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番外編
ひより
仙波は何も言えなかった。
まさか、自分に優しい時雨が番を捨てたαだったなんて思いもしなくて。
「すみません。Ωの仙波さんにこんな話するなんて」
「……何で」
仙波は同じΩとして、問いかけずには居られなかった。
「……。面倒くさくなったんです。俺にだって仕事がある。それが発情期の度に休まなきゃいけない。休み明けはいつも冷たい目で見られて……。」
番だった人のことを考えると、何も言えなかった。
最も信頼している相手に、そんなふうに思われていただなんて考えると胸が張り裂けそうで。
「今、その人は……?」
「別の人と暮らしてます」
「……無事、だったんですか」
「……今は無事ですが、別れた時は本当に大変だったみたいです。俺があんなことをしたから。」
恭介から伝えられた別れてからの紬の事。
辛くて苦しくて、一人で抱えられるものではなかったはずなのに、それでもお腹の中にいる子供を守るために必死だった。
一度も時雨に連絡をしてくることなく、誰に助けを求めるわけでもなく、たった一人で。
恭介という人に出会えたことで紬も子供も無事に生きている。
恭介がいなければ、時雨は二人を死なせていたかもしれない。
「……すみません。俺は最低な人間なんです。なのに……誰かの手を借りるとか、本当はそんな資格もないんです。」
「……」
汚い家で埋もれるように死んでいくのがお似合いだ。
時雨が自虐気味にハッ……と笑えば、仙波はゆっくり立ち上がった。
「きょ、うは……これで、失礼します。」
「……はい。ありがとうございました」
仙波は何も言わなかった。というより、何も言えなかった。
時雨のことを優しい人だと思っていたから。
Ωのことを理解してくれている人なのだと、嬉しかったから。
仙波は静かに時雨の家を出る。
外は少し肌寒かった。
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