渚のバースデー(3/22編集)

狂言巡

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バースデーイブ/リクエスト

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 ガラッと教室の扉を乱暴に開けて、ズカズカズカと相模原は入ってくる。何だどうしたとざわつく周囲を物ともせず(相模原にとってはいつもの事なので)、一直線に渚の許へ。普段滅多に教室にまで踏み込んでこない翠薔薇すいばらの問題児が渚を真正面から見下ろす。

「テメェの言う事何でも聞いてやるよ」

 教室に緊張が走った。渚はあまりに予想外の言葉で硬直する。椅子に座ったままジリジリと後ずさった。

「ハ? 何の話?どしたん?」
「あ、解った明日渚っちに、」

 言いかけた結良の口をノートを押し付けて塞ぎ、相模原は更に身を乗り出した。ほんまに展開が訳わかめな渚は更に後ろに下がる。

「……何でもえんやな……?」
「あぁ? 欲しいモンがありゃそれでもいいぞ」
「それほんまなん……?」

 困惑した表情で呟いて、渚は相模原を見上げた。相模原もじっと淡島の様子を窺っている。

「は……」
「は?」
「半径3メートル以内に近づかんといて」

 ビシッと緊張が教室に走る。笠田が参考書から顔を上げ、結良は笑いを堪えて蹲っている。

「んだそりゃぁ!」
「聞くて言うたやんけ! ってほらまた近づいちゃーらして!」
「近いがどうした!」
「聞くやの聞かんやの、何したいねん相模原あがは!」

 問題児の動きがぴたりと止まる。喰いついてくると予想していた渚は、拍子抜けてきょとんとした。

「聞きゃぁいいんだろうが……」
「げっ何やねんな。相模くんマジなん?」

 のそりと躰を反転させて教室から出て行こうとする相模原が一言。

「明日だけな」
「げ、限定なん……!?」





 これは、相模原が出て行った後の話である。

「渚っち、相模っちは誕生お祝いしてくれるって言いたかったんじゃないの?」
「えっ、あれうち誕生日やったっけ?」

 相模原が誕生日を覚えていた事はスルーだ。笠田が携帯電話で確認する。

「明日十月二十九日だろ?」
「あれよ、忘れちゃーったわ。テスト近いさけ、誕生日どころちゃうけどな……」
「渚っちは毎年の事だけどねぇ。その天然ボケかますの。自分以外のは覚えてるにねー」

 笑顔のまま、結良は少し考える。

「ね、ね。相模っちの誕生日ていつだっけ?」
「え、四月四日?」
「おおう即答じゃん、さっすがー。……で? 何かあげた?」

 渚は顔を引き攣らせて暫し硬直、何か逡巡している。

「別に、なん、も……」

 目を逸らしたが、結良はそれぐらいでは諦めない。

「あらやだ! なになにーあっやしーなー。ちょっとお姉さんに話してごらんよー」
「結良、その辺にしといてやれ」
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