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第1章 ごめんで済んだら聖女はいらない【ディスカール伯爵領編】
魔法少女(18)爆誕
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体が動かない。
というよりも、動かすための「体」がどこにあるのかも分からない。
周りは何も見えず、ただ意識のみが存在しているような、そんな奇妙で心許ない感覚。
(あー、これ、あたし死んじゃったやつだ......)
でも、死んだにしては意識がはっきりしすぎてやしない?
意識不明?それとも、幽体離脱?
首を傾げる感覚はないけれど、あたしは思考の中で首をひねった。
『君は死んだんだよ。ーー残念だけどね』
突然、脳みそに直接響くような、無遠慮な声。
「びっくりした!――っていうか、あたし死んだの!?マジで!?あと、なんで会話ができてるのよ!」
『正確には、肉体は死んだけど魂は生きてるって状態かな。僕は今、君の精神意識に直接話しかけているんだ』
「魂?っていうか、あんた誰?神様ってやつ?」
『神様か……。ちょっと違うけど、君たちの概念的にはそれに近いかもしれないねぇ』
軽い。神様にしては口調が軽すぎない?
「まぁいいや。さっさと生き返らせてよ!意味わかんないんだけど」
さっきまで、確かにあたしは「生きて」いたはずなのだ。
それなのに、今は重力も温度もない場所で、正体不明の声と問答をしている。
『ーー同じ世界に戻るのは無理だね』
申し訳なさそうな、でも抑揚を感じない声。
「は?なんでよ、神様でしょ?できないとか簡単に言わないでくれる?」
こっちは人生の真っ最中だったのだ。
やり残したことだって、食べ損ねたおやつだって山ほどある。
それを「無理」の一言で強制終了なんて、そんな理不尽、神様相手だろうが納得できるわけがない。
あたしは姿の見えない相手を睨みつけるように、全力の拒絶を叩きつけた。
『だって、君の体はもう使えないんだよ。ーー脳みそ飛び出ちゃってるし』
「え?グロっ!」
『片目も飛び出ちゃってる』
「きもっ!その情報、今のあたしに要る!?」
『まぁ、再構成もできるけどさ。脳みそ出た人間が急に動き出したらどう思うかな?』
「ゾンビ、かな?」
『しかも、多分もうすぐ焼かれて骨になっちゃうしーー』
「......」
「......スケルトンじゃん!」と言いかけたけど、あまりに悲しくなるのでやめた。
戻る体がない。それが現実。
あたしの女子高生ライフ、終了のお知らせ?
「ちょっと待って!ってことは、同じ世界じゃないなら可能ってこと?」
脳みそが飛び出た絶望感から一転、あたしの魂に現金な希望が灯った。
『うん、可能だよ!君は死ぬ間際のことを覚えているかい?』
死ぬ直前。
そうだ。学校の屋上に、見たこともない変な動物がいたんだ。
タヌキみたいな、猫みたいな?
珍しいからスマホで撮ろうとして、追いかけて――。
(学校の屋上から落ちたんだ)
っていうか、屋上から落ちたくらいで脳みそまで出る?
いや、死ぬのはわかるけど、そこまで物理的に破壊されるものなの?
『詳しく知りたいかい?』
「いや、いいです......」
神様もどきが余計なサービス精神を発揮しようとしたので、食い気味に拒否した。
『君が見つけたあの動物。
あれ、僕が地球にいる時の仮の姿なんだ。
いい天気だったから、屋上でうとうとしちゃってね。
そしたら君が大騒ぎして追いかけてくるもんだから』
「は?」
あまりにマヌケな告白に、あたしの思考が停止した。
ってことは、つまり?
「あんたが原因、ってことよね?」
『まあ、そういう見方もできるね』
あたしの人生を物理的に粉砕した元凶が、まさかの昼寝。
新種発見どころか、あたしの人生のほうが大惨事だっていうのに、こいつの態度はどこまでも他人事だ。
「できるね、じゃねぇえええ!!」
口がないのをいいことに、あたしは魂の限りに叫び、見えない手足でじたばたと虚空を掻きむしった。
こいつが、あたしの平穏な日常を、脳みそ諸共アスファルトに叩き落とした張本人。
謝罪の一言もなく「テヘペロ」で済まされてたまるもんか。
『まあ、落ちたのは君がどん臭いからだけど、確かに僕にも「ほんの少し」だけ非があるね。
お詫びと言ってはなんだけど、君を異世界で蘇らせてあげようっていう話さ』
何こいつ、めちゃくちゃ腹立つんだけど。
殴りたい、今すぐ実体化してぶん殴ってやりたい。
でも……異世界転生、か。
「......見た目、変えられたりする?
どうせなら、とびきりの美人になりたいんだけど」
『見た目を変えたいのかい?』
そりゃそうよ。
もう一度人生をやるなら、美人に生まれ変わって最高の人生を謳歌したい。
イケメンに囲まれて、ぐへへな毎日。
......だめだ、妄想が止まらない。
『それは変身願望ってこと?......って、きみ聞いてる?』
王女様とか、貴族令嬢とか。素敵な王子様と恋に落ちたりして……。
憧れのキラキラした異世界ライフ!
『……聞いてないね。じゃあ、君の深層心理にある「理想の変身」とやらを覗かせてもらおうかな』
「え?ちょ、勝手に見ないでよ!プライバシーの侵害!」
『ふむ……おや、これは。なるほど。
君、小さい頃はTVっ子だったんだね。
愛と勇気の魔法少女。これが君の原点か。
分かった!じゃあ、見た目を変えられる能力をあげよう』
「......は?」
『君は今日から、魔法少女だ!色々おまけもしておいたよ。感謝してね!』
「ちょっと待って!魔法少女って何!?
あたし、お姫様って言おうとしてたんだけど!?
キラキラした貴族令嬢はどこ行ったのよ!?」
『......じゃあ、異世界生活を満喫しておいで!』
だめだ、こいつーー
人の話を、一ミリも聞いてない!!
文句を叩きつけようとした魂の叫びは、突如として溢れ出した視界のノイズにかき消された。
真っ暗だったはずの虚無の世界が、暴力的なまでの虹色に輝き出す。
それは「美しい」なんて生易しいものじゃない。
パステルピンク、スカイブルー、レモンイエロー。
あらゆる極彩色の光が、高熱を持った奔流となってあたしの存在を塗り潰していく。
そして、重力も、上下も、前後も分からない光の渦の中で、あたしの18年間は塗り替えられていった。
「待ってってば!意味が分からなすぎるって、魔法少女!?
バカじゃないの!?そんな転生あるかぁぁ!」
『それじゃあ、また!』
その呑気な声を最後に、あたしの意識は強烈な重力に引きずられるように、虹色の彼方へと射出された。
「人の意見を聞け、このクソ神様!
絶対......ぶん殴って......やる......っ!」
その誓いだけを胸に、あたしは新天地へと叩き落とされたのだった。
ーーほんと、口の悪い子だな。魔法少女なんだから、もう少しお行儀良くしないと。
そうだ、おまけであれもプレゼントしておこう。
君の異世界生活が、より賑やかになるようにね。
というよりも、動かすための「体」がどこにあるのかも分からない。
周りは何も見えず、ただ意識のみが存在しているような、そんな奇妙で心許ない感覚。
(あー、これ、あたし死んじゃったやつだ......)
でも、死んだにしては意識がはっきりしすぎてやしない?
意識不明?それとも、幽体離脱?
首を傾げる感覚はないけれど、あたしは思考の中で首をひねった。
『君は死んだんだよ。ーー残念だけどね』
突然、脳みそに直接響くような、無遠慮な声。
「びっくりした!――っていうか、あたし死んだの!?マジで!?あと、なんで会話ができてるのよ!」
『正確には、肉体は死んだけど魂は生きてるって状態かな。僕は今、君の精神意識に直接話しかけているんだ』
「魂?っていうか、あんた誰?神様ってやつ?」
『神様か……。ちょっと違うけど、君たちの概念的にはそれに近いかもしれないねぇ』
軽い。神様にしては口調が軽すぎない?
「まぁいいや。さっさと生き返らせてよ!意味わかんないんだけど」
さっきまで、確かにあたしは「生きて」いたはずなのだ。
それなのに、今は重力も温度もない場所で、正体不明の声と問答をしている。
『ーー同じ世界に戻るのは無理だね』
申し訳なさそうな、でも抑揚を感じない声。
「は?なんでよ、神様でしょ?できないとか簡単に言わないでくれる?」
こっちは人生の真っ最中だったのだ。
やり残したことだって、食べ損ねたおやつだって山ほどある。
それを「無理」の一言で強制終了なんて、そんな理不尽、神様相手だろうが納得できるわけがない。
あたしは姿の見えない相手を睨みつけるように、全力の拒絶を叩きつけた。
『だって、君の体はもう使えないんだよ。ーー脳みそ飛び出ちゃってるし』
「え?グロっ!」
『片目も飛び出ちゃってる』
「きもっ!その情報、今のあたしに要る!?」
『まぁ、再構成もできるけどさ。脳みそ出た人間が急に動き出したらどう思うかな?』
「ゾンビ、かな?」
『しかも、多分もうすぐ焼かれて骨になっちゃうしーー』
「......」
「......スケルトンじゃん!」と言いかけたけど、あまりに悲しくなるのでやめた。
戻る体がない。それが現実。
あたしの女子高生ライフ、終了のお知らせ?
「ちょっと待って!ってことは、同じ世界じゃないなら可能ってこと?」
脳みそが飛び出た絶望感から一転、あたしの魂に現金な希望が灯った。
『うん、可能だよ!君は死ぬ間際のことを覚えているかい?』
死ぬ直前。
そうだ。学校の屋上に、見たこともない変な動物がいたんだ。
タヌキみたいな、猫みたいな?
珍しいからスマホで撮ろうとして、追いかけて――。
(学校の屋上から落ちたんだ)
っていうか、屋上から落ちたくらいで脳みそまで出る?
いや、死ぬのはわかるけど、そこまで物理的に破壊されるものなの?
『詳しく知りたいかい?』
「いや、いいです......」
神様もどきが余計なサービス精神を発揮しようとしたので、食い気味に拒否した。
『君が見つけたあの動物。
あれ、僕が地球にいる時の仮の姿なんだ。
いい天気だったから、屋上でうとうとしちゃってね。
そしたら君が大騒ぎして追いかけてくるもんだから』
「は?」
あまりにマヌケな告白に、あたしの思考が停止した。
ってことは、つまり?
「あんたが原因、ってことよね?」
『まあ、そういう見方もできるね』
あたしの人生を物理的に粉砕した元凶が、まさかの昼寝。
新種発見どころか、あたしの人生のほうが大惨事だっていうのに、こいつの態度はどこまでも他人事だ。
「できるね、じゃねぇえええ!!」
口がないのをいいことに、あたしは魂の限りに叫び、見えない手足でじたばたと虚空を掻きむしった。
こいつが、あたしの平穏な日常を、脳みそ諸共アスファルトに叩き落とした張本人。
謝罪の一言もなく「テヘペロ」で済まされてたまるもんか。
『まあ、落ちたのは君がどん臭いからだけど、確かに僕にも「ほんの少し」だけ非があるね。
お詫びと言ってはなんだけど、君を異世界で蘇らせてあげようっていう話さ』
何こいつ、めちゃくちゃ腹立つんだけど。
殴りたい、今すぐ実体化してぶん殴ってやりたい。
でも……異世界転生、か。
「......見た目、変えられたりする?
どうせなら、とびきりの美人になりたいんだけど」
『見た目を変えたいのかい?』
そりゃそうよ。
もう一度人生をやるなら、美人に生まれ変わって最高の人生を謳歌したい。
イケメンに囲まれて、ぐへへな毎日。
......だめだ、妄想が止まらない。
『それは変身願望ってこと?......って、きみ聞いてる?』
王女様とか、貴族令嬢とか。素敵な王子様と恋に落ちたりして……。
憧れのキラキラした異世界ライフ!
『……聞いてないね。じゃあ、君の深層心理にある「理想の変身」とやらを覗かせてもらおうかな』
「え?ちょ、勝手に見ないでよ!プライバシーの侵害!」
『ふむ……おや、これは。なるほど。
君、小さい頃はTVっ子だったんだね。
愛と勇気の魔法少女。これが君の原点か。
分かった!じゃあ、見た目を変えられる能力をあげよう』
「......は?」
『君は今日から、魔法少女だ!色々おまけもしておいたよ。感謝してね!』
「ちょっと待って!魔法少女って何!?
あたし、お姫様って言おうとしてたんだけど!?
キラキラした貴族令嬢はどこ行ったのよ!?」
『......じゃあ、異世界生活を満喫しておいで!』
だめだ、こいつーー
人の話を、一ミリも聞いてない!!
文句を叩きつけようとした魂の叫びは、突如として溢れ出した視界のノイズにかき消された。
真っ暗だったはずの虚無の世界が、暴力的なまでの虹色に輝き出す。
それは「美しい」なんて生易しいものじゃない。
パステルピンク、スカイブルー、レモンイエロー。
あらゆる極彩色の光が、高熱を持った奔流となってあたしの存在を塗り潰していく。
そして、重力も、上下も、前後も分からない光の渦の中で、あたしの18年間は塗り替えられていった。
「待ってってば!意味が分からなすぎるって、魔法少女!?
バカじゃないの!?そんな転生あるかぁぁ!」
『それじゃあ、また!』
その呑気な声を最後に、あたしの意識は強烈な重力に引きずられるように、虹色の彼方へと射出された。
「人の意見を聞け、このクソ神様!
絶対......ぶん殴って......やる......っ!」
その誓いだけを胸に、あたしは新天地へと叩き落とされたのだった。
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そうだ、おまけであれもプレゼントしておこう。
君の異世界生活が、より賑やかになるようにね。
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