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第3章 銀髪の兄弟と国を揺るがす大戦
『117、イルマス教の内乱(十三)』
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アラッサム王国の北に位置する大国、キーラン王国は近年稀に見る軍事大国だった。
剣と魔法を合体させる魔剣士を7人も抱えており、戦では引けを取らない。
そんな国がアラッサムに倒されただと・・・?
「キーランの英雄と言われてきたマースン=レッバロンはどうしたんですか?」
「討たれて死んだそうです。7人いた魔剣士は全員がアラッサムに討たれてしまいました」
俺たちにさらなる衝撃が走った。
マースン=レッバロンは、ドラゴンを退治したような魔剣士を先祖に持つ一家だ。
まさか・・・彼までもが討たれたのか・・・。
「しかし犠牲は多かったはずです。それにイワレスへの遠征が重なったということは・・・」
「本国の戦力は少ないはずだって言いたいのね。確かに良さそうだけど・・・」
フローリーは釈然としない表情を浮かべる。
いくら勝ち戦だとしても、ここまであからさまに戦力を少なくするだろうか?
残り3国がグラッザドに気を取られているからという面もあるだろうが・・・納得いかない。
何か罠が隠されている気しかしないんだが。
「行ってみる価値はありそうだな。本国を叩けばキーランの領地もゲットだぞ」
「確かに。今が攻め時です」
顔を輝かせるエーリル将軍の言葉にボーランが同意した。
室内にアラッサムに行こうという空気が満ち溢れる中、俺は窓の外を見つめながら呟く。
「とりあえずイルマス教を片付けないと。まずは敵の拠点の村に行こう」
「そうですね。さっさとイルマス教の内乱を処理しないとアラッサムなんか行けません」
フェブアーが頷いたが、残念ながらまったくの的外れである。
俺が言いたいのは冷静に考えろということなのだが、意図が伝わっていない。
「先ほど黒龍騎士から連絡がありました。どうやら最後の村を陥落させたそうです」
「じゃあ行きましょう。さっさと交渉をしたいです」
いつになく浮足立ったカルスに連れられ、俺たちは馬車に乗り込んだ。
もちろん後部座席には、敵の首謀者であるデーガン大司教とイワレスの王子がいる。
2人とも無言であり、気まずい時間が流れていく。
「お前たちはイルマスをどうするつもりなんだ?私が聞いても意味がないかもしれんが」
「きちんと復旧させますよ。最大限の支援はするつもりです」
黒い龍がグラッザドに現れているということから考えると、些かキツイかもしれないな。
自分の国の復旧が優先だしね。
「そうか、私は他国の介入を許しただけだったのだな。全く持って不愉快だ」
「ちょっと!何をしているんですか」
小太りのデーガン大司教はドアにつっかえそうになりながらも、馬車から身を投げた。
彼がどんどんと遠ざかっていく中、最後に見えた光景は血で染めたような真っ赤な鎧。
あれは・・・アラッサム王国の鎧か?
「まさか身を投げられるとは思わなかったな。しかもあの赤い鎧はアラッサムか」
「何が目的なんでしょうね。お姉ちゃんたちの国を滅茶苦茶にしておいて!」
フローリーが悪態を吐く。
重苦しい空気を纏ったまま、馬車は敵の拠点だった村にたどり着いた。
「すっごい光景だな」
「土魔法とかで補強されているから、村の原型を残していないじゃん」
ボーランもさすがに呆れているようだ。
村の周りは5メ―トルくらいの高さがある壁に囲まれてしまっており、入り口がない。
しかもツルツルだから登れそうにないし、まあまあ厄介な壁である。
「黒龍騎士の方が戦闘中に壊した壁がありますから、そっちに向かいましょうか」
「ああ。早くしようぜ」
マイセスとボーランも早くアラッサムに行きたいのか、いつもに比べて対応が雑だ。
だが、一体なぜ?
みんながアラッサムに行きたいという素振りを見せているが、メリットがあるとは思えない。
最悪の場合は成果なしとかいう悲惨な未来が待っているというのに。
兵士だって犠牲になるんだぞ。
一抹の疑問を抱えながら俺たちは村に足を踏み入れた。
そこで目に入ってきた光景は、黒龍騎士たちに介抱されるガリガリに痩せた村人たち。
村の中心部には食べ散らかした跡があるから、デーガン大司教のか。
「相変わらず酷い光景ですね。まったく・・・」
「これでこの人たちも助かるんだな。後は敵の総大将を捕縛すれば終わりなんだが・・・」
「逃げられてしまったものな。どうしようか」
マイセス、ボーラン、エーリル将軍の3人が必死になって策を練っていく。
そんな中、解決策を示したのはカルスだ。
「だからアラッサムに行くんですよ。これで立派な理由が出来たじゃないですか」
「そうか!それで行こう!」
フェブアーが興奮しながら頷き、他のみんなも納得したように大きく頷いている。
だから・・・どうしてみんなアラッサムに行きたがるのさ。ここまで来るとある意味凄いな。
「皆さん、ありがとうございました。心より感謝いたします」
「いえいえ。村の方々は酷い目に遭われたようで・・・。助けられて良かったです」
そして村長らしき人に対して誰も応対しようとしない。
いつものみんならしくないし、まるで誰かに操られているみたいだな。
「おもてなしの宴会をしますから、ゆるりとお楽しみください」
「いえいえ。そんなのはいらないですから復興を頑張って下さい。僕たちはすぐ出ますし」
ボーランが返答しようとする俺に被せるようにして拒否の意を示す。
あまりにも失礼な態度を見て、ついにイライラが爆発した。
剣と魔法を合体させる魔剣士を7人も抱えており、戦では引けを取らない。
そんな国がアラッサムに倒されただと・・・?
「キーランの英雄と言われてきたマースン=レッバロンはどうしたんですか?」
「討たれて死んだそうです。7人いた魔剣士は全員がアラッサムに討たれてしまいました」
俺たちにさらなる衝撃が走った。
マースン=レッバロンは、ドラゴンを退治したような魔剣士を先祖に持つ一家だ。
まさか・・・彼までもが討たれたのか・・・。
「しかし犠牲は多かったはずです。それにイワレスへの遠征が重なったということは・・・」
「本国の戦力は少ないはずだって言いたいのね。確かに良さそうだけど・・・」
フローリーは釈然としない表情を浮かべる。
いくら勝ち戦だとしても、ここまであからさまに戦力を少なくするだろうか?
残り3国がグラッザドに気を取られているからという面もあるだろうが・・・納得いかない。
何か罠が隠されている気しかしないんだが。
「行ってみる価値はありそうだな。本国を叩けばキーランの領地もゲットだぞ」
「確かに。今が攻め時です」
顔を輝かせるエーリル将軍の言葉にボーランが同意した。
室内にアラッサムに行こうという空気が満ち溢れる中、俺は窓の外を見つめながら呟く。
「とりあえずイルマス教を片付けないと。まずは敵の拠点の村に行こう」
「そうですね。さっさとイルマス教の内乱を処理しないとアラッサムなんか行けません」
フェブアーが頷いたが、残念ながらまったくの的外れである。
俺が言いたいのは冷静に考えろということなのだが、意図が伝わっていない。
「先ほど黒龍騎士から連絡がありました。どうやら最後の村を陥落させたそうです」
「じゃあ行きましょう。さっさと交渉をしたいです」
いつになく浮足立ったカルスに連れられ、俺たちは馬車に乗り込んだ。
もちろん後部座席には、敵の首謀者であるデーガン大司教とイワレスの王子がいる。
2人とも無言であり、気まずい時間が流れていく。
「お前たちはイルマスをどうするつもりなんだ?私が聞いても意味がないかもしれんが」
「きちんと復旧させますよ。最大限の支援はするつもりです」
黒い龍がグラッザドに現れているということから考えると、些かキツイかもしれないな。
自分の国の復旧が優先だしね。
「そうか、私は他国の介入を許しただけだったのだな。全く持って不愉快だ」
「ちょっと!何をしているんですか」
小太りのデーガン大司教はドアにつっかえそうになりながらも、馬車から身を投げた。
彼がどんどんと遠ざかっていく中、最後に見えた光景は血で染めたような真っ赤な鎧。
あれは・・・アラッサム王国の鎧か?
「まさか身を投げられるとは思わなかったな。しかもあの赤い鎧はアラッサムか」
「何が目的なんでしょうね。お姉ちゃんたちの国を滅茶苦茶にしておいて!」
フローリーが悪態を吐く。
重苦しい空気を纏ったまま、馬車は敵の拠点だった村にたどり着いた。
「すっごい光景だな」
「土魔法とかで補強されているから、村の原型を残していないじゃん」
ボーランもさすがに呆れているようだ。
村の周りは5メ―トルくらいの高さがある壁に囲まれてしまっており、入り口がない。
しかもツルツルだから登れそうにないし、まあまあ厄介な壁である。
「黒龍騎士の方が戦闘中に壊した壁がありますから、そっちに向かいましょうか」
「ああ。早くしようぜ」
マイセスとボーランも早くアラッサムに行きたいのか、いつもに比べて対応が雑だ。
だが、一体なぜ?
みんながアラッサムに行きたいという素振りを見せているが、メリットがあるとは思えない。
最悪の場合は成果なしとかいう悲惨な未来が待っているというのに。
兵士だって犠牲になるんだぞ。
一抹の疑問を抱えながら俺たちは村に足を踏み入れた。
そこで目に入ってきた光景は、黒龍騎士たちに介抱されるガリガリに痩せた村人たち。
村の中心部には食べ散らかした跡があるから、デーガン大司教のか。
「相変わらず酷い光景ですね。まったく・・・」
「これでこの人たちも助かるんだな。後は敵の総大将を捕縛すれば終わりなんだが・・・」
「逃げられてしまったものな。どうしようか」
マイセス、ボーラン、エーリル将軍の3人が必死になって策を練っていく。
そんな中、解決策を示したのはカルスだ。
「だからアラッサムに行くんですよ。これで立派な理由が出来たじゃないですか」
「そうか!それで行こう!」
フェブアーが興奮しながら頷き、他のみんなも納得したように大きく頷いている。
だから・・・どうしてみんなアラッサムに行きたがるのさ。ここまで来るとある意味凄いな。
「皆さん、ありがとうございました。心より感謝いたします」
「いえいえ。村の方々は酷い目に遭われたようで・・・。助けられて良かったです」
そして村長らしき人に対して誰も応対しようとしない。
いつものみんならしくないし、まるで誰かに操られているみたいだな。
「おもてなしの宴会をしますから、ゆるりとお楽しみください」
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