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第52話:騎士たちと一杯

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 ん~、どんなお茶にしようかな?
 騎士さん達はヤテンを飲み慣れてるし、それ以外となりますと……やはりコーヒー?
 いえいえ、しかしコーヒーは万人受けするかはわかりませんし、ここにはストックしてある砂糖類もありません。急ごしらえでは甘みも単調ですし、ミルクもないんじゃコーヒーを万全の状態で楽しめないのは明らか。
 そこまで考えて、私は荷物を漁ります。

「ぱぱぱぱっぱぱ~! ゴンさんぬいぐるみ~」

 ふっふっふ、見た目は可愛らしいぬいぐるみですが、それは仮の姿!
 その正体は……中に茶葉を入れるスペースがある、いわゆる茶壺のようなものなのですよ! ゴンさんの毛はやはりヤバいアイテムらしいので、こういう入れ物作ったら保存効くと思ってやってみたんですよね~。
 ノーデさんから、このぬいぐるみで小さな土地が買えるとか言われましたけど、私既に管理者なのでノーサンキューです。

「えっと、ひとまず紅茶で良いですよね。」

 もそもそと中を漁って、紅茶を取り出します。
 この銘柄も私が生やした急造品なのですが、やはり加工の技術とは大事なもので。最近ではわずかながらに味わって飲める段階まで風味を底上げすることに成功したんですよ~。
 最初に作った茶葉ですからね。日本茶とかと比べて、熟練度が違います。
 だからこそ、今こうして人に振る舞い、意見が欲しい所ですよね~。

「デノンさん~。お茶淹れますので、準備しても良いですか?」

「お茶? あ~……まぁいいけど、精霊様用のヤテンには限りがあるから全員には振る舞えんぞ?」

「ご心配なく~、私が持ってきた紅茶ですよ~」

「……それも、回復するお茶なんか……」

「ま~加工は手作業ですから、そんなに回復しませんよ~」

 回復するのが常識と外れてんだよなぁ……と言いながらも、デノンさんはきっちり許可してくれました。
 ここの騎士さん達は事情を知ってる人を厳選したらしいので、問題なく作っていいみたいですね~。では、遠慮なくやっちゃいましょう!
 荷物からティーセットを取り出し、私はお茶を淹れ始めます。周囲の騎士さん達は、兎の世話や索敵をしながらも、そんな私を見ている様子。
 なんだか照れますねぇ~。

「あら、ココナちゃんがお茶を淹れてるの?」

「そうですよ~。これは紅茶なのです」

「ふぅん……なんだか、ココナちゃんの魔力以外も混ざってる気がするんだけど、気のせいかしら?」

「ん? そうですかね……魔力なんて気にせず、美味しさを求めてますからそこんとこ頓着してないんですよね~」

「ココナちゃんらしいわぁ。じゃあ私も気にしないでおきましょっ」

 そう言って、えっちゃんもまた兎さん達をもふりに行ったご様子。
 うむむ……えっちゃんの顔、3分の2が埋まる毛皮ですって……!? これは、後で私もモフモフしないと……!

「っとと、今はお茶に集中ですね~」

 お湯は沸いたので、茶器を温めつつ皆さんを呼びましょうか。
 私が呼びかけると、騎士の皆さんと重役のお二人が集まってくれました。なんのかんの、ティータイムってのは皆さんの楽しみなのですね~。

「自分たちも、飲んでいいのかい?」

 騎士さんを代表して、おそらくリーダーだと思われるお兄さんが聞いてきますね。
 うん、背が低いのに顔が凛々しい。大人の男性ってわかるフィルボです。鎧越しですが、鍛えられてるのもわかります。
 なんか、フィルボっていうよりはドワーフみたいなお兄さんです。

「もちろん良いですよ~。皆さん護衛頑張ってくださいね~」

 守ってもらう立場なのですから、私なりに感謝の気持ちを込めての提供です。嫌って言っても飲んでもらいますとも~。もちろん、兎さん達にもご提供です!

「ささ、出来上がりましたよ~」

 今回は人数が人数なので、ピットにあった茶器も持ってきました! なので、一気に皆さんにくばれます。
 私個人の茶器では限界ありますしね~。

「ん、じゃあいただこうか」

「「「ハッ!」」」

「んふふ、良い香りねぇ」

 うぅん、フィルボの人達は上下関係あまり気にしないって話ですけど、選りすぐりの騎士たちはそうでもないんですね。統率取れてます。
 まぁ、他国に行くわけですからねぇ。外聞気にしないとだめですか。

「ではみなさん、いただきます~!」

「「「いただきます!」」」

「いただきま~す」

「……給食?」

 デノンさんの地味なツッコミは置いといて、一口。
 ……うん、最初に作ってたものよりも、風味は増しています。ですがその分、酸味も増していますね。少々バランスが悪いような感じ。
 美味しいのは美味しいのですが……要改良点が発覚した感じですかねぇ。まだまだ勉強が足りません。
 ですが、今のこの味はこの瞬間しか出会えないのです。心を込めて、味わわないと……

「お……おおお……」

「おおおおおお……!」

 お?
 紅茶を飲んだ皆さんの様子が……?

「……なぁ……管理者様?」

「はい?」

「この紅茶……本当に回復だけの、効果か?」

 デノンさんは、口を付ける前に異変に気付いたようですね。中身が減っていません。
 私と二人で、周囲の状況をいぶかしんでいる様子です。

「えぇまぁ、私はいつも通り加工してただけなので、多分回復効果だけじゃないですか?」

「その割には、こう……ヤバ目の魔力が滲んでるような気が……」

「あぁ、これべアルゴンの魔力じゃないのかしら?」

 ふと、ここでえっちゃんから声がかかりました。
 紅茶を傾けながら、クスクスと笑っていますねぇ。

「うん、やっぱりそうねぇ。霊獣の魔力が染み込んだ紅茶だなんて、ココナちゃん豪勢なもの作るわねぇ?」

「はぁぁぁぁ!?」

「え? え?」

 なんで紅茶にゴンさんの魔力が?
 おかしいですね~。私、普通に作ってただけで、ゴンさんには手伝ってもらってないんですけど。
 一体なんで……

「あ」

「あって言った! 心当たりあるんだな! 吐けぇ!!」

「いやいやいや、まさか入れ物からそうなるなんて思いません、し……?」

「入れ物?」

 うん……心当たり、一つだけですね~。
 ゴンさんぬいぐるみ……まさか、入れた茶葉に魔力を込めるとは予想外ですとも~。

「「「ふぬぉぉおおお! 漲ってきたぁぁぁあ!!」」」

「ひゃあああ!? 騎士さん達がバンプアップして本当にドワーフみたいな事にぃ!?」

「「「ふしぃぃぃ!」」」

「うわぁぁぁ! 兎達が疲労を吹き飛ばして走りたそうに昂っている!?」

「あらあら、大惨事ねぇ」

 おぉぉ……回復効果に加えて……なんでしょうね、身体強化とかそのあたりもバフできるお茶になったって感じですかね?
 ヤバいお薬みたいな即効性ですね!

「ふぅぅぅ……王よ、もはや休憩は不要かと存じますれば……!」

「お、落ち着け、な? まだ旅は長いから、な?」

「もはや我ら一同、兎を含めて山越えすら可能だと確信してございます……! ちんけな草原一つ、一晩で踏破してご覧にいれましょう……!」

「お、おち、おちつけ……! マッスルポーズを決めながら近づいてくるんじゃない!」

「あ~あ~、これもう走らせて発散してあげないと大変よぉ? やらせてあげなさいな」

 えっちゃんの言う通り、みんな目がイっちゃってますね~。うん、このぬいぐるみ紅茶は封印しときますか。
 ま、それはそれとして……

「じゃあ皆さん、行きましょうか~」

「「「うぉぉぉぉぉおおお!!」」」

「アンタの作るお茶は、もう絶対飲ませねぇからな! 絶対だからな! くそぉぉ!」

 こうして、休憩もそこそこに私たちは馬車に乗り込みました。
 うん、騎士さん達は乗らずにランニングしてましたけどね! 兎さん達と追走してましたよね!
 いやぁ……恐怖の光景とはまさにこのことですよ~。
 
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