転生王子の奮闘記

銀雪

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第3章  銀髪の兄弟と国を揺るがす大戦

『120、エピローグ 親の仇』

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王都の教会本部に着いた俺たちはツバーナと再会した。
襲撃者によるライフ・バーンで壊されたエントランスは綺麗に修復されている。

「ツバーナ、お疲れ様」
「ありがとう。幸いなことに王都に敵は現れなかったわ。だから修復の手伝いをしてたの」

呑気に笑うツバーナだが、お兄さんが背後にいるのを確認すると息を呑んだ。
明らかに怯えた表情をして後退していく。

「どうしてあなたがここにいるのよ・・・。やめて・・・もう私を襲わないで帰ってよ!」
「は?何を言っているんです?」

訝しげな声で尋ねるお兄さんだが、ツバーナは恐怖で顔が引き攣っている。
トラウマを刺激してしまっているみたいだな。

「ツバーナ、一旦落ち着いて。何があったのかを細かく説明してよ」
「分かったから私を襲わないで!」
「いい加減にしてくれませんか。誰が親の仇であるあなたを襲おうと思うんです」

怒ったように言うお兄さんの言葉に触発されたのか、ツバーナは近くの椅子に座った。
そして一息ついてから口を開く。

「私は4年前に人間界に来たことがあるの。その時に中年貴族に襲われてしまった」
「まさか・・・確かにうちは元貴族だけど・・・」
「幸いにも死に者狂いで逃げ出したから被害は無かったんだけどね・・・。従者を失った」

悲しげに瞳を揺らしながらペンダントを見せる。
ポケットに入っていたそれは、傷がところどころについていて痛々しい。

「このペンダントを残して中年貴族に斬られてしまった。私がどれだけ悔しかったか!」
「それは・・・でも、そいつが両親だったかは分からないですよね」

勝ち誇ったような笑みを浮かべるお兄さんに、フローリーが射貫くような視線を送った。
黙って聞けという副音声が聞こえてくるようだ。

「そして従者を失ってから1年が経ったとき、魔導具の発注依頼が入ったんです」
「まさか・・・中年貴族からか?」

ツバーナの憎々しい顔からそう尋ねると、彼女は大きく頷く。
どこまで図々しい奴なのだろうか。

「従者の仇に高性能の魔導具なんか渡すわけないでしょう。だから不良品を渡したの」
「今までに不良品を渡した人は何人いるんだ?」

自分の両親なのかを確かめる意図での質問だろうが、ツバーナは気分を害したようだ。
不機嫌そうな声で吐き捨てる。

「私を襲った中年貴族だけに決まっているでしょ。頻繁に信用を失う行為はしないわ」
「やっぱりお前が親の仇じゃないか!」
「まさか暴発して死ぬとは思っていなかったわよ!ちょっと効果が下がるだけだと・・・」

その点ではツバーナ自身も罪悪感を抱いているようだ。
しかし、不良品の魔導具に親を殺されたお兄さんはそういうわけにはいかない。

「ふざけるな!あんな物を渡しておいて!」
「あなたのお父さんが私を襲ったのが全ての始まりでしょ!?全て私のせいにしないで!」

互いにメンチを切り合って睨み合う。
緊迫した空気が流れる中、伝令の兵士が慌てた様子で入ってきた。

「報告します。グラッザド国王から集合の勅命が入りました。すぐに馬車にお乗りください」
「分かった。お兄さん、御者をお願いします」
「なぜですか?僕は彼女と話し合っている最中じゃないか。答える義理は無い」

要求を突っぱねたお兄さんだったが、俺の背後から来た人物に気づいて冷や汗をかく。
見てみると、イルマス教国騎士団長のベーラ=リックラントだ。

「元騎士団のレンド=マーナス。お前は勅命という言葉を聞いていなかったのか?」
「いえ・・・聞いていました」
「この場合、遅延行為としてお前が罰せられるぞ。そうなりたくなかったら・・・」

ベーラさんが圧力をかけると、弾丸のごとき速さでお兄さん――レンドが外へ駆けだす。
1分も経たないうちに馬車の用意が出来たようだ。

「リレン王子御一行、ベーラ騎士団長、馬車の用意が出来ました。どうぞお乗りください」
「よし。リレン様も早く行きましょう」
「分かりました。それと・・・ベーラ騎士団長も一緒に行くんですね」
「ああ、今回の事件はまだ裏がありそうだからかな。各国の騎士団長に召集がかかった」
「そうなんですか・・・」

イルマス教国の内乱では終わらず、他国まで巻き込んだ陰謀は今も進んでいる。
そう考えると危機感が襲ってくるな。

馬車が進み始めた時、ツバーナが通話できる石を使って何かを話しているのに気づいた。
表情からして・・・あまりいい話ではなさそうだ。

「エルフ古代の龍魔法が復活した!?神樹の幹に隠していた石碑が盗まれて!?」
「龍魔法って・・・ボーランたちを操っているっていう・・・」

素っ頓狂な声を上げたツバーナの言葉を拾ったフローリーが目を鋭くする。
同時にレンドが静かな声を漏らした。

「エルフの古代魔法と言われる龍魔法は効果絶大だったため、ずっと人間が狙っていた」
「だから龍魔法を悪用されるのを防ぐために、エルフは山の奥に籠もったんだ」

補足したベーラさんの声は苦い。
今回の事件は人間界だけでなく、エルフの国までも巻き込んだ大騒動かもしれないのだ。
その気持ちは痛いほど分かる。

「まあ、だから僕が親の仇になかなかたどり着けなかったんですけどね」
「なるほど。首謀者はデーガン司教でしょうか?」

俺の問いにベーラさんとレンドの2人が首肯の意を示した。
グラッザド王国の黒龍の件もあるし、心配事は全く尽きないんだよね。
俺は小さく息を吐いて空を見上げた。

どこまでも透き通ったような青い空の向こうには、灰色の雲がかかっている。
その光景に不吉な予感を感じずにはいられなかった。

後にグラッザド王国の転機を述べるとしたらまさにこの時がそうだったのだろう。
この後、国を取り巻く環境は急変していく。
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