humanics

黒遠

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「気持ちよかったですか?」 
 また聞かれたので、俺は「気持ちよかったよ」と返事をした。少年は少し笑ったけど、晴れ晴れとした笑顔ではなかった。 
「よかった……。ぼくも、気持ちよかったです。肉になる前に、お客さんに会えて、よかった、な。今の子……56号なんだけど、痛そうだったね……」 
「56号?名前があるの?」 
「名前じゃないです……番号があって。しけんかんから、出てきた順番……ぼくは、31号」 
「そっか……」 
「あの……でも、お客さんが、そういうのがいいなら、ぼくのこと……殴ってもいいです……」 
「痛いの嫌じゃない?」 
「ん……でも……痛くして欲しい、かも」 
 俺は彼の目をふと覗き込んだ。少年はちらと俺を見返してまた目を伏せた。 
「どうして?」 
 そういう性格設定の子なんだろうか?マゾヒスティックな? 
「だって…あの………お客さんの、好きにしてください……」 
 ピンポン、と明るい音が場違いに響いた。アナウンサーのような歯切れのよい男の声が続いて流れ出した。 
『最初のお楽しみはお済でしょうか。よろしければ、お食事の準備をさせていただきます。お済でない方は、ベッドの横にある黄色のボタンを押してお知らせください。30分後にお伺いいたします』 
「痛くして欲しい?」 
 少年はもじもじと身じろぎをした。ピンク色の彼の性器が少し膨らんで、見る間に透明な液をとろりと吐き出した。 
 俺は黄色のボタンに軽く触れ、少年に手を伸ばした。 
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