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54-末長くお幸せに。
「へえ」
器用にも片眉をあげてみせる田崎に、意味ありげな感心をされて気がついた。
さっきの答えは、『恋人にするなら大悟であることが大前提』と言ったも同じだ。
あーいや、うん。それで合ってる。間違ってない。
それにしても、俺、どれだけ大悟が好きなんだよ。それも無意識に答えちゃうだなんて、重症度が知れる。せっかく冷ました頬がまた熱くなってきた。
俺の言葉に顔をあげたのか、さっきまで頭を抱えていたはずの大悟と目が合った。田崎の前だからかポーカーフェイスを保ってるけど、その頬は微妙に緩んでいて、明らかに喜んでるのが俺にはわかってしまった。
まあ、いいか。大悟が浮上できたなら少しくらい恥ずかしくても。
「ああ、そういえば、田崎先輩」
唐突に大悟がそう言って田崎へ向き直り、テーブル横に立ったままのその長身を見あげた。気になることでもあるのか、眉間のしわがやや深くなっている。
「さっき『今日も一段と』って、おっしゃってましたよね。あれは、どういう意味ですか?」
「おう。村谷とは昨日の昼にも会ったんだよ。村谷のヤツ、そのときも無茶苦茶エロい顔しててさー」
田崎のヤツ、また余計なことを……。確かにあのときは、ちょっとエッチなことを考えてはいたけど、カフェテリアでエロ顔なんか晒すわけないじゃないか、この俺が。
そんな顔してないぞ、と俺が否定しようとしたら、俺が口をひらく前に、
「昨日、ですか? 一昨日じゃなく?」
大悟が愕然としながら田崎に確認をとった。
一昨日は日曜日だ。もともと構内でも滅多に会わない田崎と俺が、日曜日に会うわけがない。それは大悟も承知のはずなのに、よほど田崎の言う『昨日』が信じられないようだ。
大悟は、「ああ」と田崎が肯定するのも耳に入らない様子で、何やらぶつぶつと独り言をこぼし始めた。俯いて聞き取りにくくなったその声に耳を澄ましてみると、「確かに昨日」とか、「俺のフィルターは当てにならない」とか言っている。
ふいに顔をあげた大悟は、正面から俺を見つめてきて、
「この垂れ流しが……一日では終わらないだと?」
と、沈鬱な声でつぶやいた。
た、垂れ流し?
無自覚に何かしでかしているらしい自分に、途端に不安が込みあげてくる。
「苦労しそうだねぇ。二人とも」
のほほんとした口調の田崎は、大悟が何について悩み始めたのか、またしても正確に把握しているらしい。
その田崎へ、なんのことか教えてくれと問い詰めようとしたら、いきなり大悟が立ちあがって、田崎へと振り仰いだ俺の顔を両手で取り押さえた。
「ダメだ。その顔は禁止」
その顔って?
両頬を大きな手に包まれたままで大悟を見あげると、大悟がまるで目眩でも感じたみたいに目を閉じた。大丈夫かと心配する間もなく、大悟がはあっと大きな溜め息をつき、気を取り直したように手荷物を纏めだす。
「幸成、いますぐ帰ろう」
「え、で、でも」
いますぐと言われても、まだ腰が……。
「わかってる。幸成は俺が運ぶから」
そう言って屈みこんだ大悟に、いきなり腰を掬われ片腕で抱きあげられた。
「ちょ、ちょっと大悟っ!?」
お姫様抱っこじゃないだけマシだけど、幼い子どもじゃあるまいし、大の男がこの格好はかなりみっともない。そんな不満や不安、その他諸々が顔に出ていたのか、田崎が大悟の背後に回り込んで俺の顔を覗き込んできた。
「大丈夫だ、村谷。おまえタッパのわりに細いから、思ったほど見苦しくないぞ」
「いや、だからって」
「まあ、デカいのがデカいのを積んでるから、かなり目立つけどな」
「うわあっ、降ろしてっ、大悟っ」
田崎から慰めだか面白がりだかよくわからない言葉をかけられて、よけいに不安が増してしまった。
「おい西原、村谷が涙目になってんぞ」
「涙目? 幸成、顔を隠して」
「むちゃ言うなよ……」
強引な抱き方のせいで、大悟の頭のてっぺんが俺の胸元にあるんだぞ。大悟の頭にしがみつく手を離せば落ちるっつーの。
それに……それにこっちは、いまそれどころじゃないんだよ。
正門まで走るか、なんて恐ろしいつぶやきが聞こえたが、それさえも気にしてはいられない。
大悟の腕が、落とすものかとぎゅうっと俺の脚を抱き締める。逞しい三角筋が俺の脇腹にごりごりと押しつけられる。それだけでも堪らないのに、大悟の匂いは鼻先を掠めるし、しがみつく指先に感じるのは大悟の汗だ。くそっ。
「おーがんばれ。正門にタクシーを呼んでおいてやる」
「ありがとうございます」
「はぁ~西原からそんな言葉が聞ける日が来るとはね。変わったなぁ」
「まだまだ、これからですよ」
もう、そんな話はどうでもいい。いいから早く……早く帰ろう。
「あ、田崎先輩。言っておきますけど、今後一切、幸成には手出し無用でお願いします」
「はいはい」
正直、これ以上長話をする気なら大悟の頭を小突いてやろうかと思ってた。それだけ俺は切羽詰まってたんだ。なのに。
「親友も恋人も、セフレのポジションも俺が占領してますから。幸成の隣は永遠に空きません」
人の気も知らないで、大悟がそんなことを言う。
昨日の昼まで、親友がどうとか、セフレはやだとか、関係のかたちにばかり囚われて、怯えて竦む自分がいた。やっと手にした恋人って関係に、俺は心底ホッとしてたんだ。
だけど大悟は、そんな関係の境目なんか片端から蹴散らして、丸ごと全部自分のものだと主張する。昨日言っていた『幸成の身も心も、すべてを手に入れる』っていうのは、つまりそういう意味だったんだ。しかも、永遠にって……。
ほんと、人の気も知らないで。
「りょーかぁい」という田崎の間延びした声をあとにして、大悟が足早に歩きだした。
そうして大悟が一歩進むごとに、俺の体温があがってく。その元凶は、痛みとともに残された腰奥の小さな熾火と、大悟の宣言に糖度を引きあげられた胸奥の甘い疼きだ。
カフェテラスを抜け、昨日は走り抜けた正門への道を、今日は高みに抱えられて通り過ぎる。すれ違う学生に振り向かれるのは、昨日と同じだ。
正門の向こうに、路肩へ滑り込んできたタクシーが見えた。
もう少ししたら離れなきゃならない。ちょうど人の波もきれた。言うならいまだ。
「なあ、大悟」
「うん?」
歩みをとめずに、大悟が見あげてくる。しがみつきにくくはなったけど、互いに慣れたのか、手を離しても危なげはない。
「帰ったらさ」
誰が聞いているわけでもないけど、つい小声になる。まあ、大声で言えるお願いでもないけど。
真上から見おろす角度の大悟は新鮮で、その頬に手のひらを滑らせると大悟が足をとめた。視界の端の、あと数歩という位置にタクシーのタイヤが映る。
「帰ったら、しよ?」
「え、」
そりゃ、驚くよな。腰が痛くて歩けてないし、昨夜もあれだけしたのにまだ足りないのかって、自分でもそう思う。でも、
「大悟が、触ったり、抱きあげたり……あんなこと言ったりするから」
ちょっと不貞腐れた声になってしまった。
実際、今朝からずっと我慢していたんだ。触れられれば変になるからと、大悟とは必要最小限の接触しかしないでいた。それがまた物足りなくて、逆に恋しくて堪らなかった。
根性で出席した講義にもなかなか集中できなくて、気づけば大悟のことばかりだ。
それでも、あれだけたっぷりと愛され、構われ、満たされたんだからと、欲張りな自分にずっと言い聞かせていたんだ。
それを、ここまで煽ったのは大悟だぞ。
大悟の腕がそっと緩んで、するりと煉瓦敷きの歩道に降ろされる。足がつく直前にくっと抱き寄せられたから腰に衝撃は走らなかったけど、かわりに甘く色づいた溜め息がこぼれた。
見あげると、やわらかで静かな笑みが降ってきた。その視界の隅で、タクシーのオートドアが音もなく開く。
「くっついてるだけでもいいんだ。カラダが熱くて……どうにかなりそう」
車内にまで声が届かないようにしたかったのか、気がつけば俺は爪先立ちになっていた。
少しだけ近くなった大悟の瞳を覗き込む。この前までは、こんな熱の籠った視線では、けして覗き込めなかった瞳だ。
「鎮めてよ、このカラダ……親友で恋人で、セフレなんだろ?」
鎮まるかどうか、甚だ疑問ではあるけど、鎮められるとしたら大悟しかいない。
大悟がゆるりとした動作で回り込み、タクシーへと俺を促した。
真っ直ぐに射抜くような強い視線を見なくたって、大悟の返事はわかってた。あとは、大悟のマンションまでの、この十数分だけだ。それさえ我慢すればいい。
期待と焦燥と、あちこちで発生している疼きに耐えながら、俺がタクシーに乗り込もうとしたときだった。口角のあがった、たいそうご機嫌な唇が、俺の耳元へと近づいてくる。
「もちろん……よろこんで」
予想通りの答えを、予想外に色っぽい声で囁かれた。
もう、どうしてくれようか。
潤み始めた瞳をキツく閉じつつ乗り込んだシートの上で、俺は新しい関係を築いたばかりの相手を横目に、どう責任を取ってもらおうかと考える。
考えた分だけ悶々としてしまったけど、このツラい十数分を耐えるにはちょうどいい暇潰しになった。
完
**********
(2016-5-21)
『親友をセフレにする方法』
これにて完結です。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!
ストーリーなんてどうでもいい、エロをとことん書きたいんだぁっ!!
と、勢いだけで書き始めた作品でしたが、結局あれこれ欲張って、こんな作品になりました。
途中数ヵ月、勝手にもおやすみをいただき申し訳なかったです。
リアルで、エロとは真逆の出来事がありまして、生意気にもスランプっておりました。
戻ってこれてよかったです。
『親友…』は、54話中、27話がエロ回という、なんとも濃い作品ですが、続編と続々編、あとスピンオフまで構想が浮かんでます。
スピンオフは、言わずと知れた田崎先輩と子猫ちゃんです。
でも、『親友…』ほど濃いエロはもう書けないだろうなと思ってるので、書くべきかどうか迷い中です。
『親友…』に盛り込みきれなかったエロもあるので、書きたい気持ちはあるんですが…。
お時間ありましたら、感想をいただけると嬉しいです。
「エロかった!」とひと言でもいただければ今後の励みになります(笑)
何より、書いた甲斐があるというものです♪
まだまだ修行足らずですが、今後もどこかでお会いできますように。
藍栖萌菜香
器用にも片眉をあげてみせる田崎に、意味ありげな感心をされて気がついた。
さっきの答えは、『恋人にするなら大悟であることが大前提』と言ったも同じだ。
あーいや、うん。それで合ってる。間違ってない。
それにしても、俺、どれだけ大悟が好きなんだよ。それも無意識に答えちゃうだなんて、重症度が知れる。せっかく冷ました頬がまた熱くなってきた。
俺の言葉に顔をあげたのか、さっきまで頭を抱えていたはずの大悟と目が合った。田崎の前だからかポーカーフェイスを保ってるけど、その頬は微妙に緩んでいて、明らかに喜んでるのが俺にはわかってしまった。
まあ、いいか。大悟が浮上できたなら少しくらい恥ずかしくても。
「ああ、そういえば、田崎先輩」
唐突に大悟がそう言って田崎へ向き直り、テーブル横に立ったままのその長身を見あげた。気になることでもあるのか、眉間のしわがやや深くなっている。
「さっき『今日も一段と』って、おっしゃってましたよね。あれは、どういう意味ですか?」
「おう。村谷とは昨日の昼にも会ったんだよ。村谷のヤツ、そのときも無茶苦茶エロい顔しててさー」
田崎のヤツ、また余計なことを……。確かにあのときは、ちょっとエッチなことを考えてはいたけど、カフェテリアでエロ顔なんか晒すわけないじゃないか、この俺が。
そんな顔してないぞ、と俺が否定しようとしたら、俺が口をひらく前に、
「昨日、ですか? 一昨日じゃなく?」
大悟が愕然としながら田崎に確認をとった。
一昨日は日曜日だ。もともと構内でも滅多に会わない田崎と俺が、日曜日に会うわけがない。それは大悟も承知のはずなのに、よほど田崎の言う『昨日』が信じられないようだ。
大悟は、「ああ」と田崎が肯定するのも耳に入らない様子で、何やらぶつぶつと独り言をこぼし始めた。俯いて聞き取りにくくなったその声に耳を澄ましてみると、「確かに昨日」とか、「俺のフィルターは当てにならない」とか言っている。
ふいに顔をあげた大悟は、正面から俺を見つめてきて、
「この垂れ流しが……一日では終わらないだと?」
と、沈鬱な声でつぶやいた。
た、垂れ流し?
無自覚に何かしでかしているらしい自分に、途端に不安が込みあげてくる。
「苦労しそうだねぇ。二人とも」
のほほんとした口調の田崎は、大悟が何について悩み始めたのか、またしても正確に把握しているらしい。
その田崎へ、なんのことか教えてくれと問い詰めようとしたら、いきなり大悟が立ちあがって、田崎へと振り仰いだ俺の顔を両手で取り押さえた。
「ダメだ。その顔は禁止」
その顔って?
両頬を大きな手に包まれたままで大悟を見あげると、大悟がまるで目眩でも感じたみたいに目を閉じた。大丈夫かと心配する間もなく、大悟がはあっと大きな溜め息をつき、気を取り直したように手荷物を纏めだす。
「幸成、いますぐ帰ろう」
「え、で、でも」
いますぐと言われても、まだ腰が……。
「わかってる。幸成は俺が運ぶから」
そう言って屈みこんだ大悟に、いきなり腰を掬われ片腕で抱きあげられた。
「ちょ、ちょっと大悟っ!?」
お姫様抱っこじゃないだけマシだけど、幼い子どもじゃあるまいし、大の男がこの格好はかなりみっともない。そんな不満や不安、その他諸々が顔に出ていたのか、田崎が大悟の背後に回り込んで俺の顔を覗き込んできた。
「大丈夫だ、村谷。おまえタッパのわりに細いから、思ったほど見苦しくないぞ」
「いや、だからって」
「まあ、デカいのがデカいのを積んでるから、かなり目立つけどな」
「うわあっ、降ろしてっ、大悟っ」
田崎から慰めだか面白がりだかよくわからない言葉をかけられて、よけいに不安が増してしまった。
「おい西原、村谷が涙目になってんぞ」
「涙目? 幸成、顔を隠して」
「むちゃ言うなよ……」
強引な抱き方のせいで、大悟の頭のてっぺんが俺の胸元にあるんだぞ。大悟の頭にしがみつく手を離せば落ちるっつーの。
それに……それにこっちは、いまそれどころじゃないんだよ。
正門まで走るか、なんて恐ろしいつぶやきが聞こえたが、それさえも気にしてはいられない。
大悟の腕が、落とすものかとぎゅうっと俺の脚を抱き締める。逞しい三角筋が俺の脇腹にごりごりと押しつけられる。それだけでも堪らないのに、大悟の匂いは鼻先を掠めるし、しがみつく指先に感じるのは大悟の汗だ。くそっ。
「おーがんばれ。正門にタクシーを呼んでおいてやる」
「ありがとうございます」
「はぁ~西原からそんな言葉が聞ける日が来るとはね。変わったなぁ」
「まだまだ、これからですよ」
もう、そんな話はどうでもいい。いいから早く……早く帰ろう。
「あ、田崎先輩。言っておきますけど、今後一切、幸成には手出し無用でお願いします」
「はいはい」
正直、これ以上長話をする気なら大悟の頭を小突いてやろうかと思ってた。それだけ俺は切羽詰まってたんだ。なのに。
「親友も恋人も、セフレのポジションも俺が占領してますから。幸成の隣は永遠に空きません」
人の気も知らないで、大悟がそんなことを言う。
昨日の昼まで、親友がどうとか、セフレはやだとか、関係のかたちにばかり囚われて、怯えて竦む自分がいた。やっと手にした恋人って関係に、俺は心底ホッとしてたんだ。
だけど大悟は、そんな関係の境目なんか片端から蹴散らして、丸ごと全部自分のものだと主張する。昨日言っていた『幸成の身も心も、すべてを手に入れる』っていうのは、つまりそういう意味だったんだ。しかも、永遠にって……。
ほんと、人の気も知らないで。
「りょーかぁい」という田崎の間延びした声をあとにして、大悟が足早に歩きだした。
そうして大悟が一歩進むごとに、俺の体温があがってく。その元凶は、痛みとともに残された腰奥の小さな熾火と、大悟の宣言に糖度を引きあげられた胸奥の甘い疼きだ。
カフェテラスを抜け、昨日は走り抜けた正門への道を、今日は高みに抱えられて通り過ぎる。すれ違う学生に振り向かれるのは、昨日と同じだ。
正門の向こうに、路肩へ滑り込んできたタクシーが見えた。
もう少ししたら離れなきゃならない。ちょうど人の波もきれた。言うならいまだ。
「なあ、大悟」
「うん?」
歩みをとめずに、大悟が見あげてくる。しがみつきにくくはなったけど、互いに慣れたのか、手を離しても危なげはない。
「帰ったらさ」
誰が聞いているわけでもないけど、つい小声になる。まあ、大声で言えるお願いでもないけど。
真上から見おろす角度の大悟は新鮮で、その頬に手のひらを滑らせると大悟が足をとめた。視界の端の、あと数歩という位置にタクシーのタイヤが映る。
「帰ったら、しよ?」
「え、」
そりゃ、驚くよな。腰が痛くて歩けてないし、昨夜もあれだけしたのにまだ足りないのかって、自分でもそう思う。でも、
「大悟が、触ったり、抱きあげたり……あんなこと言ったりするから」
ちょっと不貞腐れた声になってしまった。
実際、今朝からずっと我慢していたんだ。触れられれば変になるからと、大悟とは必要最小限の接触しかしないでいた。それがまた物足りなくて、逆に恋しくて堪らなかった。
根性で出席した講義にもなかなか集中できなくて、気づけば大悟のことばかりだ。
それでも、あれだけたっぷりと愛され、構われ、満たされたんだからと、欲張りな自分にずっと言い聞かせていたんだ。
それを、ここまで煽ったのは大悟だぞ。
大悟の腕がそっと緩んで、するりと煉瓦敷きの歩道に降ろされる。足がつく直前にくっと抱き寄せられたから腰に衝撃は走らなかったけど、かわりに甘く色づいた溜め息がこぼれた。
見あげると、やわらかで静かな笑みが降ってきた。その視界の隅で、タクシーのオートドアが音もなく開く。
「くっついてるだけでもいいんだ。カラダが熱くて……どうにかなりそう」
車内にまで声が届かないようにしたかったのか、気がつけば俺は爪先立ちになっていた。
少しだけ近くなった大悟の瞳を覗き込む。この前までは、こんな熱の籠った視線では、けして覗き込めなかった瞳だ。
「鎮めてよ、このカラダ……親友で恋人で、セフレなんだろ?」
鎮まるかどうか、甚だ疑問ではあるけど、鎮められるとしたら大悟しかいない。
大悟がゆるりとした動作で回り込み、タクシーへと俺を促した。
真っ直ぐに射抜くような強い視線を見なくたって、大悟の返事はわかってた。あとは、大悟のマンションまでの、この十数分だけだ。それさえ我慢すればいい。
期待と焦燥と、あちこちで発生している疼きに耐えながら、俺がタクシーに乗り込もうとしたときだった。口角のあがった、たいそうご機嫌な唇が、俺の耳元へと近づいてくる。
「もちろん……よろこんで」
予想通りの答えを、予想外に色っぽい声で囁かれた。
もう、どうしてくれようか。
潤み始めた瞳をキツく閉じつつ乗り込んだシートの上で、俺は新しい関係を築いたばかりの相手を横目に、どう責任を取ってもらおうかと考える。
考えた分だけ悶々としてしまったけど、このツラい十数分を耐えるにはちょうどいい暇潰しになった。
完
**********
(2016-5-21)
『親友をセフレにする方法』
これにて完結です。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!
ストーリーなんてどうでもいい、エロをとことん書きたいんだぁっ!!
と、勢いだけで書き始めた作品でしたが、結局あれこれ欲張って、こんな作品になりました。
途中数ヵ月、勝手にもおやすみをいただき申し訳なかったです。
リアルで、エロとは真逆の出来事がありまして、生意気にもスランプっておりました。
戻ってこれてよかったです。
『親友…』は、54話中、27話がエロ回という、なんとも濃い作品ですが、続編と続々編、あとスピンオフまで構想が浮かんでます。
スピンオフは、言わずと知れた田崎先輩と子猫ちゃんです。
でも、『親友…』ほど濃いエロはもう書けないだろうなと思ってるので、書くべきかどうか迷い中です。
『親友…』に盛り込みきれなかったエロもあるので、書きたい気持ちはあるんですが…。
お時間ありましたら、感想をいただけると嬉しいです。
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藍栖萌菜香
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