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イエノオキテ
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「アイリス・サトクリフだよ。これは、とりあえず「怖い話」と聞いて一番初めに思いついたものなんだ……ところどころ曖昧なんだけど、その辺りは想像で楽しんでね」
ある郊外の住宅に、祖母、両親、姉弟が住んでいた。その家は代々、必ず最初に生まれた子供が継ぐことになっていた。性別は関係なく、早く生まれた順番で。さらにちょっと変わっていたのは、その家庭は家と一緒に、可愛らしい女の子の人形と鬼のぬいぐるみが継がれた事。
「それがなぜかって言うのは後で話すからちょっと保留ね」
とりあえずその家の人達は祖母以外、どうしてそれが受け継がれてきたか、知らなかった。その人形の唯一分かっている事は一つだけ。
「絶対にその人形とぬいぐるみを粗末にしてはならない」
埃を被らないように綺麗な布で拭く、床に落とすのなんてもっての他。
そんな風に扱われてた人形とぬいぐるみは、いつからきたのかは判らなくても、いつも新品同様だった。
ある時、家族全員が家を出なくてはいけなくなった。人形を持っていく事もできず、短期のハウスキーパーを雇った。
「くれぐれも粗末に扱わないで」
何度も念を押されたハウスキーパーは、しばらくはひやひやしながら掃除をしていたが、数時間経つと、ついうっかり人形の方を落としてしまった。しかし別に壊れたようなところはなかったから、ハウスキーパーは無かったことにしようと思って、また元の位置に戻して知らんぷりをしていた。
家族が帰ってきても、誰も気がつかなかったらしい。
それから暫らく経ったある日。
「私の娘がいなくなった」
その家族に、ハウスキーパーの家族から連絡が来た。
「何か御存知ありませんか」
訊かれた時、家族全員の背中がサッと冷たくなったらしい。何も知らないはずの子供達さえ、何か悪いことをした気になって、私も探そうと言い出した父親は、近くの森へ入っていって、七日間行方不明になった。
八日後に帰ってきた父をみんな喜んだが、何よりも彼の母親が特別安心していた。
「血の臭いがしないわ」
怪我の有無ではなく、その一点を。
それから数年後、父親が勤めていた会社が倒産した。最後まで働いた人は少なかったから、ずいぶん大きなお金が必要になった。お金を貸すと押しかけてきた来た人も少なくなくて、家も売らなくちゃいけない状況に陥ってしまった。
その頃の祖母は病気で入院していて、家を売る事に反対する人はいなかった。しかし売買に人形も含まれる事になるとは思わなかった。
「人形は連れていく」
実際に家を売り渡す時になって、そう言ったのだが。アンティークだけどかなり状態のいい人形だったから、かなり揉めてしまった。
「人形も貰う」
「人形は渡さない」
押し問答になって、結局ちょっとした弾みで人形を落としてしまった。
「で……この後は判るでしょ?」
暫らくして、おしかけの男は死んだ。
「なぜあの家を売った!」
父親が自身の母親にその話をしたら、凄まじい形相で怒鳴りつけられた。
「あの人形には曰くがついているのよ」
それからあの人形の出所と【曰く】について話してくれた。
昔々、あの家の近くの森には『森の主』が住んでいた。
鬼みたいな角を生やした森の主は、動物や草木を食べる事はしなかった。食べるのは絶対に人間の肉で『一年に七日間のみ、そして必ず五十年に一回』と決められていた。だから村人達は五十年に一度、森の主に生贄を差し出す。それはかなり若い女の子が使われたそうだ。
ある時、怪我をした森の主は、村に住んでいた女の子に助けてもらった。これを契機で、二人はお友達になった。
「……うーん、そんなに簡単に仲良くなっちゃっていいのかなァって思わない?」
それから数ヶ月後、森の主の食事に、その女の子が『料理』として選ばれた。人一倍優しかった何にも知らない女の子は、自ら立候補したという。それを知った森の主は困った。
今まで通りにお友達を食べるか、食べないで自身が死ぬか。……結局、森の主は自分の死を選んだ。
「森の主という存在を、決して絶やしてはならぬ」
そして死ぬ前に告げられたその言葉を守るため、食べられずに済んだ女の子の一族は必ず【森の代理人】として、生きていく事になった。二つの人形はその二人の代わり。
「人形を粗末に扱えば、友の仇を討ちに、鬼に殺される」
「人形とぬいぐるみを離すと、その一族は全員災厄に遭う」
その話を聞いた父親は、ハウスキーパーを探している最中のあれは呪いによる殺人衝動で、抑えきれてよかったと安堵した。同時に、『あの押しかけの男を殺したのは自分である』と言う事にも気付いた。
「今あの人形がどこにあるかわかんない。とりあえず、人形を持っていった人の一人にその話をしたんだけどね……まるで取り合ってくれなかった。当たり前だけどね」
数日後、また一人、死んだ。結局父親の必死のお願いと、死亡者の増えてく事実に怖くなってきたおしかけ仲間達は、その家族に家と人形を返した。すると変死事件がすぐに収まって、それまで通り暮らせたそうだ。
それから数十年後、祖母と父親は死んで、その事実を知るものは嫁に来た母親だけになった。老衰で死ぬ前に、母親は娘に言ったらしい。
「運命は続く」
「……民話とかにありがちな感じの話でごめんね? でもただの作り話じゃないんだよ。え? 何でってその話よく考えてみたらね、お家を見たことあったから。もちろん、ぬいぐるみと人形も置いてあるよ。……でも、パパが衝動買いしちゃった別荘がその近くでさ……あれ、大丈夫? ちょっとした冗談だよ。もーこれくらいで腰抜かさないでよねー。なら今度来てみなよ、私の家には棚の上にぬいぐるみも人形も置いて無いから」
ある郊外の住宅に、祖母、両親、姉弟が住んでいた。その家は代々、必ず最初に生まれた子供が継ぐことになっていた。性別は関係なく、早く生まれた順番で。さらにちょっと変わっていたのは、その家庭は家と一緒に、可愛らしい女の子の人形と鬼のぬいぐるみが継がれた事。
「それがなぜかって言うのは後で話すからちょっと保留ね」
とりあえずその家の人達は祖母以外、どうしてそれが受け継がれてきたか、知らなかった。その人形の唯一分かっている事は一つだけ。
「絶対にその人形とぬいぐるみを粗末にしてはならない」
埃を被らないように綺麗な布で拭く、床に落とすのなんてもっての他。
そんな風に扱われてた人形とぬいぐるみは、いつからきたのかは判らなくても、いつも新品同様だった。
ある時、家族全員が家を出なくてはいけなくなった。人形を持っていく事もできず、短期のハウスキーパーを雇った。
「くれぐれも粗末に扱わないで」
何度も念を押されたハウスキーパーは、しばらくはひやひやしながら掃除をしていたが、数時間経つと、ついうっかり人形の方を落としてしまった。しかし別に壊れたようなところはなかったから、ハウスキーパーは無かったことにしようと思って、また元の位置に戻して知らんぷりをしていた。
家族が帰ってきても、誰も気がつかなかったらしい。
それから暫らく経ったある日。
「私の娘がいなくなった」
その家族に、ハウスキーパーの家族から連絡が来た。
「何か御存知ありませんか」
訊かれた時、家族全員の背中がサッと冷たくなったらしい。何も知らないはずの子供達さえ、何か悪いことをした気になって、私も探そうと言い出した父親は、近くの森へ入っていって、七日間行方不明になった。
八日後に帰ってきた父をみんな喜んだが、何よりも彼の母親が特別安心していた。
「血の臭いがしないわ」
怪我の有無ではなく、その一点を。
それから数年後、父親が勤めていた会社が倒産した。最後まで働いた人は少なかったから、ずいぶん大きなお金が必要になった。お金を貸すと押しかけてきた来た人も少なくなくて、家も売らなくちゃいけない状況に陥ってしまった。
その頃の祖母は病気で入院していて、家を売る事に反対する人はいなかった。しかし売買に人形も含まれる事になるとは思わなかった。
「人形は連れていく」
実際に家を売り渡す時になって、そう言ったのだが。アンティークだけどかなり状態のいい人形だったから、かなり揉めてしまった。
「人形も貰う」
「人形は渡さない」
押し問答になって、結局ちょっとした弾みで人形を落としてしまった。
「で……この後は判るでしょ?」
暫らくして、おしかけの男は死んだ。
「なぜあの家を売った!」
父親が自身の母親にその話をしたら、凄まじい形相で怒鳴りつけられた。
「あの人形には曰くがついているのよ」
それからあの人形の出所と【曰く】について話してくれた。
昔々、あの家の近くの森には『森の主』が住んでいた。
鬼みたいな角を生やした森の主は、動物や草木を食べる事はしなかった。食べるのは絶対に人間の肉で『一年に七日間のみ、そして必ず五十年に一回』と決められていた。だから村人達は五十年に一度、森の主に生贄を差し出す。それはかなり若い女の子が使われたそうだ。
ある時、怪我をした森の主は、村に住んでいた女の子に助けてもらった。これを契機で、二人はお友達になった。
「……うーん、そんなに簡単に仲良くなっちゃっていいのかなァって思わない?」
それから数ヶ月後、森の主の食事に、その女の子が『料理』として選ばれた。人一倍優しかった何にも知らない女の子は、自ら立候補したという。それを知った森の主は困った。
今まで通りにお友達を食べるか、食べないで自身が死ぬか。……結局、森の主は自分の死を選んだ。
「森の主という存在を、決して絶やしてはならぬ」
そして死ぬ前に告げられたその言葉を守るため、食べられずに済んだ女の子の一族は必ず【森の代理人】として、生きていく事になった。二つの人形はその二人の代わり。
「人形を粗末に扱えば、友の仇を討ちに、鬼に殺される」
「人形とぬいぐるみを離すと、その一族は全員災厄に遭う」
その話を聞いた父親は、ハウスキーパーを探している最中のあれは呪いによる殺人衝動で、抑えきれてよかったと安堵した。同時に、『あの押しかけの男を殺したのは自分である』と言う事にも気付いた。
「今あの人形がどこにあるかわかんない。とりあえず、人形を持っていった人の一人にその話をしたんだけどね……まるで取り合ってくれなかった。当たり前だけどね」
数日後、また一人、死んだ。結局父親の必死のお願いと、死亡者の増えてく事実に怖くなってきたおしかけ仲間達は、その家族に家と人形を返した。すると変死事件がすぐに収まって、それまで通り暮らせたそうだ。
それから数十年後、祖母と父親は死んで、その事実を知るものは嫁に来た母親だけになった。老衰で死ぬ前に、母親は娘に言ったらしい。
「運命は続く」
「……民話とかにありがちな感じの話でごめんね? でもただの作り話じゃないんだよ。え? 何でってその話よく考えてみたらね、お家を見たことあったから。もちろん、ぬいぐるみと人形も置いてあるよ。……でも、パパが衝動買いしちゃった別荘がその近くでさ……あれ、大丈夫? ちょっとした冗談だよ。もーこれくらいで腰抜かさないでよねー。なら今度来てみなよ、私の家には棚の上にぬいぐるみも人形も置いて無いから」
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