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勇者の勇者による勇者の自覚

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 新月は人を不安にさせるが、こんな不安は初めてだ てか最後にしたい

 鼻息荒くカウンター席に腰を下ろすというか肉を置いたようにギシっと椅子が悲鳴を上げた。
 ジト目の元美女フェロモンの塊女は席を後ろのボックス席に移動 勿論、剣士もセットで

肉、いやいやぽっちゃり姉さんは横目で見つつまたもや鼻息荒く鳴らす 子豚さんですか?お客様?

「お客様の言われたとおり、私が店主ですし、もと勇者ですよ」
ようやく顔をこちらに向けたよ お客様。
「店の名前知らないからね。探し回っちゃって!」あっちこの酒場で聞きまくり食べまくりしてきちゃったよ!がははと笑う。にこにこ笑うと愛嬌のある顔だちだが残念ながら表情筋にもお肉がついて可愛い子豚ちゃんとしか今はわからない

「なんて呼べばいい?」マスターで結構ですよ。今の職業ですからね。で お客様は踊り子さんですか?
お?さすがに分かるよね~!でもさっきまでの店の奴らは人をタダのデブ扱いでサァ苛々したよ。そして笑う ドリンクですか?食事はもうよろしいですか?
なんか疲れたから軽くつまめるものと炭酸系頂戴 畏まりました

 奥のボックス席と纏めてツマミを用意し(因みに角の店の生ハムとマスタード、トマトをサンドイッチにした)
元踊り子さんに先にお出しし、ボックス席へ おい つまみ食いするなら店変えろ!目で伝え 手のひらひらひらするな

カウンターに戻ったら もう食べ終わっていた。いやはや 軽すぎたか 顔に出さないように聞いて見ると流石に食べる方はもういいらしく 同じドリンクをおかわりだけした

一口飲んで 何か思いつめたようにまた一口飲む

「お客様、私に何か聞きたいことがあるのでしょう?」ここは別れと出会いがある酒場です わざわざ探して来て頂いたようですし 答えれることならお応えしますよ?どうぞ 

来た時とは違い、オドオドと顔を上げて見つめてくる 
「勇者って自分で勇者て分かるものなの?」なんとストレートな質問
心なしか店が静かな気もしますが あえてスルーで
「不躾すぎるよね。いやぁ私の幼馴染がね勇者になるんだって張り切ってサァ」笑い出すが乾いた笑いしか出てこない
んでね、ここに一昨日ようやく着いて、王宮に行ったらね、勇者は王宮に部屋を与えられてひと月準備と手続きしてから魔王やら倒しにいくと伝えられて私はほっぽり出されたんだけど
あ、分かってるよ。一緒の扱いなんてなんて期待は勿論してないし、私らの村にもそれぐらいの話は聞いてたしね

まあ、幼馴染と村からでてきてかなりお上りさんなのは自覚はあったんだ もちろん 
『勇者が集まる』て事もね 頭では理解してた…ん だけどさぁ 

言いたいことは分かる。全世界から自称勇者が集まるのだ。一様、年齢制限があり(前王様が余り子供が闘いに行くのは良くない。最低限の学業を収め少しでも家族と過ごしてからの方がいいとの考え)最低年齢は11歳からになっている 
しかし、田舎の方に行くと出生届の提出自体が雑になり兄弟が多い家庭だと勉強より労働の振り幅が多く実際年齢より頭が幼い子も多い。

 ひと月準備と手続きとは建前で本人に勇者で本当にいいのだな?覚悟はあるのだな?と最終確認みたいなトコもあるし、周りの 俺こそは勇者だぜ!勇者ったら勇者だぜ!と意味なく粋がってる集団に放り込まれ周りを敵とみるか仲間と感じられるかを試されている

 おそらく、お客様の幼馴染の勇者は、田舎で勇者はあんたしかいない!勇者ったら勇者!と洗脳され送り出され 人の多い街、王都で勇者の集団を目の前にして怖気付いたのだろう

よくある事だ だか それを口に出すのは何か答えが違う気がする

「勇者が勇者と言い切れる理由ですよね?」そうですね
あるのかい?そりゃあね 何にもなしで勇者てのはないですね。本人も納得なしで死地に向かわないでしょう。

 何か変な事を言いましたか?唖然としてますが?いや 命かけるって生温い表現だし美化しすぎでしょう

死にに行くんですよ。自分しか倒せないんですから自分も死ぬ事を知らないと分かってない人は勇者でもないし冒険者にもなれませんね ねぇ剣士さん 。話を聞いてたらしく頷いている。

そういえば 幼馴染とはいえあなたも冒険者として出て来たんですよね?
あなたも自覚は芽生えるんですか?踊り子さんだけでは倒せないですよ?ああ あなたは僧侶の免許お持ちでしたか 失礼しました。覚悟なければ免許は取れませんね。では踊り子けん僧侶なんですね

ボックス席の魔法使いは生意気とか小さく呟いている。魔法使いと僧侶は両方免許を取らないと名乗れない。学校か師について最低2年は勉強し、試験を受ける。もちろん 両方免許を取ることも出来るが倍以上の時間が掛かる可能性もあるので、ある程度の魔法量があれば半分の試験内容で免許を取得できる。

 踊り子も一種の免許が必要だ。師について勉強し、こっちは年数は関係なく師がOKを出せば踊り子と名乗れる。免許証の代わりに師から魔法のかかったアクセサリーを頂く。裏に師の名前と弟子の名前が刻印され一生身につける。

 生意気といったのは魔法使いも自分のスタイルに自信がありなので師について踊り子を目指したのだが師が特別厳しかったのか?踊りのセンスが無かったのか?身につかないまま1年頑張ったが最後に師と喧嘩し踊り子はパァになったのだ

 子豚ちゃんもといい、踊り子さんはよくみると左腕上部に腕輪が食い込んでいる。ハム見たくなって見た感じは痛そうだが魔法のアクセサリーなので血行が止まるとかはないらしい

 話を直ぐに脱線して申し訳ない

『勇者が勇者である証』は免許はない。冒険者の中で一番ゆるいポジションなのだ。だからこそ 誰もが勇者だし、勇者になれる。可能性がある

 話が戻りますがやっぱり本人の勇者て気持ちですね。

曖昧だね ため息しか出ないよ。自分に問いただしてもそれしかその時ないでしたしね 倒す瞬間にようやくストンときましたよ 勇者だったって

なんだい。倒すまでて長いね。そうですね。倒して初めて勇者かい?
なんせ 勇者の血じゃないと死なないですからねあいつはね。貧血になりましたよ

?そうかい?大変だったんだね もと勇者も。そんなに体力必要なんだね?
何だかんだときっとこのお客様は幼馴染の勇者を励ましながら行けるとこまで行くだろうと先を感じる
 残念ながら『勇者』ではなさそうだが

 納得してはないのだろうが 残ったドリンクを飲みきり帰っていった

帰り側にドアを開けて見送ると、耳元で囁かれた
勇者てみんな目が違うのかな?なんかマスターて瞳孔がなんかね 違うね

あの肉に包まれた身体がするりとドアの隙間から出て行く 
なんとスレンダーな美女となって 。
踊り子としてはむしろ肉がたりない場所が増えたが色気がうちの魔法使いと別次元から現れた感じだ。
私の幼馴染はこんな身体が好きだから太ってやんなきゃいけなくてと、踊るように路地でターンする 濃い花の香りが周囲に広がる何処かで鈴の音がした

路地の角を曲がる姿はやはり子豚ちゃんで悪い夢を見た気がしてドアを閉めた
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