転生王子の奮闘記

銀雪

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第1章  王子の変化と王城を襲う陰謀

『28、三英傑、集合』

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「リレン王子の護衛隊長になったという会話は聞き間違いではなかったのか」
技を封じられ、一旦距離を取ったミグレーがボヤく。

「ああ、お前みたいな刺客から、この国を背負う王子を守るためにな」
「そうかいそうかい。ならば守って見せな。3人からな」
冷たく言い放ったミグレーが指を鳴らすと、天井裏から2人の人物が降りてくる。

一方は中庭の戦いに敗れた元宮廷魔術師のブラウンド。
もう一方は、パーティーでの襲撃に失敗した元宰相のパープルズだった。
・・・さすがに相手の戦力が強すぎやしないか?

宰相のパープルズですら、指輪の結界が無ければ負けていたはず。
今回はさらに宮廷魔術師と副騎士団長もいる。

・・・というか、牢獄に入っているはずの2人が何でここに?
まさか、王城側にも共犯がいる?
じゃないと説明がつかない。誰かがこの人たちを手引きして王城に忍び込ませた。
そして今回、捕まっていた2人を秘密裏に開放し、ミグレーに引き渡す。

だとしたら誰が、何の目的で手引きしたんだ?
やっぱり俺を亡き者にするためか。

「国王と王子の御前に現れた侵入者ぞ。気合をいれてかかれ!」
騎士団長に昇格したブルートさんの怒号と共に、50人程度の騎士がなだれ込んできた。
両親やお姉さまを囲むように立ち、油断なく3人を睨みつけている。

「あなたたちは・・・王城三英傑?」
1人の騎士が絶望に打ち震えた声色で聞いた。
その言葉にほとんどの騎士が目を見開く。王城三英傑って何だよ。

「2年前の戦で盛大な武功を立てた、あの王城三英傑?」
「武力なら個々で、ラオン公爵とフェブアー元騎士団長をも凌ぐと言われた?」
「そんな化け物が3人全員揃っているのか?」

騎士たちの士気が見てわかるほどに下がっていく。
ブルート騎士団長も迂闊に指示を出すことが出来ず、固まっている。

2年前の戦って、この国の東西南北を囲む4国が攻めてきた戦だよね?
確か、ラオン公爵が2国を相手し、フェブアーさん率いる騎士隊が1国を相手したはず。
ということは3人で1国。それなら2国を相手したラオン公爵の方が強くない?

「そうだ。王子の命を頂戴させてもらう。我らを破滅に導いた張本人に死を」
「「死を。残酷で苦痛な死を」」
まるで祈るかのように手を合わせたかと思えば、次の瞬間にはそれぞれの武器を構えている。
相変わらず人間離れしたスピードだな。

俺も短剣を構え、指輪を再確認。ここで死ぬわけにはいかない。
フェブアーさんも剣を構え、油断なく目を光らせていた。

「事前の作戦、プランAで行く。準備は良いな?」
「「大丈夫だ。問題無い」」
某漫画のようなセリフを言ってのけた2人に満足そうな笑みを浮かべるミグレー。

「行くぞ。開戦!」
その言葉と共にミグレーとパープルズが突っ込んできた。
ブラウンドは後方で杖を構え、何やら唱えている。

第一陣はミグレーさんが俺に、パープルズがフェブアーさんに向かう。
「王子、命を頂戴させていただく。五ノ型、氷蝶一閃」
「僕はまだ死にませんよ?三ノ型、白薔薇」

ミグレーは、白薔薇を真正面から受けた。
恐らくその程度では死なないと思っているのだろう。
だが甘いな。俺がこの技を発動する目的はそれじゃない。
光の白い薔薇が咲いた隙を見計らい、指輪を掲げる。

「みんなを守る大きさにっと。結界!」
指輪から虹色の光が放出され、三英傑以外の全員を囲むように展開した。
先の戦いでも活躍した指輪結界である。

フタンズさんには本当に感謝しかないよ。
これが無かったら俺は何回死んでいたことやら。
しかも白薔薇の光なら、最終奥義の六ノ型を打たないと壊れない強度になる。
ミグレーの氷蝶一閃も結界に阻まれ、俺たちには届かない。

「チッ、結界か。しかも6色ときた。これじゃパープルズがやられるわけだ」
悔しそうに呻いているうちに、騎士たちが結界内から一斉攻撃を仕掛けていく。
5人からの攻撃にたじろぐミグレー。しかも相手には攻撃が届かない。
彼の体には生傷が増えていった。

パープルズも、結界を挟んで戦うフェブアーさんにはなすすべも無い。
こちらも順調に生傷を作り続けている。
ここでブラウンドの魔法が完成したらしい。茶髪が青白く光っている。

「結界なんて我の前ではないに等しい。結界無視!」
ブラウンドが杖をサッと振ると、結界が突如として消滅した。
しかし、指輪からは光が漏れ出し続けている。

は?何で結界が消えた!?俺は消そうという意思を持っていなかったのに!
この指輪結界は、壊されない限りは自分の意志で動かせる。
消そうと思えば消せるし、維持し続けようと思えば発動し続けるはず。

俺は今、消そうだなんて微塵も思っていなかったのに、結界は忽然と消えた。
だが、結界は今もしっかりと発動し続けている。
それは指輪から儚く漏れ出す6色の光から明らかだ。

ということは考えられるのは、魔力支配。
結界系の魔力が霧散するように作られた闇魔法か。
「我に眠る魔法の・・・キャア!」

思考は悲鳴が聞こえたことで中断され、俺は慌てて声がした方を向く。
そこでは、ミグレーがアスネお姉さまを剣で斬り裂いたところだった。
アスネお姉さまは腕をザックリと斬られ、床に崩れ落ちる。
傷口から流れ出る血が白と黒が混ざった床を赤く染めていく。

「えっ・・・」
あまりの衝撃に言葉が出ない。
というか、明らかに俺のせいだ。結界が破れたのなら、あちらはがら空き。
両親とお姉さまたちの距離は開いており、あいつは魔法を避けるプロ。
思考にふけっている暇があったらお姉さまたちを守ってあげるべきだったんだ。

「ちょっと・・・こっちに来ないでよ!」
無茶苦茶に腕を振り回すアリナお姉さま。ミグレーは顔を妖しく歪める。

次の瞬間、アリナお姉さまの膝が斬られていた。腕ではなく、膝。
何が起こったのか分からないまま、アリナお姉さまも地面に伏す。
その瞬間、俺の中で何かがプツンと切れる音が聞こえた気がした。

「力が欲しいかい?あいつらを潰せるような力が・・・」
言葉が脳に直接響いてくるようで、その声を心地よいと思うほどには思考が鈍っていく。
力が欲しいか?随分とバカバカしい質問をしてくれるな。
欲しいに決まっている。現在の俺の力じゃあいつらには叶わない。

「そんなこと聞くまでもない。力がほ・・・」
「リレン王子、指示を。この者たちはどうします?捕らえますか?殺しますか?」
あれ、何か聞き覚えのある声が響いてくるなぁ。
だが、脳に直接響く声が思考にストップをかける。

「もう一度聞くよ?圧倒的な力が欲しい?」
「当たり前だ。力がほ・・・」
「リレン王子!」
フェブアーさんの叫び声にハッと我に返る。

見れば、お姉さまたちは両親の手によって治癒されており、ミグレーは捕縛されていた。
フェブアーさんの横にも縄で縛られたパープルズとブラウンドが転がっている。
その脇には胸を張ってこちらを見つめる騎士が10人。
彼らが捕縛したのか。後でご褒美としてクッキーでもあげようかな。

――ってそうじゃなくて!こんな時まで脱線してどうするんだ!
「僕は今、どうなったの?脳に直接言葉が響いてくるようだったけど」
「ブラウンドの精神操作系魔法にかかりそうになっていました。お姉さまたちを傷つけられた怒りで我を忘れているところを突いたんでしょうね」
「あの時、お姉さまが傷つけられたのは僕のせいだって思って・・・そうしたら力が欲しいか?なんて聞かれるものだから・・・」
正直に話すと、フェブアーさんが大きなため息をついた。

「それなら簡単でしょう。精神操作系魔法は自分にマイナスのイメージを持っていれば持っているほどかかりやすいんです。リレン王子は、お姉さまが襲撃されたのは自分のせいだと感じていたらしいですから、力で脅せば効果は抜群。危なかったですね」
「かかったらどうなるの?やっぱり自我を失うとか?」
そう尋ねると、予想の斜め上の事実が突き付けられる。

「恐らく死んでいたでしょう。自我がありませんから、自害するように仕向ければ勝手に死にます。自分の手を汚さずに殺せるんですよ。コイツが使わないはずがありませんから」
俺の顔はきっと青くなっていたことだろう。
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