結果オーライ!

ぺんたまごん

文字の大きさ
上 下
1 / 1

第0話 しくった天使

しおりを挟む
 神は数多の世界を創生し、その世界の管理を天使に託していた。
 これはある天使が管理する世界の話。


***


「ペペロンさーん、速達でーす」
「キタキタキター!」

 ここは世界を管理する天使達が住んでいる天界の管理室の一室。天使達は朝の9時から17時まで管理人としてえっちらこっちら働いている。

 ペペロンもその一人だ。
 この天使が管理している世界はドゥバンドといって、人間という知的生命体が住んでいる上位人気の世界である。

 ペペロンは頑丈に包装された包みをバリバリと破り、荷物の中身を早急確認した。
 長い金髪に切長の瞳に長身の彼は、見た目はクールビューティー、中身はガサツと天使の間ではなかなか有名である。

「おお!これが50回転生して犯罪歴なしの清らかな人間の魂!ツヤツヤ!ぷるぷる!キラキラしている!」

 箱から出てきたのは滅多にお目にかかれない人間の清らかな魂だ。
 数多の世界が存在しているが、人間のように統治をしたり、勉強したり、創作する知的生命体は全体の0.0001%。さらに人間は業が深く、悪事に手を染めていない魂はほとんどいない。つまり絶対数が少ないなかで、更に選別されたこの魂は希少。

 この魂はここ最近盛り上がりを見せている地球の魂で、ペペロンがどうしてもドゥバンドから瘴気を消したくて、地球に大金をはたいて買ったのだ。

「清らかな魂は、まさに瘴気を消す歩く空気清浄機!触れたものはもちろん歩くだけで瘴気とはおさらば!まじ救世主!」

 これでドゥバンドは安泰だとペペロンは歓喜する。

「もしもし、清らかな魂ちゃんわかる?俺はペペロン、天使だぞ」

 ペペロンが話しかけるとたましいはプルプルとゼリーのように震えて呼応する。

「よしよし、聞こえてるね。早速本題だ。君を買ったのは俺。君には今から地球ではなくドゥバンドという世界に転生してもらう。場所は公爵家。偉い人の家ね。この家に君が誕生する前に金をかけた神々しい神託を神殿にして、君を世界の救世主として祭り上げる。多分小さい頃は王都周辺をウロウロ抱っこして移動して、歳を重ねていけば世界中を旅することになるよ。そしてこの世界の瘴気を綺麗さっぱり掃除してほしいんだ。いいかい?」

 瘴気はやっかいだ。瘴気が蔓延すると一番面白いの知的生命体が死んでしまう。
 知的生命体が発生するのは殆ど運と言っていいのだ。もし絶滅してしまったら、地球みたいに気の遠くなるような年月を管理して生まれてくるのを待つしかない。
 知的生命体のいない世界しか知らないのなら世界管理業務はこんなもんかと納得できるが、一度知的生命体の管理をすると、知的生命体がいない世界がクソつまらな過ぎて時間が経たない。勤務時間が地獄になる。

 ある世界で知的生命体が絶滅して、それに嘆いた天使が他の世界に衝突して道連れにしたのは天界のトップニュースになったのは記憶に新しい。
 折角ここまで面白い世界ができたのだから、なんとしてでも維持したい。大金をはたいてでも、だ。

 清らかな魂ちゃんはプルプルと震えて了承してくれる。流石清らかな魂、難しい頼みも快く受けてくれた。

「よし、じゃあ神殿に神託してーー……、で、誕生するときはキラキラエフェクトつけるか。救世主っぽく紋様でもつけちゃって……。容姿は美人か可愛い系か……可愛い系だな!銀髪にオパールみたいにキラキラなお目目にしよう!そして陶器のような白い肌……くぅ、完璧だ!」

 カスタマイズしすぎて金欠になったペペロンだが、自分の完璧な仕事ぶりに鼻高々になりながら、清らかな魂をドゥバンドにぽんっと落とした。

「はぁ、これで今日の仕事も終わったも同然……。あ、今日誕生する魂送ってなかった。危ない危ない……もう作る気ないし、ストックから行くか」

 ペペロンはガラスケースの中でフヨフヨと浮いている魂から無差別に取り出し、清らかな魂と同じように世界にぽぽんっと落としていった。

 無差別に選ばれた魂と清らかな魂は、ぽよんぽよんとお互いに当たりながら、空の身体を探して地上に落ちていく。そしてーー

 ぽよん。

「え、」

 ぽよんぽよんぽよんぽよん。

「ちょ、」

 ぽよんぽよんぽよんぽよんぽよん。

「ま、待ってーーー!!」

 清らかな魂にも沢山の魂がぶつかり、本来行くべきはずの公爵家の子の器に別の魂が宿った。

「ぎゃーーー!!」

 そして行くあてを見失った清らかな魂は出遅れた。
 ほかの魂達が我先にと裕福な家庭、夫婦関係のいい家庭の子に宿って産まれていく。
 残ったのは娼婦の子。しかもタチの悪いことに、この娼婦は特殊性癖の男を相手するためだけに子どもを腹の中に入れている女だった。つまり子どもが生まれれば用無し。娼館で適切なお産の処置をされたあと、使用人にて森の中にぽつんと捨てられてしまったのだ。

「ああっーー!世界の救世主が!まさかの捨て子!!!!」

 ペペロンは自我を失いそうになりながらも、清らかな魂が何とか生きて、世界を救えるようになれないか考えた。
しかし先程課金しまくり、現在金欠。神殿の神託には金がかかるのでもうできない。清らかな魂は瘴気にはやられないが、腹を空かせれば死ぬ普通の人間だ。現在赤子。もって数刻……時間がない。

「そ、そうだ!10歳の天命!その手があった!清らかな魂の近くに10歳児いないか?!」

 ドゥバンドでは10歳になったとき、祈りの間に行き、健康と長寿を祈る風習がある。天使の声は祈りの間でしか送ることができない天界規制があるが、世界への影響が少ない分、神殿と違い安価に天使の声が神託として届けられる。

「いたーーーーっ!まじ俺強運!ツいてるー!」

 そして天使は、清らかな魂の近くで祈りを捧げた10歳の男の子に「バベル森林へ行き、赤子を拾って育てなさい」と神々しい声で神託をたくしたのだった。





しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...