恋人の望みを叶える方法

藍栖 萌菜香

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16 名前を呼んであげましょう。

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 幸成の腰を抱きしめていた片腕を緩め、ふたたび壁に寄りかかる。幸成との距離がひらいて少しさみしくなったが、『証拠』を見やすくするためだ。仕方がない。
 腰をおとしきってはいない幸成をやや見上げる角度でじっと見つめながら、その動きを待った。

 キツく寄せた眉に、揺れ迷う潤んだ瞳は、挿れる前と同じく葛藤しているようなのに、さっきまで漂っていた悲愴感は見られない。幸成は、ガウンの裾を持ちあげるかどうかで、ただ真剣に悩んでるんだ。

 どうやら俺の我が侭が幸成の気を紛らせることに成功したらしい。つらそうにしていた原因を根本的に解決できたわけじゃないだろうが、少しでも幸成の気を楽にできたなら、いまはそれでいいとしよう。


 幸成のうなじにかけていた片手を、ガウンの襟に沿わせてゆっくりと滑らせていく。濡れたその場所へ指先が近づくにつれて熱い柔肉がひくついた。
 亀頭をゆるくしゃぶられて、こっそり深い呼吸に切り替える。そうして必死に射精感を遠ざけてはいるが、いつまでイカずに保てるか……自分の身体なのにまるで読めない。

 濡れたその箇所には触れず、細腰にあったもう一方の手も滑らせて、幸成の両の脚へと両手を伸ばした。滑らかな腿は体重を支えるために緊張を孕んでいる。その張りつめた肌をそろりと撫でると、幸成の腰がひくりと揺れてアナルの内壁に摩擦が生まれた。その刺激を、奥歯を噛みしめてまたやり過ごす。

 くそっ、マジで限界だ。せめて幸成の気持ちいいタイミングでイキたいのに、悪くすればそれも叶わないかもしれない。このままじゃ本当に不本意な漏らし方をしかねなかった。


 そんな切羽詰まった俺の状況を察したんだろうか。
「……も、だいごのバカ」
 そうこぼした幸成の手が、しぶしぶといった様子でガウンの裾を掴みあげた。

 目の前でゆるゆると捲られていくその裾が、ねち、と立った小さな音に動きをとめる。ガウンの影から姿を現したそれは、赤みを増した綺麗な桃色に染まって白濁を纏っていた。アナルにハメられたままだからか、すでにゆるく勃っている。

 ペニスの色に負けず綺麗に頬を染めた幸成は、目を閉じ顔も逸らして羞恥に耐えていた。なんでこんなこと、とでも言いたげにきゅっと結ばれた唇と、伏せられた長い睫毛の揺れる様子がまた、可愛いやら色っぽいやら……そうして耐えている幸成を、つついて、崩して、さらに羞恥へと染めたくなるから、まったく困りものだ。


「ゆきなり。もっと、ちゃんと見せて」
「なッ」
 俺のずうずうしいおねだりに、幸成が振り向き睨みつけてきた。真っ赤な顔をして、どんだけハードルをあげる気だコノヤロー、と詰ってくる視線にぞくぞくしながら、
「ゆきなりの『初めて』をちゃんと見たい」
 と、重ねてねだる。

 うぅーと唸りながら、それでも掴んだ裾をそろりそろりと胸元まで引きあげてくれた。捲られたガウンの内側とペニスとのあいだで、飛び散った粘液が糸を引く。そのやらしい眺めに思わず顎を引いて覗き込んだ。
 すると、その視線に煽られたのか、半勃ちだった幸成のペニスがゆるゆると勃ちあがっていった。

 幸成がまた興奮してる。それが嬉しくて、文句を言いたげに唇を尖らせた幸成にキスをしようと伸びあがったときだった。
「……ほんとに、入るんだ」
 幸成の向こう側から、日向の呆然としたつぶやきが聞こえてきた。


 見られた。
 俺のペニスがハマっている幸成のアナルを、日向に見られてしまった。
 せっかくガウンで隠れていたものを、わざわざ幸成に捲らせた俺が悪い。完全に浅慮な自分のミスだった。そうとわかっていても、日向に幸成のアナルを見られたことが口惜しくてならない。

 日向が幸成の身体で隠れて見えない位置にいてくれて本当によかった。でなければ、自業自得だというのに、殺意の籠った視線で睨みつけていたところだった。
 対面座位の向こう側からの構図だなんて、俺だって見たことがないというのに。そう思い至ったら、なおさら自分の愚かさに腹が立った。

 明日は幸成が寝入っている隙に、必ず姿見を買いに行ってやる。
 そんな誓いをひそかに立てていると、
「あ、やっ、ああっ」
 と、幸成が甲高い喘ぎをあげはじめた。同時にアナルが内圧をあげていく。


「うっ、あ、ゆきなりっ」
 強い締めつけと、ずるりと柔肉が降りてくる摩擦とをペニスに感じて、慌てて幸成の腰骨を両手で掴んだ。

 幸成が自重にまかせてペニスを奥まで飲み込もうとしている。その降下を腕力でかろうじて引き留めたが、カリ首をアナルの浅い部分できゅっと絞られて、腕からふにゃりと力が抜けた。

「あ、あ、あっ」
 ずぶずぶと、幸成がペニスの上に沈んでいく。内壁を擦られる感覚に耐えられないのか、ガウンの裾を胸元に抱きしめながら頻りと頭を振りはじめた。


「すごい、こんなに大きいのに」
 感心したような日向の声に反応したのか、アナルの浅い部分がぎゅぎゅっと締まった。
 ガウンを掴むその手を放せ。そう言いたいが、いま口をひらけば確実にイッてしまう。

 ペニスにしがみついてくるようなアナルの動きに、幸成の降下が加わってさらに摩擦がひどくなる。アナルにキツく握られた俺のぺニスは、そのまま柔肉の奥へと引き摺られるようにして潜っていった。

「やああッ、おくっ、おくひろがるっ」
 顎をあげ仰け反った幸成が、混乱したように叫びだす。自分のガウンをやっと放したその手が、今度は俺のガウンの襟元に縋りついてきた。

 マッサージしきれなかった柔肉の深みを、ペニスの切っ先で押しひらいていく感覚が堪らない。ペニスの根元に伝播したその感覚が腹の奥から腰や背へと伝わって、幸成の腰骨にしがみつく指先までが戦慄いた。


「だいごッ、だいごぉっ」
 何かを求めるように名前を呼ばれたが、応えてやれる余裕は疾うにない。少しでも下腹から力を抜けば、もう終わりだ。歯の隙間から漏れる息も乱れて、異様に荒い。

「なまえをッ、おねがいっ」
 俺のガウンを引き寄せ、額を合わせてきた幸成に、涙を滲ませた瞳で真っ直ぐに見つめられた。

「ゆきなりって呼んでッ」
 必死な体でねだられるが、だからって、いまの俺にそんな余裕は……。


「おねがい、だいご」
 今度は消え入りそうな声で、悲しげに囁かれる。たちまち、いてもたっても居られなくなった。

「なまえを……」
 名前がなんだって言うんだろう。こっちは瀬戸際だというのに。
 幸成の悲しげな声に気持ちまで持っていかれそうになって、奥歯をさらに噛みしめ耐えていると、目の前の潤みきった瞳から、ついにホロリと雫が零れ落ちた。

 ああもうっ、知らないからなっ。
「ゆきっ、ゆきなりッ」
「ひっ、ああああッ」
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