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「いらっしゃいませ」
白いシャツに黒い蝶ネクタイをしめた、ジェルで髪を固めた男が きっかり30度でお辞儀をする。
俺はその男に軽く目礼して、後ろの脂ぎったオヤジたちに目前の部屋を示した。
「ここがそのレストランです」
俺の連れてきた男は3人で、はっきり言って接待だ。相手先の部長とその部下、 そして一人は俺の上司。先ほどのサービスマンが革靴を光らせながら近寄ってきて、 きりっとした声で「本日はいかがなさいますか」と言った。
「どんなのが好みですか?いろいろ種類があるんですよ。ここのウリなんです」
俺はそう言いながら、サービスマンから渡されたメニューを一人ひとりに配った。 メニューには「細め」「太め」「中肉中背」「二重」「筋肉質」など、細かく品書きが書かれている。性格についても選ぶことができ、「反抗的(※同意のない行為が楽しめます)」なんていうのもある。
他の3人がそれぞれ好みのタイプを選ぶと、俺はそれをサービスマンにきちんと伝えた。
「あなた様はいかがなさいますか」
「んー、そうだな……接待なので、適当なやつでいいですよ。今日は楽しみに来たんじゃないので…」
絵に描いたようなお辞儀をもう一度して引っ込んだサービスマンを見送る。
「どうしますか。部屋を分けることもできますよ。もちろんこの部屋で、他の人のを味見しながらというのも楽しめますが」
俺はすっかり油の浮いた3人の男に言った。3人とも「私たちはこういうところは初めてだから、部屋を分けて欲しいね」と言ってきた。恐らく打ち合わせをしてあったのだろう。戻ってきたサービスマンに声を掛けると、彼は壁にあったいくつかのボタンを押し、即座に4つの小部屋と一つのホールを作ってくれた。
「素材をご堪能いただきましてからの調理となりますので、実食まで少々お時間をいただいております。御用がございましたら、お部屋の中にあるコールボタンを押してください」
サービスマンはそう言ってまた慇懃に一礼し、どこかに消えてしまった。俺は3人をそれぞれ小部屋に丁寧に押し込むと、自分の小部屋に入ってネクタイを緩めた。
ここに来るのは3回目だ。正直、あまり好きにはなれない。一番最初に来たときは、自分の好みズバリを選んでしまってどうしてもダメだった。なんとか一口食ってみたが、やはり吐いてしまった。そのときは別な会社の営業が連れてきてくれたのだが、そいつは「すぐに慣れますよ。こういうものだと思えばね」と言って笑った。二回目はだから、一番好きになれないタイプ、ぶっちゃけると嫌いなヤツに似たのを選んだ。それならいけるかもしれないと思ったからだ。思ったとおり吐き戻しはしなかったが、いい気持ちは最初だけだった。
最初。
遠慮がちなノックの音がした。
「し、失礼……します……」
「入って」
最初だけが楽しみかもしれない。俺は振り返って、入ってきた「もの」を見た。
白いシャツに黒い蝶ネクタイをしめた、ジェルで髪を固めた男が きっかり30度でお辞儀をする。
俺はその男に軽く目礼して、後ろの脂ぎったオヤジたちに目前の部屋を示した。
「ここがそのレストランです」
俺の連れてきた男は3人で、はっきり言って接待だ。相手先の部長とその部下、 そして一人は俺の上司。先ほどのサービスマンが革靴を光らせながら近寄ってきて、 きりっとした声で「本日はいかがなさいますか」と言った。
「どんなのが好みですか?いろいろ種類があるんですよ。ここのウリなんです」
俺はそう言いながら、サービスマンから渡されたメニューを一人ひとりに配った。 メニューには「細め」「太め」「中肉中背」「二重」「筋肉質」など、細かく品書きが書かれている。性格についても選ぶことができ、「反抗的(※同意のない行為が楽しめます)」なんていうのもある。
他の3人がそれぞれ好みのタイプを選ぶと、俺はそれをサービスマンにきちんと伝えた。
「あなた様はいかがなさいますか」
「んー、そうだな……接待なので、適当なやつでいいですよ。今日は楽しみに来たんじゃないので…」
絵に描いたようなお辞儀をもう一度して引っ込んだサービスマンを見送る。
「どうしますか。部屋を分けることもできますよ。もちろんこの部屋で、他の人のを味見しながらというのも楽しめますが」
俺はすっかり油の浮いた3人の男に言った。3人とも「私たちはこういうところは初めてだから、部屋を分けて欲しいね」と言ってきた。恐らく打ち合わせをしてあったのだろう。戻ってきたサービスマンに声を掛けると、彼は壁にあったいくつかのボタンを押し、即座に4つの小部屋と一つのホールを作ってくれた。
「素材をご堪能いただきましてからの調理となりますので、実食まで少々お時間をいただいております。御用がございましたら、お部屋の中にあるコールボタンを押してください」
サービスマンはそう言ってまた慇懃に一礼し、どこかに消えてしまった。俺は3人をそれぞれ小部屋に丁寧に押し込むと、自分の小部屋に入ってネクタイを緩めた。
ここに来るのは3回目だ。正直、あまり好きにはなれない。一番最初に来たときは、自分の好みズバリを選んでしまってどうしてもダメだった。なんとか一口食ってみたが、やはり吐いてしまった。そのときは別な会社の営業が連れてきてくれたのだが、そいつは「すぐに慣れますよ。こういうものだと思えばね」と言って笑った。二回目はだから、一番好きになれないタイプ、ぶっちゃけると嫌いなヤツに似たのを選んだ。それならいけるかもしれないと思ったからだ。思ったとおり吐き戻しはしなかったが、いい気持ちは最初だけだった。
最初。
遠慮がちなノックの音がした。
「し、失礼……します……」
「入って」
最初だけが楽しみかもしれない。俺は振り返って、入ってきた「もの」を見た。
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