何か勝手に逆ハーレム(11/18更新)

モテ期は(略)／朝の話２

　早起きは苦手だが、やはり朝の電車に乗ると座れる確率が高い。最寄り駅を発車してから文庫本を読み進めていたら、カーブで電車が少し揺れた。それで少し集中力が途切れた美花がふと顔を上げる。右斜め側につり革に掴まって立っている男子学生に見覚えがある事に気付いた。
　六花という、同じ大学に通う学生だ。彼と同様の学部と学科の為、名前と顔は把握している。けれど話した事はない。大学に通っていると、しばしばそう言った関係性が生まれるものだ。しかし美花が彼の事を知っているのはそれだけが理由ではなかった。六花はその美しい容姿と声から学年と学部問わず注目されている学生なのだった。

「あっ、おはようございます……」

　顔を上げた際に目が合ってしまった為、何も言わないのも失礼だと思った美花は挨拶する。

「おはよう」

　ぎこちない美花の挨拶に六花は僅かに微笑みかけてくる。美花は気まずい空気にならなかった事に安堵すると同時に、驚いてもいた。何故なら、彼は氷雪の王子だとか冷徹の貴公子だとか呼ばれている存在だからである。六花の類まれなる存在感から予想できる通り、学年学部問わず多くの女子が彼に近づこうと声をかけた。しかし決まって彼は冷たくあしらっては遠ざける。その為に氷や雪の異名がつくのである。そもそも彼は男女問わず仲良く話しているところを美花は見た事がなかった。だからこそ、自分に対して好意的に挨拶をしてきた事が意外だったのだ。

「一限目の必修科目？」

　それどころか、立花は会話を続ける気があるようだった。

「はい、結構難しいですね、毎回小テストあって……」
「そうだね」

　美花のたどたどしい口調でも、六花は短いながらもきちんと返してくる。他の学生の一体何人が見た事があるのか判らない笑みを浮かべて。

（六花先輩がこんな楽しそうに話してるの初めて見た……)

　顔に熱が集中し、胸は走っている最中が動悸が激しくなっていく。それでもイケメン先輩から好意的に話しかけられて悪い気がするものではない。それから電車が大学の最寄り駅に着くまで、二人の会話は細々と続いた。