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第五話 英雄オーディン その二
しおりを挟むオーディンはこう言った。
「それとこの結界の目的はもうひとつ。貴様を逃がさないためだ。このオーディンの名に懸けて、貴様をここで葬り去る!!」
……はい?
なんか凄いこと言いだした。
コイツ本当に王国を救った英雄か?
「俺にはわかる。貴様は魔王に命令され、神器を奪いに来た魔物であろう。人間が俺の聖なる拳を受けて無傷でいられるハズがない!」
「オーディン様、誤解です! 俺は週六で筋トレしてます。その結果、俺の筋肉は『向こう側』へ行ったんです!」
「何を意味不明なことをいっておる! 向こう側とはどっち側だ!」
「向こう側は向こう側です! 筋肉の限界の向こう側です!」
「だからどっち側だ!」
「ビヨンド・ザ・リミットです!」
「……強大な魔物のようだが無意味な嘘をつくとは知能は低いようだな」
……ダメだ。
言い方を変えても効果なしか……。
このままではらちが明かない。
のるか反るか、ここは勝負にでる!
「嘘はひとつもついてません! これをご覧ください!」
オリバは両腕を上げて力こぶを作る。
ボディビルの規定ポーズ『ダブルバイセップス・フロント』だ。
上腕二頭筋(つまり、力こぶ)をアピールできる。
オリバの力こぶは高く鋭い山のように盛り上がる。
熟練した登山家でも登頂を諦めるほど急傾斜だ。
「この上腕二頭筋! これが『向こう側』です!」
…………。
「フン。それが貴様の最後の言葉か」
オーディンは吐き捨てた。
スルーされたっ!
キャー恥ずかしいー。
決め顔まで作ってポージングしたのに……。
事態は悪化したようだ。
「これが神器に選ばれるということだ! 聖剣エクスカリバー、聖なる鎧オリハルコン! 神のお力を授けたまえ!」
オーディンが右手を挙げる。
エクスカリバーとオリハルコンが光の粒となってオーディンの周りに集まってくる。
オーディンは右手にエクスカリバーを握り、オリハルコンを装着する。
「いくぞ! 魔王軍四天王を葬り去った奥義! 最後の審判!!」
オーディンの周りに白く輝く風が集まってくる。
風はオーディンを包み、白く輝く竜巻となる。
竜巻の中心にいるオーディンの姿は見えない。
ふいに竜巻が消えた。
オーディンはエクスカリバーをオリバへ向けていた。
オリバの体がとつぜん軽くなる。
オリバの周りに白い風が集まり竜巻が発生する。
オリバは竜巻に飲み込まれ、空高く舞い上げられた。
オーディンは勝ちを確信する。
この奥義をくらった者は魔王軍四天王でさえ、魔力のこもった白く輝く風に全身を削りとられ跡形もなく消え去った。
……しかし、いつまでたってもオリバの体は小さくならない。
◇◆◇◆◇◆◇
この風は気持ちいい、懐かしい風だ――
オリバは学生時代を思い出していた。
あれは十四歳の春だ。
寒かった冬がようやく終わり、春一番が王国中に吹き荒れていた。
俺とアレックスとヤンは学校の屋上に上り、その風を全身に浴びていた。
あのときはクラス一番の美少女・ステファニーのことでみんな頭が一杯だった。
この白い風はあのときの風に似ている。
春と青春を一緒に運んでくる風だ――
◇◆◇◆◇◆◇
竜巻が消えあと、そこには無傷のオリバが立っていた。
「バカなァァァア!!」
オーディンが叫んだ。
「魔王軍四天王も倒した奥義だぞ!! 無傷などありえん!」
「無傷ではありません。白い風が全身のウブ毛が剃ってくれました。これでより一層、筋肉のスジがはっきりとアピールできます。ありがとうございます」
オリバは頭を下げた。
「フフフ……。フハッハッハッ!!」
オーディンが突然笑いだした。
このオジサン、大丈夫か?
オリバは少し心配になる。
「そういうことか……生き残っていたとはな……。直接乗り込んでくるとはいい度胸だ。最後の審判をくらって無傷な者などこの世にひとりしかいない! 貴様だ、魔王ベルゼブブ!!」
……はい?
生まれてこのかた無事故無違反の善良市民を魔王呼ばわりとは甚だ心外だ。
この疑惑は後で解けるんだろうか……。
魔王認定されて国外追放とかそんな展開はゴメンだ。
『魔王』という言葉を聞き、見物人が騒がしくなる。
小さい子どもが泣きだす。
「みなのもの、落ちつけ! 俺が国民を守る! 魔王ベルゼブブはここで倒す!」
オーディンが見物人をなだめる。
物騒なこと言ってんじゃねーよ!
その守るべき『国民』に俺も入っているんだよっ!
オリバは心の中で叫ぶ。
「いくぞ、魔王ベルゼブブ! 貴様の野望もここまでだ!」
なんの野望もないよ!
もう王国一のボディビルダーになっちゃたし。
あとはペットの三毛猫・マロと仲良く平和に暮らすのが野望だよ!
「最終奥義・ハルマゲドン!!」
オーディンが叫ぶ。
まだ昼間なのに空が真っ暗になった。
オーディンの周りに光の粒子が集まってくる。
オーディンの瞳は黒色から黄金色に変わり、全身から青白い光を発しはじめる。
背中に白い翼が生え、オーディンは空高く舞い上がった。
見物人たちは膝をつき、両手を合わせた。
オーディンに向かって祈り始める。
誰かの指示に従ったわけではない。
神により創造された生きものの本能として反射的な行動だった。
「これは神の力をお借りして発動させる最終奥義だ。今の俺は神に近い力をもつ。二十年前に貴様を倒した奥義だ!」
オーディンは両手でエクスカリバーをもち、真上に掲げた。
エクスカリバーの先端に黄金色のエネルギーが集まり、凝縮し、丸くなる。
エクスカリバーの上に満月があるかのようだ。
これはヤバい!
まともにくらっちゃダメなやつだ!
オリバは戦慄を覚える。
オリバの全身の筋肉、いや、筋原繊維の一本一本が身の危険を感じている。
「さらばだ、魔王ベルゼブブ。神のお力により永久に眠れ! ハルマゲドン!!」
オーディンは掲げていたエクスカリバーをオリバに向かって振りぬく。
黄金色に輝くエネルギーの塊がオリバの視界に広がった。
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