転生王子の奮闘記

銀雪

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第1章  王子の変化と王城を襲う陰謀

『12、堕ちた宮廷魔術師』

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この人は黒幕ではなく、ただ依頼されただけ。
つまり、そいつを追い詰めないと俺は永遠に命を狙われ続けるということだ。
「依頼者が来たのは分かった。それで?」
ラオン公爵が先を促した。ブラウンドは頷いて話を続ける。

「依頼者は “殺し方を書いたメモが公爵家の人間に奪われた。そいつに禁句魔法と監視魔法を掛けろ。俺の特徴を一つでも口走ったら命を奪えるような強さでな” こう言った。」
その言葉にイグルくんが目を見開き、ラオン公爵に身を寄せた。
命の危機に瀕していたということを実感したのだろう。

「依頼者も闇魔法を使えるのは知っていたから、あなたが掛ければいいじゃないかと俺は言った。そしたら“件の奴は光魔法を使える。常時使ってたら一発でバレる”とな」
今の話を総合すると、依頼者はイグルくんのかなり身近にいる人物。
闇魔法を使え、残忍かつ冷酷な人間といったところか。

「あいつはいつも黒服を・・・グッ!?」
突然蹲ったブラウンドに騎士たちが駆け寄る。
次の瞬間、地鳴りのような音がしたと思うと、ブラウンドが闇に包まれていく。

「イカン!闇魔法の暴走だ!禁句魔法を破ったのか!?」
頭上からの声。見上げると3階の窓からホブラック宰相がこちらを見降ろしていた。
「おい、どうしてお前がそこにいるのだ。アスネたちはどうした?」
「地鳴りみたいな音がしたから見に来たんだ。それより、そいつはヤバいぞ」
父上に咎められたホブラック宰相が、闇に飲まれていくブラウンドを指さす。

「総員、退避!そいつから距離を取れ!」
ブルートの指示で後退し始める9人の騎士と父上。
ラオン公爵は剣を振りかぶると、思いっきりブラウンドに叩きつけた。
「グッ・・・」
しかし、広がった闇によって剣が弾かれた。その様子に諦めたラオン公爵も撤退していく。

闇が晴れた後には、真っ黒な男が直立不動で立っていた。
手には禍々しい形の杖が握られ、瞳は赤く光っている。
明らかに人外と分かる姿になったブラウンドは、杖を一振り。
途端に中庭全部を巻き込むような大きさの竜巻が、はるか上空に発生した。
あんなところに作ってどうするのかと思ったが、徐々に降下してきているのが分かる。
あれが完全に降りきったら死ぬし、目の前には逃亡を許さないであろう人外。
これ・・・詰んでいないか?

「おい、あんなのどうするんだよ・・・」
「俺はここで死ぬのか・・・短い人生だったな・・・」
騎士たちの声もどこか暗い。そりゃそうだろう。
あんな竜巻に巻き込まれたら、まず間違いなく死ぬ。
完全に降下してくる前に策を講じなきゃ。

「父上、ラオン公爵、今なら攻撃が通じるのでは?」
そう言いながら俺は木の棒を握りしめ、真上に思いっきり放り投げた。
おお・・・竜巻に巻き込まれ、凄い勢いで上昇している。
最後は強風に飛ばされ、城門の外まで吹っ飛んでいく木の棒。
うん。これは降りてきたが最後、助からないな。

そう思いながら父上の方に視線を移すと、ラオン公爵とともに影を追い詰めていた。
「これでも暗殺者を幾度となく跳ね返しておる。お主なぞに負ける謂れはないわ!」
「他国の兵3倍の方が厄介であったわ。お主はまだ弱い!」
魔法使いの父上と剣士のラオン公爵は相性も抜群のようだ。
お互いが邪魔にならないように上手く立ち回っている。
というか父上・・・暗殺者を差し向けられたことがあるのか・・・。
俺は3歳で送られているから何もいえないが。

ふとテラスからざわめきが聞こえ、そちらを見上げる。
「我に眠る魔力の根源、魔力よ!中庭に集いて風となれ!竜巻ハリケーン!」
アスネお姉さまの凛とした詠唱と共に、もう1つ竜巻が発生した。
その竜巻はブラウンドが出した竜巻と衝突し、お互いが消え去った。
俺たちはホッと胸を撫で下ろす。これで竜巻による死は回避できただろう。
後はブラウンドを捕縛するなり殺すなりするだけ。

それも父上とラオン公爵のおかげで解決の目途が付いた。
はぁ・・・これでひとまず落ち着けそうだ。
そう思っていると、俺のお腹を何かが貫いた。

「え?」
視線を向ければ、お腹に熱いものがじわりと湧き出ているのが分かる。
これは・・・血液?慌てて地面を見下ろすと、草が赤黒く染まっていた。
後ろを見れば、細かい土の塊。
ブラウンドが発射したもの――岩弾に腹部を貫かれたらしいと分かる。

「グッ・・・せめて一撃当ててから死ぬか・・・」
やられっぱなしは流石に悔しい。
俺は太くて丈夫そうな木の棒を拾うと一気に近づき、急所をおもいっきり殴打した。
痛みに悶えるブラウンドを冷めた目で見降ろしながら、膝から崩れ落ちる。
段々と意識が遠のいていくのを感じた。
バイクに衝突した時とは違い、蝋燭の火が消えていく感じで生命の灯火が消えていく。

「我に眠る魔力の根源、魔力よ!リレン王子に集いて血肉となれ!回復ヒール
回復魔法の詠唱を聞いた途端、意識が覚醒しだした。
あれだけあった腹部の痛みも消えている。
近くには俺に向かって手をかざしているイグルくんがいた。
その手は青白く光っている。恐らく魔法で直してくれたんだな。

「回復魔法で傷を直してくれたの?ありがとう。助かったよ」
微笑みながら言うと、何故か顔を伏せるイグルくん。
「優しそうな笑みだな。安心できるし癒される。あとイグルでいい」
顔を伏せられたことに少なからずショックを受けていると、ボソッと呟くイグル。

「そう?なら僕もリレンでいいよ」
イグルは一瞬キョトンとした後、すぐに爆笑しだした。
「ハハハッ、やっぱり面白いですね。それじゃ普通に不敬罪ですよ」
「僕が認めているんだからいいでしょ。あと敬語もなしでいいよ」
頬を膨らます俺に、イグルは優しい笑みを向けた。

「分かりま・・・分かったよ。これからよろしくな、俺の友人リレン」
「こちらこそよろしく。僕の友人、イグル」
俺たちはしっかりと握手を交わした。

しばらくして握手を解いた俺たちは、未だに悶絶しているブラウンドを見下ろした。
いつのまにか闇は霧散し、元の姿に戻っている。
「父上、こいつは捕縛ですか?始末ですか?」
イグルが物騒な質問をすると、ラオン公爵は黒い笑みを浮かべた。

「魔法で治ったとはいえ、王子の腹部を打ち抜いたんだ。地獄を味わってもらおう」
「じゃあ捕縛ということで。ブルート副騎士団長、ロープを持ってきてもらえます?」
「分かりました。リレン様のご指示とあらば、すぐに持って来ましょう」
大きく頷くと、ブルートはロープを取りに詰所へ走っていった。
一体どんな地獄が待ち受けているんだろう?
内心で戦慄していると、イグルがツカツカとブラウンドに歩み寄る。

「おい、とりあえず俺に掛けている魔法を解いてくれないか?」
イグルが有無を言わさない口調で言うと、あたりに一陣の風が吹き抜けていく。
「残念ながらそれは出来ないな・・・。魔法の支配権はこちらに移った」

誰もいない木の上から声が聞こえる?
いや違う。風魔法で遠くから声を飛ばしているんだ。
「お前が依頼主か?俺に誓約魔法と監視魔法を掛けるように言った・・・」
イグルの問いに謎の声は鼻で笑った。

「フッ・・・そうに決まっているだろう。でなければ支配権をこちらに移らせやせんよ」
「俺からも一つ。どうして僕を殺そうとしたんだ?君に何の得がある?」
謎の声が二の句を継ぐ前に、質問をぶち込む。

俺は会話、交渉に関しては上手い方だ。唯一得意なことと言ってもいい。
前世、孤児院のオーナーを会話で丸め込んだことを神格化され、“会話の魔術師”というあだ名がついたこともある。
正直、不本意なあだ名ではあるが、今こそその技を使う時!

さあ、言葉での攻防戦と行こうじゃないか。
会話の魔術師の真骨頂、依頼者に味合わせてあげるよ。
俺は1人、不敵な笑みを浮かべた。
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