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第二十五話 筋肉の輝き その二
しおりを挟む「最後の出場者のかた、自己アピールをお願いします」
司会がマイクをオリバに渡す。
「筋肉魔人みたいな人間は帰りなさい!」
「あなたの自己アピールなんて聞きたくないわ!」
「時間の無駄よ! だれもあんたに投票しないわ!!」
観客席から一斉にブーイングが飛んでくる。
オリバは全く動じない。
顔をしっかりと上げ、観客を見つめる。
オリバはマイクを口元にもってきた。
「みなさんが筋肉嫌いだと知っています。筋肉魔人のことも知っています。筋肉魔人は絶対に許せない。しかし、筋肉に罪はありません」
オリバの言葉を聞いて、ブーイングはさらに大きくなる。
「俺は筋肉質な体がカッコいいと思っています。人間もエルフも動物です。動物である以上、本能的に筋肉に憧れるハズです。筋肉が多く強い動物はそれだけ生存確率が高くなるからです」
オリバはタンクトップを脱ぎ捨てる。
観客に背中をむけ、両腕を上げて、力こぶを作る。
両側の肩甲骨をくっつけるイメージで背中をひき、背中の筋肉を収縮させる。
ボディビルの規定ポーズ『ダブルバイセップス・バック』だ。
背中の筋肉のデコボコを強調できるポーズだ。
「キャー! 変態よ! 捕まえて!」
「ムキムキ過ぎて気持ち悪いっていってんでしょ!」
「筋肉バカは帰れ!」
客席から罵詈雑言が飛んでくる。
今日のオリバの背中はいつにも増して大きい。
コンテストの直前まで背中の筋トレ『デッドリフト』をしていたからだ。
筋トレにより一時的に筋肉が膨らむ『パンプアップ』と呼ばれる現象だ。
オリバはこれを狙っていたのだ!
「いや、でも……、確かに凄い体なのは間違いないわね……」
「強そうだわ……」
次第にブーイングが小さくなってくる。
パンプアップしたオリバの背中は迫力満点だった。
背中の筋肉のデコボコがより強調され、背中の上に小さい山々が無数に存在しているかのようだ。
その光景は観客に世界遺産グランド・キャニオンを連想させるほど壮大で威厳に満ちたものだった。
「今からみなさんには筋肉の魅力を最大限味わって頂きます」
オリバはポージングを止め、客席へ体を向ける。
「スキル! マッスルアピール!!」
オリバの体から光が放たれ、会場内が一瞬明るくなる。
すぐにその光は消えた。
「みなさん、ご安心下さい。害はありません。このスキルは筋肉の魅力を最大限引き出すスキルです。みなさんの遺伝子に太古の昔から刻み込まれている、筋肉への憧れを呼び起こしました。さあ、みなさん、鍛え上げられた筋肉を心ゆくまでご堪能ください!!」
オリバはそう宣言し、ステージを降りて観客席へと向かう。
客席の最前列に座っているエルフに話かける。
朝に偶然出会ったミーシャだ。
相変わらずセクシーだ。
「これが筋肉です。ご興味があれば触ってください」
オリバは胸筋に力を入れる。
ミーシャは腕組みをし、そっぽを向いている。
「キモいって朝言ったでしょ!」
そう言いつつもミーシャはチラチラとオリバの胸筋をみてくる。
「そう言わず、是非とも筋肉に触れてみてください。新しい発見があるかもしれませんよ」
「ば、バカなこと言うんじゃないわよ! 筋肉なんて興味ないから! あっち行きなさいよ!」
ミーシャの真っ白な顔が赤くなる。
「ミーシャさん、これが本物の筋肉です」
オリバはミーシャの右手をとり、彼女の手を自分の大胸筋へと導いた。
ミーシャは抵抗しない。
ずっとそっぽを向いていたミーシャが、今はオリバの大胸筋をまっすぐ見つめている。
顔だけでなく、その長い耳まで赤くなっている。
オリバの胸に手をずっと置いている。
離そうと思えばいつだって離せるのにだ。
「どうですか、ミーシャさん。鍛え上げられた肉体は。強さ、守ってもらえる安心感、暖かさ、強い意志、セクシーさ。筋肉からいろんなものを感じ取れるでしょう。エルフも人間も、本能には勝てません」
オリバはミーシャに語りかける。
「べ、べ、別に筋肉なんてちっとも良くないわよっ! フン! でも……今朝は失礼なこと言っちゃったわね……。そのお詫びに……今夜、お姉さんがいいこと教えて、あ・げ・る……」
ミーシャは潤んだ瞳で上目づかいにオリバを見つめる。
オリバの頬に左手をそっと置く。
「どうしたの!? あのイケメン大好き、『男は中身より外見』と豪語しているミーシャが!?」
客席がザワつき始める。
「今からみなさんの席をまわります。筋肉の素晴らしさをとくとご堪能下さい!!」
オリバは大きな声でそう叫び、ミーシャの隣に座っている女の前に立った。
歳は二十前後だろう。
女は溢れんばかりのジュエリーで着飾っていた。
「フンッ! 私にあなたの手は通用しないわよ。私はこの村で宝石屋を営んでいる。だから、綺麗なもの、美しいものには人一倍敏感なの。このダイヤモンドの輝きと比べれば、あなたの筋肉なんてただの泥だんごよっ!」
女は薬指につけている特大サイズのダイヤモンドの指場をオリバの前に突き出した。
「ほんとうにそうでしょうか? 俺の筋肉をよく見てください。ダイヤモンドはカットによって輝きが決まります。筋肉も同じです。脂肪をそぎ落としたこの筋肉。この筋肉のカットも美しくありませんか?」
オリバは胸筋に力を入れる。
2つの独立した岩のように胸筋が盛り上がる。
胸筋の上を横に走っている筋肉のスジもハッキリと浮かび上がる。
「そ、そんな……。見える……見えるわ! あなたの胸にダイヤモンドのようなカットが! そして輝きが!!」
女は目を大きく見開く。
オリバの胸筋とダイヤモンドの指輪を交互に見つめる。
「当然です。筋肉ですから。筋肉はダイヤモンドより硬く、ダイヤモンドより輝く!! これがマッスル・ダイヤモンドです!!」
オリバは胸筋に力を入れ、さらに硬くする。
「あぁっ! 眩しい!! あなたの筋肉はあまりにも眩しいっ!!」
女は目をつむり、両手で顔を覆った。
「フフフ……こんな輝きを見せつけられてしまったあとじゃ、私の自慢の指輪も台無しね……。目をつむっていても私はまだ眩しい……。あなたの勝ちよ、オリバ」
女は目をつむったまま、特大サイズのダイヤモンドがついた指輪を外し、ポケットにしまった。
オリバは観客席を一つひとつ周り始める。
どこの席でもミーシャのときと同じ反応だ。
最初はオリバの筋肉を拒絶しているが、最後は筋肉の魅力に抗えず、耳まで真っ赤にしてオリバをデートに誘った。
男性エルフでさえも、オリバの筋肉に魅了され、『オリバ兄貴!』とオリバのことを実の兄のように慕い始める。
もう誰もブーイングするものはいない。
「オリバ様、素敵!!」
「その筋肉、最高ですわ!」
「オリバ兄貴! 一生ついてゆきます!」
会場内はオリバへの声援で埋め尽くされる。
そう、なんだかんだ言っても、エルフも人も動物である以上、本能的に筋肉質な体型はモテるのだ。
太古の昔から遺伝子に組み込まれている。
大事なことだからもう一度言おう。
筋肉はモテるのだ。
オリバは会場内の声援に耳を傾ける。
投票はまだ行われていないが、コンテストの結果は明らかだ。
オリバは勝ちを確信する。
「みんな正気に戻りなさい! あいつなんて、ただの筋肉バカよ! 頭蓋骨の中にも筋肉しか入ってないわ!!」
ルナが特別席から立ちあがった。
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