ゾンビの所為で帰宅難民です

狂言巡

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未来if

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 人を殺した業の所為で幸せになれないのなら、幸福を与えるだけの人間になれたらよかったのに。あの人はそれを許してくれない。





 中庭で、小児病棟の子供達が歌を一生懸命歌っている。その声が薬剤局の外から聞こえた。友人の日和が淹れてくれたカフェオレで喉を潤して何か話題を紡ごうとしたら、先に目線がかちあった。含みのある笑みが返されると、どうにも口を割らずに居られない。

「風見さんに何か言われたんでしょう?」
「……うん、まあ」 
「図星じゃん」

 ブルーの眼を更に大きくしてリアクションをとる友人を一瞥して、認めたくない事実を口にした。

「……仁さんにプロポーズされたの」
「そっか」
「……一緒に生きてくれって謂われた」
「うん」
「昔は、そんなの、言われた事なかった」
「うん」
「一緒に……」

 昔、生き残る為に人を手に掛けた。だから今はせめてもの罪滅ぼしに、人を生かす仕事をしているのだと思っていた。子供達の歌声が窓のすぐ傍を通り過ぎる。あのくらいの子を、屍者化したとはいえ、幾人も手に掛けた。屍者や生存者も問わず、何人も殺しいくつもの屍の山を築いた。風仁という男は、返り血にまみれながら『死ぬ時は一緒だ』と宣い、夜空は、それを……。

「一緒に生きていける時代がきてよかったじゃない」

 友人の柔らかな声が耳に届く。

「体一つさえあれば、僕らは生きていけるよ」

 時おり過去が白昼夢として蘇る事を日和は知っていた。もしかしたら同じ夢を見た事があるのかも知れないが、直接聞いた事はない。

「……死ぬしか手立てがないんなら」
「…………」
「それしか方法がないんなら」
「……夜空ちゃん?」
「……此処で殺してほしいって、私は言ったよ」

 男の情に付け込んで、共に死ぬ事も、共に生きる事すらも放棄した自分に、幸せになる方法など残されていないのだと思っていた。

「……それでも」

 それでも彼は、与え続ける事をやめない。

「……夜空ちゃん、」
「何?」
「……幸せに、もう、なってるんじゃないの?」

 幸せとは、何なのか。ああ、雪が降っているからやけに寒かったのか。返す言葉を見失った夜空と、詭弁に勝った日和は廊下をばたばたと駆ける足音に耳を傾ける。急がなくても逃げないのに。

「ほら、君のサンタが、やってきたよぉ」

 そんな事は理解っている。唇だけで答えれば、ああ本当だねと微笑を浮かべた。与えられる幸せに、身を任せる覚悟なら。ずっと昔から持っている。夜空は神を信じていないけれど、今なら彼に誓えそうだ。
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