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居住権

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 ぶわりと歩くたびに、室内に白い埃が舞い上がる。自分の肉球の痕がついている事に驚く渚(現在猫に変化中)はさながら、某アニメ映画に出てくる日本一有名な黒猫のようで可愛らしかった。廃墟寸前ではあったが、それでもちょっとした洋館である一棟は造りがしっかりしているのか、維持と補強の魔法でもかけられているのか、今にも崩壊しそうといった気配もなく、野生動物が住みついているわけでもない。
 全くの無人ではなかったらしく先住民がヒカル達を見た途端、ギョッとした悲鳴をあげながら洋館の奥に逃げ惑う。家具や壁に隠れて恐る恐る顔を覗かせて「貴女達、今日からここに住まれるのですか……? その私達をどうこうするつもりは……?」と尋ねてくる。ヒカルと渚はぺこりとお辞儀する。

「今日からここにお世話になる事になったので、どうぞよろしくお願いします。騒がしくなると思うけど、もし嫌なや困る事があったら教えて下さいね」

 ネズミやゴキブリならば駆除一択だが、見るからに無害なゴーストを排除するつもりはなく、今日一日の経緯を話すと幽霊だというのにどんどん顔色が悪くなる。そして、ここに暮らすのはやむを得ない状況だと理解してくれたらしく、ここでも一番マシな部屋を教えてくれた。
 支給された新しいシーツや毛布、タオルケット、枕。社宅があるからには予備があるのだろう。それを抱えて、元は個室であっただろう部屋の格子窓を開ける。これで電気水道がなかったらどうしようかと思ったが、魔法の世界の電気(仮)も通っているし、水道やトイレも機能しているようで一先ず安心した。

「ホコリだらけやんな……」
「軽く掃除するから。明日から本格的に掃除しよう」

 せっかく猫になったのだから、この姿スペックを利用して散策するといっていた渚と分かれて、ヒカルも室内を巡る。初めて入った場所で非常階段や出入り口を確認するのは、自然災害が日常茶飯事の国で生まれた人間が学校教育で習う事だ。海外は日本より滅多に大きな地震がないが、その所為で建築基準が脆弱と聞く。ゴーストは問題ないが、ネズミや白蟻がいたら最悪だ。害虫と害獣とは共存できない。床は思ったより丈夫であるが、軋んでいる場所もあって埃も多い。それでも深い亀裂や大穴が開いていないのが幸いだ。
 よく見れば、ステンドグラスが嵌っている箇所もあり、少しテンションが上がった。後で合流する二人もきっと気に入るだろう。リアル『やーいおまえんちおっばけやーしきー』だったのだから。
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