王様の耳 ~誰にも言えない秘密たち~

藍栖 萌菜香

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第2章:性的虐待の連鎖は僕で終わりです。【オーナー:聖史】

12-そんななかで僕をこの世に繋ぎとめていたのは、

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 以来、祖父は最低でも週に二度は僕を呼び出し、目隠しをさせたまま抱くようになりました。

 もちろん抵抗はしました。でも、すぐに諦めました。
 妙に手慣れた輝彦父に、積極的にではないにしろ輝彦までが相手では敵うわけもありません。
 それに、僕が呼び出しに応じなかったり、暴れたりすると、祖父が「またお仕置きが必要かい?」とクスクス笑いながら輝彦父に指図する素振りを見せるんです。

 散々抱かれたあと、動かない身体を輝彦にきれいにされることには耐えられても、あんな屈辱的な処置には耐えられません。本当にもう、二度と御免です。


 僕がおとなしく人形に徹していれば、祖父もひどいことをする気はないようでした。
 祖父に呼ばれれば身を清め、自分の足で祖父のもとへと赴きます。血縁との咬合も、セックスで抱かれる身になることも、慣れてしまえばなんてことはありません。

 ただ、視界を奪われるせいで、祖父の声を父のものと混同してしまうことは、どうしても避けられませんでした。優しく囁かれれば胸は疼き、父の名で呼びかけられては絶望する。祖父に抱かれているあいだじゅうがその繰り返しで、僕の心は少しずつ疲弊していきました。

 狂気に満ちたこんな家など捨てて、両親がそうしたように地の果てに逃げてしまおうか、とも思いました。
 もとよりそんな資金など持ち合わせていませんでしたが、それよりも、置いて逃げるには忍びない宝物がこの家にはあったので、僕の逃避行は実行に移されることなく終わりました。

 その宝物というのは、父が学生の頃に使っていた膨大な量のノートです。
 ノートの端々に父の直筆で綴られた詩や走り書きには、僕の知りたかった多くの真実が記されていました。


 母が父の家庭教師だったこと。
 祖父は父への興味が薄く、あまり構ってもらえなかったこと。
 それでも、父が祖父を敬愛していたこと。

 思春期に入った父が、祖父に恋愛感情を抱いてしまったこと。
 それを母に相談したら、狭すぎる世界が原因だと言われ、悩んだこと。
 悩んだ末に、母の誘惑にのり、一度だけのつもりで肌を重ねたこと。

 それが祖父にばれ、二人が引き裂かれたこと。
 途端に祖父の関心が父へと移り、父が幸せを感じていたこと。
 父の子どもが生まれると聞いた祖父が父にひどく執着し、折檻がエスカレートしていったこと。

 ノートのあちこちにこっそりと隠された父の人生は、僕を夢中にさせました。
 このノートがなければ、呼び出しのたびに心を削られていた僕は、脱走が無理なら自殺でと……そんな道を選んでしまっていたかもしれません。


 母を解雇され、家庭教師が輝彦父に取って代わり、祖父の折檻がひどくなるにつれ、父のノートは学習機能を失って、胸の内を吐き出すための日記の様相を呈してきました。

 祖父への思慕と畏怖とに揺れながら、父が近親相姦へと耽溺していくさまが。
 愛する人に抱かれていながら見えてしまう果てのない孤独と絶望が。
 見も知らぬ我が子に見い出した自分の存在意義と憧憬が。
 父の真っ直ぐな言葉となって、切々と綴られていました。

 けれど、それもページを繰るごとに荒れ、しだいに文章の形態を保てなくなってしまい……読めば読んだだけ、父の精神が追い詰められていく様子が伝わってきました。


 僕はどうしてこのとき、彼のそばにいてあげられなかったんでしょうか。
 どんなに願っても悔やんでも、過去はかえられない。そんなことはわかっているんですが、どうしても考えずにはいられません。

 すでに生まれたのか、まだ生まれていないのか、それすら父には知らされていなかったようで、父のノートには、ただただ小さな命を腕に抱いてみたいと、きっと自分を抱きしめている気分になれるんだろうと、そんな憧れが、ときおりふっと思い出したように顔を見せるんです。

 僕の知る父は、すでに精神を病んでいて、息子の僕を我が子として認識しているのかどうかすらあやしい状態でした。
 いまの僕じゃなくていい。赤子の僕でいいから、父が壊れてしまう前に会えていたら……父のノートを読むにつけ、そう思わずにはいられませんでした。


 父のノートの最後には、『くすり』という言葉が登場します。
 折檻の補助をしていた輝彦父がくれたもののようでした。

 絶望の海の底へとひとり沈んでいく感覚は、僕が父を亡くした直後に彷徨っていた白い靄の海よりも果てしなく、恐ろしかったのでしょう。
 父は、その『くすり』に縋ったようでした。

 その言葉が登場してすぐにノートの書き込みは途切れてしまいます。
 その薬がよくないものだということは、スラム育ちの僕には容易に察しがつきました。


 それは、祖父が長期の出張から戻ってきた晩のことでした。

 祖父は出張から戻った晩には、必ず僕を呼び出し抱きます。
 いつもの夜だ。何もかわりはない。と自分に言い聞かせていると、祖父と一緒に戻ってきた輝彦父が、案の定、僕を迎えにきました。

 いくらか疲れを滲ませているその顔を見たとき、僕は、父のノートでは知り得なかった真実を、この男が握っていることを思い出しました。

 壊れてもなお詩をつくりつづけた父が、万年筆を置くきっかけになったかもしれない『くすり』とは、いったいどういうものだったのか。


 僕は彼に訴えました。
「もうこんな生活は嫌だ。いっそ死んで楽になりたい」
 と。
 彼を騙し、情報を引き出すつもりだったんです。

 しかし、その言葉を口にしてみて気がつきました。
 これが僕の本音なんだと。

 慣れてしまえばなんてことないなど、強がりでしかなかった。
 意に沿わない性交渉も、果ての見えない監禁生活も、破壊できるものなら打ち壊したかった。
 地の果てまで逃げて、それでも追ってきた幻影から自害してでも逃げおおせた父が……心の底では羨ましかったんだ。


 咄嗟にデスクへ飛びつき鋏を取りあげ、その刃を手首に当てたときには、知らずうっとりとしてしまいました。
 これで楽になれる。
 父と同じところへ行ける。
 そのときは、そんなことしか頭にありませんでした。
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