転生王子の奮闘記

銀雪

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第2章  魔法と領地巡りの儀式

『45、漆黒の歓迎会』

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銀の鎧ってことは冒険者が来ているのか。
もし正式な護衛なら金の鎧を着ているはずなので、簡単に見分けがつく。

セテンバ―の奴、ケチりやがったな。
王子なんてどうでもいいと思っているんじゃないだろうな。
不正が暴かれるとマズいから冒険者に殺させようと考えているのでは?と勘ぐってしまう。

カルスが銀色の光の近くまで馬車を寄せると、扉が開いて青髪の青年が顔を覗かせた。
10代後半くらいで、血気盛んな印象を受ける。第1印象は悪くない。
俺の姿を確認すると、臣下の礼を取った。

「冒険者ギルドドク郡支部所属、Aランクのハンルです。よろしくお願いします」
「そうなんですか。こちらこそよろしくお願いします」
ランクについてはよく知らないが、ラノベの場合、Aランクは相当強い。
こちらの世界と同じかどうかかは分からないが。

「ここから領主様の館までは10分程度です。そこまで僕たちが護衛を担当します」
「僕たちってことは他に仲間がいるんですね」
相手に軽くジョブを当ててみる。いるのならばなぜ顔を見せないのか。
良からぬことを考えている場合もあるし、用心しておくに越したことはない。

「ええ。今も周囲を警戒してもらってます」
ボーランに視線を送ると、軽く頷きながら小さく親指を立てる。
事実であることを確認した俺はハンルに向き合った。

「そうだったのですね。お仲間に負担を掛けさせるわけにもいかないので早く出ましょう」
「お心遣い、感謝いたします」
ハンルは深々と礼をすると、黒い馬に跨って先頭に向かった。

「それでは、僕が先導しますのでついてきて下さい」
馬車が動き出してから窓の外を見てみると、トパーズ色の髪をした男が白馬に跨っている。
あの人もハンルの仲間だろうか。

彼は周りの警戒はしてくれているんだろうが、前に目線が向くたびに怖い顔つきになった。
恐らくは、自分より年下のハンルがAランクだというのが気に入らないのだろう。
また面倒な事が起こりそうな気がして憂鬱になる。

「ねえボーラン、冒険者のランクってどんなのだっけ?」
一応、確認してみる。もしかしたら思い過ごしかもしれない。
というか、そうであって欲しいんだけど。

「ランクはEから始まってSまでだね。Aランクは上から2つ目だからかなり強いね」
ボーランが憧れに似た目線で虚空を見つめる。
これはダメだな。思い過ごしの可能性は無くなったに等しい。

「ありがとう。それにしてもついにドク郡に入ったんだね」
「本当よね。ここからは一瞬も気を抜けない旅の始まりだわ」
フローリーが気合を入れ直すように鋭い口調で言い切った。

会話が止まり、再び白馬の男を観察していると、急に馬車が止まった。
何事かと思っていると、「魔物の襲撃です!」というハンルの声が森に響く。

両脇が森かつ台地になっている狭い道だから、魔物の襲撃を受けやすいんだろうな。
敵からしてみれば、森だから潜みやすいし、台地だから頭に攻撃出来る。
襲撃してくださいと言わんばかりの道だ。

「リレン様、多分ですが危険度A程度の魔法使いがいます」
フェブアーの冷静な声が聞こえてきて、俺は固まった。
モンスターにはそれぞれ危険度というものが設定されている。
当然、ランクが上がれば上がるほど攻撃は多彩で強力になっていく。

ランクはDが最低で、C、B、A、Sの5段階。
冒険者と違ってEランクは無く、その分Dランクの幅が広い。
Aというのは、Aランクの冒険者が4人いて何とか倒せるレベルの魔物という意味だ。
フェブアーとハンルだけで倒せるのだろうか。

ちなみに、ここに来る前に戦ったジェネラルオーガはBランクらしい。
不安になった俺が馬車の窓から戦況を眺めると、高さ5メートルくらいの壁が出来ている。
その壁の上から魔物が次々と降ってきていた。

「倒しても倒してもキリがない。これを個人で出しているのだとしたらSランクじゃないか?」
「危険度ですよね。確かに。もう100匹は倒してますよ」
剣を振ったフェブアーが苦しそうに呟き、弓を持っているハンルがため息をつく。
彼らの前には、絶命した魔物の山が築かれていた。

「あれはおかしいわね。出て来る魔物が全て狂獣化しているわよ」
俺の横から戦況を見たマイセスが硬い声を出す。
魔物の目を見て見れば、どの魔物も目が真っ赤に光っている。
赤い目は狂獣化の合図であり、誰かに操られている証拠だとミラさんは過去に言った。

じゃあ、誰があんなに沢山の魔物を出したのか。
とある人物を視界に入れると、その人が杖を構えているのを見つけた。
杖の先から魔力を感じるため、魔法を使っていることは確定。

だが攻撃の魔法でもなければ回復の魔法でもないので、犯人であることが分かる。
俺は馬車を飛び降りると白馬の男の下に近づき、首筋に短剣を突き付けた。
男が持っていた杖をポトリと落とした途端、魔物の数が急激に減少していく。
思った通り、魔物はこいつが出していたようだ。

「どういうことだ?なぜ僕たちの馬車を襲撃した?ご丁寧に壁まで作って」
「ハンル・・・ハンルがいけないんだ!」
短剣を首に近づけると、男が怯えた表情で叫びだす。
しまいには馬を駆使して短剣を避けると、自らも剣を取り出してハンルに突っ込んでいった。

「この悪魔がぁ!今すぐドク郡から出ていけぇー!」
力任せの一撃を放つが、軽々しくフェブアーに跳ね返されて地面に転がる。
馬はハンルが落ち着かせ、壁に衝突は免れたようだ。
俺は2人を睨みつけながら毅然とした態度で馬車を指し示す。

「あなたたちはとりあえず御者席に乗って下さい。護衛の任はフェブアーに任せます」
「分かりました。早く領主館に着いちゃいましょう」
フェブアーは2人を担いで御者席に座らせ、自身はさっきまで男が乗っていた馬に跨る。
俺は手のひらに魔力を集中させた後、壁に向けて一気に放出した。

「忌々しい壁は壊れろ!破壊者の爆発ヴァンダル・エクスプローション!」
口に出すのも憚られるほどの恥ずかしい技名を叫ぶとともに、壁が爆発し道が復活した。

「凄い威力の爆発ですね・・・。王子は規格外なんでしょうか」
「あの壁には、儂の総魔力の3割を込めたのに、中級魔法で一発!?」
ハンルと男が呆れた声を出すが、聞こえないフリをして馬車に乗り込む。
そのまま馬車が進んで物々しい門が見えてきた頃、マイセスとフローリーが同時に叫んだ。

「「ストップ!右の森の中に負傷者が1人いる!」」
馬車は急停車し、俺は前に座っていたボーランと頭をぶつけ合った。

「「痛っ!」」
お互いに頭をさすりながら馬車から降りる。
旅を始めてからドク郡に着くまで、何回馬車を乗り降りしたことか。
色んなことがあるから、ちっとも事が進まないし。

「マイセスたちはどうやって負傷者がいるって分かったんだろう」
「多分、回復属性が強い人にのみ付与されるスキル、“怪我人サーチ”じゃないかな?」

怪我人サーチとは、怪我人が半径10メートルにいる場合、位置を知らせてくれるスキルだ。
光属性を使える人のうち、回復属性が強い人は無条件で付与されるスキルであり、魔力無しで発動したままにしておける。
ただし、怪我の程度までは分からないという。

降りた先ではカルスが1人の少女を担いでおり、マイセスが地面に布を広げている。
布の上に寝かされた少女は片足が無く、酷くやせ細っていた。

「この子、奴隷じゃないか。ほら、腕に模様が彫られているだろ?何で森の中なんかに・・・」
フェブアーが森の方角を眺めながら呟く。

「困ったわね・・・。部位欠損は私の魔法じゃ直せないのよ」
マイセスが頭を抱えた。

「我に眠る魔法の根源、魔力よ。彼に集いて血肉となれ。完全回復パーフェクトヒール
背後から詠唱が聞こえたかと思うと、少女の足が生えてきた。
信じられない光景に、俺を含む全員が言葉を失う。


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