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第三章:王妃と幼馴染
第五十二話:まるで英雄の様な
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「さいきんくらうす、ごきげんだね」
ベラトゥーラの首都ハーフグラスまであと数日というところで、マナはふとそんなことを言い始めた。
言われてみれば、確かにそうかもしれないと思う。
マナの正体がなんなのかと疑っていた頃は随分とその扱いにも難儀しながらの旅だったものが、王都で母の伝言を受け取ってからは随分と気が楽になった。
それだけでも充分楽になったと言うのに、サラの奮闘の様子を見てからは何やら自分の精神にも活気が出てきたのではと感じる。
苦手だなんだと言っても、他国に住みながらも月に一度は顔を合わせ続けてきた幼馴染だ。
そんな彼女があれだけ死に物狂いで努力している様子を見てしまえば、クラウスのやる気が出るのも当然と言うもの。
「ははは、そうかもしれないね」
相変わらず残っている素振りを続けながら答える。
今はマナが歩いているので、両手で素振りをしている。
どんな理由があろうがマナを守ると決めたので、状況に応じた形をとったその素振りは、抱いている時には左右を均等にしている。
時にはマナをおんぶしながら両手で素振りをしたりと、マナを気遣いながらバランスを取る訓練も兼ねていて、振り落とさない様に動くためにまだ無駄があるのだと、中々に新しい発見があることにも気づく。
本来はペナルティであるはずの素振りも、今は幼馴染の影響かそれ程苦痛ではない。
そんな感覚でいることが、また何処か面白かった。
「サラが頑張ってるのを見ると、僕も負けてられないなって思っちゃうんだよね」
マナに本心を隠していても仕方ない。
別に子どもだから分からないと馬鹿にしているわけではないけれど、クラウスは素直に言う。
霊峰を発ってからここまで、クラウスは途中の村や町に積極的に寄ってはちょっとした手助けをしてきた。
それは単なる自己満足で、かつての英雄レインとサニィの様にはいかなくとも、エリーやオリヴィアの様に魔物を倒して回ることで少しだけ世界を救ってみたいという思いがあったから。
勇者の出生率が下がっていると聞いて、サラの努力を目の当たりにして、どうやらそんな憧れの心に火が付いてしまったらしい。
積極的に人と関わって、戦力の整って居ない村等にはマナを預けると周囲の魔物を殲滅したり、戦力が整っている所には農作業でも手伝ってみたり。
幸いにもマナもブリジット姫とぼうけんをした辺りから人への恐怖心もそれなりに和らいだようで、クラウスが離れてもいい子にしてくれているらしい。
実はマナと出会う前は、クラウスはアルカナウィンドまでの道中はずっと野宿で行こうと考えていた。
勇者と出会えば怖がられることが非常に多いし、動物にも逃げられてしまう。
そもそもクラウスは、魔物から積極的に襲われることが比較的少ない存在だ。
それらを総合して考えれば、野宿を繰り返しずっと一人だけで旅をするのが最善だと思っていた。
サラに付いてこられると困ったのも、魔法使いであるサラに野宿をさせるのは危険だったから。
マナ程に小さいなら抱いて寝れば咄嗟の時にでも簡単守り通せるが、サラとなると流石にそうはいかない。
それならば町に寄って宿を取れば良いのだけれど、宿を取るために町に入る度に怖がられるかもしれないと気を遣う位ならば、一人で野宿の方が気が楽だった。
それでも今は、積極的に町に寄っては手伝っている。
そしてそれから来る充実感は、紛れもなくマナとサラのおかげなんだろう。
「もちろんマナのおかげでもある。マナに会わなかったら街に入る事すら無かったかもしれないからね、ありがとう」
そう言いながら手を止めて頭を撫でれば、目を細めて嬉しそうに微笑んで言った。
「くらうすとさら、まなのぱぱとままになる?」
それはちょっと早い気もするけれど。
「ははは、それも悪くないかもね」
マナのママ探しとやらがそれで良いならば、それも良いかもしれない。
その程度には、クラウスはサラの修行に感銘を受けていたし、マナの事も可愛い娘の様に思い始めている。
そこで、思う。
マナはきっと、鬼神レインにとっての英雄エリーと同じだ。
今はエリーと違って戦闘の才能なんかはまるで見せず、ただの幼子の様子だけれど、もしも自分が魔王の呪いとやらに罹っていれば、マナにそれを伝えることは出来ないかもしれない。
母が伝えた絶対に守り抜けという言葉から、マナは確実にこの世界にとってなんらかの鍵になる存在だ。
しかし、なんと言うべきか守る理由は、母に命じられた義務からというわけではない。
どちらからと言えば、守っても良いのだと許可を与えられた様な、そんな感覚。
強い魔物の相手は基本的に絶対にさせず、過保護に育てたといわれる英雄エリーが、クラウスにとってのマナにとても近い。
となれば、聖女サニィはサラか?
と考えて、中々に乗り気な自分が面白く感じる。
少し前までは苦手だとか思っていた筈なのに、マナに言われたからといって乗り気になるものか、だとか、少し努力を見ただけでここまで触発されるのか、とか、英雄に憧れ過ぎな自分とか。
そんな全てを含めて、クラウスは思わず声を出して笑ってしまう。
「どうしたの?」
「ははは、いや、この旅を始めて良かったと思ってね」
「まなに会えたから? さらががんばってたから?」
「両方かな。ともかく、なんか気分が乗ってきたから、首都までダッシュしよう」
やはり以外と鋭いマナに正面から接し続けると次第に恥ずかしくなってくるかもしれないと思ったクラウスはそう提案すると、マナをおんぶの体勢に持って行って、首都へと走りだすのだった。
まだ、素振りは道中で追加されたものも含めて28万回残っている。
ベラトゥーラの首都ハーフグラスまであと数日というところで、マナはふとそんなことを言い始めた。
言われてみれば、確かにそうかもしれないと思う。
マナの正体がなんなのかと疑っていた頃は随分とその扱いにも難儀しながらの旅だったものが、王都で母の伝言を受け取ってからは随分と気が楽になった。
それだけでも充分楽になったと言うのに、サラの奮闘の様子を見てからは何やら自分の精神にも活気が出てきたのではと感じる。
苦手だなんだと言っても、他国に住みながらも月に一度は顔を合わせ続けてきた幼馴染だ。
そんな彼女があれだけ死に物狂いで努力している様子を見てしまえば、クラウスのやる気が出るのも当然と言うもの。
「ははは、そうかもしれないね」
相変わらず残っている素振りを続けながら答える。
今はマナが歩いているので、両手で素振りをしている。
どんな理由があろうがマナを守ると決めたので、状況に応じた形をとったその素振りは、抱いている時には左右を均等にしている。
時にはマナをおんぶしながら両手で素振りをしたりと、マナを気遣いながらバランスを取る訓練も兼ねていて、振り落とさない様に動くためにまだ無駄があるのだと、中々に新しい発見があることにも気づく。
本来はペナルティであるはずの素振りも、今は幼馴染の影響かそれ程苦痛ではない。
そんな感覚でいることが、また何処か面白かった。
「サラが頑張ってるのを見ると、僕も負けてられないなって思っちゃうんだよね」
マナに本心を隠していても仕方ない。
別に子どもだから分からないと馬鹿にしているわけではないけれど、クラウスは素直に言う。
霊峰を発ってからここまで、クラウスは途中の村や町に積極的に寄ってはちょっとした手助けをしてきた。
それは単なる自己満足で、かつての英雄レインとサニィの様にはいかなくとも、エリーやオリヴィアの様に魔物を倒して回ることで少しだけ世界を救ってみたいという思いがあったから。
勇者の出生率が下がっていると聞いて、サラの努力を目の当たりにして、どうやらそんな憧れの心に火が付いてしまったらしい。
積極的に人と関わって、戦力の整って居ない村等にはマナを預けると周囲の魔物を殲滅したり、戦力が整っている所には農作業でも手伝ってみたり。
幸いにもマナもブリジット姫とぼうけんをした辺りから人への恐怖心もそれなりに和らいだようで、クラウスが離れてもいい子にしてくれているらしい。
実はマナと出会う前は、クラウスはアルカナウィンドまでの道中はずっと野宿で行こうと考えていた。
勇者と出会えば怖がられることが非常に多いし、動物にも逃げられてしまう。
そもそもクラウスは、魔物から積極的に襲われることが比較的少ない存在だ。
それらを総合して考えれば、野宿を繰り返しずっと一人だけで旅をするのが最善だと思っていた。
サラに付いてこられると困ったのも、魔法使いであるサラに野宿をさせるのは危険だったから。
マナ程に小さいなら抱いて寝れば咄嗟の時にでも簡単守り通せるが、サラとなると流石にそうはいかない。
それならば町に寄って宿を取れば良いのだけれど、宿を取るために町に入る度に怖がられるかもしれないと気を遣う位ならば、一人で野宿の方が気が楽だった。
それでも今は、積極的に町に寄っては手伝っている。
そしてそれから来る充実感は、紛れもなくマナとサラのおかげなんだろう。
「もちろんマナのおかげでもある。マナに会わなかったら街に入る事すら無かったかもしれないからね、ありがとう」
そう言いながら手を止めて頭を撫でれば、目を細めて嬉しそうに微笑んで言った。
「くらうすとさら、まなのぱぱとままになる?」
それはちょっと早い気もするけれど。
「ははは、それも悪くないかもね」
マナのママ探しとやらがそれで良いならば、それも良いかもしれない。
その程度には、クラウスはサラの修行に感銘を受けていたし、マナの事も可愛い娘の様に思い始めている。
そこで、思う。
マナはきっと、鬼神レインにとっての英雄エリーと同じだ。
今はエリーと違って戦闘の才能なんかはまるで見せず、ただの幼子の様子だけれど、もしも自分が魔王の呪いとやらに罹っていれば、マナにそれを伝えることは出来ないかもしれない。
母が伝えた絶対に守り抜けという言葉から、マナは確実にこの世界にとってなんらかの鍵になる存在だ。
しかし、なんと言うべきか守る理由は、母に命じられた義務からというわけではない。
どちらからと言えば、守っても良いのだと許可を与えられた様な、そんな感覚。
強い魔物の相手は基本的に絶対にさせず、過保護に育てたといわれる英雄エリーが、クラウスにとってのマナにとても近い。
となれば、聖女サニィはサラか?
と考えて、中々に乗り気な自分が面白く感じる。
少し前までは苦手だとか思っていた筈なのに、マナに言われたからといって乗り気になるものか、だとか、少し努力を見ただけでここまで触発されるのか、とか、英雄に憧れ過ぎな自分とか。
そんな全てを含めて、クラウスは思わず声を出して笑ってしまう。
「どうしたの?」
「ははは、いや、この旅を始めて良かったと思ってね」
「まなに会えたから? さらががんばってたから?」
「両方かな。ともかく、なんか気分が乗ってきたから、首都までダッシュしよう」
やはり以外と鋭いマナに正面から接し続けると次第に恥ずかしくなってくるかもしれないと思ったクラウスはそう提案すると、マナをおんぶの体勢に持って行って、首都へと走りだすのだった。
まだ、素振りは道中で追加されたものも含めて28万回残っている。
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