山頂晴れて

４

　４


　慌ただしく、看護師や医者たちが動く。
　飛び交う指示。行われる処置。いずれも一人の少年に対して行われている。
　その最中に、少年の両親はいた。
　医者から、危篤の知らせを受けたとき、二人は自宅にいた。
　つい最近、少年の容態が急変する騒ぎがあってから、二人は泊まり込みのような形で少年に付き添っていた。容態が安定したので、一息つこうと自宅に帰った矢先、飛び込んできた知らせだった。二人が高台の病院に着くころには、もう少年の意識はなく、生命維持装置につながれたまま、弱弱しく呼吸をするだけだった。
　時間の経過とともに、状態は悪化する。二人はそれを見ていることしか、できなかった。
　神への祈りは充分やった。
　教えることは教えた。
　涙はもう、たくさん流した。
　医者の一人が、二人に声をかける。
「いよいよ、最後かもしれません。最後に声をかけてあげてください。」
　その言葉で、二人は我慢できなくなった。
　少年に駆け寄り、手を取り、懺悔する。
　少年は何も答えてはくれない。
　言葉になっていないような言葉を、何度も何度も叫ぶ二人。悲しいのか、悔しいのか、腹立たしいのか。流し尽くしたと思っていた涙が、再び込み上げてきて、流れ落ちる。
　おいおいと泣く二人の耳に聞こえてきたのは、医者からの死の宣告だった。
　すべてが、終わった。
「この子は、幸せだったのかしら。」
「分からない。なにも分からない。この子が幸せだったかも、この子が味わった苦しみも、私たちには、１ミリだって分からない。」
　少年は死んだ。死んだ人間がどうだったかなんて、分かろうとするのは無茶である。少年がどうだったか知っているのは、神様だけだろう。