恋人の望みを叶える方法

藍栖 萌菜香

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07 【ダメ見本】熱くなりすぎてはいけません。

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 振り返って睨みつけてやりたい衝動を寸でのところで抑えきる。力んだ首筋から何かの軋む音が聞こえ、キツく強く瞼を閉じた。

 強張る顔を日向からは見えない角度に押しさげたが、それでもこの怒気は滲み出ているだろう。
 日向がこのことに気づかず、どうかそのまま幸成のペニスに見惚れていてくれればいい。でなければ、この公開プレイ自体が台無しになりかねない。

 感嘆の溜め息くらい、仕方がないじゃないか。つきたくなるその気持ちもわかるだろ。見慣れているはずの俺でさえ、幸成のペニスを目にすればいまだに溜め息をこぼさずにはいられないんだから。

 やや細身で歪みのないそのシルエットは、漲っているにもかかわらずいやらしさを感じさせない。なのに、透明感のある桃色にほんのりと染まっているそのさまが、本人の興奮をそのまま伝えてくるから、見ている側をたちまちやらしい気持ちにせさる。
 赤みがかった丸い亀頭も、根元から形よく連なる睾丸も、まるで美術品のような気品を見せているのにやらしく映るなんて……貞淑なのに淫乱な幸成本人そのものだ。


「ゆきなり、上手にできたね。とてもよく見えるよ」
 その姿にうっとりと見惚れてしまいながらも、きれいなM字になれたことをやさしく褒める。すると、ぴくりと揺れた幸成の足が、いっそうぎゅうっと胸へと抱き寄せられていった。
 おそらく気づいていないんだろう。幸成が羞恥を堪えれば堪えるほど、恥ずかしい格好になってしまっていることに。

「ああ、本当だ。アナルが解したみたいに赤くなってるな。ふっくらと腫れてるのは、興奮してるからだと思ってたけど、アナニーの名残だったのか」
 ふくりと赤く膨らんだアナルの縁を指先でそろりと撫でる。途端に「あぁっ」と高い声があがり、同時にアナルがきゅうと窄まった。腫れた縁ごと内側へと隠れてしまったそれは、まるで「つつかないで」とでも言いたげだ。

 幸成のアナルのそんな可愛い反応を目にしながら、小さな優越感に浸る。
 日向の位置からじゃこの愛らしい蕾はよく見えないだろう。幸成のきれいな身体にどれだけ溜め息をついたところで、間近で見ていいのも触れていいのも俺だけだ。

 幸成のペニスを日向に見られた。その傷心を、そんなちっぽけな優越感で紛らわせる。そうでもしていなければ、俺が一番にギブアップしかねなかった。


 いまは幸成に集中しろ。
 自身にそう言い聞かせて口にしたのは、
「なぁ、ゆきなり。何を考えながら弄ったんだ?」
 なんて言葉だった。

 自分で聞いておきながら、なんて意地悪なんだと思う。
 でも、それを反省して軌道修正する気もない。
 自覚はなかったが、どうも俺は、よほどご褒美が楽しみだったらしい。装うつもりでいた拗ねた態度が、けっこうな度合いで本心と直結しているようだった。

 幸成が解けていた唇をきゅっと噛む。しばらく逡巡してから、唇をふわりと解いて、
「……大悟の、」
 と、小さな声で答えた。
「俺の、なに?」
 続けざまに問いかけると、しばらくしてから、「ゆび」と、また小さな声で返事をくれる。
 幸成も、こんな俺を意地悪だと感じているんだろう。質問されるたびに睫毛を揺らし、答えるたびに頬を赤く染めていた。

「そうか。幸成は我慢できなくなると、俺の指を想像しながらこのアナルに自分の指を挿れるのか」
 幸成の羞恥を煽るようにわざと赤裸々な言葉で言い直すと、抱き寄せられた膝の下で息が大きく乱れていく。見れば、窄まっていたアナルも解けて、ふたたびふくりと膨らんだ縁を覗かせていた。
 どうやら意地悪もそう悪くはないらしい。


「自分の指で足りたのか?」
 今度の問いかけには返事がなかった。充血したアナルをふにふにと押し潰している俺の親指の感触に気を取られているんだろう。「あ、あ、」と、緊張を孕んだ短い喘ぎ声があがるばかりだ。

 幸成は、アナニーじゃイケなくなっていたはずだ。きっとイケないとわかっていても我慢できなかったんだろう。自分の指で慰めてはみたものの、さぞかし物足りなかったに違いない。
 そうして半端に弄ることで。よけいにつらくなったりはしなかったんだろうか。

 禁欲生活で自分の身に起きた地獄のような渇望を思い出しながら、今日だけはできるだけ早くマッサージを終えようか、と頭の隅で計算をする。
 幸成をいち早く満たしてやりたい。と同時に、俺も幸成不足を早々に解消したかった。


 そうしてアナルマッサージを始めて、気がついた。
 このアナルの柔らかさは、いったいなんなんだ?
「なあ、幸成……アナニーをしたのは、三日前だって言ったよな?」
 それにしてはアナルが柔らかすぎる。というよりも、これは……。

 アナルの縁を左右に引き、開いた隙間から親指をずぶずぶと埋め込んだ。マッサージもローションもまだなのに、さしたる抵抗もなく親指が沈んでいく。いくらも進まないうちに、溶けた潤滑剤に纏いつかれ、指の動きはいっそうよくなった。そのまま指の付け根まで押し込んでいくと、アナルの縁からとぷりと液体が溢れていく。

「あああっ、ごめんっ、ごめんっだいごっ」
 口ではそうして謝罪する幸成だったが、無意識なのか、くいくいと腰を突き出しては、俺の親指を存分に味わっていた。
 濡れた肉の感触に指を締めつけられて、まだだまだだと腹の底へと抑え込んでいた欲望が唸りだす。


 その唸り声をなんとか無視して、「これは、どういうことだ?」と問い詰めた。
 解したみたいに赤くなっていた幸成のアナルは、『みたい』じゃなく、すでに解してあったんだ。しかもご丁寧に潤滑剤まで仕込んである。

 さっきまで、今日のアナルマッサージは早く済ませようなどと考えていたくせに、いざマッサージが不要となると惜しくてならなかった。
 俺へのご褒美をアナニーで奪っておいて、さらにはアナルを解す役まで横取りとは……俺の楽しみだと知った上でのこの所業は、なおさら許しがたい。

 そんな気持ちのままに、アナルのなかの液体を親指一本でぐしゅぐしゅと雑に掻き混ぜていると、
「す、すぐにっ、挿れてほしかったからっ」
 と、喘ぎながらも幸成が真相を明かす。

 それを聞いて、ぴたりと指の動きをとめた。次いで、指は抜かずそのままに幸成の上へと伸し掛かりその顔を覗き込む。
 必死の様子で俺を見つめ返してくる幸成はすでに半泣きの状態だった。
 自分で解してきたのも濡らしてきたのも、こうして動かなくなった指を柔いアナルがちゅうちゅうと吸ってくるのだって、幸成が餓えきっている証拠なんだ。

 その様子に、許しがたいなどと熱くなっていた頭が幾分か落ち着いた。もとより、俺が幸成を許さないわけがないのに、少し熱くなりすぎて自分を見失っていたな。


「すぐにって? どこで挿れるつもりだったんだ?」
 気を取り直して、幸成への質問を再開する。
「げ、玄関で……」
「もしかして、自分から誘うつもりだった?」
「……ん、」
 玄関で濡れた尻を差し出しながら「はやく挿れて」とねだる幸成が脳裏を掠め、ふたたび腹の底で唸り声があがる。

「いつ解したんだ?」
「う、……今朝」
「テスト最終日の朝なのに、幸成は勉強しないでアナルを解してたっていうことか?」
 熱くなりすぎたことは反省しても、意地悪は反省していない。

 学生らしからぬ行動を自覚しているのか、意地悪な質問に返事のできない幸成を続けて質問責めにする。
「潤滑剤はいつ入れたんだ?」
 直腸は思いのほか水分を吸収してしまう。この濡れ具合は今朝という感じでもなかった。
「カフェテリアに行く前に……」
「大学のトイレでか?」
 観念したように目を閉じた幸成から明確な答えはなかったが、そこ以外に潤滑剤をアナルに仕込める場所はない。

 最後のテストが終わり、緊張の解けた学生たちがわらわらと散っていくなか、トイレに立ち寄るとしたら生理的欲求を我慢していた者たちばかりだ。幸成は何食わぬ顔でそいつらに混じり、トイレの個室でひとりアナルに潤滑剤を仕込んでいたんだ。


 一度だけ、幸成が自分でローションを挿れるところを見たことがある。まだ恋人にはなっていなかった最初のセックスでのときだ。

 ソファーに座る俺の前に膝をつき、俺にフェラチオを施す途中でそれは始まった。俺の膝に頭を預けながらの作業だったそれは、ずいぶんと手慣れた様子だった。そのままアナルを解す作業へと移り、そのせいで感じ入ったような声まであげて、見ていたこちらを否応なく堪らない気分にさせてくれた。
 ただでさえ発情して色っぽくなっていたところへ、滴るような色気が塗り重ねられていく様を目の当たりにした瞬間だった。

 アレを、壁一枚隔てた学生たちの前で?

「ひああっ、ま、まってっ、だいごッ、まってっ」
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