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25時、王子様のお迎えで(2)
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*
「綺麗……」
大量の紙袋は全部恋生が持ってくれた。格好つけさせてくれよ、それが彼の言い分。
三ヶ月間、直接言葉を交わしたわけではないけど、恋生が「俺」呼称で言うのは初めて見た。
……きゅんとした。
舞台を移し、海の見える公園に来ている。こういう場所はカップルに人気でベンチはかなり埋まっている。
私も恋生と一緒に……。
「寒くない?」
「ううん」と言ったのに、恋生は、自分が着ているカーディガンを脱ぐと私にかけてくれる。「あ……ありがとう」
「どういたしまして」
夜景が視界いっぱいに広がる。潮の香り。故郷のちょっと泥臭いあれとは違う、都会的な香り。
風が冷たく感じる。海の傍は風が冷たい、都会に慣れ切っていた私はそんなことも忘れていた。
膝のうえで重ねる手がすこし冷たい。……温度が欲しい。
ねえ恋生。私たちの関係ってなぁに? そう、端正で理知的な横顔に尋ねてみたらあなたはいったいどんな反応をするだろう。
恋生は、不必要に喋るでも、強引に盛り上げるでもなく、余白を味わうように、黙って私の傍にいてくれた。気持ちが落ち着くまで――待ってくれていた。
*
潮騒の音が耳に残る。懐かしい、波の音。
毎日のようにあれを聞いていた頃はうんざりだったのに。いまはこんなにも恋しく感じる。――故郷。
「帰れるわけがないんだよね……」夜中、ふと目覚めた私は、自分がひとりであることに気づき、寂しくなってしまう。恋生は、私が眠るまで寄り添って、見守ってくれている。「まだ復興の真っ最中だし」
故郷である緑川は、去年元旦の震災で酷い被害に遭い、両親も、知人も家族もみんな――。
ああ。考えていても仕方がないのに。私に出来ることといったら、気を揉んだり、寄付をするくらいのものなのに。
いまは自分だ。先ずは自分のことをきちんとしてから。
恋生の献身的な看病もあって快方に向かいつつあるが、まだちょっとからだはしんどい。夜こうやって目が覚めてしまうこともある。――なんとなく。スマートフォンを手に取って、連絡先を開く。アイコンはベイマックス。意味はあるのか。
「守ってくれる……だからだよね……っと」
いけない。ボタンをタップしてしまった。急いで切ろうと思うがその前に反応があった。「――花?」
さっきまで川瀬さんと言っていたのに。いつ、花呼びが定着したのだろう。
二十五時。普通の人間ならば、眠っている時間だ。
「どうした? 眠れない?」
電話越しに聞く恋生の声はあまりにも優しかった。「……ごめん、間違えて通話押しちゃった……」
「そっか。じゃ、話そ?」
「恋生……」この部屋には新たな仲間たちが加わった。愛してやまない、スィリの服がこんもりと。この夏はファッションを楽しめそうだ。
「なんかね。今日あまりに楽しかったから……つい。ちょっと寂しくなっちゃった」
「すぐ行く」真夜中なのに。恋生の口調には迷いがない。「俺も会いたい。すぐ行くから、ちょっとだけ待ってて」
御曹司様は自分でリムジンを運転してうちのアパート前に乗り付けた。真夜中だというのに、電話越しに小さく叫んで――はーな。アパートからパジャマ姿のまま飛び出した私は驚いた。
タキシード姿の恋生が、薔薇の大きな花束を抱えて、私に手を振っていた。
映画のヒロインになった気分だった。
恋生は、かんかん鳴るアパートの階段をあがると、お姫様抱っこで私を運んで――それから。
普通はヤる。なのにしなかった。
互いに、簡単にこの恋を手放したくはない、そんな暗黙の了解が私たちの間に育ち始めていたのだった。
恋生の手を握り、その晩、ぐっすり眠った。――そんなこんなで私たちの関係はじれじれしたまま三ヶ月も続くのだが。
月の瞬く夜にとうとう限界を迎える。リミッターをぶち壊した私たちは最高潮に、盛り上がった。
「綺麗……」
大量の紙袋は全部恋生が持ってくれた。格好つけさせてくれよ、それが彼の言い分。
三ヶ月間、直接言葉を交わしたわけではないけど、恋生が「俺」呼称で言うのは初めて見た。
……きゅんとした。
舞台を移し、海の見える公園に来ている。こういう場所はカップルに人気でベンチはかなり埋まっている。
私も恋生と一緒に……。
「寒くない?」
「ううん」と言ったのに、恋生は、自分が着ているカーディガンを脱ぐと私にかけてくれる。「あ……ありがとう」
「どういたしまして」
夜景が視界いっぱいに広がる。潮の香り。故郷のちょっと泥臭いあれとは違う、都会的な香り。
風が冷たく感じる。海の傍は風が冷たい、都会に慣れ切っていた私はそんなことも忘れていた。
膝のうえで重ねる手がすこし冷たい。……温度が欲しい。
ねえ恋生。私たちの関係ってなぁに? そう、端正で理知的な横顔に尋ねてみたらあなたはいったいどんな反応をするだろう。
恋生は、不必要に喋るでも、強引に盛り上げるでもなく、余白を味わうように、黙って私の傍にいてくれた。気持ちが落ち着くまで――待ってくれていた。
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潮騒の音が耳に残る。懐かしい、波の音。
毎日のようにあれを聞いていた頃はうんざりだったのに。いまはこんなにも恋しく感じる。――故郷。
「帰れるわけがないんだよね……」夜中、ふと目覚めた私は、自分がひとりであることに気づき、寂しくなってしまう。恋生は、私が眠るまで寄り添って、見守ってくれている。「まだ復興の真っ最中だし」
故郷である緑川は、去年元旦の震災で酷い被害に遭い、両親も、知人も家族もみんな――。
ああ。考えていても仕方がないのに。私に出来ることといったら、気を揉んだり、寄付をするくらいのものなのに。
いまは自分だ。先ずは自分のことをきちんとしてから。
恋生の献身的な看病もあって快方に向かいつつあるが、まだちょっとからだはしんどい。夜こうやって目が覚めてしまうこともある。――なんとなく。スマートフォンを手に取って、連絡先を開く。アイコンはベイマックス。意味はあるのか。
「守ってくれる……だからだよね……っと」
いけない。ボタンをタップしてしまった。急いで切ろうと思うがその前に反応があった。「――花?」
さっきまで川瀬さんと言っていたのに。いつ、花呼びが定着したのだろう。
二十五時。普通の人間ならば、眠っている時間だ。
「どうした? 眠れない?」
電話越しに聞く恋生の声はあまりにも優しかった。「……ごめん、間違えて通話押しちゃった……」
「そっか。じゃ、話そ?」
「恋生……」この部屋には新たな仲間たちが加わった。愛してやまない、スィリの服がこんもりと。この夏はファッションを楽しめそうだ。
「なんかね。今日あまりに楽しかったから……つい。ちょっと寂しくなっちゃった」
「すぐ行く」真夜中なのに。恋生の口調には迷いがない。「俺も会いたい。すぐ行くから、ちょっとだけ待ってて」
御曹司様は自分でリムジンを運転してうちのアパート前に乗り付けた。真夜中だというのに、電話越しに小さく叫んで――はーな。アパートからパジャマ姿のまま飛び出した私は驚いた。
タキシード姿の恋生が、薔薇の大きな花束を抱えて、私に手を振っていた。
映画のヒロインになった気分だった。
恋生は、かんかん鳴るアパートの階段をあがると、お姫様抱っこで私を運んで――それから。
普通はヤる。なのにしなかった。
互いに、簡単にこの恋を手放したくはない、そんな暗黙の了解が私たちの間に育ち始めていたのだった。
恋生の手を握り、その晩、ぐっすり眠った。――そんなこんなで私たちの関係はじれじれしたまま三ヶ月も続くのだが。
月の瞬く夜にとうとう限界を迎える。リミッターをぶち壊した私たちは最高潮に、盛り上がった。
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