Marry Me?

美凪ましろ

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Vol.8.Kiss

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「……大丈夫でしたか? 篠田さん」

 店長の計らいで早めに上がらせて貰った。篠田さんの片手は、買い物袋で塞がっている。

 彼は、顔をこちらに傾けて答えた。「……なにが?」

「あの。その……」あたしはどもってしまう。「うちの店長。ああ見えて、結構、自分に対して厳しいから……」

「素敵なひと、だよね。……好き?」

 いきなり言われ、自転車を押すあたしの手は、止まってしまう。「いや……そんなはずは……っ」

「おれと美紗が喋ってると、すっごい目で見てくるんだよねえ。……ふぅん。ざっくり、状況が読めた……真実は常にひとつ」

 顎を摘まみ不敵に笑うあなたの見た目はおとな。中身もおとな?

「……確かに。深崎店長は、すごく、……魅力的なひとではありますけど」あたしは自転車を押して歩きだす。「でも、それだけですよ? 職場恋愛なんてありえません。第一、彼は女性人気が高いですし、そもそも向こうにも、選ぶ権利がありますし……」

「……じっくり考えてみて」長身を屈め、あたしの顔を覗き込む篠田さんは、「もし。……深崎泰斗と、偶然出会っていたら。おれみたいに、困ってたミサミサを、お姫様抱っこして、ベンチに運んでいたら。……恋に、落ちていた? どう?」

 あたしは考えてみる。えぇーっと。店長に姫抱き。姫抱き……っ。

 きゃーっ。萌えるぅーーーっ!!!!

 実際きゃーっと小さく叫んだあたしに、彼の声が降り注ぐ。「え。なに。萌え。……萌えってる? 山口もえ?」

「あーむしろ山口もえさまを姫抱きにして欲しいですねぇ……」うっとりと、あたし。「美しい……尊い。いまの、愛のあるご家庭も最の高ッ!! なんですけど、きっと、深崎店長ともお似合いのはずゥ……ッ」

 太田光辺りがキッチリ突っ込み入れそうだけれど。――サンジャポでやるこたねーだろ。

「結構ドリーミーなんだね美紗ちゃんは」舌を出して笑う彼。「……妄想女子だったりする?」

「アリーマクビール及び間宮貴子みたく脳内音楽は流れませんが。仕事柄、美しいものに接するので。美しい心を保つよう……努力しておりますの」

 ほほほ、とデヴィ夫人を真似て笑ってみたところ、彼は、

「――もう一度聞く。……深崎泰斗が、困っているきみを、姫抱きにしていたら、きみは……彼に、恋をしている?」

 ――なに言っているんだろうこのひと。

 あたしは即答した。

「いや。普通にありえないですよ。店長は店長ですし」

「……ふぅーん」

「なんですかーなんでちょっとむくれてんですかーっ。……もしか。妬いてるぅーっ?」

「……あっ」身を起こした彼は、真っ赤な顔を背け、「……ったりまえ、……だろっ……」

 ――ちゅっ、どーん!!!!!

 危ないッ。きゅんきゅんが動いた!? どういうことだ! 右胸のきゅんきゅんがめり込んでいます!! 
 まさかッ。ありえないわッ。恋愛プラグも注入していないのよ! ありえないわ!!
 警戒心もなしに、反応している……? まさか。守ったの? 『きゅん』を……!

 ――僕は、きゅんゲリオン初号機パイロット、篠田大樹です!!

「……ふふっ……」

「……笑うなよ」

「大樹。顔、……見せて」

「駄目。いまのおれ、すげえ嫉妬してる。見せたくない」

「やだ。み、た、いーっ……っ」

 瞬間、彼に抱き寄せられ。顎をくいっと上向かされ、マスク越しに、キス、……されていた。……ひゃああっ。

 自転車を倒さなかったのは奇跡だ。が、ぱさり、となにか落ちた物音がしたことからすると、彼は、買い物バッグを落とし、あたしを支え、自転車を支えることを優先している。

「や、あの、その……っ」

 ばくばく、と、心臓が波打つ。ありえないほどに痛い。いますぐ高血圧で昇天してしまうかもしれない。あたし。ときめきトゥナイト☆彡

 ふー、っと息を吐いてあたしを抱き、自分の胸に押し付ける彼は、

「……ごめん。正直、美紗の職場を見たいって思ったのは本当なんだ。……けど。

 あいつが、ああいう目できみのことを見ていると思うだけで……胸が焼けこげそうだ」

 おおお。嫉妬王子来ましたよー。英語の分かる方はスルーしてね☆  SH〇〇〇T!!!! アンパーンチ!!

「……な、何度も言いますが、店長は、職場に恋愛を持ち込む主義ではないので……向こうが反応しない限り、れ、恋愛は、ありえません……」

「――じゃあ。美紗が、すげえ、どきどき言ってるの、どういう反応?」

「……し。篠田さんだってすごい、ばくばく言ってるじゃないですか……心臓」

「好きな子を抱きしめているんだから当たり前だよ。……好きだよ。美紗……」

 なんだか安心する。この、彼の匂い。胸元に額を預ける。「あたしも……」

「えっ……」
 
 いきなり彼は、身を引いた。「ほんとに? うわ。ほんとにほんとにほんとにら、い、おーんだーっ」

「……和田アキ子さんってる場合かよ。……てか。ハグ。途中で止めるの止めれ」

 片手で自転車のハンドルを支え、空いている方の手を彼は実に紳士的に差し伸べた。「……はい。お嬢様……」

 こうして再びジェントルマンに抱きしめられたときに、無事、あたしたちの交際は、成立したのだった。

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