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18話 12月26日
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「それは」
深雪は恐る恐る顔を上げた。そして息を詰まらせた。
「それはもう、私と会えないってこと?会いたくないってこと?」
レティの涙を見たのは2度目だ。氷柱から流れ落ちる水のように、ぽたぽたと彼女の白銀の双眸から零れる雫。
深雪はすぐさま立ち上がり、レティのそばに駆け寄って彼女の隣に腰を落とした。
「違うよ。会いたくないなんて、そんなことあるわけないでしょう?」
レティの握り込められた拳を上からそっと包み、伺うようにその表情を見る。レティは堪えるように唇を固く引き結んでいた。
「レティ泣かないで」
「無理よ。だって、私の意思じゃ止まらないんだもの」
「どうすればいいの?」
「取り消して」
「え?」
レティは怒ったような顔を深雪に見せた。
ヘラが宣戦布告をしてきた時に見た憤怒の顔ではない、悲しみと慈愛が混ざった、怒りの顔だ。
「一緒にご飯を食べるのは年明けまでっていうの、取り消して」
「でも無理だよ。だって遠すぎるもの。レティはこの辺りで暮らしてるんじゃないの?」
「場所なんて関係ないの!私は、先生のいるところなら、何処へだって行くわ」
「そんな、無茶苦茶だよ」
レティは途端に癇癪を起こした。嫌だ嫌だと首を振ったかと思ったら、頬を涙で飾りながら深雪に迫った。
「どうして!?どうして離れていこうとするの?私は、私は先生がこの大学にいるからこうして一緒に居るわけじゃないわ!私は先生が先生だから、好きだから一緒にいるのよ!それはどこに行っても変わらないの。でも先生は違うの?そんな簡単に、関係を終わらせられるの?」
「レティ」
「先生お願いよ。離れていこうとしないで。まだ私一緒に居たいわ」
「私もだよ。でもその為にレティ、あなたまで引越しとか勤務先を変えるとか、そんなこともしなくちゃいけないんだよ。出来るの?」
「それは」
レティは何かに気づいたようにハッとして、そしてそれに酷く傷付いたのか、また大きな涙を零した。
レティの本当の悲しみに深雪が気付く由もない。
レティは俯いてしまった。深雪はレティの肩にそっと手を置いた。
「レティ。私もレティのことが大好きだよ。けど、これはしょうがない事なの」
「しょうがない?そんなふうに言わないで」
「レティ聞いて」
「嫌よ聞きたくない」
「レティ」
逃げようと身をよじるレティを、深雪はゆっくり抱きしめて拘束した。レティは少し緊張した様子だった。体が固まっている。
「いい?レティ。距離が離れたからと言って、私たちの関係が終わるわけじゃない。今までのように毎日は難しいかもしれないけど、こうしてご飯を一緒に食べてお喋りをすることだって出来るよ」
「でも」
(でも、今までのように近くで守れないじゃない。そうしたら、先生は)
深雪はクスリと笑った。どうして今そんな風に笑みを浮かべられるのか分からず、レティは不貞腐れて眉根をひそめる。
「どうして笑えるのよ。私は怒っているのよ?」
「うん」
「勝手すぎるわ。私の事をどれだけ振り回すつもりなの?」
「そんなに振り回してたかな、私」
「してたわ」
「ごめんね。ふふ」
「先生?」
「ごめんね、許して?」
「無理よ。ずっと覚えてるんだから」
子供の駄々のように言うと、深雪はまた笑った。
「困った子だね」
そう言って、レティの背を優しく擦る。レティは深雪の肩口に顔を埋めて、ぎゅうっと抱き締め返した。その力が少し強くて背中が痛んだが、深雪は何も言わず、レティのしたいようにさせることにした。
「レティ。私の砂時計の話、覚えてる?」
「……ええ」
「冬が過ぎて、春になったら、私たちの砂時計をひっくり返そう。そうして始まった新しい関係で、また一緒に話をしよう。私の心は、レティから離れたりしないよ」
レティが鼻をすする音がする。なんだか深雪まで泣きそうになって、2人は誤魔化すようにしばらくお互いを抱きしめていた。
深雪は恐る恐る顔を上げた。そして息を詰まらせた。
「それはもう、私と会えないってこと?会いたくないってこと?」
レティの涙を見たのは2度目だ。氷柱から流れ落ちる水のように、ぽたぽたと彼女の白銀の双眸から零れる雫。
深雪はすぐさま立ち上がり、レティのそばに駆け寄って彼女の隣に腰を落とした。
「違うよ。会いたくないなんて、そんなことあるわけないでしょう?」
レティの握り込められた拳を上からそっと包み、伺うようにその表情を見る。レティは堪えるように唇を固く引き結んでいた。
「レティ泣かないで」
「無理よ。だって、私の意思じゃ止まらないんだもの」
「どうすればいいの?」
「取り消して」
「え?」
レティは怒ったような顔を深雪に見せた。
ヘラが宣戦布告をしてきた時に見た憤怒の顔ではない、悲しみと慈愛が混ざった、怒りの顔だ。
「一緒にご飯を食べるのは年明けまでっていうの、取り消して」
「でも無理だよ。だって遠すぎるもの。レティはこの辺りで暮らしてるんじゃないの?」
「場所なんて関係ないの!私は、先生のいるところなら、何処へだって行くわ」
「そんな、無茶苦茶だよ」
レティは途端に癇癪を起こした。嫌だ嫌だと首を振ったかと思ったら、頬を涙で飾りながら深雪に迫った。
「どうして!?どうして離れていこうとするの?私は、私は先生がこの大学にいるからこうして一緒に居るわけじゃないわ!私は先生が先生だから、好きだから一緒にいるのよ!それはどこに行っても変わらないの。でも先生は違うの?そんな簡単に、関係を終わらせられるの?」
「レティ」
「先生お願いよ。離れていこうとしないで。まだ私一緒に居たいわ」
「私もだよ。でもその為にレティ、あなたまで引越しとか勤務先を変えるとか、そんなこともしなくちゃいけないんだよ。出来るの?」
「それは」
レティは何かに気づいたようにハッとして、そしてそれに酷く傷付いたのか、また大きな涙を零した。
レティの本当の悲しみに深雪が気付く由もない。
レティは俯いてしまった。深雪はレティの肩にそっと手を置いた。
「レティ。私もレティのことが大好きだよ。けど、これはしょうがない事なの」
「しょうがない?そんなふうに言わないで」
「レティ聞いて」
「嫌よ聞きたくない」
「レティ」
逃げようと身をよじるレティを、深雪はゆっくり抱きしめて拘束した。レティは少し緊張した様子だった。体が固まっている。
「いい?レティ。距離が離れたからと言って、私たちの関係が終わるわけじゃない。今までのように毎日は難しいかもしれないけど、こうしてご飯を一緒に食べてお喋りをすることだって出来るよ」
「でも」
(でも、今までのように近くで守れないじゃない。そうしたら、先生は)
深雪はクスリと笑った。どうして今そんな風に笑みを浮かべられるのか分からず、レティは不貞腐れて眉根をひそめる。
「どうして笑えるのよ。私は怒っているのよ?」
「うん」
「勝手すぎるわ。私の事をどれだけ振り回すつもりなの?」
「そんなに振り回してたかな、私」
「してたわ」
「ごめんね。ふふ」
「先生?」
「ごめんね、許して?」
「無理よ。ずっと覚えてるんだから」
子供の駄々のように言うと、深雪はまた笑った。
「困った子だね」
そう言って、レティの背を優しく擦る。レティは深雪の肩口に顔を埋めて、ぎゅうっと抱き締め返した。その力が少し強くて背中が痛んだが、深雪は何も言わず、レティのしたいようにさせることにした。
「レティ。私の砂時計の話、覚えてる?」
「……ええ」
「冬が過ぎて、春になったら、私たちの砂時計をひっくり返そう。そうして始まった新しい関係で、また一緒に話をしよう。私の心は、レティから離れたりしないよ」
レティが鼻をすする音がする。なんだか深雪まで泣きそうになって、2人は誤魔化すようにしばらくお互いを抱きしめていた。
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