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第95話

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 彼は驚いて目を見開いた。


「ごめんなさい……ちょっと、部屋に戻ります……。」


 席を立って部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。
 どうしてもネガティブになる。凪さんはそういうつもりで言ったんじゃないのに。


「俺のバカ。ネガティブやめろ……」


 考えれば考えるほど嫌な方向に向かってしまう。
 どうして三森に会ってしまったんだ。声をかけられた瞬間に逃げればよかった。
 そうすればバレなかった。すぐに行動できなかったのは何でだ。


「何で、こんな思いをしないといけないんだ。」


 ベッドに拳を叩きつける。消化できない悔しさに涙が止まらない。


「やっぱりあの時、飛び降りればよかったのかな……。」


 ぼそっと呟いて体から力を抜いた。
 今日の出来事に疲れたのか、次第に襲ってきた眠気に耐えれずにそっと目を閉じる。


 ──コンコン


 ノックが聞こえて、今にも眠りそうだった意識が浮上した。



「真樹、入ってもいい?」
「……はい」


 寝かしていた体を起こして、ドアの方を見る。
 凪さんが静かに入ってきて、俺の隣にそっと腰かけた。


「ごめん、ちょっと考えたんだけど……」
「うん」


 泣いて、眠りそうだったからか、幾分か気持ちが落ち着いた。
 彼の話す言葉に耳を傾ける。

  

「真樹にさっき、仕事のことを言ったけど、勝手に辞めるっていう選択肢を作ってしまったこと、反省してる。」
「……」
「真樹は自分が必要ないって思われてるって、思ったんじゃないかな。」
「……うん」
「それで、悲しませてしまったんだよね。本当にごめん。」



 悲しかった。唯一の頼れる人から突き放された感覚は、オメガになったと宣告された時に似ていた。


「……すごく、寂しい気持ちだった。」


 彼を責めたいわけじゃない。彼にも彼の考えがあって、俺のためを思って言ってくれたことだと理解はしているから。


 ああなんだか、随分女々しい。


「ごめんなさい。責めたいわけじゃなくて……。ああもう、なんでこんな事言ったんだろ……。」
「いや、俺が軽率だった。」


 シーン、と静まり返る部屋。
 ダメだ、空気を変えないと凪さんが自分を責めてしまう。
 勢い良くパンっと自分の両頬を叩いた。
 彼は驚いて俺を見ていて、俺は表情を作る。


「ごめんなさい!凪さんは悪くないので、自分を責めないでください!」
「……頬、痛くない?」
「大丈夫!」


 口角を上げる。頬がヒリヒリして痛い。
 凪さんも無理矢理作ったような微笑みを見せてくる。


 彼との間に少しだけ溝ができた気がした。
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