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教室2
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スピカという女生徒を悩ませているもの。
それは、周囲の人間が起こす騒動や自分行動など二桁以上。
しかし、最近はそれだけではなくなってきた。
いわずものがな、妖の類である。
(ああ、今日もいるよう……)
スピカは恐怖と羞恥を抱いて、三角の耳を伏せた。
此処は主に下級生の授業に使われる特別教室。授業は始まったばかりである。
緊張するのは基本装備というか大体いつもの事なのだが、それに上乗せして、恐怖を抱かざるをえない光景が彼女の目の前に広がっていたからだ。
(どうして、みんな、気付かないの……)
黒板用の蛍光灯。そこに、幼稚園年長ほどの男の子が一人、腰掛けている。別に半透明なわけでも足がないわけでもなく、一見すればどこにでもいそうな子供だ。
しかし、彼がパンツ一丁かつ水から上がったばかりのように全身がぐっしょり濡れていて、しかも座っている真下の床まで濡らして色を暗く変えさせている事が、その子供を明らかに『タダモノではない』事実を示していた。
スピカが授業のためにこの教室を訪れると、必ずといっていいほどの確率で『居る』。そして何の感情も浮かんでいない二つの瞳で、ジッとこちらを見つめてくるのだ。
不思議な事に、スピカよりも先に教室に来てお喋りに花を咲かせている生徒達も、始業のベルの後から入ってきた教師も、誰もその子供の存在にまったく気付いていない。
なぜか自分だけが見えているようなのだ。それが余計に彼女の恐怖を煽る。
(なにかされるわけではないけど……)
不気味だし、何よりジッと見られるのは恥ずかしいと思う。出来るだけ子供を気にしないようにして授業を受けるしかない。やがて終業のベルが鳴り、授業を終える。この時ばかり、彼女は授業の長さはひしひしと感じた。
「規律、礼!」
挨拶も終えて、教科書から顔を上げた時、ばちり。不意に膝を抱える子供とスピカは目が合った、気がした。
子供は無反応のまま、ただ見下ろしている。だが、スピカの方から見ればしっかり目が合っているわけで、人より数倍恥ずかしがり屋である彼女の小さな頭には血が昇ってしまう。
脳もまともに機能せず、ただ羞恥だけが支配する。こうなるとスピカはそれから目を背けずにいられない。
(い、いやだあっ!)
突然床にしゃがみ込んでしまったスピカ。隣の席の梅花が不思議顔で近づいてきたが、顔を両手で塞いでしまっている彼女にそれが分かるはずもない。
「スピカ、どした? 大丈夫か?」
「……うん」
梅花の言葉に小声で返しつつも、スピカはしゃがんで顔を隠したまま。
(とにかく、ここから早く逃げてしまおう)
羞恥の末に『逃げる』という選択に辿り着くところが、彼女が彼女である所以だ。
スピカは顔を押さえていた両手を外して立ち上がろうとした、しかし。そこでまた、おかしなものを見てしまった。
視線の先には(ドアの建てつけが悪いので、いつも開けっ放しだった)掃除道具入れロッカー。ドアの内側には、なぜか鏡がはめ込まれている。
スピカは一時の間恥ずかしさを忘れ、じっと目を凝らしてみた。
その鏡いっぱいに映っていたのは……妙齢で、日に焼けた女性の顔。頬を押し付けて、こちらを目をこじあけるようにして前を見つめている。
(……ああ、なんだ)
ここで、ようやく子供が本来見つめていたものに勘付く。そして友人が不思議そうな視線を自分に向けている事にも気付く。
珍しく羞恥はぶり返さなかったが、スピカは何となく気まずくなって素早く教室を後にした。
後日。
毎週月曜日の三時間目。この授業の際の羞恥はなくなったが、その代わり、スピカの恐怖が二倍に増えたそうだ。
それは、周囲の人間が起こす騒動や自分行動など二桁以上。
しかし、最近はそれだけではなくなってきた。
いわずものがな、妖の類である。
(ああ、今日もいるよう……)
スピカは恐怖と羞恥を抱いて、三角の耳を伏せた。
此処は主に下級生の授業に使われる特別教室。授業は始まったばかりである。
緊張するのは基本装備というか大体いつもの事なのだが、それに上乗せして、恐怖を抱かざるをえない光景が彼女の目の前に広がっていたからだ。
(どうして、みんな、気付かないの……)
黒板用の蛍光灯。そこに、幼稚園年長ほどの男の子が一人、腰掛けている。別に半透明なわけでも足がないわけでもなく、一見すればどこにでもいそうな子供だ。
しかし、彼がパンツ一丁かつ水から上がったばかりのように全身がぐっしょり濡れていて、しかも座っている真下の床まで濡らして色を暗く変えさせている事が、その子供を明らかに『タダモノではない』事実を示していた。
スピカが授業のためにこの教室を訪れると、必ずといっていいほどの確率で『居る』。そして何の感情も浮かんでいない二つの瞳で、ジッとこちらを見つめてくるのだ。
不思議な事に、スピカよりも先に教室に来てお喋りに花を咲かせている生徒達も、始業のベルの後から入ってきた教師も、誰もその子供の存在にまったく気付いていない。
なぜか自分だけが見えているようなのだ。それが余計に彼女の恐怖を煽る。
(なにかされるわけではないけど……)
不気味だし、何よりジッと見られるのは恥ずかしいと思う。出来るだけ子供を気にしないようにして授業を受けるしかない。やがて終業のベルが鳴り、授業を終える。この時ばかり、彼女は授業の長さはひしひしと感じた。
「規律、礼!」
挨拶も終えて、教科書から顔を上げた時、ばちり。不意に膝を抱える子供とスピカは目が合った、気がした。
子供は無反応のまま、ただ見下ろしている。だが、スピカの方から見ればしっかり目が合っているわけで、人より数倍恥ずかしがり屋である彼女の小さな頭には血が昇ってしまう。
脳もまともに機能せず、ただ羞恥だけが支配する。こうなるとスピカはそれから目を背けずにいられない。
(い、いやだあっ!)
突然床にしゃがみ込んでしまったスピカ。隣の席の梅花が不思議顔で近づいてきたが、顔を両手で塞いでしまっている彼女にそれが分かるはずもない。
「スピカ、どした? 大丈夫か?」
「……うん」
梅花の言葉に小声で返しつつも、スピカはしゃがんで顔を隠したまま。
(とにかく、ここから早く逃げてしまおう)
羞恥の末に『逃げる』という選択に辿り着くところが、彼女が彼女である所以だ。
スピカは顔を押さえていた両手を外して立ち上がろうとした、しかし。そこでまた、おかしなものを見てしまった。
視線の先には(ドアの建てつけが悪いので、いつも開けっ放しだった)掃除道具入れロッカー。ドアの内側には、なぜか鏡がはめ込まれている。
スピカは一時の間恥ずかしさを忘れ、じっと目を凝らしてみた。
その鏡いっぱいに映っていたのは……妙齢で、日に焼けた女性の顔。頬を押し付けて、こちらを目をこじあけるようにして前を見つめている。
(……ああ、なんだ)
ここで、ようやく子供が本来見つめていたものに勘付く。そして友人が不思議そうな視線を自分に向けている事にも気付く。
珍しく羞恥はぶり返さなかったが、スピカは何となく気まずくなって素早く教室を後にした。
後日。
毎週月曜日の三時間目。この授業の際の羞恥はなくなったが、その代わり、スピカの恐怖が二倍に増えたそうだ。
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