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(三)
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一之進は大欠伸を一つして、流石にそれではいかんと両手で頬をぴしゃりと叩いて気を入れ直した。
早朝の日本堤の土手八丁は行き交う人の姿もなく、まだ微睡みの中でひっそりと息づいている。眠気を堪えた間抜け顔を誰かに見られることはないだろうが、緩みっぱなしではばつが悪い。ひりひりとする頬の痛みに顔を顰めて、よし、と自分に言い聞かせるように一声発すると、一之進は努めて背筋を伸ばして歩き出した。
二日勤めて一日挟み、また二日勤めて一日休む。その繰り返しが一之進ら町方同心の御役目に対する奉じ方なのだが、この日非番を迎えた一之進は吉原顔番所から八丁堀組屋敷に戻る途上にいた。
冷たく乾いた風が日本堤の水面を滑る。遠く紫峰を下ってきた北風なぞに負けじと一之進は襟元を掻き合わせ、寒さに堪えながら足を急がせる。八丁堀に着いたらまずは風呂だ。湯屋でしこたま朝湯を堪能して体を解したら次は髪結いだ。顔番所詰めの間は流石に日髪日剃とはいかぬ。綺麗さっぱり身を整えて、出仕する朋輩を御苦労御苦労と見送って朝寝を決め込む。一之進はそう算段した。
足早に行く一之進だったが、浅草寺の手前辺りで足が緩み出す。急ぎ組屋敷に戻りたいものだが、さて。道筋を頭に描いて暫し逡巡する。このまま堀割沿いにどん突きまで行けば大川、待乳山聖天の前を通って吾妻橋辺りの日光街道へ出る。そのまま街道を八丁堀まで下る道筋はしっかりと整えられた道故に徒で行くにも歩きやすい。次いで歩きやすいのは浅草寺と西方寺の横を行く馬道。辻籠も通い待乳山聖天を回るよりも近道となる。
何れの道も八丁堀組屋敷と吉原顔番所との往復に通い慣れた道だったが、一之進はそのどちらでもなく、整えられた路面とはお世辞にも言い難い浅草寺裏手を通る道に足を進めた。一番の近道であるというのが理由ではない。この道を選ばせたのは、先日妓楼萬屋前で白扇を投げ窮地を救った侍の言葉だった。
あの後立ち去った侍を急ぎ追い、何とか大門の手前でで並び矢筈紋の羽織の背に追いついた一之進は息せき切って声を掛けた。
「率爾ながら、暫し、暫し」
呼びかけられた男は立ち止まりゆっくりと振り向く。
「某に何か御用かな」
「其処許にお話ししたき儀が御座る」
肩を上下させ息も荒く言う一之進に穏やかな笑顔が応える。
「生憎と某も暇を持て余す身ではない故。では御免」
立ち去ろうとする侍を引き留めるべく、一之進は慌てて言葉を継ぐ。
「蕎麦。蕎麦でも如何か」
男の柔和な笑みが消えた。しまった、言うに事欠いて己は何を口走ったか。胸中で苦虫を噛み殺すがもう遅い。笑みを拭い去った男は真剣な眼差しを一之進に向ける。何とも間の悪い空気が二人の間に漂う。
「蕎麦。とな?」
声音からも穏やかさが消えている。参った、どう繕えば良いやら。狼狽する一之進を硬い表情で見据えて暫し。沈黙を破って侍が言う。
「蕎麦か。某、蕎麦は好物で御座る」
侍は歯を覗かせて莞爾と笑んだ。
「ささ。参ろう参ろう。うむ。この辺りならば増田屋は如何か」
「し……承知仕った」
嬉々とする侍のあまりの様変わりに面食らいつつも、気に障ったわけではないとほっと胸を撫で下ろし一之進は応じた。
連れ立ち大門を潜って五十間道へ出た二人は、左手に提灯の明かりが照らす名代釣瓶蕎麦と記された張り紙を認めると、順に暖簾を押して中に入った。
「主。邪魔をする」
そそくさと履き物を脱いで侍は小上がりの一角に陣取る。これではどちらから誘ったのか分からんと思いながら後に続き、一之進は帯から拵を抜いて右脇に置きつつ侍に対面して座った。
男はやって来た店の者に蕎麦掻きと焼き味噌、海苔、酒を一本注文する。
「蕎麦切りはいかがでございましょう」
名代釣瓶蕎麦と謳うだけあり、店の者は蕎麦切りを勧めるが、男はやんわりとそれを制す。
「蕎麦切りも良いが、新蕎麦の香りを楽しむには蕎麦掻きが一番だと思うておってな」
「へい。畏まりましてございます。そちらのお武家様は何を差し上げましょう」
「では。盛りを一枚」
「へい。しばらくお待ちくださいませ」
注文も済み店の者が下がったところで一之進は威儀を正し、坐礼をして口を開いた。
「某、吉原顔番所詰北町奉行所同心、富澤一之進と申す。先ほどは危うきところ加勢下さり誠に忝く」
名乗り礼を述べて一之進は腰に差して携えてきた白扇を天を右にして男の前に置く。
「こちらをお返し致す」
「これは御丁寧に。痛み入る」
再度一礼する一之進に男も頭を下げて応じ白扇を手に取る。
「この扇が過たずかの勤番武士の額を打たねば、某も四郎兵衛会所の者も一刀のもとに斬り臥せられておったところ」
「いやいや。投じたものが偶さか当たっただけに御座る」
「偶さかとはご謙遜。相当の鍛錬をお積みと御見受け致す」
「鍛錬など。某、些か投扇興を嗜みますれば」
男は朗らかに言い、白扇を腰に差した。
投扇興。この御仁は投扇興などと。一之進は目の前の男を見つめた。あの手業、決してお座敷遊びの手筋などではなかった。扇を投じた後の手は手刀の形、小柄を打った後のようだった。指を揃えていることに変わりはないが、桐台の上に置かれた的を狙って扇を投げた後の手は、掌が下を向いているはずだ。そもそも扇は投扇興のときのように開いてはおらず閉じられたままだった。
最初に見かけたときの、爆ぜた炭を身を躱さずに避け吉原雀の男たちをすり抜けた不可思議な足法のことも口にすべきだろうか。いや。それよりも、と一之進は切り出した。
「其処許は何処の御家中の方か。御名前を賜りたく」
「いや。某名乗るほどの者では御座らぬ」
「恩人の名を知らぬままでは気が済まぬ、何卒」
手を突き頭を下げる一之進に男はぽつりと呟く。
「名か……」
目線を上にやり何かを考えた風の男が頭を掻く。暫しの沈黙の後に男は柔和な笑みを浮かべて一之進に答えた。
「某、そう。山尾越太郎と申す。仕官先については御容赦頂きたく」
一之進ははぐらかされたと思った。「山を越えたろう」などとはあからさまな偽名ではないか。それ程までに素性を知られたくない事情でもあるのか。改めて挨拶にでも来られて悪所通いが家中に知れ渡るのを避けたいのか。それとも何かほかの理由が。
「お待ちどうさまにございます」
折敷を掲げた蕎麦屋の者に一時会話は中断される。越太郎と名乗った侍の顔が陽が差したようにぱっと明るくなる。
「うむ。待った。待ちかねておった」
満面の笑みを浮かべて越太郎が声を弾ませる。折敷が双方の前に据えられ、店の者がごゆるりとと告げて立ち去るやいなや、そそくさと箸を取った越太郎が一之進にも箸を取るように促す。
「さ。ささ。富澤氏。参ろう。参ろうではないか。蕎麦は何と言っても香りが命。蕎麦切りともなれば伸びる前に手早く手繰られるが良かろう。儂も熱い内にに頂戴する。冷めてしまっては折角の香りが勿体ない」
急に口数の増えた越太郎に面食らいながらも、では、と一之進も蕎麦猪口を手にする。その間に越太郎は蕎麦掻きを一口頬張っては唸り二口運んでは目を細める。まるで子供のようだ。眉根を上げた一之進はつい口元に浮かぶ笑みを禁じ得なかった。
何とも美味そうに喰う御仁だ。このように美味そうに喰う姿はついぞ見たことはない。未だ怪しさは払拭しきれぬが、この山尾越太郎という男、存外悪い人物ではないのかも知れん。一之進はそう思った。
越太郎は蕎麦掻きを平らげ堪能した様子で大きく息を吐いた。一之進も一枚手繰り終えて箸を置き、先ほどまでの武家同士の堅苦しい物言いを和らげて越太郎に話しかけた。
「余程蕎麦好きと見えますな」
「いやはや。屋敷におっては中々口にするのも儘為らずでしてな。何ともお恥ずかしい」
越太郎も膝を崩し寛いだような声で答えて顔をほころばせる。自然と二人の喉が鳴り笑いが転び出る。ひとしきり笑って暖かな空気が二人の間に流れると、越太郎は一之進に杯を勧めた。
「一献如何かな」
「あいや。まだ御役目の最中、酔うわけには」
「二三杯で酔うこともなかろう。ん。それとも富澤氏。貴殿は左党であったか」
「いや。某、酒は好物で御座る」
一之進が蕎麦でもと誘ったときの越太郎の口調を真似て答えれば、また笑いが零れて男たちの肩が揺れる。
「有難く」
杯を受けた一之進に越太郎はちろりの酒を注ぐと、自分は手酌で杯を満たす。燗酒が冷えた体に優しい。
「それにしても。あの鬼黒なる四郎兵衛会所の若い者」
一之進は切り出す。
「うむ。相当の手練れと見える」
杯を傾けつつ越太郎が返す。
「ただの町人ではあるまいな。かなり武の修練を積んでおる」
「武の修練ですか」
「でなければあれだけの槍は振るえまい」
越太郎の口から出た、槍、という言葉に一之進は虚を突かれる。
「槍。棒ではなく槍と仰るか」
「如何にも。あれは正しく棒術ではなく槍術」
中々飲み込めない様子の一之進に越太郎は問う。
「富澤氏も町方ならば捕縛に出張ることもあろう。取り方の振るう棒はどう構える?」
「それは。こう……」
一之進は棒を持ったという体で握った左拳を腰に引きつけ右拳を前へと出した。
「足の踏み出しは」
重ねて問う越太郎に一之進は答える。
「ん。左を引いて右半身に」
越太郎は一之進の目を真っ直ぐに見つめて尋ねる。
「あの男の構えは如何に」
「あれは……左半身……」
一之進は紫電に打たれた思いがした。記憶が鮮烈に蘇る。確かに鬼黒は握った左手を前に、右手を腰にして六尺棒を支えて左足を前に踏み出していた。そうか。あれは棒術ではなく槍術の構えだったか。六尺棒を見事に操る姿に些かの違和感を覚えたが、それが理由だったか。一之進は唸った。
「あれは覚伝流槍術かあるいはその傍系のように思われる」
「覚伝流槍術? 聞き覚えのない名ですな……」
「槍術と言っても何も宝蔵院流ばかりでは御座らんよ」
「江戸表に門を構える道場にもその名に心当たりは……」
「恐らく西から江戸に上る前に身につけていたのだろうな」
一之進は首を傾げる。
「西から上った……ですと?」
「覚伝流槍術が盛んなのは但州出石藩とその周辺。あの男はその辺りの出なのだろう」
「確かなのですか」
「あの男の物言いに隠してはいるが微かに西国訛りの響きがあった」
越太郎はそう嘯いてくいと杯を煽る。一之進の顔に影が差す。やはりこの御仁、只者ではない。子供のようかと思えば尋常ではない身の熟しをし、行き会った乱闘沙汰を見て行いの端々から為人を炙り出してみせる。全く得体が知れぬ。
一之進が俄に険しい顔をしたと見てか越太郎は頭を掻いて明るい声を発してみせる。
「いや、何。御役目柄からついつい。悪い癖が出てしもうた」
喉を鳴らす越太郎に一之進は真顔に戻って問う。
「御役目とは」
「何れ明かすこともあろうよ」
さらりと躱して越太郎は穏やかに笑む。
「それはさて置き。富澤氏」
穏やかさは保ったまま少しばかり笑みを拭って越太郎が語り掛ける。
「今暫くは郭の内外に油断なく目を配った方が宜しかろう」
「何かが起こると仰るか。鬼黒なる男が何事かを仕出かすとでも」
「いや。あの男ではない。今ここで断ずることは出来ぬが、別の者らが」
越太郎の瞳に射竦めるような光が差す。
「まあ何にせよ、顔番所の御役目を精進されよ。いつ如何なるときに何が起きても構わぬよう、用心しておくに越したことは御座らぬよ。呉々も。呉々もな」
あの越太郎と名乗った侍はそう言った。あれは警告なのだ。一之進はそう思った。
顔番所に詰めている間は大門の出入りを把握することは出来る。御役目に就いている間に郭の中を見て回ることも出来る。だが郭の黒板塀の外はどうであろう。八丁堀までの道すがら、己の目で確かめておこうと思ったのが一之進がこの田圃道を選んだ理由だった。
吉原への近道としてこの道を通る者は少なくはない。お大尽衆は柳橋から首尾の松を眺めて山谷堀まで船を仕立てて、多少懐に余裕のある者は上野山下や入谷辺りから駕籠に揺られて登楼する。揚代以外に銭のない者は徒で通うが、この田圃道は徒組の通い路となっている。
駕籠も通わぬこの道は人目がない分辺りが暗くなると些か物騒である。ここ暫く追い剥ぎ辻斬りの類いは出ていないが、かつてはこの界隈で吉原絡みの辻斬りもあった。
白井権八という男がいる。江戸の気の荒い町奴たちの頭を張った幡随院長兵衛の食客と、芝居、浄瑠璃の中ではそうなっているが、この男、元を正せば江戸っ子に持て囃されるような侠客などではなく、故郷の因州で癇癪から目上を斬って藩を逐電した平井権八という侍である。
この権八、江戸表に身を潜めている内に妓楼三浦屋の小紫という遊女と昵懇となったが、通い詰め金策尽きた挙げ句に辻斬りに及び金品を奪って殺めること百三十人。鈴ヶ森でお仕置きとなったのはもう八十年ほど前の話だが、似たようなことがこのご時世に起こってもおかしくはない。
山尾越太郎と名乗ったあの侍の、呉々もという言葉が思い出される。兇賊が出るかどうかは判然とはせぬ。しかしもし出るのならば往来の盛んな道筋ではなく、このような人目に付きにくい場所だろう。一之進はそう踏んで組屋敷に帰りがてら見回ろうと思い立ったのだった。
刈り入れを過ぎ茶色く枯れた稲株の並ぶ田のどこかから首を絞められたような枯れた声が響く。朝を迎え目覚めた鷺が鳴いたものだろう。鳥が呑気に鳴くのであれば、付近に怪しい者が潜んでいるということもあるまい。ある程度は安気に構えても差し支えなかろう。そう考え一之進はまた組屋敷に戻ってからどう過ごすかを頭に描き始めた。
畦道の片側で藪を掻き分けるような音がした。今度は雉子でも走ったかと思うが鳴き声も母衣打ちの羽音も聞こえない。そうこうするうちに笹の擦れる音が止む。さて、北風のせいであろうか。そう思った一之進の目の前に男が一人藪から飛び出してきて道を塞ぐ。
「おい。こいつに間違いはなさそうだぜ」
藪から出た男がそう一声発すると、それを合図に二つ三つと並ぶ稲藁の野積みの陰からばらばらと同じ風体の男たちが湧いて出て瞬く間に行く手を遮る。着物の裾を端折って尻捲りし、六尺半纏に梵天帯、膝の下に灸の跡を隠す三里紙を巻いたその風体は在の百姓ではない。これはどこぞの武家の中間たちだろうと一之進は見た。
「やい木っ端役人。持ってるもんを置いて行きな」
中間の一人が柄悪く一之進に言いながら手にした木刀をちらつかせる。
「素直に出しゃあ痛い目見るこたぁねぇぜ」
そう一人が凄む間に手に手に木刀、棍棒をかざして男たちは一之進を囲み、じりじりと輪を狭める。
「うぬら儂が北町奉行所同心と知っての狼藉か」
一之進は油断なく目を配りながら徒党の頭目と思しき者に一喝する。言われた男は不敵に笑みを浮かべた。
「おうよ。寒い中粘って張ってた甲斐があったってもんだぜ」
臆することなく男は答える。
こやつら渡り中間の類いか。そう一之進は当たりをつけた。
困窮した旗本諸家では安上がりというだけの理由からよくよく身上を吟味せず下男を雇い入れる。それに乗じて素行の悪い食い詰め者たちが奉公の振りをして中間として抱えられる。奉公人といっても普段はさしたる仕事もない。暇に飽かせて旗本屋敷であることなどお構いなしに賭場を開く。それが主君に知れ渡り咎められ放逐されても平気で別の奉公先に渡りをつける。
一人の主君に忠義を尽くすなど莫迦らしいとばかりに次々と主を乗り換え屋敷を渡り歩き、旗本という威を借りて傍若無人に振る舞う不逞の輩。この男たちも大方そんな渡り中間の類いだろう。
「さあ。出すもん出しな」
「生憎うぬらに差し出す物など持ち合わせてはおらぬ」
きっぱりと言い放つ一之進に最初に行く手を阻んだ中間は袖を捲って見せる。
「えい。構わねぇ。畳んじめぇ」
その一言で前から横から木刀、棍棒が一気に一之進に襲いかかった。
身を躱しながら一之進は抜け目なく無頼どもの頭数を確かめる。全部で七人。さて。抜くか。抜かぬか。柄に手を掛け鯉口を切ろうとしたその刹那。
一陣の風が吹いた。
一之進の背後から起こった風は唸りを上げ男たちの得物を弾いていく。堅い木と木が打ち鳴らされる音が冬枯れた田に響き渡る。音が響くとともに、ある者は木刀を取り落として小刻みに震える手を押さえ、また別の者は短く唸ってその場に固まる。その一連の様は男たちの間を黒い疾風が駆け抜け薙ぎ払ったかのように一之進の目に映った。
かーん、と一際長い音が鳴り、一本の木刀が風車のように回って宙に舞う。一之進を囲む輪が二歩三歩と後ずさる。弾き飛ばされた木刀が稲株の間に落ちて動きを止めると同時に、辺り全ての音が止んだ。
「まぁそう慌てるなよ」
聞き覚えのある声がゆっくりと言う。
「この旦那は持っていやしねぇよ。お前ぇさん方が欲しいのは。こいつだろ?」
何かが放り投げられ乾いた音を立てて地に落ちる。一斉に見入る中間たちに声が告げる。
「萬屋の前に落ちてたぜ。お前ぇさんらが命じられたのはこいつを取り返してこいってことだろ?」
男たちが目線を向ける先には一本の笄が落ちていた。中間の一人が拾い上げ頭目らしき男に差し出す。手にして暫し検分してから皆を見回して男が頷く。
「萬屋前で俺と立ち会ったときにうっかり刀から落としたんだろうよ。中々に凝った細工だ。そうそう二つとはないだろうよ。調べりゃぁどこのお屋敷の誰の誰兵衛さまが落としたもんかはすぐに割れるぜ」
それを聞き色めき立つ男たちを制すように黒い装束が手にした六尺棒を、ずん、と地面に突き立てる。
「おっと。そこまでやる気はねぇよ。確かめようとも思わねぇ。だからな。ここは温和しくそれ持って帰ぇって、これこの通り取り返して参りました、って知らん顔でご主人様に差し上げりゃぁ済むんじゃねぇかい?」
一之進に背を向けた黒い長半纏が六尺半纏の群れを見回して語り掛ける。囲みを解いて一塊になった中間たちは互いに顔を近づけこちらの様子を伺いながら何事か囁き合う。
「退くなら今だぜ。このまま帰ぇるってんならこの旦那も事を荒立てるようなこたぁあするめぇよ。お前ぇさんらが半纏の背に背負ってる紋所にも目ぇ瞑ってさっぱり忘れちまって、どこのお家の紋者かなんて詮索もしやしねぇさ。そうだろう? 旦那」
一之進の了解もなく勝手に話を進める長い総髪が微かに顔を横に向けて目配せするような素振りを見せる。中間たちはまた何事か囁き合っていたが、やがて不承不承といった様子で手にしてきた得物を収め、捨て台詞もなく一之進の脇を通り過ぎ堤の方へ去っていった。
「この旦那に二度と迷惑掛けるんじゃねぇぞ」
去って行く六尺半纏の背に黒い長半纏が顳顬から垂れる一房の白髪を揺らして振り向き言葉を投げる。
「鬼黒。そなた。儂を付けておったのか」
狼藉者を追い払い一之進に刀を抜かせなかった四郎兵衛会所の男に問えば、皮肉な笑みを浮かべた唇が開く。
「まさか。付馬の帰りでござんすよ」
「こんな朝早くから不払いの客から取り立てだと?」
「寝起きを狙われちゃぁ逃げられねぇもんです」
「六尺棒を携えてか」
「こいつですかい? 帰りの駄賃にぼて振りでもして小金を稼ごうって腹でさぁ」
一之進はのらりくらりと嘯く鬼黒との間を詰めて真正面に立つとじっと目を見据える。
「何者なのだ。そなたは」
問われて鬼黒は、ふい、と目を逸らすが、わざと眠そうな装いで一之進に力ない半眼を向ける。
「萬屋前で勤番武士をあしらった手業といい、此度の渡り中間どもを追い払った手際といい、見事なものだと思うが……それは槍術なのか?」
鬼黒は黙したまま惘とした視線を一之進に向けるばかりで答えようとはしない。
「どこで覚伝流槍術を身につけた」
一之進がそう切り出したとき、うすらぼんやりとした様を見せるばかりだった鬼黒の目に鋭い光が差した。
「そなたは西国の生まれなのか? 元は何処かの藩に出仕する身であったのか? そうならばなぜ町人の態をして吉原は四郎兵衛会所などにいる。逐電か。どうして江戸表に……」
矢継ぎ早に問い掛ける一之進を見つめる鬼黒の目に宿った光が一層強くなる。緩んだ半眼に力が込められ、すう、っと細くなる。
「あんたは飯を喰うか?」
先ほどまでの八丁堀同心に対するのとは打って変わって険のある口調で鬼黒が唐突に問うた。その意味を計りかねて一之進が返答に躊躇する。
「あんたは飯を喰うのかと訊いている」
鬼黒は更に重ねて一之進に問うてくる。
これから一緒に飯でもどうだ、との誘いではあるまい。
「無論」
一之進は当たり障りのない一言を返した。
「ならば聞かせて貰おうじゃないか」
鬼黒は目を見開いて一之進を睨み付けて畳み掛ける。
「あんたは茶碗に盛られた飯に箸をつけるとき、米粒一粒一粒にお前はどこの村のどの田圃の出だ、ここに来るまでどんなことがあった、親兄弟は息災か、一緒にいるのは顔見知りか、包み隠さず白状しろ、と一々確かめるのか?」
「な」
間の抜けた声を発した一之進の顔に見る間に赤みが差す。
「ば、莫迦な。その様なことするわけがない」
一歩踏み出し眼前に迫った険しい顔から発せられた低く響く声が一之進を押す。
「もし俺が藩を抜けた浪人者だとして。郭のやくざな稼業に身を落としたとして。それで誰かが迷惑を被るとでも?」
鬼黒の気迫に気圧され一之進の足が半歩後ろに下がる。
「あんた飯を喰うかい? いや。米を喰うのかと言ってるんじゃねぇ。禄を食んでるんだろと言うんだ」
「禄は……三十俵二人扶を与えられておる」
「薄禄だろうが何だろうがそんなこたぁどうでもいい。食いっぱぐれなんかにあったこともねぇその頭で考えてみな。思い描いてみなよ。昨日まで士分だった者が食うや食わずで彷徨った挙げ句に田の落ち穂を拾って噛み締めたときの気分を。山水を飲み泥水を啜って腹を下して打ち棄てられたお堂の中で三日三晩苦しんでも誰一人頼れる者のいないときの心持ちを」
静かな語り口であるが故に鬼黒の声に含まれる怒気はなお一層はっきりと感じられ一之進は口を開くのも躊躇われた。
「もし仮に。もし仮にだ」
感極まったか鬼黒の声が大きくなる。
「生まれは侍でも身分なんざぁ捨て腐って、どこの馬の骨とも得体の知れねぇ身になった奴がだ。槍を振るって妓楼の揉め事を収めて、それが火種で人気のない道で待ち伏せまでして意趣返ししようって輩をお節介にも追い払ってだ。それで脇が甘い暢気な八丁堀の旦那にあれこれ言われる筋合いがあるっていうのかい?」
言われて一之進はつい今し方己の身に起こったことを思い返す。そうだ。この男は確かに自分の身に降りかかった火の粉を払ってくれたのだ。一滴の血も流されることなく事は収まりを見せた。問い質す前に言うべきことがある。一之進は自らの不明を恥じ先走りを戒めた。
「済まぬ。根掘り葉掘り詮議しようというつもりではなかったのだ」
一之進は侍同士で挨拶をするように頭を下げた。
「礼を言わねばならん。儂は抜かずに済んだ。忝い」
そう言って下を向く一之進を見て鬼黒の肩から力が抜ける。しばらく経っても下げられたままの一之進の頭に怒気を和らげた伝法な口調が語り掛ける。
「頭を上げておくんなせぇ、旦那。ちぃとばかし意地の悪い言い方になっちまった」
鬼黒は手にした六尺棒を地に横たえて、町人が侍に接するように深々と腰を折った。
「郭の中で暮らす連中はね。臑に傷持つ奴ばっかりさ。それぞれ人には言えねぇことだって抱えてる。それを分かって互いに詮索はしねぇし、口があっても自分から語りゃしねぇ。問うだけ野暮ってもんですぜ。そういう所なんでごぜぇやすよ。吉原ってなぁ」
「ああ。肝に銘じる。浅はかであった」
噛んで含めるような鬼黒の物言いに一之進は答える。
「それじゃぁこれで失礼しやすよ。道中お気をつけて」
鬼黒は六尺棒を拾い上げ肩に担ぐと踵を返した。
「何にせよ」
背を一之進に向けたまま鬼黒の声色に冷たい響きが差す。
「これでお互い貸し借りなしだ」
それだけ言って鬼黒は六尺棒を両肩に渡して天秤棒のように腕を回すと、新内節の一節を口ずさみながら浅草寺の方角へと歩き始めた。
また筑波嶺の方から冷たい風が吹き下ろしてくる。乾いた北風は立ち枯れた草を揺らして鬼黒と一之進の間を駆け抜ける。
その風がすぐ目と鼻の先にいる鬼黒と己の間を流れる向こう岸さえ見渡せない大河のように思えて、一之進は去りゆく黒い長半纏の背に掛ける言葉を見つけられないでいた。
早朝の日本堤の土手八丁は行き交う人の姿もなく、まだ微睡みの中でひっそりと息づいている。眠気を堪えた間抜け顔を誰かに見られることはないだろうが、緩みっぱなしではばつが悪い。ひりひりとする頬の痛みに顔を顰めて、よし、と自分に言い聞かせるように一声発すると、一之進は努めて背筋を伸ばして歩き出した。
二日勤めて一日挟み、また二日勤めて一日休む。その繰り返しが一之進ら町方同心の御役目に対する奉じ方なのだが、この日非番を迎えた一之進は吉原顔番所から八丁堀組屋敷に戻る途上にいた。
冷たく乾いた風が日本堤の水面を滑る。遠く紫峰を下ってきた北風なぞに負けじと一之進は襟元を掻き合わせ、寒さに堪えながら足を急がせる。八丁堀に着いたらまずは風呂だ。湯屋でしこたま朝湯を堪能して体を解したら次は髪結いだ。顔番所詰めの間は流石に日髪日剃とはいかぬ。綺麗さっぱり身を整えて、出仕する朋輩を御苦労御苦労と見送って朝寝を決め込む。一之進はそう算段した。
足早に行く一之進だったが、浅草寺の手前辺りで足が緩み出す。急ぎ組屋敷に戻りたいものだが、さて。道筋を頭に描いて暫し逡巡する。このまま堀割沿いにどん突きまで行けば大川、待乳山聖天の前を通って吾妻橋辺りの日光街道へ出る。そのまま街道を八丁堀まで下る道筋はしっかりと整えられた道故に徒で行くにも歩きやすい。次いで歩きやすいのは浅草寺と西方寺の横を行く馬道。辻籠も通い待乳山聖天を回るよりも近道となる。
何れの道も八丁堀組屋敷と吉原顔番所との往復に通い慣れた道だったが、一之進はそのどちらでもなく、整えられた路面とはお世辞にも言い難い浅草寺裏手を通る道に足を進めた。一番の近道であるというのが理由ではない。この道を選ばせたのは、先日妓楼萬屋前で白扇を投げ窮地を救った侍の言葉だった。
あの後立ち去った侍を急ぎ追い、何とか大門の手前でで並び矢筈紋の羽織の背に追いついた一之進は息せき切って声を掛けた。
「率爾ながら、暫し、暫し」
呼びかけられた男は立ち止まりゆっくりと振り向く。
「某に何か御用かな」
「其処許にお話ししたき儀が御座る」
肩を上下させ息も荒く言う一之進に穏やかな笑顔が応える。
「生憎と某も暇を持て余す身ではない故。では御免」
立ち去ろうとする侍を引き留めるべく、一之進は慌てて言葉を継ぐ。
「蕎麦。蕎麦でも如何か」
男の柔和な笑みが消えた。しまった、言うに事欠いて己は何を口走ったか。胸中で苦虫を噛み殺すがもう遅い。笑みを拭い去った男は真剣な眼差しを一之進に向ける。何とも間の悪い空気が二人の間に漂う。
「蕎麦。とな?」
声音からも穏やかさが消えている。参った、どう繕えば良いやら。狼狽する一之進を硬い表情で見据えて暫し。沈黙を破って侍が言う。
「蕎麦か。某、蕎麦は好物で御座る」
侍は歯を覗かせて莞爾と笑んだ。
「ささ。参ろう参ろう。うむ。この辺りならば増田屋は如何か」
「し……承知仕った」
嬉々とする侍のあまりの様変わりに面食らいつつも、気に障ったわけではないとほっと胸を撫で下ろし一之進は応じた。
連れ立ち大門を潜って五十間道へ出た二人は、左手に提灯の明かりが照らす名代釣瓶蕎麦と記された張り紙を認めると、順に暖簾を押して中に入った。
「主。邪魔をする」
そそくさと履き物を脱いで侍は小上がりの一角に陣取る。これではどちらから誘ったのか分からんと思いながら後に続き、一之進は帯から拵を抜いて右脇に置きつつ侍に対面して座った。
男はやって来た店の者に蕎麦掻きと焼き味噌、海苔、酒を一本注文する。
「蕎麦切りはいかがでございましょう」
名代釣瓶蕎麦と謳うだけあり、店の者は蕎麦切りを勧めるが、男はやんわりとそれを制す。
「蕎麦切りも良いが、新蕎麦の香りを楽しむには蕎麦掻きが一番だと思うておってな」
「へい。畏まりましてございます。そちらのお武家様は何を差し上げましょう」
「では。盛りを一枚」
「へい。しばらくお待ちくださいませ」
注文も済み店の者が下がったところで一之進は威儀を正し、坐礼をして口を開いた。
「某、吉原顔番所詰北町奉行所同心、富澤一之進と申す。先ほどは危うきところ加勢下さり誠に忝く」
名乗り礼を述べて一之進は腰に差して携えてきた白扇を天を右にして男の前に置く。
「こちらをお返し致す」
「これは御丁寧に。痛み入る」
再度一礼する一之進に男も頭を下げて応じ白扇を手に取る。
「この扇が過たずかの勤番武士の額を打たねば、某も四郎兵衛会所の者も一刀のもとに斬り臥せられておったところ」
「いやいや。投じたものが偶さか当たっただけに御座る」
「偶さかとはご謙遜。相当の鍛錬をお積みと御見受け致す」
「鍛錬など。某、些か投扇興を嗜みますれば」
男は朗らかに言い、白扇を腰に差した。
投扇興。この御仁は投扇興などと。一之進は目の前の男を見つめた。あの手業、決してお座敷遊びの手筋などではなかった。扇を投じた後の手は手刀の形、小柄を打った後のようだった。指を揃えていることに変わりはないが、桐台の上に置かれた的を狙って扇を投げた後の手は、掌が下を向いているはずだ。そもそも扇は投扇興のときのように開いてはおらず閉じられたままだった。
最初に見かけたときの、爆ぜた炭を身を躱さずに避け吉原雀の男たちをすり抜けた不可思議な足法のことも口にすべきだろうか。いや。それよりも、と一之進は切り出した。
「其処許は何処の御家中の方か。御名前を賜りたく」
「いや。某名乗るほどの者では御座らぬ」
「恩人の名を知らぬままでは気が済まぬ、何卒」
手を突き頭を下げる一之進に男はぽつりと呟く。
「名か……」
目線を上にやり何かを考えた風の男が頭を掻く。暫しの沈黙の後に男は柔和な笑みを浮かべて一之進に答えた。
「某、そう。山尾越太郎と申す。仕官先については御容赦頂きたく」
一之進ははぐらかされたと思った。「山を越えたろう」などとはあからさまな偽名ではないか。それ程までに素性を知られたくない事情でもあるのか。改めて挨拶にでも来られて悪所通いが家中に知れ渡るのを避けたいのか。それとも何かほかの理由が。
「お待ちどうさまにございます」
折敷を掲げた蕎麦屋の者に一時会話は中断される。越太郎と名乗った侍の顔が陽が差したようにぱっと明るくなる。
「うむ。待った。待ちかねておった」
満面の笑みを浮かべて越太郎が声を弾ませる。折敷が双方の前に据えられ、店の者がごゆるりとと告げて立ち去るやいなや、そそくさと箸を取った越太郎が一之進にも箸を取るように促す。
「さ。ささ。富澤氏。参ろう。参ろうではないか。蕎麦は何と言っても香りが命。蕎麦切りともなれば伸びる前に手早く手繰られるが良かろう。儂も熱い内にに頂戴する。冷めてしまっては折角の香りが勿体ない」
急に口数の増えた越太郎に面食らいながらも、では、と一之進も蕎麦猪口を手にする。その間に越太郎は蕎麦掻きを一口頬張っては唸り二口運んでは目を細める。まるで子供のようだ。眉根を上げた一之進はつい口元に浮かぶ笑みを禁じ得なかった。
何とも美味そうに喰う御仁だ。このように美味そうに喰う姿はついぞ見たことはない。未だ怪しさは払拭しきれぬが、この山尾越太郎という男、存外悪い人物ではないのかも知れん。一之進はそう思った。
越太郎は蕎麦掻きを平らげ堪能した様子で大きく息を吐いた。一之進も一枚手繰り終えて箸を置き、先ほどまでの武家同士の堅苦しい物言いを和らげて越太郎に話しかけた。
「余程蕎麦好きと見えますな」
「いやはや。屋敷におっては中々口にするのも儘為らずでしてな。何ともお恥ずかしい」
越太郎も膝を崩し寛いだような声で答えて顔をほころばせる。自然と二人の喉が鳴り笑いが転び出る。ひとしきり笑って暖かな空気が二人の間に流れると、越太郎は一之進に杯を勧めた。
「一献如何かな」
「あいや。まだ御役目の最中、酔うわけには」
「二三杯で酔うこともなかろう。ん。それとも富澤氏。貴殿は左党であったか」
「いや。某、酒は好物で御座る」
一之進が蕎麦でもと誘ったときの越太郎の口調を真似て答えれば、また笑いが零れて男たちの肩が揺れる。
「有難く」
杯を受けた一之進に越太郎はちろりの酒を注ぐと、自分は手酌で杯を満たす。燗酒が冷えた体に優しい。
「それにしても。あの鬼黒なる四郎兵衛会所の若い者」
一之進は切り出す。
「うむ。相当の手練れと見える」
杯を傾けつつ越太郎が返す。
「ただの町人ではあるまいな。かなり武の修練を積んでおる」
「武の修練ですか」
「でなければあれだけの槍は振るえまい」
越太郎の口から出た、槍、という言葉に一之進は虚を突かれる。
「槍。棒ではなく槍と仰るか」
「如何にも。あれは正しく棒術ではなく槍術」
中々飲み込めない様子の一之進に越太郎は問う。
「富澤氏も町方ならば捕縛に出張ることもあろう。取り方の振るう棒はどう構える?」
「それは。こう……」
一之進は棒を持ったという体で握った左拳を腰に引きつけ右拳を前へと出した。
「足の踏み出しは」
重ねて問う越太郎に一之進は答える。
「ん。左を引いて右半身に」
越太郎は一之進の目を真っ直ぐに見つめて尋ねる。
「あの男の構えは如何に」
「あれは……左半身……」
一之進は紫電に打たれた思いがした。記憶が鮮烈に蘇る。確かに鬼黒は握った左手を前に、右手を腰にして六尺棒を支えて左足を前に踏み出していた。そうか。あれは棒術ではなく槍術の構えだったか。六尺棒を見事に操る姿に些かの違和感を覚えたが、それが理由だったか。一之進は唸った。
「あれは覚伝流槍術かあるいはその傍系のように思われる」
「覚伝流槍術? 聞き覚えのない名ですな……」
「槍術と言っても何も宝蔵院流ばかりでは御座らんよ」
「江戸表に門を構える道場にもその名に心当たりは……」
「恐らく西から江戸に上る前に身につけていたのだろうな」
一之進は首を傾げる。
「西から上った……ですと?」
「覚伝流槍術が盛んなのは但州出石藩とその周辺。あの男はその辺りの出なのだろう」
「確かなのですか」
「あの男の物言いに隠してはいるが微かに西国訛りの響きがあった」
越太郎はそう嘯いてくいと杯を煽る。一之進の顔に影が差す。やはりこの御仁、只者ではない。子供のようかと思えば尋常ではない身の熟しをし、行き会った乱闘沙汰を見て行いの端々から為人を炙り出してみせる。全く得体が知れぬ。
一之進が俄に険しい顔をしたと見てか越太郎は頭を掻いて明るい声を発してみせる。
「いや、何。御役目柄からついつい。悪い癖が出てしもうた」
喉を鳴らす越太郎に一之進は真顔に戻って問う。
「御役目とは」
「何れ明かすこともあろうよ」
さらりと躱して越太郎は穏やかに笑む。
「それはさて置き。富澤氏」
穏やかさは保ったまま少しばかり笑みを拭って越太郎が語り掛ける。
「今暫くは郭の内外に油断なく目を配った方が宜しかろう」
「何かが起こると仰るか。鬼黒なる男が何事かを仕出かすとでも」
「いや。あの男ではない。今ここで断ずることは出来ぬが、別の者らが」
越太郎の瞳に射竦めるような光が差す。
「まあ何にせよ、顔番所の御役目を精進されよ。いつ如何なるときに何が起きても構わぬよう、用心しておくに越したことは御座らぬよ。呉々も。呉々もな」
あの越太郎と名乗った侍はそう言った。あれは警告なのだ。一之進はそう思った。
顔番所に詰めている間は大門の出入りを把握することは出来る。御役目に就いている間に郭の中を見て回ることも出来る。だが郭の黒板塀の外はどうであろう。八丁堀までの道すがら、己の目で確かめておこうと思ったのが一之進がこの田圃道を選んだ理由だった。
吉原への近道としてこの道を通る者は少なくはない。お大尽衆は柳橋から首尾の松を眺めて山谷堀まで船を仕立てて、多少懐に余裕のある者は上野山下や入谷辺りから駕籠に揺られて登楼する。揚代以外に銭のない者は徒で通うが、この田圃道は徒組の通い路となっている。
駕籠も通わぬこの道は人目がない分辺りが暗くなると些か物騒である。ここ暫く追い剥ぎ辻斬りの類いは出ていないが、かつてはこの界隈で吉原絡みの辻斬りもあった。
白井権八という男がいる。江戸の気の荒い町奴たちの頭を張った幡随院長兵衛の食客と、芝居、浄瑠璃の中ではそうなっているが、この男、元を正せば江戸っ子に持て囃されるような侠客などではなく、故郷の因州で癇癪から目上を斬って藩を逐電した平井権八という侍である。
この権八、江戸表に身を潜めている内に妓楼三浦屋の小紫という遊女と昵懇となったが、通い詰め金策尽きた挙げ句に辻斬りに及び金品を奪って殺めること百三十人。鈴ヶ森でお仕置きとなったのはもう八十年ほど前の話だが、似たようなことがこのご時世に起こってもおかしくはない。
山尾越太郎と名乗ったあの侍の、呉々もという言葉が思い出される。兇賊が出るかどうかは判然とはせぬ。しかしもし出るのならば往来の盛んな道筋ではなく、このような人目に付きにくい場所だろう。一之進はそう踏んで組屋敷に帰りがてら見回ろうと思い立ったのだった。
刈り入れを過ぎ茶色く枯れた稲株の並ぶ田のどこかから首を絞められたような枯れた声が響く。朝を迎え目覚めた鷺が鳴いたものだろう。鳥が呑気に鳴くのであれば、付近に怪しい者が潜んでいるということもあるまい。ある程度は安気に構えても差し支えなかろう。そう考え一之進はまた組屋敷に戻ってからどう過ごすかを頭に描き始めた。
畦道の片側で藪を掻き分けるような音がした。今度は雉子でも走ったかと思うが鳴き声も母衣打ちの羽音も聞こえない。そうこうするうちに笹の擦れる音が止む。さて、北風のせいであろうか。そう思った一之進の目の前に男が一人藪から飛び出してきて道を塞ぐ。
「おい。こいつに間違いはなさそうだぜ」
藪から出た男がそう一声発すると、それを合図に二つ三つと並ぶ稲藁の野積みの陰からばらばらと同じ風体の男たちが湧いて出て瞬く間に行く手を遮る。着物の裾を端折って尻捲りし、六尺半纏に梵天帯、膝の下に灸の跡を隠す三里紙を巻いたその風体は在の百姓ではない。これはどこぞの武家の中間たちだろうと一之進は見た。
「やい木っ端役人。持ってるもんを置いて行きな」
中間の一人が柄悪く一之進に言いながら手にした木刀をちらつかせる。
「素直に出しゃあ痛い目見るこたぁねぇぜ」
そう一人が凄む間に手に手に木刀、棍棒をかざして男たちは一之進を囲み、じりじりと輪を狭める。
「うぬら儂が北町奉行所同心と知っての狼藉か」
一之進は油断なく目を配りながら徒党の頭目と思しき者に一喝する。言われた男は不敵に笑みを浮かべた。
「おうよ。寒い中粘って張ってた甲斐があったってもんだぜ」
臆することなく男は答える。
こやつら渡り中間の類いか。そう一之進は当たりをつけた。
困窮した旗本諸家では安上がりというだけの理由からよくよく身上を吟味せず下男を雇い入れる。それに乗じて素行の悪い食い詰め者たちが奉公の振りをして中間として抱えられる。奉公人といっても普段はさしたる仕事もない。暇に飽かせて旗本屋敷であることなどお構いなしに賭場を開く。それが主君に知れ渡り咎められ放逐されても平気で別の奉公先に渡りをつける。
一人の主君に忠義を尽くすなど莫迦らしいとばかりに次々と主を乗り換え屋敷を渡り歩き、旗本という威を借りて傍若無人に振る舞う不逞の輩。この男たちも大方そんな渡り中間の類いだろう。
「さあ。出すもん出しな」
「生憎うぬらに差し出す物など持ち合わせてはおらぬ」
きっぱりと言い放つ一之進に最初に行く手を阻んだ中間は袖を捲って見せる。
「えい。構わねぇ。畳んじめぇ」
その一言で前から横から木刀、棍棒が一気に一之進に襲いかかった。
身を躱しながら一之進は抜け目なく無頼どもの頭数を確かめる。全部で七人。さて。抜くか。抜かぬか。柄に手を掛け鯉口を切ろうとしたその刹那。
一陣の風が吹いた。
一之進の背後から起こった風は唸りを上げ男たちの得物を弾いていく。堅い木と木が打ち鳴らされる音が冬枯れた田に響き渡る。音が響くとともに、ある者は木刀を取り落として小刻みに震える手を押さえ、また別の者は短く唸ってその場に固まる。その一連の様は男たちの間を黒い疾風が駆け抜け薙ぎ払ったかのように一之進の目に映った。
かーん、と一際長い音が鳴り、一本の木刀が風車のように回って宙に舞う。一之進を囲む輪が二歩三歩と後ずさる。弾き飛ばされた木刀が稲株の間に落ちて動きを止めると同時に、辺り全ての音が止んだ。
「まぁそう慌てるなよ」
聞き覚えのある声がゆっくりと言う。
「この旦那は持っていやしねぇよ。お前ぇさん方が欲しいのは。こいつだろ?」
何かが放り投げられ乾いた音を立てて地に落ちる。一斉に見入る中間たちに声が告げる。
「萬屋の前に落ちてたぜ。お前ぇさんらが命じられたのはこいつを取り返してこいってことだろ?」
男たちが目線を向ける先には一本の笄が落ちていた。中間の一人が拾い上げ頭目らしき男に差し出す。手にして暫し検分してから皆を見回して男が頷く。
「萬屋前で俺と立ち会ったときにうっかり刀から落としたんだろうよ。中々に凝った細工だ。そうそう二つとはないだろうよ。調べりゃぁどこのお屋敷の誰の誰兵衛さまが落としたもんかはすぐに割れるぜ」
それを聞き色めき立つ男たちを制すように黒い装束が手にした六尺棒を、ずん、と地面に突き立てる。
「おっと。そこまでやる気はねぇよ。確かめようとも思わねぇ。だからな。ここは温和しくそれ持って帰ぇって、これこの通り取り返して参りました、って知らん顔でご主人様に差し上げりゃぁ済むんじゃねぇかい?」
一之進に背を向けた黒い長半纏が六尺半纏の群れを見回して語り掛ける。囲みを解いて一塊になった中間たちは互いに顔を近づけこちらの様子を伺いながら何事か囁き合う。
「退くなら今だぜ。このまま帰ぇるってんならこの旦那も事を荒立てるようなこたぁあするめぇよ。お前ぇさんらが半纏の背に背負ってる紋所にも目ぇ瞑ってさっぱり忘れちまって、どこのお家の紋者かなんて詮索もしやしねぇさ。そうだろう? 旦那」
一之進の了解もなく勝手に話を進める長い総髪が微かに顔を横に向けて目配せするような素振りを見せる。中間たちはまた何事か囁き合っていたが、やがて不承不承といった様子で手にしてきた得物を収め、捨て台詞もなく一之進の脇を通り過ぎ堤の方へ去っていった。
「この旦那に二度と迷惑掛けるんじゃねぇぞ」
去って行く六尺半纏の背に黒い長半纏が顳顬から垂れる一房の白髪を揺らして振り向き言葉を投げる。
「鬼黒。そなた。儂を付けておったのか」
狼藉者を追い払い一之進に刀を抜かせなかった四郎兵衛会所の男に問えば、皮肉な笑みを浮かべた唇が開く。
「まさか。付馬の帰りでござんすよ」
「こんな朝早くから不払いの客から取り立てだと?」
「寝起きを狙われちゃぁ逃げられねぇもんです」
「六尺棒を携えてか」
「こいつですかい? 帰りの駄賃にぼて振りでもして小金を稼ごうって腹でさぁ」
一之進はのらりくらりと嘯く鬼黒との間を詰めて真正面に立つとじっと目を見据える。
「何者なのだ。そなたは」
問われて鬼黒は、ふい、と目を逸らすが、わざと眠そうな装いで一之進に力ない半眼を向ける。
「萬屋前で勤番武士をあしらった手業といい、此度の渡り中間どもを追い払った手際といい、見事なものだと思うが……それは槍術なのか?」
鬼黒は黙したまま惘とした視線を一之進に向けるばかりで答えようとはしない。
「どこで覚伝流槍術を身につけた」
一之進がそう切り出したとき、うすらぼんやりとした様を見せるばかりだった鬼黒の目に鋭い光が差した。
「そなたは西国の生まれなのか? 元は何処かの藩に出仕する身であったのか? そうならばなぜ町人の態をして吉原は四郎兵衛会所などにいる。逐電か。どうして江戸表に……」
矢継ぎ早に問い掛ける一之進を見つめる鬼黒の目に宿った光が一層強くなる。緩んだ半眼に力が込められ、すう、っと細くなる。
「あんたは飯を喰うか?」
先ほどまでの八丁堀同心に対するのとは打って変わって険のある口調で鬼黒が唐突に問うた。その意味を計りかねて一之進が返答に躊躇する。
「あんたは飯を喰うのかと訊いている」
鬼黒は更に重ねて一之進に問うてくる。
これから一緒に飯でもどうだ、との誘いではあるまい。
「無論」
一之進は当たり障りのない一言を返した。
「ならば聞かせて貰おうじゃないか」
鬼黒は目を見開いて一之進を睨み付けて畳み掛ける。
「あんたは茶碗に盛られた飯に箸をつけるとき、米粒一粒一粒にお前はどこの村のどの田圃の出だ、ここに来るまでどんなことがあった、親兄弟は息災か、一緒にいるのは顔見知りか、包み隠さず白状しろ、と一々確かめるのか?」
「な」
間の抜けた声を発した一之進の顔に見る間に赤みが差す。
「ば、莫迦な。その様なことするわけがない」
一歩踏み出し眼前に迫った険しい顔から発せられた低く響く声が一之進を押す。
「もし俺が藩を抜けた浪人者だとして。郭のやくざな稼業に身を落としたとして。それで誰かが迷惑を被るとでも?」
鬼黒の気迫に気圧され一之進の足が半歩後ろに下がる。
「あんた飯を喰うかい? いや。米を喰うのかと言ってるんじゃねぇ。禄を食んでるんだろと言うんだ」
「禄は……三十俵二人扶を与えられておる」
「薄禄だろうが何だろうがそんなこたぁどうでもいい。食いっぱぐれなんかにあったこともねぇその頭で考えてみな。思い描いてみなよ。昨日まで士分だった者が食うや食わずで彷徨った挙げ句に田の落ち穂を拾って噛み締めたときの気分を。山水を飲み泥水を啜って腹を下して打ち棄てられたお堂の中で三日三晩苦しんでも誰一人頼れる者のいないときの心持ちを」
静かな語り口であるが故に鬼黒の声に含まれる怒気はなお一層はっきりと感じられ一之進は口を開くのも躊躇われた。
「もし仮に。もし仮にだ」
感極まったか鬼黒の声が大きくなる。
「生まれは侍でも身分なんざぁ捨て腐って、どこの馬の骨とも得体の知れねぇ身になった奴がだ。槍を振るって妓楼の揉め事を収めて、それが火種で人気のない道で待ち伏せまでして意趣返ししようって輩をお節介にも追い払ってだ。それで脇が甘い暢気な八丁堀の旦那にあれこれ言われる筋合いがあるっていうのかい?」
言われて一之進はつい今し方己の身に起こったことを思い返す。そうだ。この男は確かに自分の身に降りかかった火の粉を払ってくれたのだ。一滴の血も流されることなく事は収まりを見せた。問い質す前に言うべきことがある。一之進は自らの不明を恥じ先走りを戒めた。
「済まぬ。根掘り葉掘り詮議しようというつもりではなかったのだ」
一之進は侍同士で挨拶をするように頭を下げた。
「礼を言わねばならん。儂は抜かずに済んだ。忝い」
そう言って下を向く一之進を見て鬼黒の肩から力が抜ける。しばらく経っても下げられたままの一之進の頭に怒気を和らげた伝法な口調が語り掛ける。
「頭を上げておくんなせぇ、旦那。ちぃとばかし意地の悪い言い方になっちまった」
鬼黒は手にした六尺棒を地に横たえて、町人が侍に接するように深々と腰を折った。
「郭の中で暮らす連中はね。臑に傷持つ奴ばっかりさ。それぞれ人には言えねぇことだって抱えてる。それを分かって互いに詮索はしねぇし、口があっても自分から語りゃしねぇ。問うだけ野暮ってもんですぜ。そういう所なんでごぜぇやすよ。吉原ってなぁ」
「ああ。肝に銘じる。浅はかであった」
噛んで含めるような鬼黒の物言いに一之進は答える。
「それじゃぁこれで失礼しやすよ。道中お気をつけて」
鬼黒は六尺棒を拾い上げ肩に担ぐと踵を返した。
「何にせよ」
背を一之進に向けたまま鬼黒の声色に冷たい響きが差す。
「これでお互い貸し借りなしだ」
それだけ言って鬼黒は六尺棒を両肩に渡して天秤棒のように腕を回すと、新内節の一節を口ずさみながら浅草寺の方角へと歩き始めた。
また筑波嶺の方から冷たい風が吹き下ろしてくる。乾いた北風は立ち枯れた草を揺らして鬼黒と一之進の間を駆け抜ける。
その風がすぐ目と鼻の先にいる鬼黒と己の間を流れる向こう岸さえ見渡せない大河のように思えて、一之進は去りゆく黒い長半纏の背に掛ける言葉を見つけられないでいた。
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清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。
俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。
清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。
ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。
清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、
無視したのであった。
そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。
「おぬし、本当にそれで良いのだな」
「拙者、一向に構いません」
「分かった。好きにするがよい」
こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。
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