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第三十七話 加勢をさらに楽しもう
しおりを挟む紅い炎を身に纏ったイフリートは空へと舞った妹に拳を突き出し炎を飛ばす。彼女も同じように炎を出すと互いにぶつかり合い、辺り一面を炎に変えた。
俺は慌ててそれに巻き込まれないよう真空の壁を作る。
俺に出来る事は何だ?
炎を纏うイフリート。なら、水か!
彼の上空から滝のように大量の水をブチ当てる。
「な! ぐっ……おおぉぉ!」
不意をつけたか? 激しい水蒸気が上がり瞬く間に視界が奪われたが、俺は手を緩めることなくしばらく水を出し続けた。
マナを水に変えるだけの簡単な作業なので、魔力の消費も少ない。
何分経っただろう……水の音以外何も聞こえなくなったので、水を止めて様子をうかがう。
リタはどこだ? くそ、暑い……蒸し暑い。
成るように成れと、風魔法で一気に水蒸気を押し上げた。
そこには纏っていた紅い炎が剥れ、黒い外皮の巨大狼のようなイフリートが空に静止していた。
死んではいないよな? ダメージは……わからんな。
リタは地上に降り、様子をうかがっているようだ。
「ふ、ふははははっ! 面白い! 二人まとめてかかってこい!」
笑い出したイフリートは子供染みた笑みを浮かべ、今度は青い炎を纏う。やはりダメージは全く無いようだ。
その後、リタと共に攻撃を仕掛けるも、彼女の攻撃は防がれ、俺の攻撃は喰らってもダメージが少ないからか無視されている状況だ。
「くそっ! どうすればダメージが通るんだ!」
水もダメ、風もダメ、火――炎輝も効かない。岩をぶち当てても、雷を落としてもダメ。氷に至っては全く使い慣れていないせいか、即効蒸発する始末だ。
リタも兄の猛攻にジリ貧気味だ。何か良い手は無いのか!? あの身体を覆う青い炎はかなりのマナを使って出来ているみたいで、俺が最初に喰らわせた時の紅い炎とは全くの別物だ。
その高い防御力に打ち勝つにはより濃く、強く、密にマナを練り変換させないとダメだ!
だが、属性はどうする? 一番得意な火か? 弱点っぽい水か? 風でかまいたちのように切……そうだ、物理!
どんな魔法よりもこれが一番イメージし易い気がする。魔法よりも刃物の方が身近だからか?
俺は槍の穂先を生成する。槍の柄や装飾なども省く。
ただ貪欲に切れ味のみ追求する。テレビで見た日本刀を作る工程をイメージし、残り少ない魔力を注ぎ込む。
唯々鋭く、そして青い炎にも融けないようにイメージする。
それを最高速度でイフリートに投げつけた。
「む! うおおぉぉぉ!!」
風魔法で投擲アシストされたそれは、吸い込まれるようにイフリートの身体に突き刺さ……らなかった。
イフリートはそこに青い炎を集中させ、俺の穂先を何とか凌いだようだ。
だが、これならいける!
俺は再び穂先を作りだそうとするも、集中力が散漫し上手く形成できない。
……くっ、こんな時に賢者モードか。
「ケンタ! あなた魔力が!?」
「ふ、おしいな。お前がもし万全だったのなら、俺に傷一つでも付けれたかもしれなかったのにな!」
イフリートのターゲットに俺も加わったようだ。
拳から発せられる青い炎を、無け無しの魔力で作った真空の壁で何とか受け止める。
くそっ! こんな大事な時に! 何か手は無いか!? 魔力を回復させる魔法でも薬でも!
マナを変換するだけならごく少量の魔力で出来る。最後の魔力で何かを大量に変換するか?
水か? 炎か? それとも……はっ!
「これで最後だ。じゃあな!」
「ケンタ! 逃げて!!」
リタは彼の炎に足止めを食らっているようだ。彼女の悲痛な表情に少し嬉しさを感じた。
彼女の中で俺の存在が、多少なりとも大きくなってくれていたと思うと自然と笑みがこぼれた。
こんな時に……いや、こんな時だからこそか。俺の中の生への執着心が膨れ上がるのが分かる。
その瞬間、今までで一番大きな青い炎が俺に向けられた。
ぶっつけ本番だが、やるしかない! いや、やれる気がする! 槍だってマナに変換できたんだ。俺は出来る!
俺は残りの魔力全てを使って――マナを魔力に変換し取り込んだ。
青い炎は俺を包み高々と火柱を上げる。
「ケンタ……」
「さぁ愚妹よ、ケリをつけよ……なに!?」
火柱の消えた後、火傷一つない俺に驚きを隠せないようだ。
何とかギリギリ間に合った。
マナを魔力に変えて自身に取り込み、さらに真空壁を全方位に作りイフリートの攻撃を凌いだ。
放心していたリタに笑いかける。彼女の笑顔が戻るのを見て、俺は言葉では言い表せない力を手に入れた気がした。
「ケンタ!」
「さぁ、第二ラウンドだ!」
「面白い! まずはお前からだ!」
肉弾戦に持ち込むつもりなのか、空を蹴り、イフリートが接近してくる。
俺は迫り来るイフリートとの間に、幾重にも障壁を展開した。
「何だこの壁は! 脆い、脆すぎるぞ!!」
彼は障壁を物ともせず全て破片に変え突き進む。
俺もこれで止めるつもりはない。むしろ、攻撃準備中といったところだ。
「む!? 何が可笑しいのだ!!」
俺の表情を見て不審に思ったのか、イフリートは空に留まった。
笑みがこぼれていたのか? まぁ、これだけ破片があればいいかな。
「いや、俺の武器作成を手伝ってくれてありがとう……と思ってね」
「何? ――なっ、何だこれは!?」
イフリートが壊してきた障壁の破片は、落ちること無く周囲を漂っている。
その破片はどれも鋭利な形をしており、それはまるで――
「あっ、破片がナイフみたい」
「こ、これは……! 何だこの魔力は!?」
この世界にあふれるマナを使い、無限とも言えるほどの魔力を破片に注ぎ込み切れ味を乗せていく。
遠距離のため緻密な制御は難しかったが、破片全てを大きな一つの物として扱うと楽に素早くできた。
「行け!」
風魔法で破片が次々とイフリートに降り注ぐ。
太陽光を浴びてキラキラと光を発しながらイフリートに吸い込まれていく。
「うおおおぉぉぉ!」
避けたり破壊したりしていたイフリートだが、次第に手数が追いつかなくなり、纏う炎を増大させ全てを防ぎきる事にしたようだ。
「おぉ、凄いな」
「ぐうぅぅ」
結果、イフリートはすべての破片を防ぎきった。
だがそれは完璧に……では無く、地に落ち、膝を付き肩で息する身体には、かなりの数の傷が出来ており見るからに満身創痍だ。
「さて……リタ、どうする?」
「え? う、うん。 ……兄様、もうこんな事は止めて帰りましょう?」
「お、俺はまだ負けてない! 俺はやれる!」
立ち上がろうとするも、身体が思うように動かないようだ。
「あらあら? 遅いから迎えに来てみれば……ふふっ、まさかこんな事になってるなんてね」
聞き覚えのある声に振り返る。
そこにはレオノーラとレイラがいた。
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