死神の砂時計

蒼依月

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23話 ??

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 死神の世界に、昼夜は無い。時間関係なくいつでも夕暮れ時だ。
 薄暗い空をぼうっと眺めるのは、死神レティ・アウトサイド。先日死神を統率する団体の尋問から解放され、家に戻ってきてから、ずっとベッドの上でうずくまっている。傍らに転がるのは、家に戻る前に密かに拝借してきた砂時計。深雪が持っていたものだ。今は横たわっていて時計としての機能を果たしていない。
 レティの家は殺風景だった。物なんて最低限の生活用品しかない。それも、つい最近深雪に感化されて揃えた物ばかりだ。ベッドもテーブルも椅子も、深雪が好きそうな色やデザインを見つけたから、買ってみた、それだけ。それももう、必要ない。目障りにすら思える。でも、捨てることも出来なかった。深雪のことを忘れてしまいそうだから。
 団体の尋問は、深雪に関することだった。深雪に関わってから、レティの行動がおかしくなっていったから当然だ。
 尋問者の死神は終始白いフードを目深にかぶってその顔は窺い知れなかったが、レティのことを異端だとか、異例だとか、失礼なことを思っていることは分かった。

「私は異端でもいい。先生を助けたかった。それだけよ」

 そう言うと、レティはしばらくの間監禁された。監禁中は死神とは何か、ということを説く者がレティの目の前で一日中居座ってこんこんと教えを説いていた。だがそれはレティにとってなんともない罰だった。ヘラであれば、全く身動きが取れないうえに監視までされているあの状況では、鬱憤が爆発してしまったかもしれない。
 教えを聞き流しながら、頭で考えていたのは深雪のことばかりだった。一度だけ考えることを止めようとしたことがあった。でも、それでも忘れられなかった。あんなに、日は無かった。きっと、これも死神にはあるまじき感情なのだろうと思って、尋問中は決して口にしなかった。
 レティは顔を上げる。人間界にいた時には、朝と昼と夜の様子の違いに面白みを感じたものだ。それも、今は無い。

「先生。どうしてくれるの。私、もうこの世界では生きていけないかもしれない。ここはつまらないわ」

 今まで、どうやってこの代わり映えしない世界で過ごしてきたのか、思い出せない。
 深雪に会いたい。話がしたい。笑顔が見たい。
 レティの頬に涙が伝った。

「ああもう。またこれ。先生、これはどうしたら治るの?教えてよ。こんなこと聞けるの、先生しかいないんだから」

 応える存在はいない。レティの声は冷たい空気に溶けて消えた。

(そういえば……)

 レティは傍らの砂時計を手に取った。
 
「先生は、よく本を読んで人間に何かを教えていたわ」
 
 もしかしたら。
 そんな一抹の予感が、レティを立ち上がらせた。

(先生に会える方法が何かわかるかもしれない)
 
 死神の世界に、図書館は無い。
 そもそも何かを学ぶという概念がないのだ。
 それを探すには、もう一度人間界に行く必要がある。
 レティは砂時計をコートのポケットにしまい、静かに家を出た。
 全ては深雪にもう一度会う為。
 レティは再び人間界に降り立つ決意をした。
 
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