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第1話:ハズレ枠と、泥を啜る算盤
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第1話:ハズレ枠と、泥を啜る算盤
天界の窓口は、驚くほど無機質で事務的な役所のような場所だった。
「次の方、標準Aセット(翻訳・倉庫)になります。ここに受領のサインを」
隣の列では、黄金の「聖剣」を授かった男が眩い光を放っている。
対して、僕の手元には地味なスキルカード。
「……これだけですか? せめて、もう一つ何か」
面倒そうに神が投げ寄越したのは、おまけの『適応(清潔・適温)』だった。
「お前のような事務屋に魔王が倒せるわけがないがな。……次!」
――それから、僕の異世界生活の始まる。
数ヶ月後。僕は街の象徴である巨大な石造りの商館を見上げていた。
物流を支配する「物流ギルド」の本部だ。
(魔法も聖剣もない。武力は諦めた。……だが、算盤でなら、この世界と渡り合えるのではないか?)
僕は懐の算盤を強く握りしめた。
主役たちが「奇跡」で戦うなら、僕は「数字」で戦う。そんな自負を胸に、意気揚々とギルドの門を叩いた。
だが、現実は冷酷だった。
「……加入申請却下。理由は、『信用不足』および『登録保証金の不足』です」
受付嬢は、冷淡に突き返した。
「ギルドに加入したければ、まずは有力な商家の推薦状と、金貨百枚の保証金を用意してください」
持たざる者が商売の真似事をして、市場を荒らされては困りますので」
スキルが何であろうと、ここでは過去の「実績」と「資産」という既存のルールがすべてだった。
野心は呆気なく踏みにじられ、僕は商売のスタートラインに立つ資格さえ与えられなかった。
商館を追い出され、僕は広場の隅で泥のついた算盤をはじいた。
視線の先には、天界の窓口で黄金の聖剣をもらった英雄が喝采を浴びる凱旋パレード。
同じ「転生者」として、僕は勇者に接触を試みた。
「倉庫スキルがある、荷物持ちとして雇ってほしい」
と申し出ますが、勇者はこう答えます。
「ああ、転生窓口にいた? 悪いけど、俺はもう物流ギルドと契約したんだ……悪いな」
人々が花を投げる中、僕は自分の卑屈な自尊心がひび割れる音を聞いていた。
「僕にも聖剣があれば、あっち側だったはずだ」
と独り言。
「……?、が……?……」
ボロボロの服をまとい、掠れた声で何かを訴える男。
その言葉はあまりに訛りが酷く、通行人たちは眉をひそめて通り過ぎる。
だが、僕の耳には届いた。**『翻訳』**スキルが、ノイズだらけの彼の声を明瞭な意味へと変換したからだ。
「物流ギルドはどこだ?」
ザムという男は南部砂漠にある村の使いだった。彼の「南部訛り」を理解した僕は、ギルドまで道案内をすることにした。
入り口で待っていると、ザムはさらに落胆していた。
「砂漠を越えるには護衛の給与、水、ラクダの消耗で経費が跳ね上がる。商売にならない」
と断られたそうだ。
「……水を、届けてほしい……南部へ。今年は雨が少ないんだ……」
男が差し出したのは、わずかな特産品の香辛料だけ。
聖剣使いが受けるような「世界を救う仕事」ではない。
命を賭けて砂漠を越える対価としては、あまりに安すぎる。
(自分一人が水を運んだところで、一時しのぎにしかならない……)
事務屋としての冷徹な計算が、逃げ道を提示する。
砂漠には魔物のリスクがある。
一人で運べる程度の水では、村の数日分が限界だ。
何より、ギルドに『申請却下』された僕には、護衛を雇う資金もなければ、信頼できる仲間もいない。
無謀だ。非効率だ。誰も僕を評価しないし、歴史にも残らない。
「……まあ、手伝うか。微力ながらな」
僕は男の手を取り、立ち上がらせた。
自分でも驚くほど静かな声だった。
見捨てられた男の言葉がわかるのが自分だけなら、この仕事を引き受ける理由として、それだけで十分だ。
この決断が、後に世界の「水道」を握る一歩になるとは、まだ自分でも気づいていなかった。
天界の窓口は、驚くほど無機質で事務的な役所のような場所だった。
「次の方、標準Aセット(翻訳・倉庫)になります。ここに受領のサインを」
隣の列では、黄金の「聖剣」を授かった男が眩い光を放っている。
対して、僕の手元には地味なスキルカード。
「……これだけですか? せめて、もう一つ何か」
面倒そうに神が投げ寄越したのは、おまけの『適応(清潔・適温)』だった。
「お前のような事務屋に魔王が倒せるわけがないがな。……次!」
――それから、僕の異世界生活の始まる。
数ヶ月後。僕は街の象徴である巨大な石造りの商館を見上げていた。
物流を支配する「物流ギルド」の本部だ。
(魔法も聖剣もない。武力は諦めた。……だが、算盤でなら、この世界と渡り合えるのではないか?)
僕は懐の算盤を強く握りしめた。
主役たちが「奇跡」で戦うなら、僕は「数字」で戦う。そんな自負を胸に、意気揚々とギルドの門を叩いた。
だが、現実は冷酷だった。
「……加入申請却下。理由は、『信用不足』および『登録保証金の不足』です」
受付嬢は、冷淡に突き返した。
「ギルドに加入したければ、まずは有力な商家の推薦状と、金貨百枚の保証金を用意してください」
持たざる者が商売の真似事をして、市場を荒らされては困りますので」
スキルが何であろうと、ここでは過去の「実績」と「資産」という既存のルールがすべてだった。
野心は呆気なく踏みにじられ、僕は商売のスタートラインに立つ資格さえ与えられなかった。
商館を追い出され、僕は広場の隅で泥のついた算盤をはじいた。
視線の先には、天界の窓口で黄金の聖剣をもらった英雄が喝采を浴びる凱旋パレード。
同じ「転生者」として、僕は勇者に接触を試みた。
「倉庫スキルがある、荷物持ちとして雇ってほしい」
と申し出ますが、勇者はこう答えます。
「ああ、転生窓口にいた? 悪いけど、俺はもう物流ギルドと契約したんだ……悪いな」
人々が花を投げる中、僕は自分の卑屈な自尊心がひび割れる音を聞いていた。
「僕にも聖剣があれば、あっち側だったはずだ」
と独り言。
「……?、が……?……」
ボロボロの服をまとい、掠れた声で何かを訴える男。
その言葉はあまりに訛りが酷く、通行人たちは眉をひそめて通り過ぎる。
だが、僕の耳には届いた。**『翻訳』**スキルが、ノイズだらけの彼の声を明瞭な意味へと変換したからだ。
「物流ギルドはどこだ?」
ザムという男は南部砂漠にある村の使いだった。彼の「南部訛り」を理解した僕は、ギルドまで道案内をすることにした。
入り口で待っていると、ザムはさらに落胆していた。
「砂漠を越えるには護衛の給与、水、ラクダの消耗で経費が跳ね上がる。商売にならない」
と断られたそうだ。
「……水を、届けてほしい……南部へ。今年は雨が少ないんだ……」
男が差し出したのは、わずかな特産品の香辛料だけ。
聖剣使いが受けるような「世界を救う仕事」ではない。
命を賭けて砂漠を越える対価としては、あまりに安すぎる。
(自分一人が水を運んだところで、一時しのぎにしかならない……)
事務屋としての冷徹な計算が、逃げ道を提示する。
砂漠には魔物のリスクがある。
一人で運べる程度の水では、村の数日分が限界だ。
何より、ギルドに『申請却下』された僕には、護衛を雇う資金もなければ、信頼できる仲間もいない。
無謀だ。非効率だ。誰も僕を評価しないし、歴史にも残らない。
「……まあ、手伝うか。微力ながらな」
僕は男の手を取り、立ち上がらせた。
自分でも驚くほど静かな声だった。
見捨てられた男の言葉がわかるのが自分だけなら、この仕事を引き受ける理由として、それだけで十分だ。
この決断が、後に世界の「水道」を握る一歩になるとは、まだ自分でも気づいていなかった。
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