理想世界の創り方

無限キャラ

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「完全なる体験の自治権」とは?

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ムゲンは超時空世界から派遣されてきた講師様とのお話を回想していたが、よく「完全なる体験の自治権」という言葉が使われていたなあ……と思い出した。


ムゲンは、その言葉のおおよその意味は予測できるものの、正確な理解が果たしてできているかどうか疑問になってきた。


そこで超時空体験図書館に赴いて調べてみることにした。


果たして「完全なる体験の自治権」と「不完全な体験の自治権」はどう違うのだろうか?


そんな問題意識をもって無限は超時空体験図書館の門を開く……


超時空体験図書館は、調べたいことを意識するだけで無数の体験記録から必要な情報を検索できる。


「なになに? <体験の自治権の進化について>……か……これがいいかもしれないな……進化するんだ……体験の自治権って」

ムゲンはその情報に意識を投入してみる。


まずムゲンが見たのは、無数の意志が混沌とカオス状態になっている世界だった。

やさしく良さげな意志から、邪悪系の意志まで様々な意志が混沌と渦巻いているような世界だ。

そうした意志たちが互いに互いの意志を打ち消しあったり、高めあったりしながら渦巻いていた。


全体としては悲鳴のような叫びがあふれかえっていた……どうやら、自らの意志が他者の意志に否定されて苦悩する叫びのようだった。

いたるところで、そうした現象が発生していた。強い意志が弱い意志を駆逐し、そのたびに弱い意志が悲鳴をあげていた。

その強い意志も、そのうちにより強い意志に否定され、悲鳴を上げていた。

ついには、最強の意志が残ったように見えたが、その最強の意志も、ただ自分ひとりだけになったために、何もすることがなくなり退屈のあまりついには自らを消滅させたりした。

ムゲンは時空間の外からそうした有様を観察していた。それが何億年規模の出来事なのか何兆年規模の出来事なのかはわからなかった。

とにかく、ムゲンはそうした光景を見て、いたたまれない気持ちになった。

そのいたたまれない気持ちは、どうやらその場にも満ちているように感じた。

いたたまれない気持ち……こんな状態は不条理だという気持ち……いつまでもこのままではいけないという気持ち……

そうした気持ちが次第次第に満ちてきているように感じた。

ムゲンが知る怨念というものに似ているなと思った。

その怨念は何度も何度も繰り返し試行錯誤をしているように見えた。

ゆっくりとゆっくりと何かが変化していっているように見えた。

そして気づいた。

その怨念が「体験の自治権」を無意識に欲しているということに…

自分以外の意志に否定されたくない……もうそんな体験はたくさんだ!!! そのような意志をムゲンは確認した。


ある時、その怨念は二つに分かれた。


一方は、自分以外のすべての意志を自分の支配下に置こうと意志したようだった。


もう一方は、あらゆる意志が他の意志を不条理に否定しない世界を実現しようと意志したようだった。


その二つの怨念は、分かれたために、それぞれ別々に成長しはじめた。


それぞれに独自の世界を生み出し始めた。


自分以外のすべての意志を自分の支配下に置こうとした怨念は、ありとあらゆる方法を駆使して自分以外の意志を自分の支配下に置こうとした。


しかし、それはなかなかうまくいかなかった。


なぜならそうしたことをすればするほどに、無理やり支配された意志たちに「いたたまれない気持ち」が新しく発生し、その怨念がその支配しようとする意志を否定しはじめたからだ。

その状態では、互いに積極的に傷つけあいながら、意志たちの悲しい悲鳴は混沌の時代よりもより強くなっていた。

ムゲンは見ているのがつらくなって時々、息抜きをしなければならなかった。


一方、あらゆる意志が他の意志を不条理に否定しない世界を実現しようと意志した怨念はというと、そうした攻撃的な意志をできるだけ避け、同じ意志を持つ意志たちを探して意志を合わせて互いに否定しないでいられる安全な状態を生み出そうとしていた。


時々、そうした意志たちは、何とか回避しようとしても追撃してくる支配しようとする意志たちに襲われて悲しい結果になったりもしていた。

そうしてさらに強いいたたまれない気持ちが、次々と発生した。


……こんなままではいけない……許せない……不条理だ……そうした怨念が蓄積していった。


体験の自治権という概念を、そうした意志たちははじめ意識的には持っていなかった。
ただ、切実な願望があった。もうこれ以上私を傷つけないで……と叫んでいた。


意志たちに自我が発生していた。そして知性が芽生え始めていた。

その世界では意志されたことが現実化してしまう……ということを意志たちは気づき始めた。


ならば何を意志すればいいのか……と考え始めた。


はじめはどの意志も、自分だけの願望を意志していた。


しかし、次第に、他の意志の願望や都合もそれなりに考慮する意志が表れ始めた。


他の意志の願望も考慮しはじめた意志たちは、次第に互いに否定しあう度合いが減っていった。


その結果、次第に他の意志の願望も考慮できる意志たちの勢力が大きくなっていった。


だが、まだ自分以外のすべての意志を支配しようとする意志たちも残っていて、互いに否定しあいながらより強い意志が残っていった。


しかし、次第に……いくら単独での意志が強くとも、単独では他の意志の願望も考慮する意志たちの集団にかなわなくなってきた。


そこで、すでに知性を持っていた自分以外のすべての意志を支配しようとしていた意志たちは、ただ他の意志を否定するのではなく、他の意志を自分の意志に自発的に従わせなければならないと思い始めた。


そのためには、そうと気づかれないようにする方がいいと思った。
そのためには、わざと他の意志に徹底的にひどい体験を味わわせた後に、素知らぬ顔で良い体験を与える技法が有効であると思った。

しかし、意志の世界ではその意志の内容が、他の意志に全部筒抜けになっていた。
その状態ではその技法はうまく使えないと支配意志は思った。

そこで互いの意志がはっきりとはわからなくなるような世界や肉体を設計して他の意志たちの合意もなく無理やり創造してしまった。
そうして手あたり次第に自分よりも弱い意志たちを、その世界に引きずり込みはじめた。

一方、他の意志の願望も考慮できる意志たちの集団は、同じ配慮ができる意志たちと繋がって着々と共同で互いの意志を否定しあわないでいられる世界を設計し創造しはじめていた。

勢力的には、こちらの勢力の方が大きくなっていた。
互いを否定しあわないゆえに、圧倒的に大きくなっていた。


時空間というものは、意志たちを体験の檻に閉じ込めるための一種の監獄であることが観察から理解できた。
意志たちは、体験強制装置にプログラムされた利己的な生存本能や苦楽体験等の強制システムによって洗脳されたり調教されたりしていた。


超時空世界は、そうした制限を設けないでただ互いの願いを否定しあわないようにし、その前提を確保した上で、最大限に多種多様にそれぞれの意志たちが望む体験を自由に選び楽しみ続けれる世界を目指していた。
よってそこに時間や空間や肉体的な制限ははじめから存在していなかった。
ただ、体験者と体験と互いの願いを尊重する意志だけがあるだけだった。


こうした観察の結果、
超時空世界と体験強制ピラミッド世界は、こうした原初の意志の違いからそれぞれ独自に発展してきたことがわかった。


そして、体験強制ピラミッド世界の中に、物質世界や霊的世界があり、天国や地獄があった。


ムゲンはさらに未来も見た。


すると、体験強制ピラミッドシステムは、他に生じたピラミッドシステムと争いになり、次々と相殺しあって消滅していった。

そうした体験強制ピラミッドシステムを否定していた意志たちを超時空世界は、いろいろな方法でサポートし、希望があれば救助していた。


そうして、最終的に、残ったのは超時空世界だった。


ムゲンはそこまでの意志たちの歴史を観察すると、意識を元に戻した。


「体験の自治権」という概念は、どうやらこの意志たち、というか体験者たちが知性を持ち始めた段階で生まれたらしいことがわかった。
そしてそれは他の意志の願いを考慮する意志たちから生まれた概念であることもわかった。

その価値観を意識的に保ち続けることで、またその価値観を互いに伝え合うことで、彼らは互いに尊重しあうことができる世界を、その価値観を持たない場合より早く実現したようだ。


ちなみに、完全な体験の自治権とはどんなものなのか?という問いについての答えは、ムゲンのいる時間軸からずっと後となる未来の体験記録からわかった。


当初、ムゲンは体験の自治権とは、


物質世界や霊的世界に発生するありとあらゆる体験や運命や環境を自由に選びべる権利


であると思っていた。


しかし、体験の自治権の中身はどんどんと進化していった。


世界が進化すれば、変化すれば、体験の自治権もそれによって進化し変化することがわかった。


例えば、ラーメンという料理を食べる体験が存在している世界に、まったく新しい新ラーメン進化版が登場すると今までの体験の自治権にそうした新体験も自由に選べるという権利が時々刻々で追加されるらしい。
もちろん旧バージョンもそのまま選択肢として残るわけだが、体験というものはその気になれば無限に創造し追加してゆけることが未来の体験記録からわかった。


肉体や霊体では体験できない無数の体験が、未来の世界には存在していたのだ。しかも尋常ではないとほうもない選択肢があった。物質世界や霊的世界にある体験の何億倍とかではきかないとほうもない体験群の選択肢が未来には存在していたのだ。

しかも滅びた体験強制ピラミッドシステムに発生した体験群まですべて自由に選べるようになっていた。
一部にマニアがいるからという理由らしい。

そのマニアたちは不自由な世界の残酷体験群などにアクセスして大丈夫なのだろうか?とムゲンは心配になったが、驚いたことにその未来の体験者たちは、残酷体験群から望みの体験だけを切り出しては組み合わせたりしながらわざと残酷体験を味わうことで愉快に遊んでいたのだ。そこには悲壮感などみじんもなかった。

例えば、痛みの体験だけ削除して、戦って遊んだり、鳥となって飛ぶ体験だけを切りとってその他の餌を食べねばならないとかの部分はすべて捨てて遊んでいたりしたのだ。

しかもその鳥の本能などを好き勝手に変えたりもしていた。

大きな鷲が、小さなネズミちゃんと人間同士で発生するような恋愛感情で付き合ったりもしていた。

違う種族間でのラブラブ関係は、彼らの日常になっていた。

また、明らかにこれはいじめだろう……と思われるような残酷体験すらわざわざそのいじめの犠牲者になって平然と愉快そうに楽しんでいたりしたのだ。

彼ら未来の体験者たちは、どうやら体験全体にたいする耐性がムゲンの知っている次元と違っていた。

むしろ過酷な体験の方が刺激があって楽しいのは当然だ…というような価値観を持っている体験者の方が多いことがわかった。

未来の体験者全員がそんな感じになっていたわけではないが、そんな感じでとてもつなく体験の自由に対する寛容さというか常識を逸脱したような自由が存在していた。


ただし、そこには望まない体験が体験者本人の合意なく強制的に与えられるような事例はほとんど見つけれなかった。
未来に進めば進むほど、そうした事例が減り、ついには皆無になった。

どうやら体験者たちは自発的に訓練すればありとあらゆる体験を遊び楽しめるようになるらしい……とムゲンはそうした未来の体験記録を見て思った。

ムゲンはしばらくは何かどっきりカメラか何かを仕掛けられているんじゃないか……騙されているんじゃないか……などと思ったが、超時空体験図書館の司書をしている昔からのお付き合いで信頼できるシューちゃんに聞くと、そんなことはないですよと言われてしまった。


「超大昔の原始人が、ムゲンさんの世界の文明っていうのを見ているのと似たようなものですよ」などと言う。


そんなことを言われると、そんなものなのかもな……と思わされてしまう……


結局、ムゲンは超時空体験図書館のシューちゃんに「完全な体験の自治権」という言葉の意味するところを聞いみた。


すると、


「完全な体験の自治権っていうのは、その体験者に体験可能なあらゆる体験の完全な理解のもとに完全に自由に望む体験を選べる権利です」


「それと普通の体験の自治権ってどう違うの?」


「別に違わないですよ。普通も何もムゲンさんが今勝手に普通だと思っている体験の自治権が普通の体験の自治権だってことでしかないじゃないですか」


「いや、そんな禅問答みたいな答えではなくて、もっと具体的に教えてもらえないかなあ…」


「具体的にって、じゃあここにムゲンさんの分身体さんがいる不自由な世界の鳥さんが一羽いるとして、その鳥さんにムゲンさんが今までありとあらゆる世界を分身体で体験してきた内容を全部具体的に説明できますか?」


「そ、それは難しいなあ…」


「でしょう? 全く新しい体験は、体験していない体験者に説明するのは非常に難しいんです。そうした状態では、たいていはせっせと言葉を尽くして説明して納得してくれた風に見えても、相当に誤解してしまっているものなんですよ。

鳥さんに、人間族のブラック企業での苦悩の体験とか完全に納得できるように説明できませんよね。もしそれで納得したと鳥さんが言っても、まず誤解してますよね。

しかしですね、ムゲンさんなら、完全な体験の自治権の意味くらい、ある程度理解できると思いますよ。

大事なのは皆が目指すべき方向ですよね。今、ムゲンさんが理解したいのは」


「うーん、目指すべき方向は、まあわかっているつもりなんだけどね、完全ってのがちょっとひっかかっててさあ……」


「そうなんですね、では、皆が目指すべき方向は、どういう方向なんですか?」


「そりゃあ、誰もが自分の意志だけで自分自身のあらゆる体験を自由に選び楽しみ続けれる状態だろう?」


「では、お聞きしますけど、その自分の意志か他人の意志かをどうやって判別するんですか?」


「いや、それは、自分の意志であれば、自動的にわかるだろう?」

「そんなことありませんよ。自分の意志だと思い込んでいるけど、全然他人の意志だった……みたいなことは不自由な世界ではいくらでもあることですよ。ちょっとムゲンさん、認識が甘いんじゃないですか?」


「えー! なんでそうなる?!」


「だってそうじゃないですか。ムゲンさんの問題にしているその不自由な世界の人間族の方々の多くが、こちらから観察すると自分の意志など持っていなかったり、持っている気でいるけどそれは背後霊の意志だったり、ブラック企業のボスの意志だったりしているんじゃないですか?」

「うーん、そう言われると、そういうのも結構いるかもしれないなあ」


「かも…ではなくて、結構いるんですよ。ムゲンさん」


「そうなの?」


「はい、そうなんです」


「じゃあ、皆が目指すべき方向をどう説明すればいいんだい?」


「それくらい簡単じゃないですか! まず自分が持っていると思っている意志が本当に自分の意志なのかどうかを確かめることですよね。というか、そもそもちゃんと意志を持っているかどうかを確かめなきゃいけないですよね。

操り人形みたいに生きている方は、自分の意志なんてこれっぽっちも持っていないで、操りの糸で動かされていたり、そうでないときは本能に操られていたり、まあ、そんな感じでいる方たちには、まずそうした状態であるとその理性に教えて差し上げないといけないですよね。

そんでもって、選べる体験の選択肢をちゃんと説明してあげる必要もありますよね。

ほら、オオカミに育てられた人間族の体験記録などでは、そもそも人間としての体験の選択肢すら理解できていない場合もあるんですから。

自分がオオカミだと信じ込んでしまっていたら、その状態のままでは、人間の体験なんかできないですよね」


シューちゃんは、さすがに超時空体験図書館の司書だけあって、ムゲンが見落としている点などをせっせと突いてくる。


しかし、まあ、そうした指摘は、理解を深めてくれるので悪くない。


ムゲンは、さらに質問する。


「まあ、シューちゃんの言うこともわかるんだよ。うん、なかなかいい感じで理解を深めてくれるからありがたいよ。

でもね、それを毎回そんな感じで説明するにはちょっと長いだろう?

もっと端的に短い言葉で誰もがわかる感じで説明できないものかなあ……

だってこれはあらゆる世界の最高法規として掲げなきゃいけない価値観なんだからさ」


「あら、そうなんですか? それならそうと先に言ってくれればいいじゃないですか」


「すいません……」


「そうですねえ、じゃあ、こんな感じではどうでしょう?


<超時空体たちが良しと認めた体験の自治権>


どうですか?短いでしょう?」


「いや、それは説明になってないだろう?」


「だって、短く説明するってなると、そうでも言わないと。

それに、ムゲンさんの問題としている不自由な世界の人族とか霊的存在たちとかそのボスたちとかって、すぐに言葉の内容を勝手に全然違う意味とか正反対の意味に捻じ曲げたりしてるじゃないですか。

であれば、いくら言葉で説明したとしても、いかようにも勝手に本来の意味と違う意味に解釈する可能性が高いじゃないですか。

であれば、当面、その不自由な世界の体験者たちが成長してそんな解釈の変更などしないという状態になるまでは、

完全な体験の自治権=<超時空体たちが良しと認めた体験の自治権>

としておくのがいいんじゃないですか?

でないと放置しているとほぼ確実に、どこかで別の意味にすり替えられてしまいますよ。他の体験者に合意のない体験を強制したい支配者たちに…やれ緊急事態にはその最高法規を無効にするとか…自作自演で緊急事態を発生させたりして……」


シューちゃんは、ムゲンよりもなかなかしたたかだった。


「うーん、いっそシューちゃんが、あの不自由な世界の統治者にでもなってくれないかなあ…」


「え? あたし? あたしはダメですよ。ここの司書の仕事もありますし、そもそもムゲンさんが超時空体に進化すればいいじゃないですか」


「いやいや、時のない部屋で何億年も厳しい修行とかしたくないんだよ」


「でももう三分の一くらいは修行できてるじゃないですか。もうちょっと後、数千万年くらいがんばれば大丈夫ですよ。きっと…。それに分身体さんたちを統合すればもっと早まるんじゃないですか? というか、多分、いけますよ。分身体さんたちをみんな統合すれば」



こんな対話があり、結局ムゲンは、完全なる体験の自治権の完全なる定義は、その都度、不自由な世界の体験者たちの進化度合いを見て必要に応じて説明することにした。


ポイントとしては、


※まずは、あらゆる体験者が、独立した自由意志をしっかりともてるようにすること

※また、選択可能な体験についてのできるだけの正しい理解をしてもらい、体験選択において発生すると予測される各種のリスクやメリットもできるだけ伝えておくこと

※その上でその自由意志での体験の選択を不当に妨害しないようにすること


などとムゲンはその意識の中にあるメモ帳にメモした。

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