? 食事の準備は一人でもできよう』

 むむむ、ゴンさんめ、すっかりノーデさんのお茶に魅了されていますね。
 かく言う私も、ノーデさんが淹れてくれるお茶を毎日のように飲んでうっとりしています。
 この人、騎士よりも執事とかのが向いてたんじゃないですかねってくらい、美味しいお茶淹れるんですよ。ヤテン茶だけではなく、最近では紅茶のノウハウもゴンさんや私から学んで練習してくれています。
 もはや私達のお茶ライフに、ノーデさんは欠かすことのできない存在だと言えるでしょう。
 ん~、となると、仕方ありませんねぇ。

「仕方ありません……では、アシスタントはえっちゃんにお願いいたします~」

「えぇ! 任せてちょうだいココナちゃんっ」

『待て』

 えっちゃんがどの程度料理ができるかわかんないもんで、ノーデさんにお願いしようと思っていたんですがね。本人もやる気ですし、お願いしてしまいましょうか。
 経験豊富でしょうし、もしかしたら意外にも料理上手ってこともあるかもしれません。

「じゃあ行きましょうか。料理道具は一度洞窟からよさげな物を見繕って……」

『待てと言っている』

「はい?」

『いや、何故そんなにも当たり前な表情ができるのだ。我か? 我が間違っているのか?』

「いえ守護者様! このノーデもまた、衝撃の光景に言葉を失っておりました!」

『うむ、安心したぞチビ助。ならば我も自信を持ってツッコもう』

 ここまで言って、ゴンさんは改めて私たちに向き直ります。
 困惑に顔を歪め、少々手を震わせつつ前足が持ち上がり、私の隣を指さして……宣言通り、ツッコミましたとも。

『何故、アースエレメンタルがここにいるのだ!』

「「…………」」

 私たち二人はそのツッコミに顔を見合わせてしまいます。
 なにゆえって、ねぇ?

「呼んだから、ですよね?」

「お料理振る舞ってくれるっていうから来たのよ? 手伝うことになるとは思ってなかったけど……あ、これお土産のヤテン茶。追加しておいてちょうだい?」

「わわ、ありがとうございます~」

『のんびりするな! 回答になっておらぬわたわけ!』

「えぇ? 回答もなにも、えっと……世間樹を通って来てもらったんですよ?」

『……はぁ?』

 そう、今回新しく家が建ったので、お祝いをしようと考えたのが3日前。
 んで、祝うなら多い方がいいよねってことで、ピット国に行ったんです。
 親しい人みんなを誘ったんですが、皆さん森に入るのは今の時期厳しいとのことで断念。

 特にデノンさんなんかは、しばらく見ないうちに凄くやつれてましたね。誰かさんのせいでめっちゃ忙しいとの事で。いったい誰の事なんでしょう?
 なので、お話に乗ってくれたのはえっちゃんだけだったのです。保育園を一日お休みにしてもらって、えっちゃんと一緒にご近樹から世間樹まで飛んで来たというわけですね。

「ね~?」

「ねー?」

『ね~、ではないわ! 世間樹からの移動は、貴様にしかできないのではないのか!?』

「誰もそんなこと言ってませんよ?」

『ぬな……』

 まぁ、条件はいろいろありますが、私だけの特権ではありません。
 正確には、【妖精や精霊などの神霊的存在】に括られた者ですね。なおかつ一見さんお断り制度を取り入れて、私がOKした人じゃないといけません。                                       
 えっちゃんは元々精神的生命体ですので、木の中土の中に潜るなんて訳ないですからね。ばっちり条件を満たしてます。

「妖精である私がえっちゃんの所に飛べて、精霊であるえっちゃんが私の所に遊びに来れないなんて事、ある訳ないですよねぇ?」

「んふふ、ココナちゃんにここまで良くしてもらえるなんて、私嬉しくて涙が出ちゃう! ハグしちゃうんだからっ」

「あぁん、胸板ぁ」

 私たちがこんな事してる間、ゴンさんは頭を抱え、ノーデさんはぽかんとしておりました。
 はて、そんなにも驚くことないんじゃないでしょうか?

「……つまり、ココナ様とえっちゃん様が合わさり、最強に見えるという事でよろしいんでしょうか?」

『よろしくないわ! アースエレメンタルよ、貴様それで良いのか!?』

「なによぉ、私はもう力をほとんど使いきっちゃったんだから、この森との繋がりなんてないも同然よ? 遊びに来るだけならなんの抵抗もないし」

『なん、お、きさま……』

「んふふ、それにぃ」

 お? えっちゃんが私をハグする手に力が籠ったのですが?

「せっかくココナちゃんが呼んでくれたんだものぉ。だったら、森にだって足を運ぶわ。当然じゃない?」

『っ……』

 おぉ……こうして見ると、えっちゃんてホント美人ですね。
 下から見上げるとまつ毛なっがい……ていうか腰細っ、うなじエロいです。
 ふぅむ、しかもいい匂いまでするときた……!

「今の私ったら、ココナちゃんの魔力でリハビリしてる身だしぃ、身も心も染められちゃってる、みたいな? やぁん恥ずかしいっ」

「おぉぉ? なんかニュアンスがえっちぃですよえっちゃん」

「あ、あの、あの! 二人ともそれくらいにいたしましょう! 守護者様が……」

 おぅ?
 私がゴンさんの方を見てみると、そこには毛を逆立てて唸る猛獣がいました。
 ひ、ひぃぃぃ? なんか知んないですけどご機嫌斜めぇぇぇ!?

『ちんくしゃ』

「は、はひ?」

『チビ助を助手に欲しがっていたな。許す、連れていけ』

「え、でも手伝いならえっちゃんが……」

『久方ぶりに、こやつとは腹を割って話し込む時間が欲しいのだ。良いからチビ助を連れて行くがよい』

 眼光が、反論するなと、言っている。(五・七・五(季語無し))

「サーイエッサー! 行きましょうノーデさん!」

「は、はい! お手伝いさせていただきますココナ様!」

「え~、ココナちゃんと一緒がいいわぁ?」

『貴様は我と共にいるが良い、アースエレメンタルよ……なに、じっくりと語る時間はあろう』

 ふむん、まぁお二人は旧知の仲なのでしょうし、こういう時にお話しするのも必要なことなのかもしれませんね。
 なんかまだめっちゃ唸ってますけど、うん、これはあれです。きっと楽しみで舞い上がっているにちがいありませんとも! エェ、キットソウ。

 というわけで、私とノーデさんはよくわかんない内に火花を散らすこの2人を置いて、料理道具を取りに走ることにしました。
 まぁ、ケンカしたって、美味しいもの食べれば仲直りもはやいでしょう。頑張って作るとしましょうかね~。

「……べアルゴン、雄の嫉妬はみっともないわよ?」

『ほう……繋いだ命を手放したいとは酔狂が過ぎるぞアースエレメンタル』

「ふふふ」

『ふははは……!』

 うん、頑張ろう!
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