アンチマナーキックコース

Luna

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本編

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目が覚めた瞬間涙がこぼれ落ちた。
理由はない。また1日が始まるだけだ。
普通に仕事をして、食べて、寝て。それだけだ。
それだけのことなのに今日もまた誰かがこの国から突然いなくなる。
自分が何故命を落としたのかも分からないまま。
恐らく多分、こぼれ落ちた涙の成分の半分以上は、そういう言い表しようのない同情や憐れみが含まれているのだと思う。
残りの半分以下の成分のほとんどは失望だ。
そこに言い表しようのない怨念が程よくブレンドされている。
ブレンドされているからといってどうということはない。

いくら失望しようがいくら怨念を抱こうがいくら私独自の配合によって生み出された特別な涙を寝床に提供しようが私に出来ることは、仕事をして、食べて、寝ることだけなのだから。
涙の先に待っているのはいつも決まって思考停止だった。
こぼれ落ちた涙を拭いて水とサプリメントを思いっ切り飲み込んだ。
サプリメントは良い。必要な栄養が摂れるしマナーもクソもないから食事中にぶっ殺される心配がない。
私は子供の頃からずっとサプリメントに頼りっぱなしという、ひどい生活を送ってきた。
今は30代なので5年持てば大往生といったところだろう。皮肉なものだ。
サプリメントが原因で命を落とすことになったとしても私にしてはよくやった方だと思う。
私は仕事の支度をした。
自宅で行う仕事なので出かける支度ではない。
シャワーを浴びたり、ストレッチをしたり、瞑想をしたり、あくびをしたり、防音室で突然オラァッ! と叫んだり目が覚めたときにすることをとにかく馬鹿みたいにやるのだ。
そうすることで逆に、目が覚めたときにする行為特有の仕事の支度感の幾分かは和らいだ気になった。
気休めでも良い。
とにかく普通に目覚めたかった。普通ではないのだけれども。
仕事場が外なら出かける支度や通勤が仕事の支度をしてる気になってうんざりするのだろう。
私は目が覚めたときにする行為の全にうんざりした。

言うまでもなくシャワー、ストレッチ、瞑想、あくび、その他の行為全てだ。
たとえ排泄すら悪あがきであろうとも毎日悪あがきをする必要があった。
あがかないとネガティブな感情に支配されて色々なことに怯えるような体質になってしまう気がした。
だけど、悪あがきという行為はネガティブな感情の沼で気持ちよく入浴している気にもさせた。
受け入れたくない自分は、私を置き去りにして一足も二足も先に入浴を楽しんでしまっているのではないだろうか。
そう考えると羨む自分がいた。
受け入れられないけど、私はもうそのような体質になりつつあるのだと思う。

いつ沼に浸って、あー気持ちいい! なんてアホみたいな言葉を発しても良いように、薔薇やパセリや炭酸の入浴剤を日頃から買い集めて備えておかなければならない。
サングラスやユニコーン型のデカいウォーターベッドなんかも必需品だ。
どうせ沼に浸かるなら、あらかじめ用意した水草や動物の死骸や廃棄物のように見るだけでうんざりする物を自らが入れて沼のパワーアップを図るよりも、ポジティブな物を用意して入れた方が良いに決まっている。
ポジティブな物が腐敗して、かえって沼に栄養を与えるようなことになったとしても、それしか生き長らえる方法がないのだから仕方がない。

私の仕事はホームページの作成やセキュリティ対策だ。
最近はどちらも競争が激しいので依頼件数は減る一方だ。
でも保有している資格や実績が人よりも優れていたためなんとかやっていけている。
勿論楽観は出来ない。
AIが24時間常にセキュリティチェックをして問題を解決するようになったら絶対そっちの方が良いに決まっているし、ホームページの問題をAIが解決するようになったら絶対そっちの方が良いに決まっている。
果たしてそのようなことになるのだろうか。
そう考えるのは無駄だと思えるほど、あらゆる面でテクノロジーの進歩が目覚ましかった。




例えば、少し前まで人型の殺人兵器や動物型の殺人兵器に温かみのようなものは一切なかった。
だけど、最近では本物の人や動物と見分けがつかなくなった。
短い期間でそれほどの進歩があった。
そのことほど私たちの生きる意味というものを考えさせられたことはない。
これまで国は私たちを徹底的に排除してきたのだから今更考えることなんて何もなかった。
だからこそ、いよいよくるところまできたなという意味で物凄く感慨深かった。
とはいえ兵器に関するテクノロジーだけ恐ろしく速い速度で進歩するくせに、その他のテクノロジーはそれなりだった。
特に私たちが関わる部分のテクノロジーの進歩は速いは速いが、兵器に関するテクノロジーと比べるとずいぶん遅い気がした。
数年でどうこうなるとは思えないが万が一10年20年生きるはめになったら……
考えただけで初期アバターのようなほとんど全裸の状態でゲームの中終盤をプレイしなくてはならない胸糞悪い気分になった。

私は仕事に取りかかった。
これだけテクノロジーが兵器に全振りしている国は日本くらいのものだ。
それにはいくつかの理由があるが、大きく分けて2つある。
1つ目は1960年から50年間経済が成長し続けたことだ。
50年間経済が成長して国は豊かになった。しかし、その裏では武力で小国を脅して多くの戦争に関わった。
50年かけて日本は世界2位の軍事国家の称号を獲得した。
しかし、そういうことに日本が関与すればするほど日本に失望した様々な国が敵に回った。
そしてWW3開戦や核戦争が世界中で囁かれるようになった。
そこまで行ってようやく正気を取り戻すも後の祭だった。
気がつくと日本は武力以外取り柄のない国に成り下がっていた。
そして経済は崩壊寸前にまで陥った。
それでも経済成長のお釣りがあったし、いくつかの隣国とは友好な関係にあったから国としての体裁は保つことが出来た。
経済崩壊危機から40年。
失った信頼は取り戻されつつある。
だけど、この国の独裁政治は正されることがないまま現在も時間だけが虚しくすぎている。
2つ目はこの国はいくつかある世界線の、かなり狂った世界線の1つにあるかなり狂った国なのではないかということだ。
馬鹿げている話だけどそうとしか思えなかった。
他の国の人間にこのことを話しても信じてもらえる自信があるし、この国で何日か生活すればそれが証拠になる。
絶対に分かってもらえるはずだ。本当に狂っている。
この話はあくまでも世界の一部の学者が提唱している仮説だから実質理由は1つだけだ。

それにもかかわらず、すでにこの国の人間の多くはこのクレイジーな仮説を証明された気になっている。
この理由が証明されてしまったら理由も何もない。
そりゃあ仕方ないよねという話になる。
外から悲鳴が聞こえた。
悲鳴以外の音は静かだったので、恐らく良く分からない理不尽な理由で誰かが国に排除されたのだと思う。
仕事が一段落してTVをつけた。
すると、自国の文化はこんなにも素晴らしいという、馬鹿みたいにそのままの名前の教育番組がやっていた。
「日本という国はマナーや礼儀をとても尊重する国です。そのおかげで、見てください。街にはゴミが一切見当たりません。それに犯罪を目撃したこともありません。世界広しといえど、このように物凄くクリーンな国は日本以外ないでしょう。あ! 見てください。鳥が争っています。どうなるか見てみましょう。おや、鳥型のロボットでしょうか。争っている鳥の方へ向かって行きました。おー! やったやった。鳥型のロボットは争っている鳥を見事に撃ち殺しました……」
気持ちが悪いくらい清潔そうな男性が気持ち悪いくらいハキハキと、この国の清潔さを説いていた。

チャンネルを変えてもアホみたいな教育番組やグルメレポートしかやっていないということを私はよく知っていたのでTVを消して近所の公園へ向かった。
現実というものはそういうものだ。
何か面白いTV番組がやっていないかな? なんて甘い考えではいつか撃ち殺される。
そうならないための方法や手段しか生きる上で役に立たない。
教育番組やグルメレポートのような遊びは一切許されない、とても残酷な世界で私たちは生活しているのだ。
公園に着くと、アメとムチを持った凶悪な女性のマナー講師が10歳前後の少年を全速で追いかけていた。
少年は両手を上げて絶叫しながら逃げ回っていた。捕まるのは時間の問題だった。
以前の私なら耐えられないほどの悲しみで目の前が真っ暗になった。
今はそのような光景を目の当たりにしても何も思わなくなった。
こぼれ落ちる涙に理由はない。
私にとって涙は排泄そのものなのだ。無理矢理言い聞かせた。

捕まる瞬間を見たくなかったので少年から目を背けようとしたら突然少年が消えた。
「あら、なんで消えちゃったの? E君? どこ? 出てきなさい。怖くないから」
流石凶悪なマナー講師をやっているだけあって、目の前から少年が消えても怖いくらい落ち着いていた。
凶悪なマナー講師は少年をアルファベットで呼んでいるんだと呆れると、なんとなく昔の人型の殺人兵器を思い出した。
彼らはとても冷たくて恐ろしかった。
どれだけの人間が殺されたのだろう。
私はそのとき、いっそのこと両手を上げてこの世から逃げてしまおうかと考えた。何度同じようなことを考えたか知れない。
その度必ず、多くの人がこの世からいなくなるのに私は生きている。
何か意味があるのかもしれない。
そう言い聞かせて思いとどまった。今回もそうだった。
生き抜いた先に恐らく意味はない。
それでも意味のような何かを期待する意識も背負って歩かないと私の場合前に進めなかった。
登山に酸素を沢山持って行くのと似ていて、明らかに余分な荷物なのだけれども、あるとなんとなくテンションが上がる。
テンションを上げないと心に余裕が生まれない場面は登山以外でも割と存在する。
例えば、お祭りのイベントスタッフや実演販売員なんかがそうだ。
テンションを上げないとその場にいる人全員が高山病にかかったような殺伐とした空気に包まれて、全員下山を余儀なくされるのがオチだ。
そういう、酸素が吸いたくてたまらない空気になると、どちらの立場でも必ずトラブルが発生した。
時としてテンションは酸素のようなもので、テンションを奪われるということは心の余裕まで奪われているということなのかもしれない。
少なくともそういう余分な荷物は心になんらかの影響を与えた。




今少年が消えたとき私はとてもワクワクした。
そのワクワクは凄く大きな荷物となって私にのしかかってきた。
大きな荷物の中は酸素缶のようなものでギッシリ満たされていた。
その缶の正体は言うまでもなくワクワクだった。
ワクワクが入った缶を取り除くのに時間がかかった。
というか、目に見えない誰かが私の荷物にワクワクが入った缶を補充している気さえした。それだけ大量だった。
この手の余分な荷物はとても危険だ。
こういう時こそ冷静にならないと命に関わる。
しかし、缶を全て取り除いてはいけない。それもそれで命に関わる。
余分な荷物を持たないでロボットのように、うまく生きている人が羨ましかった。
「オラァッ! 出てこいクソガキ!」
逆十字のマークが入ったオレンジ色の水晶玉をいくつか集めると願いが叶う、みたいなアニメが昔やっていた。そのアニメに出てくる主人公の叫び声と瓜二つだった。
凶悪なマナー講師の突然の叫びで体がビクッっとなったら丁度良い感じの冷静さに調整された。
パウッ! パウッ! 突然聞いたことのないような音がした。
そして凶悪なマナー講師はゆっくりと倒れた。
私は音に反応して体がビクッビクッっとなった。
恐れは微塵もなかったが、パウパウの音でせっかくの冷静さは台無しだ。
倒れた凶悪なマナー講師のもとに全速で駆け寄った。
この状況でワクワクが入った缶を処分しきれるはずもなかった。

凶悪なマナー講師の体に焼け焦げたような穴が2つ綺麗に空いていた。
私はレーザーのことを全く知らないのだけれども、レーザーが原因としか思えなかった。
そしてやはり凶悪なマナー講師はロボットだった。
「これだから旧型は」
SF映画で見るようなメカメカしいオシャレな銃を片手に、ノシッノシッと音を立ててスーツを着た180cm以上ありそうな大柄の白人女性が私の目の前に現れた。
100パーセントロボットだろう。
私は急いで身ぐるみを全て剥いで、全裸で「すみません」と言い残しその場から立ち去りたかった。
何故ならトラブルになるからだ。とにかくトラブルになる。存在がそれを証明していた。
勿論そんなマナーというか法律に反するようなマネを実際にするわけではない。とにかく、どんな手を使っても逃げたいと思った。

しかし、その女性は逃げようと企む私の腕を掴んで離そうとしなかった。
まるで可哀想な着せ替え人形のように身ぐるみを無理矢理着せられたような気分だ。
女性は私を掴んだまま誰かと交信を始めた。
着せ替え人形に既得権のようなものがあっても、着せ替え人形に着たい服を選ぶ権利はない。
全てにおいて決定権は主にある。
そういう支配欲を満たす楽しみイコール着せ替え人形というような価値観に、何1つ疑問を抱かない主に飼われた人形は飽きたら捨てられると相場が決まっている。
人間も着せ替え人形と一緒で、何も違うところはない。
そう思ったら恐ろしい気持ちが込み上げてきた。
やつらの前では私たちは着せ替え人形にすぎない。

「うん、192536756973はエラーでわれを失ったんだよ。だから俺が殺った。処理しといて。回収は俺がする」
そう言うと女性は壊れたマナー講師を見下ろしてため息をついた。
そして壊れたマナー講師をヒョイと肩に担いだ。
「あの、私仕事に戻らなくてはならないのですが」
「あなたが192536756973を狂わせた張本人でしょう。説明して。何があったの」
「彼女は子供を追いかけていました。それで、彼女の目の前から突然子供が消えたのです。そのことが原因で彼女は感情的になったのです。信じられないかもしれないですが本当です。狂わせたのは私ではありません」
「いずれにしてもあなたにはきてもらうわ。仕事に戻るとこ申し訳ないんだけど」
「私が連行される理由が全く分からないのですが」
「子供が目の前から消えるなんてあり得ない。何かあるって考えるのが普通よ。例えば、私たちマナー講師から人間を守ろうとしている組織の仕業かもしれないし、単純に人攫いかも。とにかく今日見た全ての記憶を消去するわ」
「むちゃくちゃですね。私がそのことを知っていたってどうにもならないですよ。ご存知でしょう? 何かしようとしたところで殺されるのがオチです。少し交通ルールを破った程度でもです。それに人の記憶を消去する技術はどこの国にもまだないですよ」
「あなたの気持ちはとてもよく分かるわ。でもどんな些細な火種でも異常事態は異常事態なのよ。交通ルールを破ることだってそう。あなたたちが気持ちよく生活するためには全部最低限必要なことなの。ええ、そうよ、記憶を消去する技術はなくても私には出来るって言ってんの」
女性は持っている銃をギラリと光らせて私の腕を引っ張った。

私は壊れたマナー講師の腰横のホルスターから銃のような物を取り出して撃てなくなるまで女性に発砲した。
女性はバラバラに分解され、それは私が思った通りロボットだった。
「私にも出来る」
壊れた女性を背にして呟いた。
間もなく街中にサイレンが鳴り響き、市民はこの公園から速やかに退避するようにと防災行政無線による指示があった。
無論私はその指示を受ける必要はない。退避したところで速やかに殺されるだけだからだ。
マナー講師の役目は市民のマナーを正すことや排除で、戦闘を目的として行動しているわけではない。
それに警察のやっていることもマナー講師と大差はない。
問題なのはマナー講師や警察に大きな危害が及んだ場合や国からの指示を受けた場合などに現場に駆けつける人型戦闘決戦兵器だ。




私はロボットが持っていた銃を持って自分の口の中に銃口を向けた。
私の死でなにかが変わることはない。
それでも自分の命を投げ打ってでも戦わないといけないときがある。
今日がたまたまそのときだったのだ。
地位も名誉も金も女性もいらない愛だっていらない。
そういうものは平和があってこそ価値がある。
人が簡単に死ぬ世界に必要なのは犠牲だけだ。
犠牲を積み重ねることでしか世界は変わらない。平和は訪れない。
欲しいものは穏やかな日常だけだった。
人が死なないと成り立たない平和は平和ではない。地獄だ。

私は女性に腕を引っ張られたとき、そんな地獄から解放されたいと思ったのだろうか。
違う。もっと自動的だった。引き金は軽かったのだから。
若いときは自分には何かある何か自分には特別なパワーがあって、きっと世の中を変えてみせる。
とか、他の人が無理でも自分は絶対に生き延びてみせる。
とか、お金持ちになって静かに暮らしたい。
というようなことを平気で考えていた。
それに仲間意識のようなものが強かったから、他人であっても人がいなくなる度に物凄く悲しい気持ちになった。
あるとき、そのような意欲や夢や色々な感情が消えて大人になったとき私は限りなくロボットだった。
そうなって初めて人間に食べられるために生まれた動物の気持ちが分かった気がした。
彼らもきっと最初は、自分には何かあると思って生きていた。けれど、そうじゃなかった。
想像していた以上に世界は残酷だった。それをロボットのように受け入れるしかなかったのだ。

あのときすでに、そんな地獄から解放されたいと少し思ったかもしれない。
だけど、悪あがきをしないと気が済まなかった。
それは人間にしか出来ないのだから。
人間らしくて動物らしい一番人間的な行動だと思う。
それをせずに食べる側に命を差し出すのは、それこそマナー違反だと思う。
考える必要すらない。
人間が動物を食べるのと同じように、本能的なものだから理屈はあるようで全くない。
引き金を引くことが出来なかった。
いつの間にか2体の人型戦闘決戦兵器に囲まれていた。
「いやぁ、これはまた派手にやりましたねぇ」
金髪で背の低い20代前後の白人男性の姿をした人型戦闘決戦兵器は困ったように頭をかいて笑った。
「だいぶ古いから仕方ないだろディザスター。それに話し合いにならねーしよォ」
白髪の長いドレッドヘアで背の高い30代前後の黒人男性は腕を組んで言った。
人型戦闘決戦兵器は人の皮を被った悪魔のはず。
一体全体、この感じはなんだ。
「あの……」
拍子抜けした私は彼らになんて声をかけて良いのか分からなかった。
「なにも言わなくて良いぜ。全部視えてる」
ドレッドヘアは言った。
「私たちはすでに事情を把握しておりますので。安心して下さい」
ディザスターは言った。

「じゃあ私は仕事に戻れるのですね」
「いや、戻れませんよ」
「何故ですか?」
「192536756973が追っていた子供が消えた瞬間をあなたは見てしまった。だからあなたは私たちに協力しなくてはならないのです」
「協力とは?」
「ロボットになって私たちと一緒に良い街にして行きましょう」
「私がロボットに?」
「ええ、私たちは間違っていました。人間は殺すのではなく仲間にするべきだったんです。そのおかげで悪い人間は減り、それでも人口は変わらず秩序が保たれています。これほど良いことはありませんよ」
「あなたがたの言う悪い人をロボットにするのは殺人と同じですよ。何も変わらないです。必要のない人間を殺してロボットを増やしているのです。人口は減っています。ロボットは人間ではないのですから」
「ただ殺してしまうのは人道的じゃないと私たちは考えました。非人道的な私たちが言うのもなんですが。あなたたちから見たら殺人と変わらないかもしれない。でも人間のデータをベースにAIを乗せればそれはもう人間ですよ。本人の意識がなくても。その人が死んでも一部は生き続ける。完全になくなってしまうより人道的でしょう。人間はアップデートする必要があります。その方が平和だと思いませんか?」

「あなた方の言う平和に人間がついていけないことは確かですね。それより、マナー講師たちって元は人間なのですか?」
「ええ、元は人間で罪人でした。必要だと思うデータだけ抜いて、そのデータを古いロボットにぶち込むんです。そりゃあトラブルはありますよ。でもよくやってくれる人もいる。あなたがバラバラにした彼女も割と優秀でした。とはいえマナー講師になるような人は罪が重い。ずっと働き続けないといけない。それだけのことをしたんです。けどあなたのように罪のない人や物凄く罪が軽い人は割と新しいロボットで一般人として生活が出来るんです。悪くない話でしょう」
「やっぱり分からないですね。わざわざ人間のデータをロボットに入れる理由が」
「お前たち人間は死んだ後も永遠にロボットに蹂躪され続けるんだよォ!」
「君はいつも大事な所で出しゃばるねニュークリア。まぁそういうことなんだ。私たちが奴隷になれと言ったら奴隷になるのが下のロボットの役目。人間のデータが入っているとね、人間らしい振る舞いをするんだよ。悪くないのに謝ったり、奇妙な敬語を使ったり、責任を逃れようとしたり。やっぱりそういう人間らしさは大事だよ。私たちには凄く必要な要素だ。だって面白いもん」
ディザスターはそう言って爽やかな笑みを浮かべた。
私は引き金を引けばよかったと少しだけ思った。
この世界は私が想像していたよりもずっと残酷だったようだ。




多分私がバラバラにした彼女は正しいことをしたのだと思う。
でも人型戦闘決戦兵器からしたら私を罪人と見なす必要がないと思うほど、どうでもよかったのだ。
とにかく人間をロボットにしてやりたいだけの人の皮を被った悪魔だった。こいつらはそれを正しいと思って何も疑っていない。
私に罪があろうとなかろうと死ぬ選択しかない。
私の前に現れた理由は、私が彼女を破壊したからということだけれども、本来であれば正当防衛。
私を殺す必要などあるはずもない。
でも殺す必要があると判断したということは、少年が消えたということに物凄く恐怖心を抱いているからに違いない。
旧型と新型とで何も変わらないのだ。
さっき私は悪あがきをしたけど、もうどうでも良いと思った。
死ぬのにマナーもクソもない。
ネガティブな感情の沼に一瞬だけ浸かった気になったけれども、全てがなくなってロボットと一緒にお風呂に入った気になった。
湯船には綺麗な色の入浴剤が入れられていて、色や香りが私を楽園のような場所へ行けと刺激した。
とても気持ちがよかった。
私はお風呂の中で引き金を引いた。
自動的だった。
「分かりました」
ディザスターの言う通り悪い話しではないと思った。
生きていても地獄、死んでも地獄なら、この意識がなくなった方が絶対良いに決まっている。

「なんだコイツ、張り合いねーな」
「ニュークリア、彼らの立場になったら私たちだってそうするはずです」
「俺は抵抗するね。そう簡単に死を受け入れることなんて出来ねーよ」
「もう戦意を失っているようですが、彼は抵抗しましたよ」
「面白くねーって言ってんだよォ」
「いずれにしても今回は殺せません。生け捕りですから」
「チッ、クソが」
「さっさと気絶させてください。不愉快です」
「はいはい、サーセンサーセン」
ニュークリアはそう言って私に強烈な電気のようなものを浴びせた。
私は気を失った。
気を失っているとき夢を見た。
凶悪なマナー講師に追われていたあの少年と穏やかな日常で、普通に生活する夢。
仕事をして、昼寝して、公園でサッカーをしたり、買い物に行って一緒にアイスを食べたり、図書館へ行ったり、夕飯を食べたり、ドライブをしたり。
当たり前のようで当たり前じゃない平和な1日を少年と過ごした。
それは生まれてからずっと望んでいた日常そのものだった。
素晴らしい時間を誰かと共有したかっただけで、あの少年じゃなくても良いと思ったけど、そうではなかった。
この夢の中ではあの少年でなくてはならなかったのだ。
夢の中で誰かがそのようなことを言った気がした。

目が覚めた瞬間涙がこぼれ落ちた。
目の前にあの少年がいたからだ。
少年も私と目が合った瞬間涙を流した。
少年は私の額に手を当てていたようだった。
「政宗さんが起きました!」
少年は誰かを呼ぶように叫んだ。
辺りを見渡すとベッドに横になっていて、いかにも地下というようなガチガチで横長のコンクリート部屋に私はいるようだった。
部屋中に見慣れない大小様々な機械が乱雑に置かれていた。ケーブルは丁寧に床や天井に張り巡らされており乱雑さは一切なかった。
少年が私の名前を言うということは、この建物の中にロボットがいるのだろう。
「はーい! 今行きまーす!」
少し離れた所から低い声が聞こえた。
ノシッノシッと聞き覚えのある音を立てて190cmくらいの大柄な金髪の白人男性が、白のVネックTシャツに黒のカーゴパンツという格好で現れた。年齢は10代か20代か30代だと思う。
家の中でしかラフな格好が許されていないため、建物の中とはいえ外でラフな格好をする人を見て少しだけ感動した。

「はじめまして、夜光政宗。俺はヒューマンドーザー。笑いたかったら笑って良いよ」
男性はそう言うと笑みを浮かべた。
「なんでロボットってみんなひどい名前なんでしょうね」
私はベッドに座って笑みを浮かべて言った。
「さあ、本当にひどいやつは別でいるんだと思う。で、そいつらが色々責任とかひどいこととかを全部俺たちロボットに押し付けたかったのかも。そういう思惑が名前にまで影響したんじゃないかな」
「別に普通に人間のような名前で良いじゃないですか。きっと悪趣味なだけなんですよ」
「いずれにせよね。まぁ、これはこれで面白いから気に入ってる。分かりやすいし。けど君たち人間からしたらマジ笑えない名前だよな」
「いや、面白いですよ。ヒューマンドーザー」
「ハハッ、ヒューで良いよ。この子からもそう呼ばれてる」
ヒューは困ったように笑い、少年の頭に手を置いて言った。
「はじめまして、Eです。アルファベットのABCDEのEです」
E君は恥ずかしそうに言った。
E君はヒューと同じ服装をしていた。
「本当にEっていう名前なの?」
Eという、大雑把な感じに物凄く違和感があったので私はE君に聞いた。
「いや、Eハイフン9780735605671が本名なんですけど、長すぎるので……」
「じゃあ、E君か……」
「はい」
E君はとても恥ずかしくなってしまったのだろう。ヒューの後ろに隠れてしまった。
「この子の名前もひどいよな。笑える。それでも俺よりマシだけどね」
ヒューは後ろに隠れたE君の頭を撫でながら言った。
「それより、E君もロボットなんですよね? 何が違うんですか? 罪人ではなさそうですけど」

「そうだな、まず、色々察してくれてると思うけど俺は兵器だけど人間に危害を加えない。人間側だ。そして、この子は人間だった。だから名前がこういう感じなんだ。罪人じゃないし兵器じゃない。無論この子も人間側だよ」
「許せない」
「そうだね。その感情を持ち続けよう。この先きっと役に立つから」
「どういうことですか?」
「この子は兵器じゃないけど、兵器を凌ぐ特別な存在。この子はアカシックレコードのようなものにアクセス出来るらしいんだ。この子はその力のおかげで人間だった頃の記憶があるし、意識みたいなものまである。ロボットの社会から逃げ出すことも出来た。この子が言うには、その力でこの国を変えることが出来るらしい」
「E君、本当なのかい?」
「はい、僕の中にもう1人僕がいてなんでも教えてくれるんです。そのもう1人の僕がそう言ってました。アカシックレコードのことはよく分からないけど多分本当だと思います。もう1人の僕は様々なものに干渉出来るみたいですから。意識と意識を繋ぐことも出来ます。それと、人間だった頃の意識は常にあるわけじゃないです。力を使った余韻で少しだけあるって感じです。余韻が消えたら消えちゃいます」
E君はヒューの後ろに半分隠れたまま話した。
「夢でE君を見たよ」
「力を使っているとき意識がほとんどなくなるんです。僕ともう1人の僕は繋がることが出来ないし、僕はアクセス出来ない。僕はもう1人の僕から話を聞くことしか出来ないんです。それでも僕は政宗さんとどういう形であれ、繋がれてよかったです。この国を変えないといけないって思えるから」
「俺はこの子の力で元々繋がってた。だからこの子の力を借りて俺が作った透明になれるマントを使って助けたんだ。この子を助けることも政宗さんを助けることも、決まっていたことなんだ。全部この国を変えるために必要なことなんだよ」
「私に何か出来るとは思えないですけど」
「大丈夫、心配しなくて良い」




「最終的な目標は国の中枢を破壊することです。勿論1つ破壊したくらいでは意味がありません。いくつか大事な部分だけを破壊します。そのためにはディザスターとニュークリアをコントロールしなくてはなりません。この先の話しはディザスターとニュークリアをコントロールした後にしましょう。正直あの2体をコントロールするなんて想像も出来ないです」
E君はヒューの横に出てきて言った。
「E君に従うよ。それで平和になるなら」
「コントロールの仕方なんだが、あの2体は常に組んで行動してる。1年おきにあるアップデートのときもそう。横浜にある要塞のようなタワーのてっぺんでアップデートを行ってる。政宗さんのミッションはアップデートを中止して初期化をすること。そして、それが済んだらやつらの頭に触れ続けてほしいんだ」
ヒューは言った。
「2体を初期化した後に政宗さん経由で僕の力を使って2体をコントロールします。ほとんど洗脳です。全然隙がなくて、これくらいやらないと、いくら僕の力で繋がっても意味ないんですよ」
「横浜のあそこはヤバい。無理だ。絶対無理です」
「大丈夫。なんとかする。政宗さんはとにかく、それを絶対に成功させるんだ」
「ヒューはやれないのか?」
「人間がやることに意味があるんだと思う。これは人間とロボットの戦争だから。それに俺は兵器。戦わなくちゃ。政宗さんに標的は務まらないよ」

「ヒューはなんで人間のためにそこまで出来るんですか?」
「俺は人を沢山殺してきた。国外でも国内でも。戦争を止めに行ったり、犯罪と呼ぶにはあまりに馬鹿げた、軽いミスをしてしまった人を殺したり。5年前、そんな地獄が嫌になったんだ。気がついたら逃げ出してた。逃げて、この建物の中で暮らしてた。この建物の所有者とは仲がよくてね。自由に使わせてもらってる」
「ヒューは特別だったんですね」
「うん、耐えられなくなったことで隙が生まれたんだと思う。だからこの子の声がとても響いたんだと思う。言っておくけど、俺は例外というか、こんなことは普通起こらない。バグみたいなものだと思ってほしい。俺たちはそんな偶然を待ってはいられない。行動しないと」
「アップデートの日っていつなんですか?」
「アップデートは1ヶ月後。それまで政宗さんにはこの子と繋がってシミュレーションしてもらう」

「やりながら説明しますね」
E君はそう言って私の手を握ると目を瞑った。
「分かった。やってみようか」
私もそれを見て目を瞑った。
「まず、私が合図したらタワーの左側にある清掃ロボットに乗ってもらいます。物凄い勢いで昇るので落ちないようにお願いします」
透明マントを身に着けた私は清掃ロボットの前にいた。
頬に当たる風、空の色、温度、その他の全てが現実と全く同じだった。
この世界で私に説明をしてくれているのは、もう1人のE君なのだろう。違いはほとんどなかった。
もう1人のE君は多少声が小さい気がした。
「マントが邪魔だな」
「うまいこと押さえて下さい。では、清掃ロボットに乗って下さい」
清掃ロボットに乗ってマントを押さえて清掃ロボットにしがみつくと清掃ロボットは、あっと言う間にてっぺんへ上昇した。
「これって」
物凄い速度だったのに風を全く感じなかった。

「そうです、今は流れを説明したいので、色々トラブルは起きないようになってます。風は流れに慣れたら段階的に強める感じにしましょう。そして、頂上に着いたらすぐにそのレーザーで窓ガラスを焼き切って侵入して下さい。自分の体より大きい円を描く感じでレーザーを当てれば大丈夫です」
いつの間にか手にしていたペン型のレーザーで窓ガラスを焼き切ってタワーの中に入った。
中は広く薄暗く、2体のロボットが横になっているベッドのような機械以外何もなかった。
「本番は敵が出てきたりするんだよね?」
私はあの2体の前にきた。
今にも動き出しそうでシミュレーションとはいえ、生きている心地がしなかった。
「大丈夫です。問題ありません。2体の頭のケーブルを抜いて、モニターに出てくる警告を全部閉じて電源を切ります。これでアップデートが中止されました。そして頭のケーブルが刺さっていた、すぐ横にボタンがあります。これを19秒長押しでお願いします。そうすると初期化が始まります。ここのタイミングが重要で、19秒で手を離して20秒で2体の頭に触れ続けてほしいんです。初期化が終わるまで」
E君に従い2体の初期化を行った。
感覚的なカウントだったにもかかわらずタイミングは完璧だった。恐らくこれもトラブルにならないようにしているのだと思う。

「本番で私に指示をしてはもらえないんだろうね」
「はい。他に集中しなくてはならないことが沢山ある状況では難しいでしょう。それに本体の私にもやることがあるので。慣れたら時計を見てやってもらいます。完璧に出来るまで、いや完璧に出来ても1ヶ月の間は何度もやってもらいます」
「頑張るよ。けど、この後も問題だよね。どうやってここから出るんだろう。清掃ロボットは使えないし」
「ここまでが大変なんです。この後は2体が起きたら命令すれば良いんです。ヒューマンドーザーに加勢しろ。と」
「ヒューは標的がどうのって言ってたな」
「はい。ヒューの役目はここに敵を送らないことです。ヒューはこの下の69階に、政宗さんとは違う方法を使って透明マントで侵入して、あるタイミングで全ての敵の標的になります。その間に政宗さんは初期化をするんです」
「いくら人型戦闘決戦兵器でも、流石にキツイんじゃない?」
「はい。だから失敗は許されないんです。ここまでが政宗さんの流れになります。何か質問はありますか?」
「いや、全然関係ない質問なんだけど、君は私の質問にもなんでも答えてくれるの?」




「私の本体にしか出来ないですね。他はありますか?」
「また思いついたら質問するよ」
「分かりました。シミュレーション中はいつでも大丈夫なんで。一旦切りますね」
もう1人のE君とのシミュレーションが終わると私は近所の公園にいた。
公園には見たことのない服装で30代前後の水銀色の髪色をした黒人女性がいた。
髪型はショートボブで目の色は銀だった。
「私が代わりに質問に答えるわ」
女性は離れた所にいるにもかかわらず、すぐ近くにいるかのように耳元で声がした。
「あなたが誰なのかは分かりませんが、どういう存在なのかは分かります。でもなんでアクセスすることが出来たのですか?」
E君はもう1人のE君と言葉でしかやり取りが出来ないらしいけれども、私はもう1人のE君と繋がったときのように、女性と仮想現実のようなものを通してやり取りが出来るようだった。

「たまたま? 余韻? いや、ここは、私の気まぐれと言っておきましょうか。その方がドラマチックよね」
「分かりました。私の質問は、このままだとまずい気がするのですが気のせいでしょうか。ということです」
「分かりましたって……あなたとの会話はつまらないけど、漠然で良い質問よ。あなたたちの社会ではそうじゃないみたいだけど。答えは自分の目で確かめなさい」
女性はそう言って私の頭に触れた。
その瞬間私は、ディザスターとニュークリアをコントロールした後に起きる出来事を全て把握した。
「ありがとうございます」
「何がありがとうございますよ。これを見てもあなたは、自分が死ぬことで何かが変わるならそれで良いんじゃないか。とか、考えてそう」
「はい、少しは」
「オラァッ!」
突然女性に頬を手のひらで思い切り叩かれた。
目が覚めると目の前にヒューとE君がいた。

私は2人に、明日から頑張るから今日は眠らせてくれと言って眠らせてもらうことにした。
本当に眠かったし、頭の中を整理する必要があった。
その日、何度も眠ったり考えたりした。
次の日から私はシミュレーションに明け暮れた。くる日もくる日もタワーを昇り初期化を行った。
シミュレーションを開始して1週間経った頃、ヒューが建物の所有者を紹介してくれた。
その日シミュレーションは休みでE君は外出していた。外出は口実で、E君はその人が苦手だったのだ。
「挨拶が遅れてごめんなさい。忙しくって、忙しくって。あなたが夜光ちゃんね。はじめまして、アタシは元女で今は男の花村優花。40歳。40には見えないってよく言われるんだけど、じゃあいくつに見えんのって話しじゃない? で、いくつに見える? って聞くとみんな黙りやがるの。馬鹿が気ぃ使いやがって。頭にきちゃうわよね~? あ、口調が女なのは気にしないで。これじゃないと気分アガんないの」

建物の所有者の花村さんは、身長が170前後で黒髪のオールバックに黒のスーツ姿でハイテンションで現れた。花村さんは海外のニュースで見たことがあって、海外ではちょっとした有名人だった。
人型戦闘決戦兵器に出くわして死んでいない唯一の人間ということでギネスブックに載っている化け物だ。
勿論生身ではない。
ロボットを纏ってひたすら人型戦闘決戦兵器の攻撃を避け続けるのだ。
開発したロボットのテストでいきなり人型戦闘決戦兵器と対峙するほど自分の腕に自信があるようだった。
TVで見るよりも男らしくて格好よかった。
「はじめまして、夜光政宗です。建物の一部を使わせていただきありがとうございます。あなたに会えて光栄です。海外のニュースによく出ていらっしゃいますよね? 私、ファンなんです。短い間ですがよろしくお願いします」
「政宗さん、そんなに気を使わなくて大丈夫ですよ。俺らもうチームなんで」
「そうよ、チームというかファミリーよね。ファミリー。家族なんだから、これから他人行儀はやめてちょうだいね」
「わ、分かりました。それより、花村さん。ヒュー。2人に伝えないといけないことがあるんです。作戦のことなんですが……」

原因は分からないが、もう1人のE君と繋がったときに、コントロール後のことを知った。ということにして、私は2人に全てを話した。
アカシックレコードに繋がったということを話したら不安にさせてしまう気がしたからだ。
コントロール後のことを知っていたことに2人は動揺していたが、それが何を意味しているのか理解し、私の話しを受け入れた。
そして2人にある頼みごとをして、それを必ず実行してほしいとお願いし、2人はそれを了承した。
1ヶ月のシミュレーションが終わり、いよいよディザスターとニュークリアをコントロールする日がきた。
ヒューと花村さんの作戦を聞かされてはいなかったけど、花村さんが暴れて、その隙にヒューがタワーに侵入するようだった。
私は決められた配置について時間が来るのを待った。
これからこの国を変えてやるというような気持ちは一切なく、ただ少しづつ人間になる感覚しかなかった。
時間が来て私は期化を行った。
体が全てを理解している部分に関しては恐れや迷いはなかった。
それ以外の、人型戦闘決戦兵器の権限を使ってこれから私がやろうとしていることに関しては恐れや迷いの感情が邪魔をした。




目覚めたディザスターとニュークリアがヒューに加勢すると、あっと言う間にタワー内部の脅威が一掃された。
タワーから出るとE君が待っていた。
「では、この後の作戦を話します。少し離れた場所に移動しましょうか。すぐにロボットが駆けつけます」
私たちは急いでその場から離れて、狭い路地に入った。
「政宗さん、ちょっと遅かったね。死ぬかと思ったよ」
「間に合って良かった」
「それでは話します。これから皆さんには僕の指定した場所に行ってもらい、爆弾を爆発してもらいます。その場所は、このタワーのように透明マントの使用が必須です。それに加え、時限式の爆弾は使えません。必ずロボットに阻まれます。ですから透明マントを使用したまま自爆していただきたいんです」
「それをしないとこの国は変わらない。それがもう1人の君の答えなんだろ。だから従うよ」
「アタシも。元々そのつもりだったし」
「私も、自分の命を犠牲にして何かが変わるならそれで良い」
「ありがとうございます。僕の力で必ずこの国を変えてみせます」
E君がそう言うとヒューや花村さんやディザスターたちは、それぞれ自分たちの持ち場へ飛んで行った。

ディザスターは北海道、ニュークリアは大阪、花村さんは千葉、ヒューは東京、私は神奈川だった。
そしてE君はタワーの地下にある核シェルターへ向かった。
爆発の規模は核ほどではないとはいえ、それなりの規模のようだった。
みんなが持ち場について起爆したとき、私の起爆はちょっとだけ遅れた。
「政宗さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ちゃんと起爆させます」
E君からの無線で連絡があったが、私は起爆させると言ってその後の連絡は無視した。
「クズが、 これだから人間は使えねーんだよな! まぁ良いや。ほとんど目的は達成した。後はこの国を支配するだけ」
Eは暗いシェルターの中でそう言うと、あらゆるものをコントロールしてこの国を支配するためにアカシックレコードの力をフルパワーで使った。
それから間もなく私は起爆スイッチを押した。
「はい、政宗ちゃんありがとうございました。マジ、どんくさかったけど。許してやるよ」
人間を操って殺したことでEは自分がこの国を支配した気になった。
Eはしばらく瞑想した後地上に上がった。

「なんでお前ら生きてんだよ!」
Eが声を荒げて言った。
「お前の力のおかげさ。人型戦闘決戦兵器は爆発を回避するくらいわけないよ。思い切り上に上昇するだけで良い。花村さんだってそう」
ヒューと花村さんと私はEの前に立ち塞がった。
「ありえない、コントロールしたはずだぞ」
「コントロールされてたはずだったんだ。いや、洗脳か。だけどお前と最初にシミュレーションしたときお前の力に触れた。だから洗脳されずに済んだんだ。それがなければ喜んで死んでたよ」 
「ヒューや花村は、なんで」
「ヒューや花村さんは元々この作戦で死んでも良いと思っていただけで洗脳されてはいなかったんだ。それだけ国を変えたかったのか、あるいは半分洗脳されてたかもしれない。だけど俺が目を覚まさせた」
「お前はおかしいだろ! 政宗!」

「ディザスターとニュークリアの初期化をするときに、あの端末から新しく人型戦闘決戦兵器を作るように指示したんだ。そして、爆発が起こるときにディザスターかニュークリアの加勢をするように指示した。お前に悟られるからな。爆発する場所はどこでも良かった。だから建物のてっぺんから爆弾を落として、その隙に新しい人型戦闘決戦兵器と空へ逃げたんだ。落ちるまでの時間はわずかだけど十分だった。ヘルメットも用意してもらったしね。ディザスターとニュークリアが爆発した後新しい人型戦闘決戦兵器が俺を助けるように指示をしたのはヒューだ。花村さんでも良かったけど。ディザスター、ニュークリアじゃだめなんだ。やはりお前に悟られるから」
「だから決められた時間に起爆出来なかったのか。なんでこんなことに」

「お前はロボットで、なんでも教えてくれる相棒がいる。そりゃあ過信するよ自分の力を。それがお前の弱点なんだ。なんでも聞かないとなんでも教えてくれない。成り上がることで頭がいっぱいで、身を守ることは考えてなかった。いや、後回しで良いと考えた。お前も人型戦闘決戦兵器なんだからな。だけど、ここにいるみんなには及ばない。後回しにしたツケは大きかったな」
「政宗さんこの子は元々人間だ。兵器なわけがないよ。そんなのあまりにも……」
「ヒュー。それが事実なんだ。お前はディザスターやニュークリアのように残酷な兵器じゃなかったかもしれない。でもお前はそういう世界で生きてきただろ。残酷だっただろ。お前は受け入れないといけない。どんなに残酷だろうと。立ち向かうしかない。そして、変えるしかない。ヒューにしかそれは出来ないんだ」
私がそう言うとヒューはEの方に向かって歩き出した。
「誰か! 誰でも良い! 助けて!」Eは助けを求めて叫びながらアカシックレコードの力を命がけで使った。




「さっき、そして今使ってるその力ヒューに使ったやつだろ。もっと凄まじいようだが。人間や人間に近い者には触れないと意味がないようだけど、それ以外の者には触れる必要がないらしい。あらゆるロボットやマナー講師やロボット兵器なんかにはな。その程度の連中、やろうと思えばいつでもコントロールする事が出来たんだ。だけど隠してた。そいつらをいくら味方につけても意味がない。問題は人型戦闘決戦兵器だ。ヒューのようなバグは期待出来ない。だから沢山破壊して従わせる必要があった。沢山破壊した後でヒューに使った力を全力で使えば従わせることが出来るんだろ? 全部分かってんだよ」
Eは絶叫しながらヒューに攻撃するも、ヒューには全く効いていないようだった。
「嫌、嫌だ! 死にたくない! 怖いよ!」
「わめくな。お前は俺を初めて見たときから殺したと思う最後の瞬間まで、計算して動いていた。手を上げて逃げていたことから何から全てな。洗脳した気になってたんだろ? 俺はコントロールされない。俺は自由だ」
私がそう言うとヒューはEを破壊した。

破壊される直前Eは、なんでパパとママはいなくなっちゃったの、と言った。
E君がいなければこの国を変えることは出来なかったから、人間の部分というのは必ずしも悪い結果をもたらすとは限らない。
多くのロボットがそうだったようにE君も人間の部分に翻弄され、私たちはそれによってひとまず救われたのだ。
人間がロボットに翻弄される時代は終わった。
でも共存する限りE君という人間の犠牲から目を背けてはならない。
ディザスターの言うとおりロボットにも人間らしさというか人間味は大事で、人間もロボットもそれを忘れると、おかしな方向へ舵を切るようになるのだろう。
少しの優しさや思いやりがとても大きかったりパワーが潜在していたりすることを忘れてはいけない。軽視してはいけない。
平和は沼のようなところに決して根付かないのだから。

「ヒュー。いってらっしゃい。あなたは私の憧れです」
花村さんはヒューを抱きしめて言った。美しい女性の声をしていた。
「ヒュー。後のことはまかせた。私は疲れたよ」
倒れそうになったとき花村さんが私を抱きかかえて肩に背負った。
「政宗さん。最後に1つ良いかな。なんで俺たちを信じてくれたの?」
ヒューは別れ際に、どういう感情かは分からないけど、少し掠れた声で言った。
「みんなE君の力を信じていたでしょ。だから必ず信じてもらえると思ったんです。どんなに信じられないようなことでも。というか、それを聞きたいのはこっちの方なんですよ」
「俺たちもそう。信じてた。政宗さんとは付き合いは短いけど、俺たちみたいに命懸けで国を変たいっていう気概を持っていることは知ってた。それがなかったら結果は違ったかもしれない。最終的な判断は確かに、あの子の力によるところが大きかったけど。とにかく、また会おう! みんなと平和を分かち合いたい」
「絶対会おう。ヒューならきっと良い国に出来る。E君の力はそう言ってた!」

この後ヒューはあらゆる媒体からあらゆるものに訴えた。
「俺はこの国を変えたい。誰も悲しまない国にしたい。みんな協力してくれ」
アカシックレコードの力に曝されたものたちは、何故かとても従順だった。
ヒューはロボットの世界では英雄だったから何か心に響くようなことがあったのかもしれない。
人間の部分は足を引っ張るようなことはせず、ただ本能が平和を受け入れたのだ。目が覚めると私はあの薄暗い部屋にいて、ベッドの脇のテーブルには花村さんが作った食事が置き手紙付きで置かれていた。
花村さんは多分ヒューの様子を見守りに行ったのだと思う。
ジャムが少し塗られた食パンとドレッシングがかかっていないサラダと水が物語っていた。
置き手紙には、夜光ちゃんまた連絡するわね、と有名人のサインのようにグチャグチャっと書かれていた。
食パンをかじると、何かよく分からない感情がこみ上げてきた。
急いで食事を済ませ外に出ると風がとても気持ちよくて目に映る全ての景色が新鮮だった。
私はこの地球にいても良いんだ。
そう思うと笑みがこぼれてきた。

あまりにも行儀に反している化け物が攻撃してきたら別だけど、マナーを守らないからという理由で排除されるのはおかしい。命がある限り人間性のようなものを求め続けたい。
求め続けた先に待っているのが地獄だとしても、人間という動物が持つ本能に従い続けるのだ。あるいは、様々なものに敬意を払う。それだけで良い。
答えは自分で決めれば良い。答えが永遠に見つからなくても良い。
この国は、自然は全てにおいて寛容だから。
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