異世界働き方改革~エナドリ自販機で社畜を卒業します~

ゼニ平

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第1部 ホワイティア支部改革編

【第15話】「思いもよらぬ落とし穴」

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「よっしゃあああああああああああああっ!!」

「終わったーーー!!」

「マジか、これマジで終わったのか!?」

「7日かかるって言ってたよな!? ウソだろ、2日で終わるなんて!」

 畑の真ん中で、ギルドの面々が土まみれになりながら、喜びの叫びを上げた。
 みんなの額には汗がにじみ、服も靴も泥でぐしゃぐしゃだったが、誰も気にしていない。

 そこには、紛れもない達成感と一体感が満ちていた。

 ミロリーは自分の魔法で、畑の広い範囲を効率的に耕し、失敗せずにやりきった。
 知久はドリンクの力で先導し、力とスピードを見せつけた。
 その姿に感化された仲間たちが次々と鍬を取り、協力して最後の一区画まで耕しきったのだ。

「は~いみなさん、お水ど~ぞ!」

 そんな中、トキワが笑顔で水筒の入ったバスケットを抱えて駆け寄ってきた。

 まるで部活のマネージャーみたいに、汗だくの仲間たちに手渡していく。

「おお、助かるよ、聖女さん!」

「ほんと、トキワちゃんがいると安心するねぇ」

 その声に振り返ると、畑の端には数人の村人たちが立っていた。
 村の老婆、農夫風の男、そしてその中心には、優しげな目をした年配の男──村長がいた。

「あ、村長さん~。見に来てくれたんですか~?」

「おうとも。いやあ、見事なもんだ。ここまで早く終わるとは思わなんだ」

 トキワはバスケットを置くと、嬉しそうに村長のそばに駆け寄った。

「すごいでしょう~? みなさん頑張ったんですよ~!」

「トキワもよくやっているよ。ギルドの手伝いをすると言い出した時は心配したものだが……頑張っているようだな」

「えへへ、そう言ってもらえると、うれしいです~」

 村長の隣で頷く村人たちが、微笑ましそうにトキワを見る。
 トキワもまた、その中で自然に溶け込み、まるで本当の家族といるかのようにリラックスしていた。

 そのやりとりを見ていた知久は、ふと心が和らいだような気がした。
 彼女が“この村で育った”という話の意味が、少しだけわかった。

「なあ、大将」

 肩に鍬を担ぎながら、ゴルディが笑いかけてくる。

「これ、マルベックのやつ見たら、目ぇ飛び出すんじゃねぇか? “7日でやれ”っつってた仕事、たったの2日で終わったんだからよ」

「……だな。まあ、鼻を明かしてやれたと思えば、ちょっとは気分いいかもな」

 知久も少しだけ、得意げに笑った。
 この瞬間だけは、間違いなく全員が一つのチームだった。

──しかし。

 その気分が一変したのは、ギルド本部に戻ったあとだった。

「報酬……これだけ、ですか?」

 知久は硬貨の入った袋を受け取りながら、思わず眉をひそめた。

「うむ。お前らがやった作業は“2日分”だ。7日分の契約とはいえ、実際の労働日数に応じた対価を払う。これは当然だろう」

 支部長マルベックは、悪びれもせずに言い放った。
 その顔には「働かせてやっただけありがたいと思え」とでも言いたげな薄ら笑いが浮かんでいる。

「でもっ……! 7日かかる前提の仕事を、2日でやり遂げたんですよ!? 効率を上げたからって、なんで給料が減らされるんですか!」

「お前の“効率”なんて知らん。働いた日数がすべてだ。嫌なら明日から来なくていいぞ?」

 言葉の刃に、知久は拳を握りしめた。
 背後で聞いていた他のギルドメンバーたちも、見る見るうちに顔を曇らせていく。

「……ふざけんなよ……」

 ぽつりと呟く誰かの声。
 さっきまでの笑顔と高揚感は跡形もなく、重苦しい沈黙がギルドを包んだ。

「……」

 やがて皆は無言で散り散りに去っていき、知久はひとり、ギルドの片隅に立ち尽くした。

「結局これかよ。前の会社と……何が違うんだよ……」

 ぼそっと呟いたときだった。

「違うと思いますよ、私は」

 背後から、声がした。
 振り返ると、そこには黒いフードを深くかぶった小柄な人物が立っていた。
 顔は影に隠れ、表情はわからない。

「……誰だ?」

「私はただの観察者です。でも、あなたが見ているこの世界には、希望があると思ってる」

 そう言って、その人物は、ノートのようなものを差し出した。

「これは?」

「今のあなたに必要なものかと」

 それは、ギルドの収支記録──本来、一般のギルド員が目にすることのないものだった。

「これ……」

「信じるかは、あなた次第です。でも、“本当の問題”を見つけたいなら……中を見てみてください」

 言い終えると、彼女はすっとその場から姿を消した。
 まるで最初から、影だったかのように。
 知久は、手にした帳簿を見つめながら、深く息を吐いた。

(こいつ……何者なんだ……?)

 だが今は、それよりも──このギルドで何が起きているのかを、知るべきときなのかもしれない。
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