この転生に意味はない

飯間紳助

文字の大きさ
1 / 1

プロローグ

しおりを挟む
 みんなはどんな人が好きだろうか。
 美人な人? 優しい人? いやいや違う。
 不幸な人だ。

 不幸な人は素晴らしい、存在そのものが芸術だ。
 どこかで不幸な人は、どこかでは幸せ者で憧れられる。世界にはいろいろな人がいる、死にたくない人もいれば、死にたいと思う人もいる。

 根拠は特になく、強いて言うなら僕だ。僕は狂気に憧れている、なぜなら狂人はいつも楽しそうだからだ。
 殴られて痛いはずなのに、平気そうだからだ。誰かに怒られていても楽しそうだからだ。

 でも本当は、痛みなんてどうでも良くなるくらい苦しいだけ。

 苦しんでいるものは美しい。みんなだって映画を見るとき悲しいシーンで涙を流すでしょ?
 そしてそれをみんな「感動」と呼ぶ。
 感動っていうのは必ずしも良いとは限らないだろう。
 でも多分、悪いものじゃない。

 感動っていうのは、いわば興奮みたいなもんだ。
 興奮してるときって全部楽しく感じられるでしょ?
 いつも全然笑えないようなしょうもないことで大笑いできる。

 まあ結局何が言いたいかと言うと「モテたかったら不幸になればいい」ってこと。

*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*

 高校生活はとても暇だ。
 まあ僕が暇な生活をしているだけだが。
 アニメのような青春もなければ、可愛い女の子もいない。

 さらに僕には目的がない。
 どんな無謀な事でも目的があるかないかで人生の有意義さは変わる。
 行きたい大学もなければ、やりたい仕事もない。
 あるのなんて悩みくらい。
 それはあまりに退屈だ。

隅独すみひとくん、聞いていますか?」

「んん、なに?」

 やべ、まじでなんも聞いてなかった。
 あれ、誰だっけこいつ。

「ちゃんと話を聞いてくださいよ」

 それ自体はとても申し訳ないんだけど、シンプルに誰ですか。

「あ、うん」
「ごめん」

 すると、その女性は顔を少し顰めてしかめて、いかにも不満げな表情を浮かべた。

「私は先生ですよ」

「え、先生?」

 ああ、思い出した。
 この人、国語の担当の人だ。
 いつも授業聞いてなさすぎて忘れてた。

「それで、どうしたんです」

「このプリントを教材室へ運んでください」

 そう言ってどこからともなく山盛りのプリントを取り出した。

「え、なんで」

「あなた国語係でしょうが」
「いつも安島さんにばかりやらせてはいけませんよ」

「あ、はい」

 やべー。忘れてた。
 最近本当にやばいな。全てどうでもよくなってきてる。
 これは謝っとこう。

「安島さん」

「あ、え?」
「ゆ、悠遠くん?」

 安島さんは挙動不審きょどうふしんで何やら慌てている。
 まあいつも通りだが。

「なんか仕事任せちゃってたみたいでごめんね」

「あ、ああ、全然大丈夫だよ」
「あ、それ頼まれたの?」
「……な、なら、一緒に行こう」

 なぜか安島さんは顔を赤くし、もじもじしている。
 国語のプリント運ぶのをデートだと思っているのだろうか。

「なら行こうか」

 その後、特に問題なくプリントを運び、僕たちは解散した。
 
 帰り道、1人歩いていると。

「ゆ、悠遠くん」

 あれ、なんでだろう。
 帰り道は違うはずだけど。

「あ、あのね。実はね」

 景色はもう夕暮れで、美しい太陽が適度に僕らの顔を照らす。

「ずっと前から好きでした!!」

「…」

「は? 今なんて?」

「だから、その、好き!」

 まさかまさか、冗談だろう。
 
 その時僕は初めてちゃんと安島さんの顔を見た。
 顔は真っ赤で、今にも逃げ出しそうで、そんな顔だった。

 僕は告白に保留なんて選択肢はないと思ってる。
 好きな相手なら相当な理由がない限りは即OKするはずだ。
 別に好きでもないのに、付き合うのは相手に失礼だ。

「いいよ」

 だが、そんな考えを全て打ち砕き、僕は言ってしまった。
 そう、これから、これから好きになればいいのだ。

 だが、その考えは浅はかだった。

*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*

 ヤンデレ。
 自分の恋人などへの愛情が強すぎる人。
 ある程度のヤンデレならば、もはや長所のように僕は思うけど。
 安島さんはまさに狂気だった。

「お、おはようございます。悠遠くん」
「そ、その、寝ぼけてる悠遠くんも可愛いですね……」
 
 椅子に縛り付けられている僕を見て、安島さんは顔を赤くしながらそう言った。
 
 それはあまりに不気味だった。
 監禁され変なことでもされるかと思えば、なにもされず。
 指先が当たるだけで赤面し、去っていく。
 彼女の目には僕を縛っている縄は映らない。

 それはもはや誰も責めることはできない。
 なぜなら、彼女は知らないのだから。
 常識がないのだから、しょうがないのだ。

「学校に行きたいんだけど」

「あ、ごめんなさい」
「学校行きたいですよね……」
「でも大丈夫です、私が一生養ってあげますから」

 それは会話が通じているようで通じていない。
 何より怖いのは、彼女は学校へ行けない僕に本気で同情していることだ。
 彼女は本気で僕を助けたい、なのにその頭には縄を解くなんて選択肢はまずない。
 まさに化け物だ。

「帰りたい。家に帰りたい」

 なんだかんだで1週間位監禁されているし、さすがにそろそろ日差しを浴びたいな。

「そ、そんな、そんなこと言わないでください」
「私、私そんなこと言われたら……」

 そう言って彼女は静かにナイフを取り出した。

「わ、わかった。ごめんね」
「でも安島さんには学校に行って欲しいな」
「養ってくれるんでしょ?」

「あ、ああ、そうですよね。なら学校、行ってきます」

 そう言って彼女は、やけにすんなり部屋を出た。

「ふー」

 そろそろ縄を解くか。
 実は縄が緩んできてたんだよね。

 その時、1粒の水滴が僕の足に垂れた。
 ん? これなんだろう。
 これは……涙?

 その時、僕の口から勝手に次々に声が漏れた。

「……くっ」
「怖い、怖いよ!」
「あれは、あれは化け物じゃないか…!」

 ああ、どうしていつもこうなんだ。
 逃げなきゃ、急いで家から出よう。

 そう思いを扉を開けると。

「うわっ!!」

「そんなふうに、そんなふうに思ってたんですね……」

 狂気に染まったその顔には、今さっき自分で引っ掻いたかであろう傷跡があった。

「いいです、なら、逃げられるくらいなら」
「保管します。殺して、保管します」

 ゆっくりと、心臓へ向けて、ナイフが振り下ろされた。

 ああ、これが、愛情か……。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

構造理解で始めるゼロからの文明開拓

TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。 ​適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。 だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――! ​――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

とある執事の日常 ~お嬢様の中身は恐らくギャル~

冬兎
ファンタジー
うちのお嬢様は絶対におかしい。 「道路やばくない? 整備しよ」 「孤児院とか作ったら?」 「困ってる人助けるのなんか当たり前っしょ」 貴族令嬢らしからぬ口調で突拍子もない提案を次々とぶつけてくるお嬢様、レティシア・リオネール。執事の俺、クラウスは今日も彼女の無茶振りに振り回される。 不思議なことに、お嬢様の理想論は必ず実現し効果を発揮する。 孤児院は完成し、医療制度は整い、領地は驚異的に発展していく。 元勇者の伯爵様、脳筋騎士団長、くのいちメイド長、双子の妹たち―― 濃すぎる面々に囲まれながら、俺は今日もお嬢様の思いつきを形にしていく。 気づけば、振り回されることに悦びを感じ始めている俺はもう手遅れかもしれない。 R8.1.20 投稿開始

処理中です...