雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第十四章:取り敢えずで世界を救う

第百八十九話:高め合う勇者達と、お嬢様

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 ところで、ドラゴン達を倒す旅をしている間、別に英雄候補達はただ見ているだけではない。
 強い魔物が居る様なら連携を高める為にもそれを討伐に向かうし、メンバー間でも何度も模擬戦を行い互いを高め合っている。

 現状、一人の英雄を含めた英雄候補で一番強いのは鬼神の二番弟子オリヴィアだ。
 唯一レインから一本取った実力はやはり少しばかり抜けていて、次に強いクーリアを相手に素手で向き合ってちょうど互角位。
 レインとの戦闘で極限まで高められた集中力で、今も尚成長を続けている。

 クーリアはヴィクトリアの再来と呼ばれるだけあって、自身の身長程もある巨大な大剣を振り回し、エリーの良き手本となっている。
 クーリアとディエゴは同じ位。
 ディエゴは特段身体能力も他の英雄候補と比べて高くなく、むしろ低い。別に力で圧されるわけでも速さに翻弄されるわけでもない。
 それでも勝てない。絶対回避の能力は異常と言えるし、それがなかったとしても歴戦の勇者。熟練の確実な手に、攻めることも難しければ守ることすら技術が必要とされる。
 伊達にレインのライバルを名乗ってはいないと言える。

 そしてライラとナディア。
 自身の新しい能力に気づいてからは徒手空拳、手に武器を持たず、手首から前腕を肘の手前まで覆う篭手を付けるのみの格闘戦にシフトした。
 対してナディアは小剣の二刀流。
 相変わらず全くの互角。正々堂々正面から篭手で相手の攻撃を受けながら拳を突き出すライラに、いかにして裏をかくかで勝利をもぎ取ろうとするナディア。
 まともに戦わない相手にいらいらを募らせるライラと、裏をかけずやりづらそうなナディアはまあ、それなりに良いライバル関係なのだろう。

 彼女らにルークとイリスが続く。
 ルークの新しく開発した空間魔法はまだ発展途上なものの、サニィの転移とは全く別の移動魔法を生み出した。レインの剣技をヒントに、より短時間でより少ないマナで、ルークは短距離転移を可能とした。
 そんな少年と、魔法戦士のイリスは同じ位の強さだ。
 イリスはルークの魔法に身体能力で対応し、短い呪文で魔法を使うと、ほんの少しルークの隙を誘う。その魔法も、ルークにとっては更に大きな魔法で打ち消してしまえるので、イリスもなかなか手が出せない。かと言って、イリスの身体能力に対応する為にはそこまで巨大な魔法は使えない。
 単純な戦士でないからこそルークも工夫が必要となり、イリスも身体能力だけでは中々手が出せないということで、二人は上手いこと高め合っていると言える。

 そして二人に少しだけ劣るのがエレナだ。
 エレナは誰にでも勝つ可能性がある。魔法が見事にハマればオリヴィアであっても苦戦を強いられるのが現状。しかし、安定感に欠ける。イメージに全てを頼る彼女の魔法はその日の精神状態にかなり左右されることになる。彼女は非常に図太いが、それでもほんの少しの差によってその魔法の威力は随分と増減する。
 結果的に、この位置と言うわけだ。

 そして鬼神の一番弟子エリー。
 彼女は単純に、幼すぎる。戦略も能力も申し分無いものの、その身体能力も骨格も、全く出来上がってはいない。体格も歳の割には小柄ということで、余り無理をさせられない。
 とは言え、その可能性は現状でも彼女より強い誰しもが認め、危機感を抱くほど。
 彼女と模擬戦を行って、ぎょっとしなかった者など一人も居ない。
 相手の心を読み取り先回りする上に、その時の武器の選択も予想がつかず、大事そうに使っている武器があるかと思えばそれを突然放り投げたりもする。
 これが子どもだから出来ることなのか、そうでないのか、ともかく、その戦いっぷりは流石はレインの弟子だと誰しもが認めてしまう。

 最後に、戦闘員でないアリエルを除けば最も弱いのがマルスだ。
 別に不老不死にあぐらをかいているつもりも、鍛錬を怠っているわけでもない。
 それでも、単純に不老不死の能力に割かれる体内のマナ量が異常であって、それ以上強くなることが敵わない。170年以上生きていて、彼の肉体は最盛期に保たれていて尚、限界はどうしようもなく、ここなのだ。

「英雄マルス、お主と妾は、別に戦うのが使命ではなかろう」

 アリエルはかつての英雄に、そんなことを言う。
 別に、弱いからやめておけと言っているわけではない。
 その活躍は誰しもが認めるところであるし、最も犠牲の少ない魔王戦と歴史に残っていて、その内容の凄惨さを聞けば誰しもが敬意の念を忘れることは無い。
 だからこそ、それを知ったアリエルは、単純に戦って欲しくない。
 呪いに罹った者程ではないにせよ、致死量の攻撃を受けた瞬間、マルスは苦悶の表情を浮かべる。
 だからこそ、アリエルは、他の英雄候補達は、レインとサニィは、マルスに戦って欲しくはないと考えている。

「僕はね、アリエル君。戦いたくなったのさ。本当に強い勇者を見て、心が疼くと言うのかな。もしもあの時黒の……いや、それは置いておいたとしても。どうしても、今回は参加させて欲しいと思ったんだよ」
「妾の力は、お主が戦うことを良しとしておらん」
「それでもね。僕さえ居れば、随分と楽になるはずだから」
「むぅ……」

 女王だからこそ、一人の犠牲で多くが助かると言われれば、それを軽々しく否定は出来ない。
 ここでは元の立場を忘れろと言われても、指揮官である以上は、そこだけは変わらない。
 ましてや、マルスは不死。

「難しい、けど、お主の意志に任せる。でも、あれだから。妾が嫌だって言ったら聞いてね、英雄様」

 だからこそ、アリエルは女王でも指揮官でもなく、一人の英雄ファンとして、わがままを言うことにした。

「分かりました。お嬢様」

 それには流石の英雄も、こう答えるしかなかった。
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