昨日、課長に抱かれました

美凪ましろ

文字の大きさ
21 / 103
番外編3 「直後」のふたり――敏感な莉子SIDE

#EX03-01.正々堂々・交際宣言するのが課長でした

しおりを挟む
 お昼休みに入ると、待ち構えていたかのように、経営企画課の先輩である中野さんに話しかけられる。

「ねえ桐島ちゃん。あの噂、本当?」

 興味津々といった人間の表情はなかなか見ていて面白い。わたしが「はい」と頷くと、きゃー、と高い声を彼女はあげる。

「え嘘嘘。まじまじ。まじで、……桐島ちゃんが、課長と、ぉ……?」

 中野さんのランチ友達もやってきてきゃあきゃあ高い声をあげて、当然、この騒ぎは筒抜けのはずで……。課長がデスクを離れる姿を、わたしは映画のコマ送りのように見守っていた。

「昼休み中に悪いな」

 影が、落ちる。彼は――わたしにではなく、中野さんたちに話しかけている。彼女たちの好奇の目線を受け止め、課長は、

「噂は事実だ。……おれは、桐島莉子を、愛している」

 静かな課長の発言だったが、効果は抜群だったようで、フロア中に怒号のような歓声が響き渡った。

「交際しているのも事実だ」歓声の余波が冷めないうちに課長は言葉を繋ぐ。「しかし、仕事は仕事として、プライベートと分けていく。公私混同するつもりはないが。……なるだけ、きみたちには迷惑のかからないよう、交際を続ける。――なにか、質問はあるか?」

「あ……はい」会社では鉄面皮を通す課長に話しかけるとは、なかなか勇気のある行動であるが、うちの課のムードメーカーである中野さんが挙手した。「やっぱり、課長から告ったんですか? 課長、桐島ちゃんだーいすきですものね! むしろ、うちに入社したときから桐島ちゃんにベタ惚れ……」

「えっなんですかそれ」知らないのか、同じ課の三島(みしま)さんが質問をすると、中野さんは、嬉しそうにうっふと笑い、

「はいはーい! 課長! せっかくですから、今日、飲みましょう! 課長と桐島ちゃんについて、もっともっと知りたいひとー!」

 中野さんが手を挙げると、課の全員どころか、お隣の部署のメンバーまで挙手していた。……それなりに覚悟はしていたが、これほどまでに効果があるとは。課長のファンって、すごく、多いんだな。

 ほぼフロア中の皆の注目を集め、課長がどんな顔をしているのか、こっそり盗み見れば、課長は――やれやれ、と肩を竦め、わたしを見て小さくウィンクをした。

 俯き、胸を押さえる。どくんどくん……鼓動が加速する。

 今更恥ずかしくなってきた。――昨日、課長に抱かれました。自分の爆弾発言。そしてなによりも――。

『……おれは、桐島莉子を、愛している』

 力強く言い切ったあの声音。麗しい声。真摯な眼差し――プレゼンをするときのように堂々と、彼は、自分の秘めていた真実を言い切った。その潔さはいっそすがすがしいほどで。

 ねえ、初めて課長に抱かれてからいったいどれだけ愛されたのかあなた覚えている――?

 と、わたしのなかの淫乱なわたしが問うてくる。キッチンで、後ろから熱い熱いペニスを押し込まれ、淫らに、喘いだ。乳房を揉みしだかれ、耳たぶを舐められ、びくびくと到達したわたしのそこを味わいこむように課長がわたしのなかで動き……

『いきやすい莉子が、おれは大好きだよ……』

 崩れそうになるわたしを、しっかりと背後から支えながら彼がくれた愛の言葉。行動。どれもが……わたしのなかに刻まれている。大切な記憶として。真実として。

 ああ。ここが会社じゃなかったら課長に抱いて貰うのに。めちゃめちゃにして……濡れて、感じて、性の奴隷と化すことをあなたは許してくれるのに。

 わたしは顔を起こした。課長は口パクで、なにかを言ったのだが、わたしには聞き取れなかった。首を傾げれば、課長が、メタルフレームの奥にある目を細め、ウィンクなんかしてくる。――はう。だからもう。

 そんな綺麗な顔しといて、ウィンクとか、は、反則です……!

「分かった――分かったから」交際宣言を受けて騒然とするメンバーをまとめあげるのはやはり、課長だった。手を挙げるだけで、キリストのように彼は空気を変える。「なら、明後日にしよう。今日はまだ月曜日だ。みんなそれぞれに予定もあるだろうから無理はしなくていい。場所は東京駅辺りで、済まないが、桐島くん。このメンバーが入るだろう店を見繕ってくれないか?」

 この経営企画課で最年少はわたしなのだから確かに、わたしがすべきなのだが。でも疑問が。「はい課長。構いませんが――わたしでいいんですか?」

 飲み会の店探しであれば中野さんあたりがうってつけだろうに。

 いまだ高鳴る胸を押さえつつ、わたしが課長を見つめ返せば、

「なにか食べたいものがあるのなら中野さんの協力を仰ぐといい。莉子。おれは――きみの、喜ぶ顔が、見たい」

 雷のような悲鳴がまたも湧きおこった。女子社員のなかには、絶叫して目を見開いたまま固まる者もいれば、崩れ落ち、「しっかりして!」と支えられる女子社員も。……ああ、課長の言動はもはや、暴力だ。

 わたしは動じることなく、

「分かりました。……一言だけ公私混同をさせて頂くと、わたしは、わたしの喜ぶ顔を見て喜ぶ課長が見たいです」

 この発言を受けて、何故か奇声があがり、今度は男性社員が複数、倒れ込んでいた。

 *
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

恋は、やさしく

美凪ましろ
恋愛
失恋したばかりの彼女はひょんなことから新橋の街中で上司にお姫様抱っこされ……!? ――俺様な美形上司と彼女とのじんわりとした恋物語。 性描写の入る章には*マークをつけています。

先輩、お久しぶりです

吉生伊織
恋愛
若宮千春 大手不動産会社 秘書課 × 藤井昂良 大手不動産会社 経営企画本部 『陵介とデキてたんなら俺も邪魔してたよな。 もうこれからは誘わないし、誘ってこないでくれ』 大学生の時に起きたちょっとした誤解で、先輩への片想いはあっけなく終わってしまった。 誤解を解きたくて探し回っていたが見つけられず、そのまま音信不通に。 もう会うことは叶わないと思っていた数年後、社会人になってから偶然再会。 ――それも同じ会社で働いていた!? 音信不通になるほど嫌われていたはずなのに、徐々に距離が縮む二人。 打ち解けあっていくうちに、先輩は徐々に甘くなっていき……

4番目の許婚候補

富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。

あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。

汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。 ※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。 書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。 ――――――――――――――――――― ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。 傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。 ―――なのに! その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!? 恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆ 「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」 *・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・* ▶Attention ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

デキナイ私たちの秘密な関係

美並ナナ
恋愛
可愛い容姿と大きな胸ゆえに 近寄ってくる男性は多いものの、 あるトラウマから恋愛をするのが億劫で 彼氏を作りたくない志穂。 一方で、恋愛への憧れはあり、 仲の良い同期カップルを見るたびに 「私もイチャイチャしたい……!」 という欲求を募らせる日々。 そんなある日、ひょんなことから 志穂はイケメン上司・速水課長の ヒミツを知ってしまう。 それをキッカケに2人は イチャイチャするだけの関係になってーー⁉︎ ※性描写がありますので苦手な方はご注意ください。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※この作品はエブリスタ様にも掲載しています。

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

社長の×××

恩田璃星
恋愛
真田葵26歳。 ある日突然異動が命じられた。 異動先である秘書課の課長天澤唯人が社長の愛人という噂は、社内では公然の秘密。 不倫が原因で辛い過去を持つ葵は、二人のただならぬ関係を確信し、課長に不倫を止めるよう説得する。 そんな葵に課長は 「社長との関係を止めさせたいなら、俺を誘惑してみて?」 と持ちかける。 決して結ばれることのない、同居人に想いを寄せる葵は、男の人を誘惑するどころかまともに付き合ったこともない。 果たして課長の不倫を止めることができるのか!? *他サイト掲載作品を、若干修正、公開しております*

あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~

けいこ
恋愛
密かに想いを寄せていたあなたとのとろけるような一夜の出来事。 好きになってはいけない人とわかっていたのに… 夢のような時間がくれたこの大切な命。 保育士の仕事を懸命に頑張りながら、可愛い我が子の子育てに、1人で奔走する毎日。 なのに突然、あなたは私の前に現れた。 忘れようとしても決して忘れることなんて出来なかった、そんな愛おしい人との偶然の再会。 私の運命は… ここからまた大きく動き出す。 九条グループ御曹司 副社長 九条 慶都(くじょう けいと) 31歳 × 化粧品メーカー itidouの長女 保育士 一堂 彩葉(いちどう いろは) 25歳

処理中です...