もののけ奇譚(10/29更新)

猫又

　か細い鳴き声を無視できなかったのが運の憑き。
　椿の木の根元に捨てられていた子猫は、色鮮やかな手拭いに包まれていた。

 「どうしようか、捨て置こうか、拾い生かそうか？」

 　しかししかし。もう、白と茶色のそれを拾い上げてしまった後だし。これでは生かす決定じゃないか。 





 「……何だそいつは」
 
　夜空よぞらの真向かいに寝転がっている古株の黒猫――闇丸やみまるは、不機嫌そうに四又の尻尾を揺らしている。
　うら若い次期飼い主の膝の上には、小さい猫が小さくもその存在を主張している。

「みぃー、にぃー、みうみう……」

　なんて愛らしい声。

 「愛いやつめ」
 「答えになっとらんわ」

 　堂堂と夜空の膝を独占している子猫。
 　差し出された指にじゃれるように甘噛みしては、そのまま小さな手足で夜空の指を蹴り上げる。
 　蹴り上げるといっても、肉球がぷにっと当たる程度だ。可愛いとしか言いようがない。

 「ぷにぷに……」

 　確かに夜空は愛らしいとは認めてやる（阿呆だがな）。しかしこの餓鬼猫は……誰に断って私のものを陣取っているのだ。あの膝は私の指定席だというのに！
 　なんて、内心思っている事を表面に微塵も出さず、闇丸は飼い主の膝でじゃれる子猫に形だけのでこぴんを仕掛けてみた。

 「なぅ！」

 　子猫は奇襲に驚いたのか、ころんと転がった。瞳孔が瞬き、大きく丸くなる。
 　その様子に、闇丸は何かがピンときた。
 　確かにこれは、少しは可愛いかもしれない。夜空の言葉をようやく理解した。

（さあて、名前どうしよう？）
（……まだ決めていなかったのか）