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第1章 王子の変化と王城を襲う陰謀
『20、お披露目パーティー①~王城の広間で18鐘~』
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綺麗に飾りつけられた広間が壮厳さを感じさせていく。
壁には特別な時にしか見せないという絵が存在感を放っており、白一色の床と妙なコントラストさを演出していた。
並べられたテーブルの上には、嗜好を凝らせた料理がところ狭しと並んでいる。
現在時刻は17鐘50分。パーティー開始まであと10分を切った。
既に招待客は大方が集まっており、上から見下ろすと、そうそうたる面々。
特に伯爵や公爵の貴族家が、舞台に近いところにわらわら集まっているのが印象的だ。
何でも俺が行う初めの挨拶を近くで拝み、自分たちが将来、支えるにふさわしい人物かを判断するのだとか。
怖いにも程がある。
主役は一番最後に入ってくるのがお決まりらしく、俺とアリナお姉さまは貴族や家族がわらわらいる中を悠々と歩いていく予定になっていた。
アスネお姉さま曰く、花道みたいに道は空けてあるから、そこを堂々と歩けばいいとのこと。
見てみれば、確かにドアから舞台まで不自然な間が出来ている。
あそこを歩けばいいということなのだろうな。
「リレンは大丈夫なの?私、緊張で胸が壊れそうなんだけど」
紺碧のドレスを着ているアリナお姉さまが小さく身体を震わせた。
腰のあたりになびく栗色の髪をより引き立てている印象を受ける。
装飾品の類がカランと乾いた音を立てた。
「全然大丈夫じゃない。今にも体中が震えそうだよ・・・」
俺の顔はきっと青ざめていることだろう。
黒い貴族服を着て、腰に王都散策時の短剣を刺した姿だけはきっと凛々しい。
だけど、このように人前に立った経験は皆無だ。
緊張を何とかほぐそうと、短剣に彫られている模様を指でなぞる。
隣ではアリナお姉さまが指輪の模様を同じようになぞっていた。
しばらくそうしていると、カルスが部屋に入ってきて、俺たちを一瞥。
小さく頷き、弱い風魔法を放つ。
「これより、我が子供たち、リレンとアスナが入場する!」
その風が合図になっていたのだろう。父上の毅然とした声が会場に響く。
すると、おしゃべりに花を咲かせていた貴族たちが一斉に臣下の礼を取る。
もちろん、彼らの目前には一本の道が出来ていた。
どこから演奏しているのか、金管楽器の軽快な音楽が会場を震わせる。
演奏が一段落ついたところで、カルスが重厚な扉をゆっくりと開いていく。
目の前に広がるのは、舞台に続く一本の道と、その脇を固める多数の貴族たち。
赤、青、黄色・・・様々な色の服を着た人物が視界をチラつく。
これは一回でもテンポを崩したら終わりだな。
危機を感じた俺たちは、視線で語り合う。
――お姉さま、準備はいい?
――OK!行くわよ!
そして俺たちは同時に一歩を踏み出した。
金管楽器の演奏が、緊張とリンクするように一際大きく鳴り響く。
決してテンポが崩れないように。二人が離れないように。
何度も視線で確認しあいながら、俺たちは進む。
舞台の下に着いたらクルリと反転し、貴族たちを見回した。
締めの挨拶担当のアスナお姉さまは一歩下がり、俺だけが舞台に上がっていく。
壇上に設置された魔導具のスイッチを入れると、扇風機のように風が吹きあがる。
この風で声を飛ばすということなのだろう。前世で言うところのマイクである。
上級貴族たちからの値踏みするような視線を感じながらも、俺は口を開いた。
「皆さま方、今日は僕とお姉さまのお披露目パーティーに出席していただいたこと、感謝いたします。改めまして、グラッザド王国第一王子のリレン=グラッザドです」
目だけで軽く会釈。気づいた上級貴族たちが軽く礼をした。
そして会場の全員が、飲み物が入れられたグラスを手に取る。
俺も、フェブアー騎士団長からグラスが手渡された。
「僕はこれからも精進するつもりですのでよろしくお願いします。では、グラッザド王国の更なる繁栄を願って、乾杯」
「乾杯!」
会場にいる200人ほどの来客が、一斉にグラスを突き上げた。
飲み物がシャンデリアの光に照らされ、妖しく光る。
俺もみんなに倣って飲み物を一口飲んだ。口に広がる果実の甘み。
なるほど。子供たちは果実ジュースってわけね。
ジュースの原料は恐らくシアという果実だろう。
リンゴのような甘みとパイナップルのような酸味が合わさっている果実で、とても美味しい。
一礼して壇上から降りると、階段下でホブラック宰相が待ち構えていた。
「どうしたのですか?こんなところで・・・」
「モルネ国王様より、リレン王子をテーブルにお連れしろと指示を受けましたので」
確かに家族が座っているテーブルを俺は知らない。
下手に動き回って襲撃者の手にかかるのは避けたいし、ちょうど良かったな。
「なるほど。よろしくお願いします」
「分かっております。私についてきてくださいね」
ホブラック宰相についていくと、一際大きくて豪華なテーブルが目に入る。
テーブルには、紺碧の生地に金の刺繍があしらわれている上等なクロスが掛けられていた。
円形のそれを囲むように家族が座っており、ポツンと赤い椅子だけが残されている。
「あの赤い椅子に座ればいいのですね?」
「ああ、しばらくはここにいると良い。媚びを売ろうとしてくる厄介なのもいるからな」
父上の心底面倒くさそうな声を聞きながら、赤い椅子に座る。
机の上をサッと見回すと、他のテーブルと同じような料理が並んでいた。
美味しそうな料理を見てたらお腹が空いてきたよ。
それは他の面々も同じらしく、どこかソワソワとした雰囲気を感じる。
雰囲気にいち早く気づいた母上が苦笑気味に言った。
「そろそろ食べませんか?お腹が空いてきましたわ」
「そうだな。じゃあ、リレンとアスナの無事な成長を祝って、乾杯」
「「「「乾杯!」」」」
父上の音頭で再びグラスを突き上げる。
家族の温かみを感じているからか、飲み物を彩る光もどこか明るい。
しばらく料理に舌鼓を打っていると、父上の後ろから近づいてくる影が一つ。
「国王様、ご無沙汰しております」
「おお、ラオン公爵。こちらこそご無沙汰だな」
金の貴族服に身を包んだラオン公爵だった。そのギラギラは会場でも一際目立つ。
父上と二言三言話したラオン公爵は俺に視線を向ける。
さながら蛇に睨まれた蛙のようだ。目が怖いよ?
「あの挨拶は見事だったぜ。俺のこの視線にも動じないとはな・・・」
そう言うと、いつもの柔和な笑みに戻る。俺の緊張も徐々にほぐれていく。
「いえいえ・・・顔に出してないだけで、さっきの視線は怖かったですよ」
またあんな視線を向けられたらたまったもんじゃない。
やっぱり公爵ともなると、ああいう視線の使い分けとかもしなければいけないのだろうか。
貴族の見えない戦いに戦慄していると、肩を優しく叩かれた。
振り返ると、茶色の貴族服を着て3人の子供を引き連れたイグルが笑みを浮かべている。
「リレン、さっきの挨拶凄いな!俺のパーティーの時でもあんな挨拶はしてないぞ?」
興奮気味に言うと、3人の子供たちも同意するようにコクコクと頷く。
「ありがとう。イグルも来てくれたんだね。3人も連れて」
「こいつらは俺たちの屋敷に近い屋敷の子供たちだな。みんな、左端から名乗れ!」
将軍のように指示すると3人が一斉に頷き、左端の子が口を開いた。
「タトル=ダイチです。よろしくお願いします」
「バド=フナフと申します。リレン王子、よろしくお願いいたします」
「アント=マモトといいます。以後、お見知りおきを」
ダイチ家は子爵家、フナフ家とマモト家は男爵家だな。
どの子も純粋そうだ。貴族の子供といえば、もっと偉そうなイメージがあったのだが。
「おい、そこの子供たち、退け!」
そうそう、こんな風に・・・・。って誰だ?
思わずそちらに視線を向けると、水色のスーツに身を包んだ黒髪の少年が、3人の少年たちを不機嫌そうに睨みつけていた。
壁には特別な時にしか見せないという絵が存在感を放っており、白一色の床と妙なコントラストさを演出していた。
並べられたテーブルの上には、嗜好を凝らせた料理がところ狭しと並んでいる。
現在時刻は17鐘50分。パーティー開始まであと10分を切った。
既に招待客は大方が集まっており、上から見下ろすと、そうそうたる面々。
特に伯爵や公爵の貴族家が、舞台に近いところにわらわら集まっているのが印象的だ。
何でも俺が行う初めの挨拶を近くで拝み、自分たちが将来、支えるにふさわしい人物かを判断するのだとか。
怖いにも程がある。
主役は一番最後に入ってくるのがお決まりらしく、俺とアリナお姉さまは貴族や家族がわらわらいる中を悠々と歩いていく予定になっていた。
アスネお姉さま曰く、花道みたいに道は空けてあるから、そこを堂々と歩けばいいとのこと。
見てみれば、確かにドアから舞台まで不自然な間が出来ている。
あそこを歩けばいいということなのだろうな。
「リレンは大丈夫なの?私、緊張で胸が壊れそうなんだけど」
紺碧のドレスを着ているアリナお姉さまが小さく身体を震わせた。
腰のあたりになびく栗色の髪をより引き立てている印象を受ける。
装飾品の類がカランと乾いた音を立てた。
「全然大丈夫じゃない。今にも体中が震えそうだよ・・・」
俺の顔はきっと青ざめていることだろう。
黒い貴族服を着て、腰に王都散策時の短剣を刺した姿だけはきっと凛々しい。
だけど、このように人前に立った経験は皆無だ。
緊張を何とかほぐそうと、短剣に彫られている模様を指でなぞる。
隣ではアリナお姉さまが指輪の模様を同じようになぞっていた。
しばらくそうしていると、カルスが部屋に入ってきて、俺たちを一瞥。
小さく頷き、弱い風魔法を放つ。
「これより、我が子供たち、リレンとアスナが入場する!」
その風が合図になっていたのだろう。父上の毅然とした声が会場に響く。
すると、おしゃべりに花を咲かせていた貴族たちが一斉に臣下の礼を取る。
もちろん、彼らの目前には一本の道が出来ていた。
どこから演奏しているのか、金管楽器の軽快な音楽が会場を震わせる。
演奏が一段落ついたところで、カルスが重厚な扉をゆっくりと開いていく。
目の前に広がるのは、舞台に続く一本の道と、その脇を固める多数の貴族たち。
赤、青、黄色・・・様々な色の服を着た人物が視界をチラつく。
これは一回でもテンポを崩したら終わりだな。
危機を感じた俺たちは、視線で語り合う。
――お姉さま、準備はいい?
――OK!行くわよ!
そして俺たちは同時に一歩を踏み出した。
金管楽器の演奏が、緊張とリンクするように一際大きく鳴り響く。
決してテンポが崩れないように。二人が離れないように。
何度も視線で確認しあいながら、俺たちは進む。
舞台の下に着いたらクルリと反転し、貴族たちを見回した。
締めの挨拶担当のアスナお姉さまは一歩下がり、俺だけが舞台に上がっていく。
壇上に設置された魔導具のスイッチを入れると、扇風機のように風が吹きあがる。
この風で声を飛ばすということなのだろう。前世で言うところのマイクである。
上級貴族たちからの値踏みするような視線を感じながらも、俺は口を開いた。
「皆さま方、今日は僕とお姉さまのお披露目パーティーに出席していただいたこと、感謝いたします。改めまして、グラッザド王国第一王子のリレン=グラッザドです」
目だけで軽く会釈。気づいた上級貴族たちが軽く礼をした。
そして会場の全員が、飲み物が入れられたグラスを手に取る。
俺も、フェブアー騎士団長からグラスが手渡された。
「僕はこれからも精進するつもりですのでよろしくお願いします。では、グラッザド王国の更なる繁栄を願って、乾杯」
「乾杯!」
会場にいる200人ほどの来客が、一斉にグラスを突き上げた。
飲み物がシャンデリアの光に照らされ、妖しく光る。
俺もみんなに倣って飲み物を一口飲んだ。口に広がる果実の甘み。
なるほど。子供たちは果実ジュースってわけね。
ジュースの原料は恐らくシアという果実だろう。
リンゴのような甘みとパイナップルのような酸味が合わさっている果実で、とても美味しい。
一礼して壇上から降りると、階段下でホブラック宰相が待ち構えていた。
「どうしたのですか?こんなところで・・・」
「モルネ国王様より、リレン王子をテーブルにお連れしろと指示を受けましたので」
確かに家族が座っているテーブルを俺は知らない。
下手に動き回って襲撃者の手にかかるのは避けたいし、ちょうど良かったな。
「なるほど。よろしくお願いします」
「分かっております。私についてきてくださいね」
ホブラック宰相についていくと、一際大きくて豪華なテーブルが目に入る。
テーブルには、紺碧の生地に金の刺繍があしらわれている上等なクロスが掛けられていた。
円形のそれを囲むように家族が座っており、ポツンと赤い椅子だけが残されている。
「あの赤い椅子に座ればいいのですね?」
「ああ、しばらくはここにいると良い。媚びを売ろうとしてくる厄介なのもいるからな」
父上の心底面倒くさそうな声を聞きながら、赤い椅子に座る。
机の上をサッと見回すと、他のテーブルと同じような料理が並んでいた。
美味しそうな料理を見てたらお腹が空いてきたよ。
それは他の面々も同じらしく、どこかソワソワとした雰囲気を感じる。
雰囲気にいち早く気づいた母上が苦笑気味に言った。
「そろそろ食べませんか?お腹が空いてきましたわ」
「そうだな。じゃあ、リレンとアスナの無事な成長を祝って、乾杯」
「「「「乾杯!」」」」
父上の音頭で再びグラスを突き上げる。
家族の温かみを感じているからか、飲み物を彩る光もどこか明るい。
しばらく料理に舌鼓を打っていると、父上の後ろから近づいてくる影が一つ。
「国王様、ご無沙汰しております」
「おお、ラオン公爵。こちらこそご無沙汰だな」
金の貴族服に身を包んだラオン公爵だった。そのギラギラは会場でも一際目立つ。
父上と二言三言話したラオン公爵は俺に視線を向ける。
さながら蛇に睨まれた蛙のようだ。目が怖いよ?
「あの挨拶は見事だったぜ。俺のこの視線にも動じないとはな・・・」
そう言うと、いつもの柔和な笑みに戻る。俺の緊張も徐々にほぐれていく。
「いえいえ・・・顔に出してないだけで、さっきの視線は怖かったですよ」
またあんな視線を向けられたらたまったもんじゃない。
やっぱり公爵ともなると、ああいう視線の使い分けとかもしなければいけないのだろうか。
貴族の見えない戦いに戦慄していると、肩を優しく叩かれた。
振り返ると、茶色の貴族服を着て3人の子供を引き連れたイグルが笑みを浮かべている。
「リレン、さっきの挨拶凄いな!俺のパーティーの時でもあんな挨拶はしてないぞ?」
興奮気味に言うと、3人の子供たちも同意するようにコクコクと頷く。
「ありがとう。イグルも来てくれたんだね。3人も連れて」
「こいつらは俺たちの屋敷に近い屋敷の子供たちだな。みんな、左端から名乗れ!」
将軍のように指示すると3人が一斉に頷き、左端の子が口を開いた。
「タトル=ダイチです。よろしくお願いします」
「バド=フナフと申します。リレン王子、よろしくお願いいたします」
「アント=マモトといいます。以後、お見知りおきを」
ダイチ家は子爵家、フナフ家とマモト家は男爵家だな。
どの子も純粋そうだ。貴族の子供といえば、もっと偉そうなイメージがあったのだが。
「おい、そこの子供たち、退け!」
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