壺中日月長(3/14更新)

狂言巡

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縁は異なもの味なもの

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 小学生のお清ちゃんは猫を拾った。最初はダークグレーの猫かと思っていたのだが、洗うと真っ白な毛並みでオッドアイの猫だと知れた。首輪はなかったが野良にしては人懐っこく、迷子の猫かもしれない。お清ちゃんの両親は飼い主が見つからなかったらそのまま飼ってもいいという条件を出した。親がTwitterやFacebookに迷い猫の情報を拡散しているのを横目で見ながら、猫をじゃれあっていた数か月後。親から「飼い主から連絡が来た」と聞かされた。
 子供ながらも約束だから仕方ないと理解したが、このままずっと家にいるのだと信じていた独神は面白くなかった。

「どうしたのぉ、可愛い顔が台無しだよぉ」

 その不満が思い切り顔に出ていたのか、とうとう他人に指摘されてしまった。『知らない大人=不審者』として認識される物悲しいご時世で、お清ちゃんも知らない人に話しかけられるのは危ない事だと把握していたが、その時のお清ちゃんは誰でもいいから愚痴を聞いてもらいたくて仕方がなかった。

「猫ちゃん拾たんですけど……実は誰かの家のペットで……明後日にはおらんようになってしまうんです」
「それで拗ねてんだねぇ。でも人のモンを返さないのは泥棒と同じだよぉ」
「はい……」
「会いに行けばいいじゃないかぁ」
「え?」
「わざわざ引き取りに来たんだぁ、譲ってくれってのは無理だろうねぇ。だったら引き渡す時にたまには会わせてくれって頼めばいい。猫の行動範囲なんざ知れてらぁ、どうせその辺の家だよぉ」

 お清ちゃんは目を瞬かせた。まさに目から鱗だ。飼い主の人柄は知らないが、気のいい人なら承諾してくれるかもしれない。

「わかりました。ありがとうございます、カッコいいお兄ちゃん」
「いいって事よぉ、やっぱかわい子ちゃんは笑顔が一番だからねぇ」

 そこで、声をかけてきた大人の顔をようやくしっかり見たのだが、これがまた目の溶けるような美男子で、お清ちゃんは色んな意味で顔を赤く染めた。
 その夜、猫を返しに行く時に自分も連れていってくれと親に頼んだ。だが何故かきっぱり断られた。

「子供の行くところじゃないから」

 子供から見ても非常に複雑な顔をした両親に、お清ちゃんはまさか刑務所じゃないだろうかと疑りつつ、現実の厳しさを噛み締めたのだった。





 それから数日後。学校から帰ってきたお清ちゃんは目を疑った。昨夜自分が出かけている間に返してくると言っていた親が、ペットメイトを手にして知らない大人と話していたからだ。

「お帰りになられましたね、それではお乗り下さい」

 家の近くに停まっていた車は彼らが乗ってきた物だったらしい。

「行くで」

 しぶしぶと言った風で親が外に促す。

「ええの?」
「向こうさんが直接お礼がしたいゆうてな……」

 行きたくないし行かせたくないと言わんばかりの表情に、さしもお清ちゃんも心配になった。お礼と言うのだからトラブルではないのだろう。好奇心半分、不安半分で高そうな外車に乗せられて、数時間後。車が停まったのは警察署でも裁判所でもなかった。派手な装飾が施された大きな建物の前だった。
 看板はなかったが、何となく此処は店だとお清ちゃんは確信した。大きな提灯が等間隔でぶら下がっており、扉が開くのは日が暮れてからだろう。現に案内されたのは裏口だった。うっかり足を滑らせそうな廊下を少し歩くと、二階に上るように言われた。父から受け取ったゲージを差し出して。

「お父様はこちらのお部屋でお待ち下さい」
「ま、待って下さい、一人にさせる気ですか、」
「主人のご指示です。――この階段を上って突き当たりの部屋なんですが、藤の花が飾ってあるのですぐ判ると思いますよ」

 お清ちゃんは緊張しつつも、ペットメイトをしっかり抱えて、言われた通りに慎重に階段を上っていく。こんな大きな店の主人とはどんな人なんだろう、怖い人じゃないといいな。

「入っていいよぉ」

 優しい人でありますようにと願いながら、部屋の前に着いたお清ちゃんは思わず飛び上がった。ノックもしていないのに突然話しかけられたからだ。

「し、失礼します……」

 恐る恐る派手な障子を引くと、その状態で硬直した。

「また逢えたねぇ、かわい子ちゃん」

 部屋の奥には若い男性がいた。葡萄色の髪と白い肌。三味線を触っている美しい着物と簪で着飾った彼は、数日前愚痴を聞いてくれた『カッコイイお兄ちゃん』だった。
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