12 / 13
来訪/エッグとアイドル
しおりを挟む
平日の夜の八時。玄関にはサングラスと黒の帽子を被った少女が一人で立っていた。
「苺ちゃん?」
「う、あああぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁん」
最近知り合ったヒーロー仲間の苺花は、玄関先で真珠の顔を見た途端、泣き出した。何でこういう状況になったのか、真珠自身もよく解らない。本業アイドル(世間では未成年という事になっているので)がそのまま外で佇まれるのは気まずいので、部屋に連れて来た。二人分の飲み物が乗ったお盆を伴って自室のドアを開ける。勝手知ったる我が家とでもいわんばかりに、突然の来訪者は寛いでいた。部屋の主である真珠以上に。目を離したらすぐコレだ。
「……寛ぐのはいいよ、緊張されるよりは。でもどうして部屋を物色しているのか、是非とも聞いてみたいところだね」
「えーそりゃあパールちゃん大人なんやしー、ウチと違って本ぎょーさん持っちゃーるし」
先程の涙は何処へやら、初めて彼氏の部屋へ遊びに行った彼女のようなご様子だ。初めてではないクセに。
「そんな場所に読まれちゃマズい本なんて置いてないよ」
……そういうのは、先日の休みに片付けておいてよかった。目許が赤いので、これより前の光景が現実という事だ。黙ってカップを差し出すと、小さく礼を言って受け取る。だがすぐ飲もうとせず、ただ揺らぐ紅茶を眺める。
「言っとくけど、毒なんか入ってないよ」
「残念やわぁ。楽に成れると思ったんに」
いつもより多めに砂糖を入れてあげたそれをグビグビ飲み干す。その仕草は味わいも何もない。今の自分達の間に会話は一切なかった。冗談も茶化しも冷やかしも嫌味も何もない。エアコンの稼働音と、時を刻む時計の秒針だけが進んでいく。その沈黙に耐えられなかったのか、やっぱり苺花が口を開いた。
「なんかあったか聞かへんの?」
「言いたくなった時に話してくれればいいよ」
また家族とヒーローに関係ない仕事でストレスが溜まったのだろう。そんなに自分の発言が予想外のものだったのか。問い掛けた本人は大きな目を更に大きく開いて「きひひ」と小さく笑った。自虐なのか虚勢なのか、それとも単に嬉しかったのか。そういえばヒーローを始めた頃の自分もこうだったかもしれないと懐かしく思った。
「今夜はゆっくり休むといいよ」
「添い寝してくれるん?」
「マフィン君貸してあげるよ。涎つけないでね」
「あいそないわぁ(つまらない)」
苦虫を噛み潰したような顔の次に見せてくれたのは、いつもの笑顔だった。
「苺ちゃん?」
「う、あああぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁん」
最近知り合ったヒーロー仲間の苺花は、玄関先で真珠の顔を見た途端、泣き出した。何でこういう状況になったのか、真珠自身もよく解らない。本業アイドル(世間では未成年という事になっているので)がそのまま外で佇まれるのは気まずいので、部屋に連れて来た。二人分の飲み物が乗ったお盆を伴って自室のドアを開ける。勝手知ったる我が家とでもいわんばかりに、突然の来訪者は寛いでいた。部屋の主である真珠以上に。目を離したらすぐコレだ。
「……寛ぐのはいいよ、緊張されるよりは。でもどうして部屋を物色しているのか、是非とも聞いてみたいところだね」
「えーそりゃあパールちゃん大人なんやしー、ウチと違って本ぎょーさん持っちゃーるし」
先程の涙は何処へやら、初めて彼氏の部屋へ遊びに行った彼女のようなご様子だ。初めてではないクセに。
「そんな場所に読まれちゃマズい本なんて置いてないよ」
……そういうのは、先日の休みに片付けておいてよかった。目許が赤いので、これより前の光景が現実という事だ。黙ってカップを差し出すと、小さく礼を言って受け取る。だがすぐ飲もうとせず、ただ揺らぐ紅茶を眺める。
「言っとくけど、毒なんか入ってないよ」
「残念やわぁ。楽に成れると思ったんに」
いつもより多めに砂糖を入れてあげたそれをグビグビ飲み干す。その仕草は味わいも何もない。今の自分達の間に会話は一切なかった。冗談も茶化しも冷やかしも嫌味も何もない。エアコンの稼働音と、時を刻む時計の秒針だけが進んでいく。その沈黙に耐えられなかったのか、やっぱり苺花が口を開いた。
「なんかあったか聞かへんの?」
「言いたくなった時に話してくれればいいよ」
また家族とヒーローに関係ない仕事でストレスが溜まったのだろう。そんなに自分の発言が予想外のものだったのか。問い掛けた本人は大きな目を更に大きく開いて「きひひ」と小さく笑った。自虐なのか虚勢なのか、それとも単に嬉しかったのか。そういえばヒーローを始めた頃の自分もこうだったかもしれないと懐かしく思った。
「今夜はゆっくり休むといいよ」
「添い寝してくれるん?」
「マフィン君貸してあげるよ。涎つけないでね」
「あいそないわぁ(つまらない)」
苦虫を噛み潰したような顔の次に見せてくれたのは、いつもの笑顔だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる