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第54話:素敵なカカシちゃん
しおりを挟むエルフの里までの道中は、豊かな水源で溢れていました。
大小さまざまな泉が、森林の中、その辺り一帯に広がっていたのです。
けして湿気が強いだとか、そういうのではありません。森の外側に面しているが故か、風通しが良く清浄な気配を感じます。
近くを通っただけでも、この空間が生き物にとってどれだけ重要かが見てとれました。動物たちの水場というのは当然として、虫や魚たちの住処として問題なく機能しており、すこぶる自然な食物連鎖がなされているように見えます。
森の中にこんな区画があったなんてびっくりです。
「綺麗ですねぇ……」
木漏れ日を水が反射し、逆に木々を照らすことで、葉の一枚一枚がまるで星のように瞬いています。
一面に広がるコケも、草原に見えてきました。となると泉は海でしょうか? この空間だけでも、一つのジオラマのようです。こう、現実から切り離されたような感じです。
「そうでしょうそうでしょう」
私の前を歩いていたエルフのお姉さんは、自慢気に頷きました。かわいい。
「これらの水源は、我らエルフにとって重要な拠点です。貴方達を通すのは信頼の証と言って良いですよ」
「そうですよねぇ……こんな綺麗な場所が見れるなんて、凄い事ですよぉ」
「そうね。とってもロマンチックだわぁ♪」
ザ・乙女を地で行くえっちゃんと私(※乙女)は、この映画のような空間にいたく感動してございます。
「……まぁ、部下があんな感じじゃなければ、俺も素直に感心するんだが……」
デノンさんは気もそぞろといった感じですかねぇ。
まぁ、騎士さん達が歩きながらマッソーポージンを互いに讃え合っている光景も現在進行形で見れている訳ですから、なんとも言えないミスマッチが発生しているのは否めません。
しかし、こういうのは見なければいないのと変わりませんよ! 幻想的空間にマッソー達は必要ないのです!
「……ところで、管理者様は本来、森の最奥にて守護者と共にいると聞き及んでおりましたが……何故今回、フィルボの皆さまと一緒に来たのでしょう?」
「あ、私の存在は把握してくれてたんですね~」
「当然でしょう。我らエルフは森の民。森の異変は僅かたりとも見逃しません。関与するかは別としておりますが」
ふむ、私としてはタッチしてくれなかった点は寂しさがありますけどね~。
けどまぁ、エルフ側にも事情があるのでしょう。そこはそれ、あまりつっつかないようにしましょうとも。
「何故か、と言われると……私とフィルボが個人的に仲いいからですかねぇ」
「出会う機会があったとは驚きです……フィルボは滅多に森の奥には入らないと思っていました」
「んふふ、出会うきっかけをくれた人がいたんですよ~。すごく可愛くて優しい人なんですよ~」
今はゴンさんにお茶を淹れているころかしらんとか思いながら、私はノーデさんの姿を思い浮かべます。
うふふ、多分不機嫌なゴンさんをなだめてるんだろうなぁ。
と、そうこうしている内に、泉地点を抜けたのでしょう。なにやら人工的かと思われるものが増えてきました。
塗料で色付けした木材などを組み合わせた何かが立っています。……なんか、カカシにしか見えないんですけどね。
うん、愛嬌のある顔してますし、これ完全にカカシですね。
「これは、私が作ったトーテムです」
「え、このカカシですか?」
「……トーテムです、よ?」
お姉さん、何故目が泳いでいるのですか?
自分でもカカシみたいって思ってるってことですよね? じゃなきゃそんなに後ろめたい顔しませんよね?
「も、元々この子は、侵入者を見つけるために作ったトーテムなのです。なので、顔や体をモチーフにした形状でも問題ないのです」
「いやぁ、それにしてもこう、わざわざ服を着せてあげたり帽子被せてたりしたら……」
「ト、トーテムの形は千差万別あるのです。元は祖霊の魂を導いたり、入れ物として使っていたのですから。そこから魔法の媒体などに使うようになったのですよ?」
「あぁ、侵入者用ってのはそういうことか。あのトーテムに魔力を通して、目として使ったり警報を鳴らしたりするわけだな?」
「そうです。ですので、私が同行していない状態でここを通過したら即座に察知されますのでご注意ください」
なるほど、頼もしい限りですね~。
つぶらなお目々が可愛らしいですが、やるときゃやるカカシさんなのでした。
その後も、侵入者を惑わせるためのトーテムなんかが複数ありましたね。これらがあるから魔物などに襲われないのだとか。便利なものですね~。
「さぁ、門が見えてきましたよ。あの向こうが我らの土地、サイシャリィです」
歩くこと、時間にしたら1時間と半分って所でしょうか。
私達はついに、エルフの里に到着したのでありました。
その名前はサイシャリィ。素敵で幻想的なお名前です。
いったいここで、どんな出会いが待っているのでしょう? 更にワクワクしてしまいますとも~。
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